2019年の対中直接投資、件数・金額ともに減少(台湾)

2020年7月22日

台湾の統計によると、2019年の台湾の対中直接投資(認可ベース)は、件数が前年比16.0%減の610件、金額が50.9%減の41億7,309万ドルだった。件数、金額ともに減少した。台湾企業の対外直接投資総額に占める中国の構成比は37.9%となり、2年連続で4割を下回った。

4年連続で投資額が減少

投資額は、2016年以降4年連続で減少した。経済部投資審議委員会はその要因として、中国で人件費や環境保護など経営コストが上昇し、生産コストの優位性が低下していることに加えて、米中貿易摩擦の影響で台湾企業の対中投資意欲が大幅に低下していることを挙げた。

図:台湾の対中直接投資(認可ベース)と
対外直接投資に占める対中投資の構成比の推移
対中直接投資(左目盛り)は、2004年69.4億ドル、2005年60.1億ドル、2006年76.4億ドル、2007年99.7億ドル、2008年106.9億ドル、2009年71.4億ドル、2010年146.2億ドル、2011年143.8億ドル、2012年127.9億ドル、2013年91.9億ドル、2014年102.8億ドル、2015年109.7億ドル、2016年96.7億ドル、2017年92.5億ドル、2018年85.0億ドル、2019年41.7億ドル。 対中直接投資構成比(右目盛り)は、2004年67.2%、2005年71.1%、2006年63.9%、2007年60.6%、2008年70.5%、2009年70.4%、2010年83.8%、2011年79.5%、2012年61.2%、2013年63.7%、2014年58.5%、2015年50.5%、2016年44.4%、2017年44.4%、2018年37.3%、2019年37.9%。

出所:台湾経済部投資審議委員会の発表を基にジェトロ作成

台湾企業の対外直接投資総額(中国を含む)は110億2,424万ドルで、総額に占める中国の構成比は37.9%だった。前年(37.3%)から0.6ポイント上昇したものの、2018年から2年連続で4割を下回った(図参照)。

中国以外の国・地域への投資では、英領カリブ海(中国を除き、金額ベースで構成比19.1%)が最も多く、前年比77.8%減の13億1,033 万ドルだった(表1参照)。次いでベトナム(13.4%)は、1.5%増の9億1,487万ドルとなった。そのほか、シンガポール(3.8倍)、ルクセンブルク(全増)がそれぞれ急増した一方で、米国は72.5%減と大幅に減少した。

表1:台湾の対外投資額(中国を除く)上位5カ国・地域の件数および金額(2019年)(単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 件数 投資額
金額 構成比 前年比
英領カリブ海 85 1,310 19.1 △ 77.8
ベトナム 97 915 13.4 1.5
シンガポール 27 636 9.3 283.0
ルクセンブルク 1 604 8.8 全増
米国 80 561 8.2 △ 72.5

出所:台湾経済部投資審議委員会の発表を基にジェトロ作成

台湾の対中投資額を業種別にみると、構成比が24.2%で最大の卸・小売りは、前年比15.1%減の10億887万ドルだった。そのほか、電子部品(前年比66.1%減)、化学材料(55.3%減)、パソコン・電子製品・光学製品(56.8%減)、金融・保険(59.8%減)と、いずれも大幅減となった(表2参照)。

表2:台湾の対中投資額上位10業種の件数および金額(2019年)(単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
業種 件数 投資額
金額 構成比 前年比
卸・小売り 182 1,009 24.2 △ 15.1
電子部品 68 626 15.0 △ 66.1
化学材料 5 355 8.5 △ 55.3
パソコン・電子製品・光学製品 22 330 7.9 △ 56.8
金融・保険 18 237 5.7 △ 59.8
電力設備 26 228 5.5 △ 23.8
機械設備 23 193 4.6 △ 19.0
学術研究、専門・技術サービス 86 148 3.5 2.2
運輸・倉庫 6 147 3.5 △ 7.4
卑金属 9 132 3.2 △ 80.5

出所:台湾経済部投資審議委員会の発表を基にジェトロ作成

天津市を除き、上位9省・直轄市で投資額が軒並み減少

省・自治区・直轄市別では、構成比が最大の江蘇省(構成比34.4%)は前年比34.6%減の14億3,407万ドルだった(表3参照)。2位は上海市(13.2%)で42.7%減、3位は広東省(10.4%)で66.5%減といずれも大きく減少した。4位の福建省、5位の浙江省も減少した。上位5省・直轄市をあわせた構成比は77.0%だった。前年の77.9%から、やや低下したことになる。上位10省・直轄市のなかで、投資額が増加したのは天津市(2.1倍)だけだった。天津市向けの投資額が急増した要因には、建大工業による建大橡膠(天津)への増資案件(1億ドル)が挙げられる。

表3:台湾の主要地域別対中直接投資(2019年)(単位:件、100万ドル、%)(△はマイナス値)
省・市 件数 投資額
金額 構成比 前年比
江蘇省 120 1,434 34.4 △ 34.6
上海市 157 553 13.2 △ 42.7
広東省 93 435 10.4 △ 66.5
福建省 64 406 9.7 △ 58.4
浙江省 53 387 9.3 △ 67.5
天津市 12 174 4.2 107.4
山東省 17 150 3.6 △ 32.2
安徽省 19 145 3.5 △ 36.0
四川省 11 108 2.6 △ 29.6
湖北省 6 82 2.0 △ 73.2

注1:順位は金額順。
注2:件数は新規投資のみカウント。
出所:台湾経済部投資審議委員会の発表を基にジェトロ作成

主な投資案件をみると、投資額で最大の案件は、矽品精密工業による矽品科技(蘇州)の株式取得案件(1億6,287万ドル)だった。続く2位は、奇美実業と国喬石油化学による漳州奇美化工への増資案件(1億3,334万ドル)、3位は新光三越百貨による新越百貨(成都)と新越百貨(蘇州)への増資案件(1億3,028万ドル)だった。なお、上位10件のうち8件が製造業で、上位10件の合計投資額に占める製造業の割合は81.5%だった。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課 アドバイザー
嶋 亜弥子(しま あやこ)
2017年4月より現職。