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中国企業の香港での重複上場相次ぐ
資金調達機能としての香港の役割はますます重要に

2020年7月20日

米国市場で株式を上場している中国の大手ハイテク・IT企業が、香港で重複上場する事例が相次ぐ。香港証券取引所の改革が実を結んだことに加え、米国政府などによる中国企業への規制強化の動きが広まっていることも、中国企業の香港上場を後押しする材料だ。香港証券取引所の李小加CEO(最高経営責任者)は、今後の香港市場のさらなる活性化に自信をみせる。

有力企業囲い込みのため、上場規則を改正

阿里巴巴(アリババ)集団は中国の電子商取引最大手で、ニューヨーク証券取引所に上場している。同社は2019年11月、香港で重複上場を果たした。新規株式公開(IPO)によって1,012億香港ドル(約1兆4,168億円、1香港ドル=約14円)を調達した。資金調達額で過去最大の大型案件となった(表1参照)。それまで最大だったバドワイザー・ブリューイング・カンパニーAPAC (2019年9月にIPOを実施し、451億香港ドルを調達)の2.2倍だ。また、2019年に香港証券取引所でIPOを実施した全企業の資金調達総額(3,129億香港ドル)の3分の1に迫る規模だ。

アリババに続き、2020年6月には、米国新興企業向け株式市場のナスダック(NASDAQ)上場の中国ポータルサイト運営大手の網易(ネットイース)と、中国インターネット通販大手の京東集団(JD.com)が、香港証券取引所に上場。それぞれ243億香港ドルと301億香港ドルを調達した。これら2社の株式上場による資金調達額の合計は、544億香港ドルに上った。これは、2020 年第1四半期(1~3月)の香港証券取引所でIPO調達総額の3.7倍に当たる(注1)。

表:2019年1月~2020年7月の香港市場でのIPOによる資金調達額上位10社
順位 企業名 本部所在地 上場年月 資金調達額
1 阿里巴巴(アリババ)集団 中国 2019年11月 1,012億香港ドル
2 バドワイザー・ブリューイング・カンパニーAPAC 香港 2019年9月 451億香港ドル
3 京東(JD.com) 中国 2020年6月 301億香港ドル
4 網易(ネットイース) 中国 2020年6月 243億香港ドル
5 ESR Cayman Ltd. 香港 2019年11月 141億香港ドル
6 申万宏源集団 - H株 中国 2019年4月 91香港ドル
7 翰森製薬集団 中国 2019年6月 90香港ドル
8 滔搏国際ホールディングス 中国 2019年10月 90香港ドル
9 中国飛鶴 中国 2019年11月 67香港ドル
10 貴州銀行 - H株 中国 2019年12月 55香港ドル

出所:香港証券取引所公表資料よりジェトロ作成

海外市場で上場済みの中国企業が香港で重複上場するのが相次ぐ背景には、主に2つの環境変化がある。

まず、香港証券取引所が2018年に上場規則を改正したことによって、ハイテク・IT系などの企業が上場しやすい環境が整ったこと。香港証券取引所は2018年4月、国際金融センターとしての競争力強化、成長性の高い企業の誘致および市場の多様化を目的に、(1)収益を計上していないバイオ企業、(2)1株当たりの議決権数が異なる種類株式(議決権種類株式))(注2)の発行企業、(3)海外市場に上場する企業による重複上場を認めた。


香港証券取引所が入居する交易広場(ジェトロ撮影)

中国企業に対する米国の規制強化も後押し

香港証券取引所による上場規則改正に加え、米中間の対立激化や中国企業による会計不正により、中国企業に対する米国政府などの見方が厳しくなっていることも大きい。米国議会上院は2020年5月、法案を可決。この法案には、(1)上場企業に対して外国政府の支配下にない証明を求める、(2)上場企業の監査内容を米国公開会社会計監督委員会(PCAOB)(注3)が3年連続して検証できない場合、当該企業の上場を廃止する、ことが盛り込まれた。このほか、ナスダックも上場審査の厳格化に向けて動き出している。海外企業は新規株式公開(IPO)時に、最低2,500万米ドル(約26億円)、または時価総額の25%に相当する額を投資家から調達するよう義務付けられるようになった。いずれも中国企業を名指ししたものではないが、事実上、中国企業をターゲットとした規制強化策だ。さらに6月には、トランプ大統領が、米国の株式市場に上場する中国企業が及ぼす投資家へのリスクを協議するための作業部会を設置する覚書に署名した。実際、中国のコーヒーチェーンのラッキンコーヒーは、ナスダックに上場していた。しかし、不正会計問題が発覚し、6月には2度にわたり上場廃止通知を受けた。

これら米国政府などによる一連の中国企業に対する規制強化の動きが、中国企業による香港上場を促すきっかけとなった。

香港重複上場の予備軍は30社以上か

このように、米国で厳しい逆風にさらされる中国企業の現実がある。外貨調達が可能で、しかも環境が十分に整備された自国の金融市場である香港に「回帰」する流れが強まるのは、自然な流れだろう。

2000年に米議会の諮問機関として設立され、米中間の経済問題や安全保障問題について超党派で検討を行なう「米中経済安全保障検討委員会」によると、ニューヨーク証券取引所(NYSE)、ナスダック、NYSEアメリカン取引所に株式を上場する中国企業は、2019年2月時点で156社存在する(表2参照 PDFファイル(199.90KB) )。このうち、IT・通信および電子商取引(EC)を手掛ける企業は42社あり、中国インターネット検索大手の百度(バイドゥ)やECプラットフォームの拼多多(ピンドゥオドゥオ)、動画配信大手の愛奇芸(Iqiyi)を含む30社以上が香港証券取引所の重複上場の基準を満たすという(6月11日「フィナンシャル・タイムズ」)。米国政府の動きを受け、5月21日付「香港経済日報」では、バイドゥが香港での重複上場を検討している、と報じられている。

香港証券取引所の李小加(チャールズ・リー)CEOは、6月22~24日に開催されたブルームバーグ主催のバーチャルイベントで、「現在、多くの大型IPO案件を抱えており、2020年は香港証券取引所にとって重要な年になる」と宣言。今後の香港IPO市場が活況を呈するとの見通しを明らかにした。その上で、米国で中国企業を念頭においた規制が強化されていることについて、「香港証券取引所は、規則を順守せず、問題を抱えて上場廃止となるような企業は望んでいない。米国側が、単に中国企業というだけで市場からの退出を迫ることがないことを信じている」と見解を示した上で、「質の高い企業は歓迎する」と強調した。

今後、貿易摩擦や香港問題などを巡る米中間の緊張の高まりが、本格的に資本市場にまで広がることも考えられる。そうなれば、香港での上場を目指す中国企業はさらに増えるだろう。中国企業の資金調達機能としての香港の役割は短期的に変わることはなく、むしろ強化されることになろう。香港証券取引所にとっては当面、追い風が吹き続けることなりそうだ。


中国企業が数多く入居する香港のオフィス街の模様(ジェトロ撮影)

注1:
香港証券取引所によると、2020年第1四半期の香港証券取引所での新規公開会社数は39社。IPO調達額は、144 億香港ドルであった。
注2:
スタートアップなどが株式を発行する際には、創業者の支配権を維持することを目的に、議決権を行使することができる事項に関して制限のある種類株式を発行する方法がとられることがある。
注3:
米国企業改革法(サーベンス・オクスリー法)に基づき、2002年に設立された非営利法人。PCAOBは、上場企業の会計監査を行う会計事務所(監査法人)を監督する責務を負っている。一方で、米国市場に株式を上場する中国企業はPCAOBによる検証を拒否してきた。
執筆者紹介
ジェトロ・香港事務所 経済調査・企業支援部長
吉田 和仁(よしだ かずひと)
金融庁勤務を経て、2016年7月より現職。

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