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シリコンバレー進出日系スタートアップが増加の兆し(米国)
シリコンバレーでパネルディスカッション兼交流会を開催

2019年3月13日

米国のシリコンバレーで、日系スタートアップ企業の進出が増加しつつある。ジェトロ・サンフランシスコ事務所は、シリコンバレーを足掛かりに世界展開を目指すスタートアップ企業を対象に、パネルディスカッション兼交流会を2019年2月13日に開催した。同イベントは、ジェトロとデロイト・トーマツ・ベンチャーサポート株式会社が運営するスタートアップ派遣プロジェクト「飛躍Next Enterprise」(注1)の一環として開催されたもの。シリコンバレーでは、米国スタートアップとの協業を目指す日系大企業向けのイベントは多く開催されるが、日系スタートアップ向けイベント開催は珍しく、スタートアップ関係者、ベンチャーキャピタル(VC)、エンジニアら約80人が参加した。


パネルディスカッションの様子(ジェトロ撮影)
イベント概要
イベント名 飛躍Next Enterprise「在ベイエリア日系スタートアップパネルディスカッション&交流会」
開催日 2019年2月13日
主催 ジェトロ、デロイト・トーマツ・ベンチャーサポート株式会社
協力 SUKIYAKI(日本の企業とシリコンバレーのスタートアップによる事業提携を加速させ、日本×シリコンバレーで日本を元気に!を目指す新規事業開発者たちの互助団体)
会場 Hero City(シリコンバレーにあるコワーキングスペース)
パネリスト
  • ゴールデン・ウェールズ・ベンチャーズ(GOLDEN WHALES Ventures)設立者兼マネージング・ディレクター 吉川欣也氏
  • ソラコム米国法人最高執行責任者(COO) 玉川拓氏
  • キャピー(Capy)設立者兼CEO(最高経営責任者) 岡田満雄氏
  • ミラインセンス ビジネス・ディベロップメント・ダイレクター 宮川正聡氏
(モデレーター:ジェトロ・サンフランシスコ事務所次長 樽谷 範哉)

名門アクセラレーターを活用して資金調達を目指す若手の日本人起業家たち

2018年2~3月にジェトロが実施したベイエリア日系企業実態調査(注2)では、日系企業のベイエリア進出は913社と過去最高を記録している。増加の要因の1つには米スタートアップとの協業を目指す大企業の存在があるが、ここ数年は大企業のみならず、日系スタートアップの存在感が増している。こうした中、ジェトロ・サンフランシスコ事務所は、シリコンバレーでの事業展開を目指すスタートアップ8社が「飛躍Next Enterprise」の一環で当地を訪れたタイミングで、今回のイベントを開催した。パネリストには、現地で活躍する4人の日系スタートアップ関係者(イベント概要参照)を招いた。

日系スタートアップの中で目立つようになってきたのは、創業者が自ら渡米して、米国法人を設立し、シリコンバレーのエコシステムを活用して操業する「ボーン・グローバル企業」の存在だ。シリコンバレーで3度の起業を経験し、現在はVCとして活動する吉川氏は、パネルディスカッションの中でシリコンバレーに来る若い世代の行動力を高く評価した。吉川氏が運営するVCゴールデン・ウェールズが投資するスタートアップのオーティファイ(Autify)は、日本人起業家の近澤良氏がサンフランシスコに設立した。人工知能(AI)を用いたソフトウエア品質保証の自動化サービスを提供する同社は、米国の名門アクセラレーターのアルケミスト(Alchemist)に日本人として初めて採択された。日本人起業家が設立したスタートアップでは、同じく名門アクセラレーターであるYコンビネーター(Y Combinator)に採択された後に約2,600万ドルを調達した福利厚生サービスのフォンド(Fond)や、ファイブ・ハンドレッド・スタートアップス(500 Startups)に採択された後に約9,100万ドルを調達した次世代電動車いすのウィル(WHILL)など、シリコンバレーのエコシステムを活用し、資金調達した例も多い。吉川氏は「若い世代はセンスも良い。海外に挑戦すべき」と、世界での起業を後押しする。

徹底的な自動化により、少数精鋭で世界市場にスケールアップしたソラコム

アクセラレーターへの採択やVCからの資金調達に成功するスタートアップは増加しているが、M&Aでの売却や新規株式公開(IPO)による資金調達といったエグジット(投資資金回収)経験のある日本人起業家はまだまだ少ない。特に、シリコンバレーや中国でみられるような、スピード感を持ったスタートアップのスケールアップはあまりない。ゴールデン・ウェールズが投資した、ウエアラブル・デバイスを提供するファミ(Huami)(本社:中国)は、創業3年でスマートウエアラブル分野の出荷数で世界1位を達成し、創業4年でニューヨーク証券取引所(NYSE)に上場した。ソフトウエアやサービスに比べて、スケールアップが難しいと言われるハードウエア業界において、早期のエグジットを成し遂げている。

日本のスタートアップで急速にスケールアップを遂げた例としては、2018年に東京証券取引所マザーズに上場したメルカリや、2017年にKDDIに売却されたソラコムがある。ソラコムは2014年創業で、早い段階から世界市場で勝負し、ハードウエア業界でありながら3年という短期間で売却にまでこぎつけた。現在、世界に1万2,000社の顧客を抱えながら、従業員は60人弱と少ない。米国の立ち上げを主導したソラコム米国法人COOの玉川氏は 、少数精鋭でのスケールアップの秘策は「自動化、人材の専門化、サプライチェーンの多重化」の徹底にあるという。ウェブ上で実施している顧客へ無料SIMカードを配布するプロモーションでは、顧客が入力した情報をチャットツールの「スラック(Slack)」(注3)で担当社員に届ける。徹底的な自動化により、従業員が自分の専門分野に集中できる環境をつくるのが狙いだ。また、複数のサプライチェーンを組み合わせることで、ロジスティックに負荷が生まれないように工夫し、世界中の顧客へ円滑に製品を届ける仕組みを取っている。


会場の様子(ジェトロ撮影)

スタートアップがベイエリアに進出すべきタイミングは

ボーン・グローバル企業が増える中、スタートアップ企業によっては、日本での実績を積んでから米国に進出する企業も多い。ただし、このような場合、既に利益が見込まれている日本に比べ、米国のオペレーションコストは高く、また競争も激しいため、利益が計上されるのに時間がかかるので、顧客や投資家からの理解を得るのが難しいという声が多く聞かれる。

キャピーの岡田氏は「米国は日本と比べて100倍のマーケットがあるので、オペレーションコストは高いが、チャンスである」と語る。キャピーの創業は2012年で、日本で損害保険会社、クレジット会社、家電量販店など多くの顧客にサービスを提供してきた。米国への本格進出は2018年で、創業者である岡田氏が自らベイエリアに進出したが、「米国と日本では顧客も投資家も、マインドやリスクの考え方がまるで違う。オペレーションを分けるべきだ」と主張する。サース(SaaS)ベース(注4)の製品を提供する同社は、米国のユーザーは自分たちで問題を解決する傾向にあるが、日本だとユーザーへのサポートが必要で、開発に割ける時間もリソースも限られる。そのため、日本と米国のオペレーションを完全に分離することによって、米国へのビジネス展開に集中しているという。

ミライセンスは、自社での早期製品化を目指し、米国への進出を2018年に決めた。ソフトウエア会社である同社は、自社の技術を使ってもらうべく日本でOEM企業を回ったが、技術を組み込むことに2~3年かかることが分かり、米国での自社開発に踏み切った。同社の宮川氏は「量産化自体は日本でも行うという選択肢を残しているものの、ソフトウエアデザインに関しては米国での開発が有利」と考えている。

会場には、米国アクセラレーターとの接触を試みる日本人起業家も多数出席した。ある日本人起業家からの「モバイルアプリ市場で米国において資金調達を目指すならどのタイミングですべきか、日本で資金調達してからの方がいいか」との質問に、ソラコムの玉川氏は「自社の場合は日本の実績やコネクションがある状態で米国に来た。それらがなく、米国に進出したら厳しかったと思う。自社が培ってきたものを生かせるのはどちらなのかを考慮した方がいい」と、日本での実績が米国展開にプラスになったことを強調した。一方、ゴールデン・ウェールズの吉川氏は、「アプリの場合、10万ダウンロードあると話は聞いてもらいやすい。デモンストレーションのためのプロトタイプはあった方がいい。シリコンバレーの良いところは、体制さえ整っていれば、話をしっかり聞いてくれるところ」と述べ、製品化のめどや市場性があれば、資金調達の可能性はあるとの見方を示した。

シリコンバレー以外にも、ニューヨークや中国など、多くの地域でスタートアップ・エコシステムが形成されている。コストも高く、競争が激しいシリコンバレーでの事業展開に、なぜ多くの日系スタートアップが関心を寄せるのか。その理由の1つは、シリコンバレーは、世界の起業家に共通するマインドセット(思考様式)を身に付ける場として、最適であるためといわれている。


注1:
経済産業省の委託を受け、ジェトロとデロイト・トーマツ・ベンチャーサポートのコンソーシアムにより、高い技術力や優れた事業アイデアを持つ中小・中堅・ベンチャー企業などを日本全国各地から選抜し、イノベーション先進都市であるシリコンバレー(米国)、世界有数のIT企業がグローバル拠点を設置するベンガルール(インド)の2つのエリアに派遣するプログラム。https://www.hiyaku.go.jp/外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
今回のイベントに参加したシリコンバレー派遣企業は以下の8社。
株式会社Eyes, JAPAN、株式会社エイシング、株式会社シナモン、千株式会社、日本環境設計株式会社、mui Lab株式会社、ユカイ工学株式会社、パロニム株式会社
注2:
サンフランシスコとシリコンバレーを合わせた地域で、米カリフォルア州北部のサンフランシスコ湾岸地域の総称をベイエリアという。ただし、本調査の対象はサンマテオから半径100マイル(約161キロメートル)圏内に含まれる26郡を対象としている。詳しくはベイエリア日系企業実態調査参照。
注3:
サンフランシスコに本社を置くスラック・テクノロジーズ(Slack Technologies)が提供するビジネス用チャットツールサービス。
注4:
ソフトウエアをインターネット経由で、必要な時に必要な機能のみ提供するクラウドサービスの総称。
執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所 次長
樽谷 範哉(たるたに のりや)
2001年ジェトロ入構後、シリコンバレーなどでのインキュベーション事業立ち上げを担当。ジェトロ名古屋、ジェトロ・トロント事務所、東京本部にてハイテク、製造業、スタートアップの世界展開プログラムに従事。2017年7月よりベイエリアにてイノベーティブな日系企業の世界展開をサポートしている。
執筆者紹介
ジェトロ・サンフランシスコ事務所
黒瀬 友梨(くろせ ゆり)
2018年、ジェトロ入構。ジェトロ・サンフランシスコ事務所にて、米国スタートアップの対日投資や日系スタートアップの海外展開サポートに携わる。

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