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トランプ・リスク再点検(米国)

2019年4月24日

就任以来、独自のスタイルで政権運営を続けるトランプ米国大統領。その施策が及ぼす影響の大きさゆえに、同氏の行動は今や世界のビジネス関係者にとって無視できないリスク要因の1つを構成している。2019年は米中摩擦に日米物品貿易交渉(TAG)が加わる。安全保障への影響次第で、輸入制限措置が導入され得る自動車産業を抱えるわが国にとって、リスクはとりわけ大きい。本稿では、トランプ大統領のこれまでの行動を振り返りながら、そのリスクを再検証してみたい。

ビジネス上のリスクは拡大

大統領就任(2017年1月)以来、トランプ大統領は自らが選挙戦で繰り返してきた主義、主張に基づく政策を推進している。そこに既成概念というものは存在しない。過去の政権では考えられなかった決断が含まれることを理由に、「予測不可能な(unpredictable)大統領」との見方が広く共有された。就任後しばらくの期間、予見し難いトランプ大統領の意思決定は、トランプ政権のリスク、すなわち「トランプ・リスク」として警戒心をもって受け止められた。

しかし、トランプ大統領が進める政策を1つ1つ観察すると、選挙時点で既に公約として掲げていたものが多いことに気づかされる。例えば、日本との直接的な関係性が大きいものだけみても、米国の環太平洋パートナーシップ(TPP)離脱、北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、気候変動枠組み条約締結国会議で採択されたパリ協定からの離脱などは、すべて公約に含まれていたものだ。大統領就任後こそ、トランプ氏が撤回すると予想する声もあったが、着任早々、TPPからの離脱を発表し、予想は見事に裏切られた。

では、トランプ大統領が公約実現に忠実であることが、前述した「トランプ・リスク」を払拭(ふっしょく)したかといえば、そうとは言えない。トランプ氏は公約を実行に移す過程で、発言内容が頻繁に変わる上、計画を実行に移すタイミングを周囲に予測させない。また、公約に含まれていない政策についても、同様の行動様式で実行に移すため、周囲は突然、対処を迫られることになりやすい。そして、何より公約の中身が必ずしも経済的にみて合理的と呼べないことも見逃せない。すなわち、企業が事業展開する上で、重要な前提条件である法的安定性と予見可能性が、トランプ政権の下で低下しているのである。例えば、2019年度(2018年10月~2019年9月)予算案におけるメキシコ国境の壁建設予算の扱いでは、トランプ大統領が自らの望む壁建設予算額に固執した結果、2018年末から2019年にかけて過去最長となる35日間に及ぶ政府閉鎖が生じた。しかも、連邦議会との間で合意した直後に、国家非常事態宣言を発表し、大統領権限を利用して追加の壁建設予算を確保した。同決定については、身内である共和党関係者にも事前通知していなかった。

通商政策も同様だ。例えば、中国に対しては、選挙中に言及していた通り、2018年に入るや否や、アンチダンピング、補助金相殺関税、1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミニウム製品を対象とした追加関税、1974年通商法301条に基づく追加関税などを次々に施した。その攻撃的一方的措置(aggressive unilateralism)と呼べる手法については、米国内においても賛否両論があるものの、結果として中国政府との対話を自国ペースで進める状況を作り出すことに成功した。

交渉手法にこだわり

予見可能性の低下によるビジネスへの影響をより深めているのが、トランプ大統領の交渉(ディール)手法である。トランプ氏の交渉手法は一言でいうと、自国に有利に交渉するためにできるだけレバレッジをきかせるというもので、具体的には3つの特徴がある。1つは相手との直接対話を好み、外交においても2国間対話を優先する点である。狙いは、大国としてレバレッジをきかせやすいことにある。NAFTA再交渉でも、当初はカナダ、メキシコ両国と交渉を進めたが、思うような進展が得られないとみるや、メキシコとの単独交渉を先行させて、事態打開に成功した。

2つ目に挙げられるのが、複数の交渉事を絡めて、レバレッジを働かせるというものである。とりわけ、通商問題と安全保障とを結び付けて交渉するのは、トランプ大統領の得意とするところだ。例えば、就任1年目の2017年に韓国との間で自由貿易協定(FTA)の見直しを進める際には、米国が朝鮮半島における安全保障政策の見直しの可能性を仄(ほの)めかし、交渉を優位に進めた。

3つ目の特徴は、より大きな成果を得るべく、同時に複数の相手と交渉することだ。通商分野では、開発途上国を対象とした一般特恵関税制度(GSP)についても、すべての対象国について見直しが進められている例が挙げられる。トランプ政権は、相手国が米国産品の市場アクセスについて真剣に取り組んでいるかを継続の判断材料とし、2019年3月にはトルコとインドを対象から除外することを決定した。

個別政策ごとのリスク管理も必要に

ビジネスへの影響の大きさに鑑みれば、個々の政策はより重視すべきリスク要因である。その政策の特徴である「米国第一主義(America First)」と「米国再興(Make America Great Again)」はいずれも、支持者へのセールストークの根幹を成す。2018年10月末に合意に至ったNAFTA再交渉では、条文の現代化とともに、自動車分野の原産地規則の厳格化に代表される米国の要望内容が盛り込まれたが、いずれも「米国第一主義」と合致するものだった。新ルールに適応することを要求されるという意味においては、米国企業も同様であるものの、政府との距離、業界団体などを通じた影響力などを考えると、日本企業が直面しうる潜在的なリスクはより大きい。

NAFTA再交渉が終了した今、日本企業がもっとも意識している潜在的なリスクは、長期化が懸念される米中間の通商対話の行方だ。これまでにトランプ政権は、交渉結果が中国の構造改革、貿易赤字縮小、米国の雇用確保に資する内容でなければ受け入れられないという意思を明確に示した。米国側が中国に求める期待値を早々に明らかにしたことによって、今後の展開を決するカードは中国側が握る。すなわち、中国政府が米国の要求に対していかに歩み寄りを見せるか次第で、短期的な両国関係の行方は決する可能性が高いということである。

一方、仮に短期的に何らかの解決をみる場合にも、中長期的に関係が安定化する保証はない。2018年6月に開催された米中閣僚級会議における米国の要求事項には、中国側が容易に応じかねる内容が多く含まれていることがその理由だ(参考参照)。特に、中国製造2025計画に象徴される中国政府の目指す技術立国への道筋について、米国が根本的な見直しを求めていることについては、中国側としても到底受け入れられるものではない。また、2018年8月に議会で承認された国防権限法では、中国企業による米国企業への投資、米国企業による機微技術の対中輸出、米国内の公共事業参加企業における、特定の中国情報通信機器メーカーの機器利用の制限が盛り込まれた。いずれも中国企業の米国での事業活動を制限する制度見直しとなる。

参考:米国が中国に是正を求める主な内容(2018年6月時点)

  1. 貿易赤字の削減
  2. 米国の技術および知的財産権の保護
    • 中国製造2025の対象産業における過剰生産をもたらす市場歪曲的な補助金の廃止
    • 技術移転に係る特殊な政策や慣行の廃止
    • 米国企業が有する知的財産、商業秘密、秘匿性の高いビジネス情報に対するサイバー窃盗への政府の関与の停止
    • 知的財産権保護と実効性の強化
    • WTOで米国が求めていた、中国の技術の輸出入に関する規制と中国と他国の企業による共同事業体に関する法施行の廃止
    • WTOで中国が求めていた米国の特定物品への関税に対する協議の撤回
  3. 米国企業が有する機微技術への中国企業の投資の制限
  4. 米国企業の中国への投資に対する公正かつ非差別的な市場アクセスや扱いの保証
  5. 関税および非関税障壁の見直し
  6. 米国サービス産業の中国市場アクセスの改善
  7. 米国の農産品の中国市場アクセスの改善
  8. 実施状況のレビュープロセスの導入、非市場経済国認定に係るWTOに対する異議申し立ての撤回など

出所:各種報道などに基づきジェトロ作成

最近では、与野党を問わず、連邦議員の多数がトランプ政権の対中強硬策に同調していることから、2020年の選挙の結果にかかわらず、米中摩擦は継続するとの見方が強まっている。このため、米中間の通商摩擦は既にトランプ・リスクの範疇(はんちゅう)を超えているとみることもできるが、前述したように、トランプ大統領の予測が難しい行動様式の下で対話が続けられること自体、1つのリスク要因と言えよう。

さらに、同リスクをより複雑にするのが、政権内で対中強硬派として位置付けられる、ロバート・ライトハイザー米国通商代表とピーター・ナバロ大統領顧問の存在だ。特に、ライトハイザー代表は2010年時点で、「中国が市場開放や法の統治を通じて米国経済に利益をもたらすとの当初の期待が裏切られた」とし、「より高圧的な態度で臨む必要性」を主張(注)して以来、生粋の対中強硬派である。米国内では、トランプ大統領が中国との間で安易な妥協に走らないように忠言している、と報じられている。共和、民主両党より支持の高い同氏の動向にも注目する必要がある。

大統領選挙に向けてリスクはより増大

トランプ大統領が交渉時にレバレッジを最大限きかせる手法を好むのは、自ら主張してきた「米国第一主義」を実現し、2020年11月の次回選挙に勝利するためにほかならない。有権者の満足度の最大化を図るために、これまで以上にレバレッジを重視した施策を望む可能性が高い。それは、ビジネスを進める上で考慮すべきリスクが質・量ともに増加することを意味する。

実際、日米物品貿易協定(TAG)、米EU自由貿易協定をはじめとする、米国の他の通商交渉や、1962年通商拡大法232条、1974年通商法301条に基づく一方的措置など、俎上(そじょう)に載った案件は既に数多い。日本企業は、これまで以上に「トランプ・リスク」をリスク要因として認識することが求められる。


注:
地域・分析レポート『「ライトハイザー主義」が示す米中通商摩擦の行方』を参照のこと。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部海外調査企画課長
秋山 士郎(あきやま しろう)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ・アビジャン事務所長、日欧産業協力センター・ブリュッセル事務所代表、ジェトロ対日投資部対日投資課(調査・政策提言担当)、海外調査部欧州課、国際経済課、ニューヨーク事務所次長(調査担当)、米州課長などを経て2019年2月より現職。

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