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マクリ大統領の逆転はあるのか(アルゼンチン)
過去の予備選挙の得票結果から分析する

2019年9月30日

アルゼンチンでは、10月27日に4年に一度の大統領選挙(注1)が行われる。2015年に当選し、再選を目指すマウリシオ・マクリ大統領は、2015年以前の12年間に左派政権下で推し進められてきた保護主義的政策によって硬直した政治経済情勢を解放する期待を担っていた。しかし、4年間の任期中に経済が上向いたのは2017年のみであり、その他の3年間は2019年も含めてマイナス成長となる見通しである。8月11日に行われた大統領選挙の予備選挙(PASO)(注2)で、マクリ大統領は予想外の大敗を喫した。本稿では、マクリ大統領が10月27日に行われる大統領選挙の本選挙に向けて、逆転の可能性があるかについて分析する。

フェルナンデス・ショックで株価と通貨が急落

8月11日に実施された大統領選挙の予備選挙では、ペロン党急進派で野党「すべての戦線」に所属するアルベルト・フェルナンデス候補が、15.57%の票差で現職のマクリ大統領に勝利した。得票率は、フェルナンデス候補が47.65%、マクリ大統領が32.08%だった(表参照)。事前の世論調査では、フェルナンデス候補が3~5%の差でリードすると伝えられていたため、予想外の展開となった。

表:予備選挙の結果(開票率98.67%)※得票率1.5%以上の候補
政党団体名 傾向 大統領候補 得票数 得票率
(%)
「すべての戦線」
(ペロン党急進派)
中道左派 アルベルト・フェルナンデス 11,622,020 47.65
「変化とともに」
(与党連合)
中道右派 マウリシオ・マクリ 7,824,996 32.08
「連邦の合意2030」
(ペロン党穏健派)
中道 ロベルト・ラバーニャ 2,006,977 8.22
「左派・労働者連合戦線」 左派 ニコラス・デル・カニョ 697,748 2.86
「我らに」 中道右派 フアン・ホセ・ゴメス・セントゥリオン 642,636 2.63
「目覚め」 中道右派 ホセ・ルイス・エスペルト 533,081 2.18

出所:内務省資料からジェトロ作成

予想外の選挙結果を受け、予備選挙の翌日は市場が大きく荒れた。アルゼンチン・ペソの対ドルレートは、予備選挙前の営業日には売値1ドル=46.20ペソだったのが、予備選挙翌日12日の終値は1ドル=53ペソまで下落した(図参照)。

図:ドル・ペソレート、政策金利、外貨準備高の推移(2019年4~8月)
2019年4月はじめの外貨準備高は541億ドル、2019年8月末の数値は外貨準備高が637億1,200万ドルで微減、ドル・ペソレートは59.51ペソで急騰、政策金利も83.26%に上昇。

出所:アルゼンチン中央銀行

アルゼンチンを代表する株価指数であるメルバル指数も、予備選挙前の営業日と比較して38%下落した。これについて、マクリ大統領は「(経済省や中央銀行などの)当局が適切に対応する」とだけ述べ、具体的なコメントには言及しなかったため、与野党関係者やメディアの対応も冷ややかだった。

マクリ大統領の逆転はあるのか

10月27日の大統領選挙の本選挙に向け、国内外の関心は予備選挙の流れを受けて、このまま左派のフェルナンデス政権が誕生するのか、それともマクリ大統領の逆転があるのか、である。

アルゼンチンでは、2009年に予備選挙制度が導入された。それ以降、これまで2回の予備選挙も含めた大統領選挙が行われている。2回の得票結果を検証すると、まず予備選挙で得票数トップだった候補は、いずれも本選挙で得票数を増やしていることが確認される。2011年および2015年は、いずれもペロン党急進派の候補が得票数トップだった。2011年の予備選挙で最多得票数を得たクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル氏は、本選挙(一次選挙)で約1,187万票を得た。予備選挙時と比較して得票率が10.2%増加した。2015年は、予備選挙で最多得票数を得たダニエル・シオリ氏が本選挙(一次選挙)で934万票を獲得して、予備選挙時と比較して得票率が7.1%増加した(注3)。これまでの傾向を踏まえると、今回の予備選挙で最多得票数を得たアルベルト・フェルナンデス候補が、大統領選挙でさらに得票数を増やす可能性もある。

次に、政党の動きを見てみると、2019年の大統領選挙では(1)ペロン党急進派、(2)ペロン党穏健派、(3)中道右派与党連合の3政党が優勢だ。この構図は前回2015年選挙時と変わっていない。2015年予備選挙時の得票数は、(1)が約872万票、(2)が約464万票、(3)が約679万票であった。今回の予備選挙では(1)が約1,162万票(前回比:約290万票増)、(2)が約201万票(約263万票減)、(3)が約782万票(約103万票増)となった。(3)中道右派である与党の得票数を、(1)ペロン党急進派が上回った要因としては、マクリ政権への批判票もあるが、国内最大勢力であるペロン党の団結を有識者が評価した結果でもある。2015年時には、(1)ペロン党急進派と(2)ペロン党穏健派が分裂し、現与党の(3)中道右派と(2)ペロン党穏健派が手を組んだが、今回は(1)ペロン党急進派と(2)ペロン党穏健派が団結したことにより、(1)ペロン党急進派への支持が高まったといえる。

10月27日に実施される大統領選挙に向けて、マクリ大統領とフェルナンデス候補はどの程度の票の上積みが必要とされるかについて、分析する。例えば、前回2015年の大統領選挙(一次選挙)投票率は78%。2019年の選挙登録者数(約3,262万票)の78%は約2,545万票だ。マクリ大統領は一次選挙での勝利、あるいは11月24日に予定される決選投票につなげるためには、最低でも35%相当の得票数を獲得しなればいけない。試算した約2,545万票を分母にすると約891万票が必要だ。少なくとも予備選挙から追加で約109万票が求められることになる。前回の大統領選挙の第1回投票で、マクリ大統領は予備選挙から181万票を上積みさせた実績があり、必ずしも実現不可能な数字ではないとも見られる。

フェルナンデス候補についてはどうだろうか。先ほど試算した総得票数である約2,545万票から第1回投票で当選するための要件となる45%相当の得票数を導き出すと、1,145万票だ。フェルナンデス候補は予備選挙時の段階で既に1,162万票を獲得しており、試算の上では、予備選挙時と同程度の得票数が得られれば当選圏内に入っていることになる。以上を分析すると、フェルナンデス候補は優勢であると言え、マクリ大統領の逆転は数字の上で厳しいものとなっているが、今後の展開を見守る必要がある。


注1:
2019年のアルゼンチン大統領選挙は、第1回の投票日が10月27日。同投票でいずれかの候補者が(1)45%以上の得票率を獲得、または(2)40%以上の得票率ながら2位の候補と10%以上の得票率差を有する、場合は、第2回の投票(11月24日予定)を待つことなく、当選となる。
注2:
本来は、各政党(連立を含む)の統一候補を選ぶ選挙。今回は、各政党とも既に候補者を党内で選出済み。党内候補者選びという本来の意味を持たないが、PASO自体は実施され、得票率1.5%以上を獲得した各政党や連立政党における最多得票者が、大統領候補者として10月27日に行われる本選挙へ進む資格を得る。有権者であれば、誰でも投票できる。
注3:
2015年は決選投票が行われ、一次選挙で2位につけたマクリ大統領が決選投票で2.68ポイント差で勝利している。

変更履歴
図を差し替えました。(2019年10月1日)
執筆者紹介
ジェトロ・ブエノスアイレス事務所長
紀井 寿雄(きい としお)
1998年ジェトロ入構。2004~2007年、在ウルグアイ日本大使館(経済担当書記官)、2010~2014年、ジェトロ・サンパウロ事務所(メルコスール地域日系企業支援および調査担当)などを経て、2017年1月から現職。

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