「六輪時代の到来」、フィリピンの二輪車市場の現状
自動車保有層が二輪を求める独自の市場環境とは

2019年12月5日

フィリピンでは近年、二輪車の販売が好調で、販売台数は右肩上がりに増加している。その背景には、フィリピンの中間層の所得向上と、富裕層の自動車(四輪)と二輪車を両方持つという「六輪」の時代の到来があるという。その背景について、統計データ、インフラ環境、進出日系企業の声をもとに、フィリピンの二輪市場の現状を探った。

二輪車の販売台数は右肩上がりに増加、過去6年で市場規模が2倍に

フィリピンにおける二輪市場をみると、フィリピンの二輪車販売台数は、ASEAN自動車連盟(AAF)の統計によると、2012年から2018年までの6年間で約2倍になっており、2018年には前年比20.6%増の159万台を記録した(図1参照)。 2019年1~8月の販売台数は前年同期比6.4%増の111万台と好調を維持している。

図1:フィリピンの二輪車販売台数の推移(単位:千台)
二輪の販売台数は2016年ごとから急激に増加。2015年850.5、2016年1140.3、2018年1590.3(単位:千台)

出所:ASEAN自動車連盟

二輪車好調の背景には国民の所得の向上

好調な二輪車の販売台数の要因としては、第1に、フィリピンの国民所得が向上し、購買層が拡大していることが挙げられる。フィリピンの1人当たりGDPは、IMFによると2018年には3,104ドルとなり、一般的に耐久消費財など.の普及が進むとされる 3,000 ドルを超えている。また、フィリピンの人口は、国連の統計によると全人口の約6割が30歳未満で、豊富な若年層を抱えており、現地に進出する日系二輪車メーカーは、二輪の販売が好調な理由として「人口ピラミッドにおける若年層が多く、購買意欲が旺盛な層が多いことが要因の1つ」としている。

また、従来のマニュアル(MT)車だけでなく、MT車に比べて操作が簡単で若者向けのオートマチック(AT)車の売り上げが好調で、同日系メーカーは「ここ3年間で従来のMT車からAT車へ移行するようになった」という。

渋滞を避けるため、自動車保有層も二輪を保有する六輪時代に

好調なもう1つの背景には、近年問題となっている渋滞の問題がある。フィリピンでは、都市部の渋滞は深刻な問題になっており、国際協力機構(JICA)は、渋滞によってマニラ首都圏では毎日24億ペソ(約50億4,000万円、1ペソ=約2.1円)の経済損失が発生しており、2030年には60億ペソまで拡大すると試算している(2019年10月15日付ビジネス短信参照)。また、アジア開発銀行が9月26日に発表した資料によると、アジア諸国278都市の中で、マニラ首都圏が最も交通渋滞がひどい都市として選定されている(2019年10月3日付ビジネス短信参照)。

前述の日系メーカーによると、都市部で慢性化している交通渋滞の対策として、車を持っている富裕層が二輪車も買い求めるようになってきており、同社では、四輪+ニ輪の「六輪の時代」が来ていると考えているという。また、同メーカーによると、フィリピン以外のASEAN諸国は一般的に経済成長に伴い、価格の安い二輪が先に増え、頭打ちとなり、その後に四輪が伸びるという傾向があるが、フィリピンは先に四輪が普及している環境の中で、二輪も増えてきているという傾向があるという。実際に統計データをみると、図2では、自動車の販売台数は2014年ごろから増加傾向にあるが、一方、二輪車は図1をみると2016年ごろからの伸びが顕著になってきている。また、図3の自動車と二輪車の世帯保有率の推移をみると、二輪車は2016年ごろから保有率の割合が急拡大していることが分かる。

図2:フィリピンの新車販売台数の推移(単位:千台)
自動車の新車販売台数は2014年ごろから増加。2018年は減少。 2014年270.3、2017年473.9、2018年401.6(単位:千台)

出所:フィリピン自動車工業会(CAMPI)、自動車輸入流通自動車協会(AVID)

図3:自動車・二輪車の世帯保有率の推移(単位:%)
四輪の世帯保有率はほとんど変化がないが、二輪は2014年ごろから急激に増加。2018年の二輪保有率は38%、四輪保有率は10.3%。

出所:Euromonitor International

ヤマハ発動機の2018年IR資料PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(160KB)によると、過去に他のASEAN諸国と比較し、二輪車が普及しなかった理由としては、「二輪車は危険と認識され、四輪車が先に普及したことと、路線バス・ジプニー・トライシクルなど、自分の家に帰る交通手段が確立されていたから」と説明している。また、同資料には「現在は、交通渋滞が悪化し、二輪車の利便性が高いと認識されてきている」とある。

好調な二輪市場に対し、日系メーカーは、ヤマハ・モーター・フィリピンが2018年5月に、フィリピンにある二輪車工場の生産能力を現在の年40万台から80万台に倍増させることを発表。2019年9月には、ホンダ・フィリピンが女性や若年層をターゲットとした新モデル2機種を発売すると発表するなど、各社生産・販売に力をいれている。経済成長による所得の向上と、渋滞の悪化により、富裕層も二輪を買い求めているというフィリピンの二輪車市場。今後の動向に注目していきたい。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
三木 貴博(みき たかひろ)
2014年、ジェトロ入構。展示事業部海外見本市課、ものづくり産業部ものづくり産業課、ジェトロ岐阜を経て2019年7月から現職。