Koi(錦鯉)人気の高まりに日本企業も注目(ミャンマー)

2019年5月30日

経済成長著しいミャンマーで、所得向上に伴って嗜好(しこう)的要素の強いニシキゴイ(錦鯉:Koi)の人気が高まりつつある。人口約120万人を有するミャンマー第2の経済都市マンダレーでは、錦鯉の愛好家がにわかに増加しており、品評会が定期的に開催されるまでになっている。日本の養鯉関係者も今後の市場拡大に期待を示している。

地域の一大イベントになりつつある錦鯉品評会

マンダレーは、インドや中国の交易拠点として商業が盛んで、華僑も多い。こうした華僑の第2世代(30~40代)や地元住民の間で錦鯉の愛好家が増え、毎年、錦鯉の品評会が開催されている。2019年1月には、地元愛好家が協賛金を拠出し、「第3回 Myanmar Young KOI Show」という品評会が行われ、愛好家が自慢の錦鯉を出品した。同品評会には、日本の養鯉場関係者が審査委員として数人が参加したほか、マンダレーの畜産協会も後援するなど、地域の一大イベントになりつつある。

併設した展示スペースでは、錦鯉飼料の「Hikari」を展開する株式会社キョーリン(本社:姫路市)や「Japan Pet Design」として知られる日本動物薬品株式会社(本社:東京都葛飾区)といった日本企業の現地代理店が出展したほか、併催イベントとして「KOI Talk Show」も行われ、愛好家から日本の審査員に対し、錦鯉の飼育方法や病気対策などに関する熱心な質問が寄せられた。


第3回 Myanmar Young KOI Show (ジェトロ撮影)

品評会に向け多くの水槽が並ぶ会場内の様子
(ジェトロ撮影)

サイズ65部のグランドチャンピオン賞に
輝いた昭和三色(Aye Chan Aung氏提供)

品評会に参加した日本の関係者は「ミャンマーの錦鯉ビジネスは初期段階で、市場はまだ小さい。この段階では愛好家による品評会や競争も重要だが、正しい知識を啓発する『鑑賞会』の開催も重要となる。正しい品種のブリーディング、飼育方法など基礎知識の定着が大切。これらが普及することで、さらに愛好家が増え、将来的には日本庭園の需要につなげ、ビジネスの拡大を狙っていきたい」と話す。また、同関係者は「錦鯉ビジネスの発展は、その国の経済発展と関連している。今後の経済成長が見込まれるミャンマーで、錦鯉ビジネスがさらに発展することを期待している」とコメントした。

錦鯉とともに市場も育てていく姿勢が重要

錦鯉の愛好家およびブリーディングや、近隣諸国などからの輸入などの関連ビジネスを展開する事業者は、最大の経済都市ヤンゴンにも存在するが、マンダレーの愛好家の方がヤンゴンよりも深くつながっており、情報交換も活発だという。こうした背景もあり、毎年マンダレーでは「Myanmar Young KOI Show」が開催されてきたが、ヤンゴンには類似のイベントはない。一方、マンダレーの愛好家の多くはホテル経営やマンゴー農園、不動産事業など、既に複数のビジネスを展開しており、錦鯉での新たなビジネス展開は考えていないため、鑑賞や飼育を行う趣味の領域にとどまり、ビジネスとして展開しているケースは少ない。

こうした中で、マンダレーのM Koi Connection社は、シンガポールを拠点としながら、地元愛好家の要望や金額に基づいて日本まで買い付けに行ったり、日本のオークションなどに参加したりするなど、錦鯉の仕入れから池の建設・維持管理などを総合的に正規展開する、ミャンマー唯一の会社である。同社の経営者は「当初は富裕層が主な顧客で、日本からマンダレーの顧客の自宅まで錦鯉を届け、1取引で35万円お買い上げいただいたこともある。そうした顧客がリピーターになり、今でも継続的に取引をしている。近年は愛好家の増加により、徐々に市場も拡大している」と語る。

ヤンゴン、マンダレーに加え、首都ネピドーのホテル、レストラン、オフィスビルといった商業施設の一部で、錦鯉の池が設けられている所も見られる。錦鯉は財閥などの趣味から、今後の経済発展に伴い、少しずつ中所得層へも広がると見込まれる。日本の養鯉場関係者は、ミャンマーの錦鯉業界を「育てていく」という姿勢が、将来の市場開拓につながると考えている。


ネピドーのレストラン内にある錦鯉の池(ジェトロ撮影)

地道な活動によるKOIの普及活動

愛好家によると、数年前まで鯉の認知は低く、本来の「コイ」ではなく「クォイ」と呼ばれていたという。品評会の開催や口伝などによって、正しい呼称と認知が徐々に浸透してきた。錦鯉の普及・啓発活動の一環として、数年前まで愛好家などによるオークションも開催されてきたが、イベント実施の採算が合わないため、現在は中止されている。M KOI CONNECTION社の創業者であるアウン・モー・スェー社長は「現在はフェイスブックを通じた情報発信・啓発を主に行っている」と話す。同社には1日に20件もの問い合わせが入る。時には、出張して無料で池の修理・建築などを請け負うこともあるが、「新規顧客の開拓につながるため、愛好家などには丁寧なサービス対応を心掛けている」と、スェー社長は言う。

ミャンマーでは、所得向上に伴い、人々が生活必需品以外にも支出・消費をし始めたが、主に外食や映画鑑賞、ミャンマー国内外旅行に費やされている。愛好家が増えているとはいえ、錦鯉への関心が高まり、家族で鑑賞するといった余暇の過ごし方や、錦鯉育成の文化が根付くには時間がかかりそうだ。スェー社長は「錦鯉文化が早く浸透することを期待している」と、熱っぽく語ってくれた。


M Koi Connection社のスェー社長(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ヤンゴン事務所 次長
クン トゥーレイン
2004年、ジェトロ入構。貿易開発部(2004年~2005年)、大阪本部(2005年~2009年)、企画部(2011年~2013年)、ビジネス展開支援部(2015年~2017年)などを経て、2017年5月より現職。開発途上国の市場開拓などを主に担当。