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「Me Too」時代に急増する差別・ハラスメント問題への効果的な対処法は(米国)

2019年7月31日

「Me Too」運動(注1)が社会現象となる中、米国へ進出する企業にとって、差別・ハラスメント問題への対策が急務となっている。米国で差別・ハラスメント問題が生じたとき、企業はその内外で、実態解明のために迅速かつ適切な調査を実施することが求められる。ジェトロ・ニューヨーク事務所は6月26日、ニューヨークで長年、日系企業の相談に応じるモーゼス & シンガー(Moses & Singer)法律事務所の内藤博久弁護士、労働法の分野で著名なジャクソン・ルイス(Jackson Lewis)法律事務所のニューヨーク・オフィス代表を務めるローリー・バウワー弁護士、および米雇用機会均等委員会(Equal Employment Opportunity Commission、EEOC)メディエーターのデービッド・レインマン氏を講師に迎えて、人事・労務セミナーを開催した。

社内調査とEEOC調停プログラムの活用が重要

セミナーの冒頭、内藤弁護士が、米国企業において差別・ハラスメント問題が明らかとなる経緯としては、企業の内部から通報・クレームがある場合と、EEOCなど外部組織への告発が発端となる場合の2つのケースがあり、前者の場合は迅速で適切な社内調査の実施が、後者の場合はEEOCによる調停プログラム(注2)を通じた現実的な和解プロセスの決定がそれぞれ求められる、と本セミナーポイントを紹介した。


本セミナーの全体像を説明する
内藤氏(ジェトロ撮影)

社内調査の速やかで適切な実施を

続いて、バウワー弁護士が、差別・ハラスメント問題が発生した際の社内調査について解説した。問題が解決されないことによる二次被害の拡大を防止するためにも、申し立て(注3)内容から問題を把握した上で、社内調査の実施が重要であると述べた。なお、申し立ては内部従業員からのみならず、事案を目撃した第三者からの場合もあるという。

同氏は、効果的な社内調査を実施するためには、調査計画の立案段階から十分な検討が必要とし、通報者や内容によっては、企業の総務担当者のみならず、法律事務所などの外部専門機関や第三者調査機関も調査体制に含めることが効果的だと指摘した。適切な調査結果を得るには半年以上を要する可能性もあるが、長期化し過ぎると解決が難しくなるため、できる限り速やかに調査を開始し、複数の証拠資料(監視カメラ映像、Eメールのやり取り、SNSでの発信などを含む)を収集し、インタビューを行うべきとした。なお、インタビューは、事案を目撃した可能性のある顧客や外部委託業者なども対象となり得るとし、インタビューに当たっての主な留意事項として、以下の点を挙げた。

参考:差別・ハラスメント問題に関するインタビューに当たっての主な留意事項

  • 事前にポイントとなる証拠資料を準備し、質問事項の概要をまとめておく。
  • インタビューには2人以上の調査員が同席する。
  • 対象者に、調査や結果に関する約束事をしない。
  • 中立的な立場に努め、個人的な意見ではなく、証拠資料に基づき質問する。
  • 対象者を考慮し、なるべく録音は避け、メモを取りながら実施するのが望ましい。
  • インタビュー対象者の身振り手振りなど非言語のサインに気を配る。
  • 自由回答形式の質問を行い、後から個別に詳細を問う。
  • インタビュー後に調査員間で意見交換を行う。

出所:バウワー弁護士の講演を基に、ジェトロ作成

インタビューを含めた社内調査を終了し、結論を導き出すに当たっては、当事者の過去の行為も含めて全ての調査結果を踏まえ、事件の程度によっては懲戒処分の必要性を検討することになると述べた。調査レポートをまとめる場合には訴訟で参照されることを考慮して、企業の指針や過去の対応についての調査結果や勧告のみを記載し、また、申立人に調査結果を伝える際にも、その後の訴訟を防ぐことに努めることが重要と指摘した。

EEOCへの申立件数は前年比で約14%増加

EEOCは、連邦政府機関として、職場における差別禁止に関する法の解釈や手続き・ガイドラインを策定するほか、被害者の申し立てを受けて違反の有無を調査する段階に進む前に、当事者間の同意に基づき、和解に向けた調停プログラムを実施している(図参照)。

図:EEOCにおける差別・ハラスメントに係る手続きと訴訟
EEOCは、申立当事者から申し立てを受けて違反の有無を調査する段階に進む前に、当事者間の同意に基づき、調停プログラムを実施しています。同プログラムが和解に至らなかった場合は、EEOCによる調査が行われ、EEOCが違反ありと判断した場合、EEOCはまず和解を勧告するなど調整を行います。和解が成立しない場合、EEOCは自ら原告となり連邦裁判所に民事訴訟を提起します。EEOCが直接提訴しない場合、調査により「違反なし」という結果が出た場合、または調査により違反有無の判断ができない場合は、連邦裁判所への提訴権がEEOCから申立人に発行されることになります。

出所:セミナー資料(内藤博久弁護士作成)

EEOCメディエーターのレインマン氏によると、「Me Too」運動の高まりから、EEOCへの差別・ハラスメントに関する申立件数は2018年には7,609件に上り、2017年(6,696件)から約14%増加している。また、ニューヨーク州では、差別・ハラスメント問題が調停プログラムを通じて和解する確率は、76%と高率になっていると紹介した。こうした調停成功率の高さは、EEOC内で守秘義務が徹底されながらも、調停プログラムが無料かつ迅速に執行される点や、当事者間の合意に委ねられている点などが背景にあるとみている。調停では、調停人が両者(代理人の同席も可)へのヒアリングを別々に行い、双方の意向を伝達することによって行われ、1日(5~8時間程度)で終了するという。その結果、謝罪や処遇の変更、福利厚生の改善など、金銭の授受によらずに和解する事例も多数あると説明した。調停人からのフィードバックや質疑応答を通じて、申立人の主張を踏まえて和解の方向性を定めることができ、もし和解に至らなかった場合も、その後の対応を検討する材料になり得るという。


調停プログラムについて解説する
EEOCのメディエーター、レインマン氏(ジェトロ撮影)

完全回避が困難な差別・ハラスメント問題、対応するためには

内部通報制度を整備している企業がある中で、制度が効果的に運営されるためには、適切な調査体制や手法の確立が望まれる。また、EEOCの調停プログラムの活用により、従業員のプライバシーを保護しながら調査を実施することは、企業の誠実な対応を示すことにもつながる。申立人および被申立人となった企業の双方にとって、透明性を保ちながら問題解決が図られるだけではなく、和解に至ることができれば、調査や訴訟が発生した場合にかかる莫大な費用や時間の抑制につながる可能性がある。


注1:
「私も」を意味するSNS用語。セクシュアルハラスメントなどの被害をSNS上などに投稿し、告発する動き。
注2:
1990年代からEEOCは、無料の調停プログラム(Mediation Program)を提供。中立な立場である調停人を介し、両当事者は互いの主張を理解し合意できるポイントを探しながら、紛争解決を目指す。当事者が調停を拒否、あるいは調停が不調に終わった場合、EEOCによる調査が実施されることになる。1999年から対象地域を全米に拡大し、毎年10万件以上の調停を実施する。
注3:
差別・ハラスメントの被害者が救済を受けるためには、EEOCや公正雇用実行機関(FEPA)に申し立てを行わなければならない 。EEOCへの申立期間は原則として、申立人が被害を受けてから180日以内とされている。州や地方政府が独自の差別禁止法を制定しFEPAが設置されている場合、EEOCへの申立期間は300日に延長される。
執筆者紹介
ジェトロ・ニューヨーク事務所
丸吉 裕子(まるよし ゆうこ)
2009年、(独)農畜産業振興機構(ALIC)入構。2018年からジェトロに出向し、農林水産・食品部 農林産品支援課を経て2019年よりジェトロ・ニューヨーク事務所勤務。

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