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オンライン海賊版コンテンツ対策、実演映像・音声に対する保護強化などのため著作権法を改正(スイス)

2019年12月2日

2019年9月27日、デジタル時代に対応して、違法著作物のアップロード・ダウンロードを規制するための著作権法改正がスイス連邦議会で可決外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますされた。これは、インターネット上への不法アップロード・ダウンロードに関する対応の不備や、視覚障害者に対する情報アクセス支援のための制度整備の遅れが批判されていたことに答えるものである。関連して、スイスでは、パフォーマーの実演映像・音声に対する著作権保護を強化する「視聴覚的実演に関する北京条約」(2012年採択・未発効)や、「視覚障害者等による著作物の利用機会促進マラケシュ条約」(2016年発効、日本は2018年批准)の批准も遅れていた。一方で、米国は2016年から、「スペシャル301条報告書」において、オンライン海賊版コンテンツ対策に問題がある国として、スイスを監視対象国リストに掲載しており(2019年報告書まで継続中)、その対策も求めていた。

インターネット上での情報公開により、著作権などの権利侵害の危険性が広く認識されるようになったのは1990年代後半であり、米国のデジタルミレニアム法(1998年)、EUの電子商取引指令(2003/31/EC)、日本のプロバイダ責任制限法(2002年)など、国際的な著作権侵害の対応策は、プロバイダに対して賠償責任に一定の免責を与えつつも、著作権者が侵害行為の解消を行えるよう、必要な情報の開示やネット情報の削除をプロバイダに義務付ける流れが主流だった。

しかし、オンライン海賊版対策に関する、スイスの動きは鈍かった。2010年、スイス連邦最高裁判所において、インターネット上でファイル共有を行った利用者のIPアドレスを追跡することはプライバシーの権利侵害に当たる、との判決があった。これは、インターネット上に違法コンテンツをアップロードした利用者を特定することを困難とするものであり、スイスがその後6年間で有効な対策を講じなかったことを、米国は「2016年スペシャル301条報告書」において、スイスを監視対象国リストに載せた最大の理由、と指摘している。

インターネット上の情報利用が広く広まったことを受け、議会の2011年3月の要請により、連邦参事会(内閣に相当)が行い11月に発表した調査では、スイスの15歳以上の3分の1が無料のコンテンツをダウンロードしており、インターネットユーザーの大半がどのコンテンツが違法・合法か認識をしていない現状が明らかになった。しかし、損害を被っているは海外の著作権者が主であり、CDやDVDを購買する代わりに他の文化的活動への支出が期待され、スイス文化的創造にマイナスの影響を与える懸念はないとして、連邦参事会は当時、規制強化は不要と結論付けた。

2012年に、シモネッタ・ソマルガ司法相(当時)は、著作権法に関する課題の抽出を行うため、芸術家、プロデューサー、消費者らからなるワーキンググループを設置し、取るべき対策を報告書として2013年12月に取りまとめた。これは、消費者の普及啓発、違法コンテンツのテイクダウン、ステイダウン(下記参照)、著作権料徴収プロセスの簡素化、違法コンテンツサイトのブロッキング、プロバイダが保有する利用者のIPアドレス情報に基づく違法コンテンツ掲載者に対する民事・刑事プロセスの容易化を含む、かなり野心的なものだった。同報告書の内容に基づき、2016年9月~2017年3月に関係者の意見招請を行うコンサルテーション(AGUR12著作権ワーキンググループ)が知的財産権庁の指揮の下で計5回開催され、2017年3月には、知的財産権庁がプロバイダに対する責任の緩和、ブロッキングの削除や学術的利用などの場合の著作権料支払い免責など、一定の修正を取りまとめた。2017年11月にスイス連邦参事会が改正法案を決定し、その後の調整と国会審議を経て、2019年9月に著作権法改正法が成立した。 この著作権法改正法の主な内容は以下の通りである。

  • 視聴覚作品(CD、DVDなど)の利用に関する著作者への報酬支払い義務の規定。(第13条a)
  • 視聴覚的実演における音声および画像記録(CD、DVDなど)の利用に関する実演者への報酬支払い義務の規定。(第35条a)
  • 視聴覚的実演の音声および画像記録の著作権保護期間は、記録物の発行日、または、記録物の発行を意図しない場合は実演を行った日の属する年の12月31日から起算して70年間。放送内容の保護期間は放送日の属する年の12月31日から起算して(これまで同様)50年間。(第39条)
  • プロバイダに対しては、自身のサーバー上にアップロードされたコンテンツが著作権侵害していると通報された場合の削除(テイクダウン)に加えて、当該コンテンツを再びアップロードさせないための措置をとること(ステイダウン)を新たに義務付ける。(第39条d)

スイス議会は、今回の著作権法改正に先立ち、遅れていたマラケシュ、北京両条約(前述)の批准についても2019年6月に可決している。

2020年1月までに国民投票が提起されなければ、今回の改正法は春ごろ施行の見通しである。今後、米国がスイスを監視対象国リストから除外することが待たれる。

執筆者紹介
ジェトロ・ジュネーブ事務所長
和田 恭(わだ たかし)
1993年通商産業省(現経済産業省)入省、情報プロジェクト室、製品安全課長などを経て、2018年6月より現職。

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