地産地消への需要を受け、設立5年で3倍の規模に成長したトマト水耕栽培農園(米国)
シカゴ近郊のマイティー・バインCEOインタビュー

2019年6月21日

堅調な成長をみせる米国の水耕栽培産業

米国の民間調査会社IBISWorldのレポートによると、米国内における水耕栽培は2018年までの5年間に収入が年平均1.2%増という堅調な伸びをみせ、同期間で水耕栽培ビジネスに関わる企業数は6.4%増加した。また、ロボットが農作業を行う野菜の水耕栽培ビジネス(2019年5月21日付ビジネス短信参照)が注目を集めるなど、米国における水耕栽培への関心は高まりつつある。

今回は有名スーパーマーケットを多数取引先にもち、この数年で急成長を遂げたシカゴ近郊のトマト水耕栽培農園マイティー・バインのゲイリー・ラザースキーCEO(最高経営責任者)に話を聞いた(5月23日)。

地産地消への需要を受け、シカゴ近郊にトマトの水耕栽培農場を設立

質問:
マイティー・バイン設立の経緯は。
答え:
創業は2014年。第二次世界大戦後に米国を席巻した大量栽培の揺り戻しで、ファーム・トゥー・テーブル運動のように、その土地のものが食べたい、自分が食べているものの生産地を知りたいという地産地消への需要が高まったため、2010年ごろからシカゴ周辺で水耕栽培農場の設立を検討し始めた。他州も候補に挙がったが、より高価格での販売が期待できるシカゴ周辺に狙いを定め、シカゴ市内より土地が安く、市内まで1時間半という好立地から、イリノイ州ロシェルに農園を設立した。栽培、収穫、包装を施設内で一貫して行っており、当初は3ヘクタールの温室1棟のみだったが、現在は同規模の温室を2棟追加し、計3棟9ヘクタールで栽培している。
質問:
水耕栽培では葉物野菜を栽培する例も多いが、トマトを選んだ理由は。
答え:
トマトは長距離輸送に適しておらず、西海岸など遠隔地で大量栽培されたトマトをシカゴへ輸送する場合は缶詰などに加工されるので、シカゴ市場へ出すには生食用トマトが最適と考えた。
質問:
栽培しているトマトの種類は。
答え:
主に栽培しているのはチェリートマトという、生で食べる小ぶりな種類のトマトで全体の約50%を占める。そのほか、TOV(Tomatoes on the Vine)と呼ばれる、比較的大ぶりでステーキの付け合わせとして焼いて食べるようなトマトも生産している。

オランダ方式の水耕栽培を導入

質問:
導入している水耕栽培方法は。
答え:
オランダ方式と呼ばれる栽培方法を導入している。土は使わず、養分などを含む水をしみこませたスポンジ状の培地で栽培する。トマトの苗木は、天井に付いたフックでつられた状態で栽培されている。下方の熟した実の収穫が終わったら、フックを1段階下げる。すると、苗木の上部から新しい茎が伸びて花が咲き、下には次に熟した実が来る。この仕組みで、作業員ははしごに登ったり、かがんだりすることなく、常に手の届く高さでトマトを収穫することができる。温室に隣接して、苗木が植わっている培地に水を送り込むためのミキサールームという部屋がある。ここでは、水に酸素、塩分などを付加した液体を作り、各温室の床に張られたパイプを通じて培地へ溶液を送り込んでいる。

天井からつられたトマトの苗木(ジェトロ撮影)

苗木をつったフックを下げる作業をするスタッフ
(ジェトロ撮影)
質問:
マイティー・バインの栽培設備・環境の特徴は。
答え:
温室の中央に大きな通路があり、その両脇に1温室当たり70列の畝が並ぶ。中央の通路は3つの温室すべてでつながっており、最終的にはパッキング作業場へ続く。この構造にすることで、収穫したトマトがスムーズにパッキング場へ運ばれるよう工夫している。
温室内の気温・湿度の管理は、オランダに本社を置く環境機器メーカーのプリヴァ(PRIVA)のシステムで自動的に行っている。センサーが感知した気温・湿度に合わせて、空調の調整や屋根のシェードの開閉が自動で行われ、常に適切な環境になるよう調整されている。
採光は、自然光とライトを併用している。天井のガラスは日光を分散させる素材でできており、苗木にまんべんなく光が当たるよう工夫されている。また、温室の屋根に降った雨・雪は集積され、栽培に使われている。栽培に使用する水のうち、水道水はわずか10%のみである。空調はガスを使用している。ボイラー室で温めた空気は、光合成を促進するよう二酸化炭素が付加されて温室へ送られる。
病害虫の管理には、同じくオランダに本社を置くコッパート・バイオロジカル・システムズ(Koppert Biological Systems)の病害虫管理システムを利用している。
システムを活用して自動化を進める一方で、各温室に1人「スカウト」という役職のスタッフがおり、苗木の状態や温室内の環境をきめ細かく見て回り、常に最適な生育環境になるよう調整している。

3つの温室と包装作業場をつなぐ中央通路(ジェトロ撮影)

販売先のバランスを取り最適な収益を確保

質問:
栽培にかかるコストの状況は。
答え:
栽培で最も費用がかかるのは、作業員の人件費と、冬場の太陽光の弱い時期に利用する天井のライトの電気代。温室を温めるのはガスで、ガス代は米国では安い。
質問:
主な販売先は。
答え:
コストコ、ホールフーズマーケット、ジュエル・オスコ、ウォルマートなどの大手スーパーマーケットチェーンが主で、販売量の80~85%を占める。卸売業者を通じて、レストランなどへ販売されるのは15~20%。スーパー向けは単価は安いものの、取引量が多い。卸売業者向けは単価は高いものの、取引量が少ない。双方の利点を勘案し、収益を上げるために販売先のバランスをとっている。
地域的には、イリノイ州全体とマディソン、ミシガン、セントルイス、ミネソタなど米国中西部の北部地域向けが多い。収穫量が多い時期は、さらに遠くニューヨークなどへ売ることもあるが、地産地消であることを大切にしている。
質問:
毎月の出荷量はどのくらいか。
答え:
毎月1万ケースから1万2,000ケース。1ケースは11ポンド(約5キログラム)なので、毎月50トンから60トンになる。気候の良い時期になると、それから8週間後に収穫量が上がるので、その時期に合わせて販売先への売り込みを強化する。

小売店向けに包装されたトマト(ジェトロ撮影)

システムを活用した作業員管理で効率と作業員のモチベーションを維持

質問:
労務管理はどのようにしているか。
答え:
作業員の人数は50~60人。プリヴァのシステムを活用して作業管理している。作業員は出勤すると各自の端末を、収穫・葉の刈り取り・苗のフックの調整・収穫が終わった茎の巻き取りなどといった作業ごとに分けられたタグにタッチする。すると、今日の作業エリアや作業内容が確認できるという仕組み。温室内の各畝には、その位置を示すタグが付いており、作業員は各自の端末をそのタグにタッチしてから作業を行う。このシステムは各作業にかかった時間も計測しており、作業状況が把握できる。システムが示す作業効率が高い作業員にはボーナスを出すなどして、作業員のモチベーション維持にも役立っている。

作業管理のための端末とタグ(ジェトロ撮影)

各畝に取り付けられた作業管理用のタグ
(ジェトロ撮影)

さらなる規模拡大で市場の需要に応える

質問:
今後の展望は。
答え:
現在、導入している栽培方式では、トマトのほかにキュウリ、ナス、ピーマン、パプリカなどの栽培が可能。今後さらに栽培規模を拡大した際には、ほかの作物にも本格的に取り組んでいきたい。
執筆者紹介
ジェトロ・シカゴ事務所
飯田 桃子(いいだ ももこ)
2014年茨城県庁入庁。2018年からジェトロに出向し、海外調査部米州課を経て2019年よりジェトロ・シカゴ事務所勤務。