欧州でのEVサプライチェーン構築、充電インフラ整備の動き ‐欧州全体で電池の大量生産を狙う‐
2018年3月28日
欧州の電気自動車(EV)普及は西欧を中心に拡大している他、中・東欧でも普及に向けた目標が設定されている。欧州委員会は2018年2月に「欧州バッテリー同盟」の行動計画を発表し、産官学の連携により電池分野でも欧州勢のサプライチェーンの強化を目指す。また、EV普及の前提となるのは、動力となる電気の充電設備の充実だ。EV普及・充電設備の増加は、配電系統などの電気設備への影響が課題であるものの、新たなビジネスモデルを生む可能性がある。
中・東欧でも政府目標を策定
EUの2017年の乗用車新車登録台数に占めるバッテリー電気自動車(電池のみを動力とする電気自動車、BEV)とプラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)を合わせた市場シェアは1.4%だった。2016年(1.1%)こそ前年比で横ばいだったものの、市場シェアがほぼゼロだった2010年以前から見ると、着実にシェアを伸ばしている。BEVとPHEVの2017年の登録台数合計は21万6,982台(前年比37.7%)であった(表1)。
年 | 市場シェア | 登録台数 | 前年増減比(%) |
---|---|---|---|
2013 | 0.4 | 49,661 | 114.6 |
2014 | 0.6 | 71,114 | 43.2 |
2015 | 1.1 | 148,321 | 108.6 |
2016 | 1.1 | 157,615 | 6.3 |
2017 | 1.4 | 216,982 | 37.7 |
- 出所:
- European Alternative Fuel Observatory(EAFO)
欧州自動車工業会(ACEA)によると、EUの2017年の乗用車の新車登録台数は1,513万7,732台で前年比3.4%となっており、BEV・PHEVといった電気を主な動力とするEVは市場シェアこそまだ1%台ではあるものの、年々登録台数が増加している。
また、国別の乗用車新車市場でのシェアを見ると、2017年は、スウェーデンが5.3%でトップであり、ベルギー(2.7%)、フィンランド(2.6%)と上位には西欧の国が続く(表2)。
順位 | 国名 | BEV | PHEV | 合計 |
---|---|---|---|---|
1 | スウェーデン | 1.1 | 4.2 | 5.3 |
2 | ベルギー | 0.5 | 2.2 | 2.7 |
3 | フィンランド | 0.4 | 2.2 | 2.6 |
4 | オランダ | 1.9 | 0.3 | 2.2 |
5 | オーストリア | 1.5 | 0.5 | 2.0 |
6 | ポルトガル | 0.8 | 1.1 | 1.9 |
7 | 英国 | 0.5 | 1.4 | 1.9 |
8 | ルクセンブルク | 0.7 | 1.2 | 1.9 |
9 | フランス | 1.2 | 0.6 | 1.8 |
10 | ドイツ | 0.7 | 0.9 | 1.6 |
- 出所:
- European Alternative Fuel Observatory(EAFO)
一方、中・東欧では、市場シェア自体は西欧と比べ小さいものの、政府によるEV普及目標が打ち出されている。ポーランドでは2017年3月に閣議決定された「電動車開発計画」では、2025年までに100万台のEVをポーランド国内に普及させることを目標としている。またチェコでは、2020年までにBEV・PHEVの合計で1万7,000台、2030年にはBEV、PHEVとハイブリッド車全体で25万台の普及を目指している。ハンガリーでも2015年6月に国会承認された「イエドリク・アーニョシュ計画」(注1)に基づき、グリーン・ナンバー(注2)の導入やEVの購入補助、充電器設置のための補助金、関連インフラの整備など、EV普及に向けた多面的な施策が試みられている。
電池製造でも欧州が巻き返しを図る
国際エネルギー機関(IEA)の「グローバルEVアウトルック2017(Global EV Outlook 2017)」によると、BMWやフォルクスワーゲン(VW)を始めとする大手自動車メーカーは2020~2030年までを目標に、EV関連の売り上げを大幅に増やす考えだ(表3)。
企業名 | 目標 |
---|---|
BMW | 2025年までにグループ売上の15~25%の電気自動車を販売 |
VW | 2025年までに年間200~300万台の電気自動車を販売 |
ルノー・日産 | 2020年までに累積150万台の電気自動車を販売 |
ボルボ | 2025年までに累積100万台の電気自動車を販売 |
テスラ | 2018年までに年間50万台、2020年までに年間100万台の電気自動車を販売 |
ダイムラー | 2020年までに年間10万台の電気自動車を販売 |
フォード | 2020年までに13種のEV新モデルを導入 |
ホンダ | 2030年までに売上の3分の2を電化自動車(BEV、PHEV、ハイブリッド車、燃料電池車を含む)とする |
- 出所:
- IEA Global EV Outlook 2017
このような動きのなかでは、自動車部品のサプライチェーンの充実も必要となる。電池は、電気自動車の内部構造を構成する主要な部品の一つだが、欧州では、日韓企業が欧州企業に先行している。ポーランドでは、2016年10月に韓国のLG化学が電池工場の建設を発表した。ハンガリーでは2017年5月に韓国のサムスンSDIが電池工場を建設したほか、同年11月には同じく韓国のSKイノベーションが、2018年1月にはGSユアサが電池工場の建設を発表した。また、チェコでは、セントラル硝子が2017年3月に電池向け電解液の製造工場の建設を発表している。
欧州委員会は、先行する域外からの投資に対抗すべく、欧州企業にEV電池の開発・量産リサイクルのサプライチェーンを展開するイニシアチブ「欧州バッテリー同盟」の結成を呼び掛け、2018年2月に行動計画(1.1MB) を公表した。同計画では、欧州の電池市場が2025年までに2,500億ユーロ規模になると予測しており、欧州企業が製造する電池をEV生産のサプライチェーンに組み込むための、鉱物資源の鉱山を開く手続きの簡素化や、電池製造企業への税制面での優遇などの施策が打ち出されている。本同盟には、英国のリオ・ティントなど電池の原材料となる鉱物資源の採掘企業から、チェコのHE3DAなどの電池製造企業、VWなどの自動車メーカーやフランスのEDFなどのエネルギー事業者、ベルギーのソルベーなどの電池のリサイクル・二次利用に携わる化学メーカーといったサプライチェーン全体にまたがる多くの欧州企業が参加している。また、ドイツのフラウンホーファー研究機構など研究機関・協会も参画しており、欧州全体の産官学連携によって、電池市場で巻き返しを図る考えだ。欧州委のマレシュ・シェフチョビチ副委員長(エネルギー同盟担当)は同計画の公表同日に、「EUは、研究・イノベーション、全てのバリューチェーン、労働力、資金面での支援などあらゆる面で強みを持つが、大規模な電池生産能力が不足している」と述べ、「電池市場を捉えるためには、10~20カ所のギガファクトリー(注3)を持たなければならず、200億ユーロ程度の投資が必要となる。(行動計画の実施は)産業界主導で行われなければならないが、実施に必要な「規模」と「速さ」には(EU全体での)協力が欠かせない」として、本同盟の意義と、EU全体で支援する姿勢を強調した。
充電インフラの拡充も必須
EVのさらなる普及に向け、導入・生産の両面から力を入れる欧州だが、充電インフラの拡充もEV普及の前提となるポイントだ。電気などの代替燃料インフラの設置に関するEU指令(2014/94/EU)では、2020年までに適切な台数の公共の場で利用可能な充電器を設置するよう求めている。また、公共用以外にも設置を促進する措置をとるよう求めている。EU域内では2012年には充電器の設置がほぼなかったが、2015年から充電器の設置台数が急増し、2017年には12万台近く設置されている(表4)。
国名 |
普通充電器 (注1) |
急速充電器 (注2) |
合計 |
充電器あたりの EV台数 |
---|---|---|---|---|
オランダ | 32,120 | 755 | 32,875 | 3 |
ドイツ | 22,213 | 3,028 | 25,241 | 5 |
フランス | 14,407 | 1,904 | 16,311 | 9 |
英国 | 11,497 | 2,759 | 14,256 | 9 |
スペイン | 4,312 | 662 | 4,974 | 4 |
スウェーデン | 2,363 | 2,370 | 4,733 | 10 |
オーストリア | 3,363 | 725 | 4,088 | 5 |
イタリア | 2,298 | 443 | 2,741 | 5 |
デンマーク | 2,114 | 468 | 2,582 | 4 |
ベルギー | 1,485 | 280 | 1,765 | 18 |
ポルトガル | 1,322 | 223 | 1,545 | 5 |
アイルランド | 837 | 172 | 1,009 | 2 |
フィンランド | 706 | 241 | 947 | 6 |
チェコ | 459 | 225 | 684 | 2 |
ポーランド | 410 | 142 | 552 | 3 |
スロベニア | 348 | 148 | 496 | 2 |
スロバキア | 347 | 96 | 443 | 2 |
ブルガリア | 63 | 31 | 94 | 1 |
クロアチア | 381 | 55 | 436 | 0 |
エストニア | 191 | 193 | 384 | 3 |
ルクセンブルク | 327 | 10 | 337 | 6 |
ハンガリー | 206 | 66 | 272 | 7 |
ルーマニア | 95 | 14 | 109 | 6 |
リトアニア | 39 | 63 | 102 | 2 |
マルタ | 97 | 0 | 97 | 1 |
ラトビア | 60 | 13 | 73 | 5 |
ギリシャ | 36 | 2 | 38 | 8 |
キプロス | 36 | 0 | 36 | 4 |
ノルウェー(EU非加盟、参考) | 8,292 | 2,058 | 10350 | 17 |
スイス(EU非加盟、参考) | 3,460 | 569 | 4029 | 6 |
トルコ(EU非加盟、参考) | 69 | 7 | 76 | 7 |
- 注1:
- 出力22kW以下
- 注2:
- 出力22kW超
- 出所:
- European Alternative Fuel Observatory(EAFO)
欧州では、充電インフラの拡充に向けた支援政策が見られる。グローバルEVアウトルック2017では、充電インフラの拡充に関わる西欧主要国の施策を以下のとおり紹介している。
まず、主なインセンティブ政策を見ると、フランスは、2030年までに国内に700万口のEV向け充電コンセントを設ける目標を設定しており、家庭・職場向けの充電設備の導入支援策として、家庭の充電器コストの30%相当の税控除や家庭・職場での設置費用に対する補助金などの金銭的なインセンティブを設けている。英国では、EV向けの充電器を設置した個人に対して、500ポンド(約7万5,000円、1ポンド=約150円)の補助金が付与されるほか、企業や地方自治体向けのインセンティブもある。
規制の面から充電インフラの拡充を目指す動きもある。フランスでは、新築・リノベーションされた住居にある駐車場の50~75%に充電設備が接続可能な導管を設置することが求められるほか、商業施設でも、5~10%の駐車場に急速充電器用の導管の設置が求められる。
国だけではなく、地方自治体レベルでも充電インフラの活用は進む。アムステルダム市は市街地で、自治体に登録したEVの購入者の数で地域を分け、需要が多い地域に優先的に充電器を配置するユニークな試みが行われている。また、同じオランダのユトレヒト市では、家庭向けの充電器1台ごとに500ユーロの補助金を付与するなどのインセンティブを設ける。
一方、中・東欧のチェコにおける取り組みはどうか。チェコのAEMOは、自動車メーカーや電気自動車部品、充電設備、ICT機器関連企業とEVを社用車として導入する企業が加盟する民間組織で、公的機関や大学などの研究機関とも連携している。AEMOは、企業間や産官学のネットワーキングや、ビジネスの活発化を促すとともに、関連分野のスタートアップ支援も行う。同組織のカテリナ・シロトコバ氏にインタビューしたところ、「チェコのエネルギー大手CEZは国内最大のEV向け充電器の運営者であり、EUの重要インフラ投資への枠組みコネクティング・ヨーロッパ・ファシリティ(CEF)から資金拠出を受け、充電器の設置を進めている」と言う。同社は2017年10月には、2018年末までに40基以上の急速充電器を設置することを発表している。さらにシロトコバ氏は、「チェコ国内自動車メーカーのシュコダもPHEVの初モデルを2019年に発表予定であり、消費者にとっては充電器の拡充と購入費用の低減が重要になる」と指摘する。
電気設備への影響や新たなビジネスモデルも
IEAによると、EV・充電インフラの普及による電力需要の増加は、一義的には配電系統運用者(DSO)に影響を及ぼす。既存設備では、増加する電力需要に耐え切れず設備増強のための追加投資が必要になる可能性がある。また、次の段階として、電力のピーク需要が高まることで、送電系統運用者(TSO)の周波数制御などの業務負荷が大きくなること、発電・卸売市場レベルでは、高需要による市場価格の高騰リスクがあるなど、いずれも最終的には消費者に跳ね返る可能性のあるコストの増加を示唆している。IEAはこのようなネガティブな影響を最小化するために「グローバルEVアウトルック2017」で三つの選択肢を示している。一つは、充電設備を、特定の時間帯に利用が集中するエリアではなく、1日を通して利用率の高いエリアに設置することだ。特定の時間帯に充電のタイミングが集中することを避け、電力のピーク需要への影響を低減する。また二つ目はEVの所有者が住宅に太陽光発電を導入し、蓄電設備(EV)と再充電設備(太陽光発電からEVに対して充電する設備)を活用することだ。このような活用方法はエネルギー効率化、分散型電源、充電コストの最小化に資するビジネスモデルであるという。最後の選択肢は、EVの普及に沿って、充電設備を拡充することだ。充電の需要が特定の箇所に集中しないように、充電設備を配置することは、配電系統の安定性と経済的な優位性をもたらすとする。
また、EVの普及に備え、充電インフラをより効率的・弾力的に利用するためにはスマート充電(注4)や消費者に充電の時間帯を後ろにずらすことを選択させるような価格シグナルの導入が考えられる。価格シグナルとは、例えば、電力需要のピーク時に、電力会社がEVユーザーに充電をしないよう要請し、ユーザーはそれに従うことでインセンティブを得るような仕組みだ。
このようなサービスの導入には、ユーザーや電気自動車、エネルギー事業者をつなぐICT技術やサービスが不可欠となる。EVの普及は既存の産業分野を超えたサービスのニーズを生み、新たなビジネスモデルが出現するとみられる。
- 注1:
- ハンガリーの電気自動車の普及に向けた政策。発電機の実験を行ったことで知られるハンガリーの発明家(1800~1895年)の名前を冠している。
- 注2:
- 環境に優しい自動車に付与される自動車なナンバー。市街地での駐車料金無料、自動車関連税の免税などのメリットがある。
- 注3:
- EV向け電池の大規模生産工場
- 注4:
- 通信機器による充電時間帯の予約や、充電可能である通知のユーザーへの送信、ワイヤレス充電など、従来よりも待機時間を短くする機能を持った充電方法。

- 執筆者紹介
-
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
木下 裕之(きのした ひろゆき) - 2011年東北電力入社。2017年7月よりジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。