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相互監視の徹底が環境規制の最大の推進力に(中国)
中国環境規制は成功するのか(2)

2018年5月29日

長らく地方の環境部局と企業の癒着による環境違反の温存が、中国の環境行政の最大の問題点として批判を集めてきた。習近平政権になり、汚職撲滅、コンプライアンス重視の流れから2016年に始まった中央政府による環境監査は、それまでの中国環境規制への国民の意識を大きく変えただけではなく、企業と政府による癒着をあぶりだした。

1. 中央の監査による環境汚職の撲滅

中央政府による環境監査の特徴を三つ挙げる。一つ目は構成メンバーに汚職撲滅を担当する規律検査委員会と人事を掌握する組織部が入っており、企業だけでなく、地方政府役人もターゲットとされていること。二つ目は、地方政府も監査対象であり、地方政府には一切監査の連絡が入らないこと。最後に、住民からの告発が監査の発端になっており、性悪説を採る中国では相互監視を徹底して推奨していることである。

表1:第1巡中央環境監査結果一覧 2016~2017年
省数 告発受理
件数
処罰
件数
罰金額
(万元)
立案調査
件数
身柄拘束
人数
事情聴取
人数
処罰
人数
第1回 8 13,316 2,587 19,800 207 310 2,176 3,287
第2回 7 26,330 5,779 24,303 595 287 4,066 2,682
第3回 7 35,523 7,086 33,588 354 355 6,079 4,018
第4回 8 43,015 9,181 46,584 297 364 4,210 5,763
30 118,184 24,633 124,275 1,453 1,316 16,531 15,750
注:
第1回の民衆告発案件受理数は非公表のため、監査チームの状況確認件数で代替した。
出所:
2017年度ジェトロ・上海事務所委託調査「中国における環境規制と市場規模の最新動向調査」
図1:中央監査の処罰件数の推移(件)
第1回目から第4回目にかけて右肩あがりなのが見て取れる。
図2:中央監査の罰金額の推移(万元)
第1回目から第4回目にかけて右肩あがりなのが見て取れる。

中央による環境監査は2016年から4回行われた。この監査は回数を重ねるごとにマスメディアなどを巻き込み、処罰件数、罰金額などは膨れ上がっており、厳罰化が進んでいる(表1参照)。さらに報道によれば、処罰された1万5,750人のうち、政府役人関係者が1,527人含まれるとのことである(注1)。この一連の環境監査で、地方政府担当者の意識を「規制順守なしには自分は生きながらえることができない」と広く変えた(注2)。さらに2017年に北京市、天津市、河北省、山西省、山東省などの28都市(大気汚染度合いが高い都市で「大気汚染経路都市」という)で始まった特別監察によってさらに重度な大気汚染地域における徹底した取り締まり強化が行われた。


2017年10月に李局長が秋冬季特別監査を現場指導する(生態環境部ウェブサイトより)

それでは、この中央の監査が全国の環境処罰にどのような影響を与えているのかをみてみたい(表2、図3、4、5参照)。中央監査が始まる前の2015年と比較すると、2017年の処罰金額(ただし2017年は1~11月)は1.9倍、(生産設備の)差押件数が5.0倍、生産制限・停止件数が3.5倍と大幅に増加しており、中国全体の環境処罰が年を追うごとに厳しくなっていることが分かる。

表2:2015~2017年の環境処罰状況の推移

(1)日割連続処罰
案件数 金額
(万元)
2015年 511 56,947
2016年 758 81,435
2017年 1,165 107,540
(2)その他
差押
件数
生産制限・
停止件数
身柄拘束
件数
犯罪立案
件数
2015年 3,697 2,512 1,732 1,478
2016年 7,413 4,410 3,274 1,725
2017年 18,332 8,756 8,604 2,736
図3:処罰金額(万元)
2015年から17年にかけて1.9倍に増加した様子が見て取れる。
図4:差押件数
2015年から17年にかけて5倍に増加した様子が見て取れる。
図5:生産制限停止件数
2015年から17年にかけて3.5倍に増加した様子が見て取れる
注1:
2017年の数値は報道による。日割連続処罰金額(図3)は1~11月の数値。
注2:
日割連続処罰とは、汚染物排出基準値を上回って排出したことにかかる処罰。
通常違反した日数分の罰金額となる。
出所:
2017年度ジェトロ・上海事務所委託調査「中国における環境規制と市場規模の最新動向調査」等

2. 中国環境規制の実体経済への影響の広がり

ここで環境規制強化がサプライチェーンにどのような結果を与えたのかを試算してみたい。2017年に中国環境保護部(現生態環境部)は、前出の28都市に向けた史上最も厳しい大気汚染規制によって「小・散・乱・汚」と呼ばれる大気汚染企業に対する取り締りを強化した。2017年6月末時点で約17万6,000社がその取り締りの対象となり、中国環境保護部は、これらの企業が2017年9月までに基準を満たさなければ閉鎖させるとした(注3)。この約17万6,000社という数値はどの程度のインパクトのある数値だろうか。

中国統計年鑑によれば、第2次産業に属する北京市、天津市、河北省、江西省、山東省の法人数は2016年で80万5,254社(なお全国の第2次産業法人数395万3,940社)であり、その5省・市の第2次産業に属する法人数の約20.4%に上る。28都市の、取り締りの対象業種である鉄鋼、非鉄金属、建材、化学工業、印刷、家具製造に限れば、その割合は相当高いものになることが想定される。また、この取り締りに加えて、京津冀地域などを対象に、秋・冬季(暖房期)の生産制限も実施された(注4)。冬季3カ月間に鉄鋼生産量を50%に調整をするなど、大気汚染が懸念される鉄鋼、コークス、電解アルミなどの減産調整を行い、粉じんが排出される建築工事を停止するとしている。

表3にこれら生産調整・停止に関係が深いと考えられる製品の全国の生産量の推移を2017年10~12月でまとめた。2017年後半の中国全体の好調な経済成長や、個別産品ごとの特殊要因があり、環境規制がどこまで影響を与えているのか不明だが、冷延鋼板、酸化アルミニウム、原アルミ(電解炉)などに生産量の前年同月比で5~20%も減少した産品があり、環境規制強化と一定の相関があると考えられる。

表3:28都市生産制限に関係が深い産品の全国生産量増加率(前年比) (単位:%)
産品 2017年12月 2017年11月 2017年10月
鉄鉱石鉱石 0.9 0.2 3.9
エチレン 5.2 6.7 8.5
リン鉱石 2.8 -11.4 -27.0
化学薬品原薬 -2.2 0.7 -2.4
平板ガラス -5.3 -3.5 -0.3
生鉄 -4.4 -3.5 2.3
粗鋼 1.8 2.2 6.1
鋼材 -1.1 -2.9 -1.6
鋼筋 8.9 -1.0 0.7
冷延薄板 -11.5 -4.0 -7.3
酸化アルミニウム -11.8 -22.1 -4.8
10種の非鉄金属 2.8 -6.9 -3.3
原アルミ(電解炉) -1.8 -16.8 -7.5
アルミ合金 1.0 10.1 7.1
出所:
中国国家統計局

同様にこれら生産調整・停止に関係が深いと考えられる製品の購入価格指数を表4にまとめた。工業生産者購入価格指数に比べて、黒色金属材料類、有色金属材料・電線類の購入価格指数(前年同月=100)が2017年の年初および後半に15%以上上昇しており、環境規制強化と一定の相関があると考えられる。なお、化学原料類は工業生産者の購入価格指数と同じ動きをしており、建築材料・非金属鉱物購入価格指数は現在でも上昇傾向にあるなど、いずれも環境規制の強化とは比較的相関が少ないと思われる。なお、筆者は、日系証券会社の方から、新エネルギー車のリチウムイオン電池の材料でもある黒鉛電極の価格が2017年に急騰したと聞いた。その理由は、世界生産のシェアが高い黒鉛電極は生産過程において汚染物を排出するため、中国の環境規制強化により、今後の生産量の減少が見込まれることであろう。

表4:工業生産者購入価格指数の推移(前年同月=100)
指数 2018年3月 2017年12月 2017年9月 2017年6月 2017年3月 2016年12月 2016年9月 2016年6月
工業生産者購入価格指数 103.7 105.9 108.5 107.3 110 106.3 99.4 96.6
燃料、动力类购进价格指数(上年同月=100) 104.9 107.1 111.9 112.5 119 110.1 98.1 92.8
黒色金属材料類購入価格指数 105.3 110.6 116.6 113.7 121.8 115.1 101.8 95.9
有色金属材料・電線類購入価格指数 106.8 110.4 118.6 114.1 116.1 114.9 100.3 94.3
化学原料類購入価格指数 103.4 107.6 109 107 110 105.3 98.4 95.8
木材及纸浆类购进价格指数(上年同月=100) 106.5 107.6 108.5 105.3 104.5 102.1 99.3 99.2
建築材料・非金属鉱物購入価格指数 111.4 111.6 110 108.6 106.8 104.1 98.8 96.8
注:
黒色金属とは、鉄、クロム、マンガン。有色金属とは、黒色金属以外の金属で非鉄金属を指す。
出所:
中国国家統計局

いずれにせよ、このような大規模で急激な生産調整・停止は、企業倒産・失業を引き起こすだけでなく、生産量の大幅減少により、サプライチェーンの寸断や、国内価格の高騰をもたらすため、注視が必要である。 なお、筆者が居住する上海においても2017年に以下の動きがあったと側聞している。

  1. 家具や印刷などの業種については小規模で環境規制対応ができる体力がない企業に市外(例えば浙江省寧波市)などへの移転命令があった。
  2. 住宅地に近い工業開発区の廃止・縮小、工業開発区の特性(特定産業の集積)などの見直しが進んでおり、一部区画ではほんの数週間で大量の工場が移転させられた。

3. 日系企業は、自身のみならず一次請け、二次請け企業にも注意が必要

2017年9月に上海市で発生したドイツ自動車部品大手シェフラーの事例(注5)を紹介したい。これはネット上で企業と上海市政府の書簡が公開されていたため当地で非常に話題になった。概要は以下のようである。

9月18日にシェフラー側が緊急書簡を公表した。「自身のサプライヤーが環境保護違反によって生産停止を受け、自動車生産台数300万台・3,000億元の経済損失が生じる」とし、3カ月の刑の執行猶予を求めた。その2日後の20日に上海市浦東新区環境保護局は反論した。「サプライヤーは9カ月前から警告を出されており、シェフラーと生産調整が可能であった。シェフラーはサプライヤーの環境保護法への合法性を確認すべきである。政府は環 境違法企業に絶対に譲歩しない」と一切の妥協をしなかった。この事案から、「経済よりも環境重視」「大企業はサプライヤーの環境保護違反を確認すべき」との中国政府の厳しいメッセージに注目が集まった。当地に進出する日系企業にとっても、内販拡大のためにコスト削減を目的に現地調達を進め中国企業との取引を拡大している企業が多く、そのような企業にとってもシェフラー事案は決してひとごとではないであろう。

他方で、急激な環境保護策により、大規模な生産調整・停止が発生し、生産量や価格に影響を与えている。このような規制強化の流れは当面続くことが予想される。環境規制の強化によってどのような品目が影響を受けているのか、生産量と価格に影響はないのか、自身のサプライチェーン全体の環境規制順守を今一度チェックすべきであろう。

4. まとめ

以上のように、中国の環境規制を巡っては、相互監視の徹底的な推奨により、政府および企業のコンプライアンス意識を芽生えさせ、環境保護順法へと大きく変化している。

前述のように制度はできており、政府と企業のマインドも変化している。既に中国の「青い空」を取り戻すための闘いは道半ばを過ぎ、今後収穫期に入っていくだろう。さらにその足取りを確かなものにするために、その枠組みを支え、実際に運営する環境専門人材の育成が急務であると考えられる。正確に汚染物質の測定ができる人材、環境保護装置を据え付け、管理運営、修理ができる人材が企業で足りないという話をよく聞く。ぜひ、このような知識と経験のある日本企業が協力して、中国の青い空を取り戻すことができれば、日中環境マッチングにも携わってきた筆者にとってこれ以上に幸いなことはない。


注1:
これが、政府の非常に硬直な環境行政指導につながった。本来であれば企業運営と環境規制のバランスを考えて環境行政を実施すべきだが、現在、環境規制を一方的に優先している感がある。
注2:
筆者のヒアリングによれば、各地の政府担当者の態度は大きく変わりコンプライアンス一辺倒になったという話をよく聞く。
注3:
現時点で、小・散・乱・汚企業の17万6,000社のうち、何社が工場閉鎖したのか政府発表はない。また、「第181回「中国における史上最も厳しい環境規制-来春にかけて工事停止や減産措置を実施-」2017年11月21日マネックス証券コラム外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (執筆者:丸紅株式会社 丸紅経済研究所)に詳しい。
注4:
「京津冀および周辺地区2017~18年秋冬季大気汚染総合治理攻堅行動方案」外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
注5:
「日本経済新聞」2017年9月20日付け外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます「中国網日本語版(チャイナネット)」2017年9月21日付け外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます
執筆者紹介
ジェトロ・上海事務所 経済信息・機械環境産業部長
原 健太郎(はら けんたろう)
1996年4月経済産業省入省。2015年8月にジェトロ出向、上海事務所にて経済信息・機械環境産業部長として勤務。

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