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国際物流拠点としての高い潜在性と残る課題(スリランカ)
スリランカは地域のハブになれるか(前編)

2018年6月7日

スリランカの国際物流機能に注目が集まっている。地理的優位性を生かして南アジアの物流ハブを狙うが、同国がベンチマークとするシンガポールと比較すると取り扱う貨物量は大きく引き離されている。コスト面ではシンガポールに優位性を持ちつつも、トランシップ(積み替え)ハブとしては課題も多い。スリランカの主要物流拠点であるコロンボ港およびバンダラナイケ国際空港を中心に、現状の課題や行政プラン、民間企業の取り組みを紹介する。

地域的優位性が魅力

スリランカの物流分野には日系企業の進出も相次ぎ、郵船ロジスティクスやSGホールディングス、近鉄エクスプレス、日本通運など各社が支店設立や現地大手企業への資本参加などさまざまな形態で進出している。スリランカが持つ魅力は、その地理的優位性だ。インド洋を横切る主要シーレーン(海上交通路)に近接し、アジアと中東アフリカ、ヨーロッパ地域をつなぐ場所にある。そして北にはインド、バングラデシュ、パキスタンなど、今後著しいマーケットの成長が見込まれる南西アジア諸国が並ぶ。

図1:スリランカの主要港湾
スリランカの主な港湾は3つ。西部にあるコロンボ港はスリランカ最大の港湾。水深にも恵まれ、取扱量は年々増加している。港湾の拡張計画も進行中。南部にあるハンバントタ港:前政権下で中国資本によって建設された港で、2017年より中国の国営企業が運営権を取得。現在、自動車の輸入に際しては同港の利用が義務付けられているが、それ以外の商業利用は未だ限定的。周囲にEPZ(輸出加工区)の建設計画が進む。北東部にあるトリンコマリー港:水深23mの良港だが、内戦の影響もあって近代化が遅れている。ガントリークレーンなどの設備は無く、コンテナ船は同港を利用できない状況。設備拡充に向けた計画が進行中で、現在はシンガポール企業が港湾デザインを作成している段階。今後港湾工事の入札が実施される予定。
出所:
Google mapを基にジェトロ作成

コロンボ港は徐々に各地を連結する港としての存在感を増している。ドリューリーが発表した港湾の接続性ランキング(2017年第4四半期)では世界で13位となり、前回(2017年第3四半期)のランクから5位浮上した。シルクロード時代から交易の要所だった島を、スリランカ政府は国際的な物流ハブとして機能強化していきたい考えだ。発展モデルとしては、シンガポールをベンチマークに据えている。しかし実際の港湾の貨物取扱量を比較すると、スリランカはシンガポールに大きく差をつけられている(表1参照)。前述のドリューリーのランキングでも3位のシンガポールだが、その背中を追う上での課題は何か。

表1:コンテナ取扱数量の比較 (単位:100万TEU)
港名 2013年 2014年 2015年 2016年 2017年
シンガポール港 32.6 33.9 30.9 30.9 33.7
コロンボ港 4.3 4.9 5.2 5.7 6.2
東京港 4.9 4.9 4.6 4.7 5.0
出所:
シンガポール海事港湾庁(MPA)、スリランカ港湾局(SLPA)、東京都港湾局、各種報道を基にジェトロ作成

トランシップ+αがカギ

スリランカは人口約2,000万人と、国内マーケットの規模は限られており、物流ハブとして地位を確立するためには、トランシップ貨物の受け入れ能力の向上がカギとなる。スリランカ最大のコロンボ港では、現時点でトランシップ貨物が全取扱量の70%ほどを占めており、今後も取り扱いは増加することが予測されている(表2参照)。これらトランシップ貨物の多くが隣国のインドやバングラデシュに向かう。インドやバングラデシュには水深が深い港湾が少なく、大型貨物船の入港が難しいため、水深に恵まれたコロンボ港に大型船で貨物を輸送し、小型・中型船に積み替えて向かうのだ。

このようにスリランカはその地理的優位性を生かしてトランシップを多く受け入れているが、それはあくまでも他地域の経済発展の恩恵にあずかっているにすぎない。スリランカが国際物流拠点として優先的に選ばれ、激化する物流拠点間の競争を勝ち抜いていくためには、単純な詰め替え作業場以上の価値を提供していく必要がある。取り組むべき喫緊の課題として、主にMCC物流(Multi country Consolidation、複数原産国商品の混載輸送)の体制を整えること、そして付加価値物流ニーズへの対応を充実させることの2点が挙げられる。

表2:スリランカ各港におけるコンテナ貨物取扱量予測 (単位:千TEU)
港湾名 2015 2020 2025 2030 2035 2040
コロンボ港 5,101 6,456 8,757 11,920 16,033 21,688
トランシップ 3,883 4,833 6,581 9,018 12,310 16,895
階層レベル2の項目 国内 1,218 1,623 2,176 2,902 3,723 4,793
ハンバントタ港 0 522 743 1,031 1,403 1,901
階層レベル2の項目 トランシップ 0 472 643 881 1,203 1,651
階層レベル2の項目 国内 0 50 100 150 200 250
トリンコマリー港 0 0 0 0 50 100
階層レベル2の項目 トランシップ 0 0 0 0 0 0
階層レベル2の項目 国内 0 0 0 0 50 100
合計 5,101 6,978 9,500 12,951 17,485 23,689
階層レベル2の項目 トランシップ 3,883 5,305 7,224 9,899 13,512 18,546
階層レベル2の項目 国内 1,218 1,673 2,276 3,052 3,973 5,143
出所:
JICA調査レポート「スリランカ国物流セクターに係る情報収集・確認調査 ファイナル・レポート(2017年10月)」

MCC物流増に向け、港内サービス向上が急務

MCC物流は複数の原産国から輸入した商品を物流拠点の保税区内で混載することにより、仕向け地に向けてより効率的な輸送を実現する手法だ(図参照)。地理的にASEAN諸国や南西アジア諸国といった東、北の国々と欧米や中東アフリカなど西の国々の中継地点となり得るコロンボがMCC物流の主要拠点となる潜在性は高い。

図2:MCC物流のイメージ図
複数国(A国、B国、C国)から輸入したX国、Y国向け商品を、物流拠点の保税区内でX国向け、Y国向け別に混載し、効率的に輸出することができる。
出所:
ジェトロ作成

しかし、日本のSGホールディングス傘下にあるスリランカ大手物流のEFLによれば、現時点ではこの地理性が十分に生かされておらず、スリランカでの積み替えを行うMCC物流はサービス全体の10%程度にとどまっているという。その主な理由は、コロンボ港内での貨物オペレーションの現状に起因する。コロンボ港内のオペレーションは政府機関であるスリランカ港湾局(SLPA)が担っており、民間には解放されていない。SLPAは、サービスレベルが低く、作業時間が通常以上にかかったり、特に雨の日などは貨物がぬれたり汚れたりしやすいという。保税地区内での積み替え作業を要するMCCサービスには港内での高度なオペレーションが必要となるが、このニーズに対応できる十分な体制が整っていないのだ。例えばシンガポールでは、港内オペレーションを民間部門に開放することで、質の高いサービスが提供されている。SLPAも民間出身者をマネジメントチームに招くなどサービス改善に向けた取り組みはしているものの、目覚ましい進展はいまだみられない。

港湾の開発や運営面では今後、官民連携(PPP)枠組みを活用していくことも議論されている。これに加えて、スリランカ政府は2016年に発表した「西部地域メガポリスマスタープラン(WRMMP)」の中でコロンボ港およびトリンコマリー港の拡張計画や、コロンボ港とバンダラナイケ国際空港をつなぐ「物流回廊」の設置計画などを提言し、メガポリス・西部開発省が実現に向けて調整を行っている(注)。しかしこれら壮大な計画を実現するだけの財政的な根拠は乏しく、どの程度計画が実現されるかは慎重に見極める必要がある。

民間企業は価値付加型のサービス機能を充実

行政が漸進的に物流ハブ化を目指す一方で、民間企業は着実にサービスの幅を広げつつある。スリランカの大手コングロマリット、ヘイリーズグループ傘下のヘイリーズ・アドバンティスは、バンダラナイケ国際空港近くのカトナヤケEPZ(輸出加工区)内に保税倉庫を設置し、アドバンティス・フリーゾーン(AFZ)として貨物の詰め替えや価値付加型のサービスを2014年から提供しており、現在80社ほどが利用している。カトナヤケEPZはコロンボ市内から30キロほどの距離にあり、コロンボ港に納入された貨物は一度高速道路を経由してAFZに運搬される。港から高速道路の入り口までは一般道路を経由する必要もあり、運搬の手間はかかるものの、同社は交通量の少ない夜間に運送を集中させたり、コロンボ港での通関手続きの省略化を獲得したりと工夫している。さらに港からAFZまでの運搬はGPS追跡機能を導入することによって、貨物を安全かつ確実に運送するシステムを構築している。また、同社の保税倉庫内には価値付加作業を行うオペレーションラインも設置され、ラベリングや梱包(こんぽう)作業など、顧客の要望に添った作業を行うことができる。これらの倉庫内には同社の従業員であっても一部関係者しか立ち入りが認められておらず、貨物の管理や顧客情報管理の面で高度なセキュリティーを確保する。

AFZのナタリー・グーネワルダナ会計・カスタマーケア部長は、スリランカの物流拠点としての強みを「インド国内よりもインド都市間とのコネクションが良い」ことに加えて、「コスト競争力が高い」と言う。特にコスト面では、コロンボ港および周辺設備の利用はシンガポールの港湾を利用するよりも一般的に60%ほど安く、ドバイの港湾利用よりも30%ほど安いという。このために、シンガポールやドバイからコロンボへ利用者が移行する流れも実際に起こっていると同氏は力を込める。加えて、ヘイリーズ・アドバンティスのコーポレート・ビジネス・デベロップメント部長クシャン・デシルワ氏は、スリランカの優位性としてミャンマーや東アフリカ市場への接続性にも着目する。特に同社の重要顧客であるアパレル企業がこれら周辺国に工場を設立する動きもあり、これもスリランカの物流拠点としての活用を後押ししている。

このように製造企業がスリランカを物流拠点として利用することで、物流ハブのみならず価値付加型の製造ハブや、さらには営業活動の拠点としての同国の活用も増えてくるだろう。また、現在コロンボの湾岸地区で建設が進むコロンボ・ポート・シティーでは金融ハブ機能の誘致を目指しており、南西アジアの地域ハブを目指すスリランカの動きは徐々に活発化しつつある。


AFZの保税倉庫。庫内設備も最新機器を導入している(AFZ提供)

AFZのナタリー・グーネワルダナ会計・カスタマーケア部長(ジェトロ撮影)

(右から)ヘイリーズ・アドバンティスのクシャン・デシルワ事業開発局長、ビレンドラ・
ペレラ最高戦略責任者、ディルム・フェルナンド・ゼネラルマネジャー(ジェトロ撮影)

注:
「西部地域メガポリスマスタープラン(WRMMP)」はメガポリス西部開発省のウェブサイトから閲覧・ダウンロードできる。日本語でWRMMPをまとめているJICA調査レポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(32.5MB) も参照。
執筆者紹介
ジェトロ企画部地方創生推進課(元ジェトロ・コロンボ事務所)
山本 春奈(やまもと はるな)
2015年、ジェトロ入構。対日投資部(2015~2017年)、ジェトロ・コロンボ事務所(2017年~2018年)を経て現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課
渡邉 敬士(わたなべ たかし)
2017年、ジェトロ入構。

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