国交25周年を迎えて日本企業ミッションに進出を呼び掛け(クロアチア)
リーマン・ショックの影響から回復し、インフラ整備も進む

2018年7月25日

2018年に日本と国交25周年を迎えたクロアチアは、2013年7月にEUに加盟した。リーマン・ショックや欧州債務危機などの影響を受け、2009年から6年連続で経済はマイナス成長に陥ったが、EU基金によるインフラ整備や2017年の法人税および個人所得税改革、またEU全体の経済成長により、ようやく経済が成長軌道に乗ってきた。日本企業のクロアチア進出事例は限られているが、EU主要国へのアクセスの良さ、一定の産業基盤、教育水準の高さ、英会話能力を持つ優秀な人材などはクロアチアの強みといえる。ジェトロ、在クロアチア日本大使館およびクロアチア経済・中小企業省は、日本企業にクロアチアのビジネス環境を紹介することを目的に、6月4~6日にクロアチアにビジネスミッションを派遣した。

クロアチア経済は2015年から好転

クロアチアの人口は四国とほぼ同じ412万人で、面積は九州の1.5倍ほどの5万7,000平方キロ。クロアチアは、スロベニアと共に旧ユーゴスラビアの経済先進国だったが、独立時の紛争や混乱に際して製造業の発展などに遅れが生じた。2015年に経済がプラス成長に転じて以降、2017年にはGDP成長率が2.9%となった。近年は、好調な観光部門を背景に雇用環境が改善し、消費が堅調に推移するほか、EU基金に支えられるかたちで公的および民間部門の投資も復調している。内需の牽引により、今後も引き続き3%程度の成長が見込まれている。

主な産業は、造船、化学、繊維、食品加工、観光などである。造船業の低迷により製造業のGDPシェアは15.1%だが、観光業が好調で流通・交通・宿泊・飲食サービスは23.1%となっている。主な輸出品は、金属部品、食料・飲料、繊維製品、医薬品、石油精製品、機械部品などである。

クロアチアへの主な投資国は、オランダ、オーストリア、イタリア、ドイツ、ルクセンブルク、ハンガリーで、国内大企業100社のうち40社が外国資本下にある。外国資本の大企業としては、石油ガス大手のINA(ハンガリー資本)、ザグレブ銀行(オーストリア)、クロアチア・テレコム(ドイツ)、石油大手のペトロル(スロベニア)、PBZ銀行(イタリア)、製薬のプリバ(イスラエル)が挙げられる。

日本企業は、矢崎総業が1999年にワイヤーハーネスの開発拠点を設けているほか、メーカー約10社が販売拠点を設置している。また、対日貿易については、2017年は輸出が約85億円でその約7割をマグロが占め、輸入は自動車を中心に約46億円だった。

経済・中小企業相も参加しセミナーを開催

今回のビジネスミッションには、オーストリア、英国、ベルギー、ポーランド、チェコ、スイス、ハンガリーおよびセルビアから、日系企業13社・17人が参加した。業種は、商社、金融、自動車、電機・電子機器、建設などであった。

ミッション初日のクロアチア経済・中小企業省主催のセミナーでは、ダルコ・ホルバット経済・中小企業相が冒頭のあいさつの中で、政府が税制改革や行政改革を進めていること、日本への輸出が増加していることなどを強調した。


セミナーの様子(ジェトロ撮影)

また、投資競争庁は、法人税および個人所得税率の引き下げなど税制改革の内容や国内各地に50の工業団地が整備されていることなどを説明した。

クロアチア進出外国企業が組織する外国人投資家協会は、独立時の紛争のためクロアチアが外国企業誘致を行うようになったのは2000年代以降だが、輸出の約4割を外資系企業が担っていること、政府が企業の規模に関係なく積極的に投資しやすい環境を整備していることなどを紹介。その一方で、企業誘致における政治家の関与が縮小されるべきで、行政は法律の適用の適正化や各種手続きの簡素化を進めるべきとの指摘もあった。

さらに、多くの自治体から域内産業事情について説明があった。

強みに加えて、引き続き推進される各種の改革

初日の夕方には、在クロアチア日本大使館主催の勉強会が開催された。クロアチア経済は、独立時の紛争の影響があり製造業が衰退するなどしたものの2015年以降プラス成長に転じ、EU加盟による貿易投資の中長期的な活性化が期待されていること、観光産業は比較的順調に伸びていること、治安や対日感情が良く、英語が通じて教育水準が高いことなどが紹介された。また、EU基金を活用したインフラ整備が進み、高速道路は国内の整備に加えてウィーン、ブダペスト、ベオグラードなど周辺国の首都まで開通、海運ではアドリア海のリエカ港を中・東欧地域へのゲートウェーとするための再開発が進展、鉄道については単線で老朽化しているため近代化を進めているとした。

他方、政府は税制や行政手続き、司法制度の改革に取り組むも、依然として課題が多いとの指摘もあった。経済に占める公営部門の比率が高く、非効率な国営企業が残っていること、権利関係が整理されていない不動産が多く、購入した外国投資家が所有権をめぐる問題に巻き込まれる例なども紹介された。

技術水準が高い多様な企業を訪問

ミッションの一行は、自動車部品開発を行っている矢崎ヨーロッパのザグレブ支店のほか、高い技術力を持つ、以下の地場企業を訪問、視察した。

  • コンチャルD&ST:電気用トランスなどを製造し、欧州やアジア各国など90カ国に輸出。原材料購入および製品販売で日本企業とも取引あり。
  • ADプラスチック:射出成型プラスチックの自動車部品メーカーで、クロアチアのほか、中・東欧の複数国やロシアで製造、日系を含む欧州・ロシアの自動車企業に輸出。
  • リマツ自動車:電気自動車エンジニアリング企業で、スウェーデンをはじめとするスーパースポーツカー企業に技術を提供。中国企業が出資するほか、2018年6月20日にドイツのポルシェがリマツの株式10%の取得を発表。
  • Qエージェンシー:急成長するウェブアプリの開発企業で、欧州や米国の多数の大企業を顧客に持つ。
  • ゲノス:医学系ベンチャー企業で、紛争時における行方不明者の特定のための遺伝子研究などの成果を活用した糖鎖解析やオーダーメード治療薬を開発。

リマツのスーパースポーツカ-(ジェトロ撮影)

ミッション参加者からは、日系企業の成功事例をみるとともに、あまり知られていないクロアチアの技術系企業やベンチャー企業の水準の高さが確認できたこと、クロアチアの多様な地方情勢について知ることができたことなどが高く評価された。

執筆者紹介
ジェトロ・ウィーン事務所長
阿部 聡(あべ さとし)
1986年通商産業省(現経済産業省)入省。2016年7月より現職。