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急成長を遂げる中国・湖北省の新エネ車産業

2018年2月14日

中国の中部に位置する湖北省は、2016年の自動車生産台数が240万台を超える自動車産業の一大拠点だ。そして近年、電気自動車(以下、EV)を中心とする新エネルギー車(以下、新エネ車)が、同省の自動車産業に変化をもたらしている。特に2016年以降、自動車関連企業が相次いで新エネ車の開発・生産拠点を同省内に建設している。また、同省および省都武漢市でも相次いで新エネ車の普及を推進する政策を発表している。今後、同省に進出する日系自動車部品メーカーは、こうした自動車産業の変化を踏まえた対応を迫られることになりそうだ。

好調が続く湖北省の自動車産業

湖北省では、武漢市、襄陽市、十堰市の3都市に自動車生産工場および関連部品企業が集積している。省都である武漢市には地場系自動車メーカーの東風汽車をはじめ、その合弁会社である東風ホンダ(合弁先:ホンダ)、神龍汽車(合弁先:プジョー・シトロエン)、東風ルノー(合弁先:ルノー)、その他にも上海汽車の合弁会社である上海GM(合弁先:ゼネラル・モーターズ)などの大手自動車メーカーが進出している。また同省北部の襄陽市には東風日産(合弁先:日産)、十堰市には東風汽車のバスやトラックなどの商用車の生産工場がある。

近年中国全土でスポーツタイプ多目的車(SUV)が人気となり、東風ホンダのSUVモデルの生産拠点である武漢市を中心に、湖北省における自動車の生産台数は増加している。2012年に150万台程度だった省内の自動車生産台数は、2016年に前年比24.5%増の243万7,000台となり過去最高となった(図1)。同年の自動車生産額は6,760億700万元(約11兆4,921億1,900万円、1元=約17円)となり、同省工業生産額の15%を占めた。

図1:湖北省における自動車生産台数(2010~2016年)
2010年172万3,000台、2011年174万3,000台、2012年154万8,000台、2013年158万7,000台、2014年174万5,000台、2015年196万8,000台、2016年243万7,000台。

出所:湖北省統計年鑑

新エネ車関連での投資も拡大

湖北省経済・情報化委員会が発表した「2015年湖北自動車産業発展状況」によると、湖北省における2015年の新エネ車生産台数は1万4,000台で、前年比9.1倍の大幅な増加となった。2016年は2万4,000台で、前年比66.6%増だった。2017年1~8月期は1万9,700台で、前年同期比96.5%増と、高成長が続いている(図2)。

図2:湖北省における新エネ車生産台数
(2015~2017年(1~8月))
2015年1万4,000台、2016年2万4,000台、2017年1~8月期1.万9,700台。

出所:湖北省経済・情報化委員会

こうした急成長の背景にあるのが、新エネ車関連での湖北省への投資拡大だ。2015年以降に中国新エネ車メーカー大手の比亜迪や江淮、南京金龍などが武漢市に新エネ車の新たな工場を建設した。新エネ車用の動力電池を製造する中科泰能や駱駝集団も湖北省への進出を決定した。湖北省政府の発表によると、2017年時点で同省内には14社の中国新エネ車メーカーが進出している。また日系企業においては、東風ホンダの新エネ車の生産にも対応した第3工場が2019年から稼働予定のほか、日産・ルノー連合は東風汽車とEVの開発および生産を行う合弁会社を十堰市に設立し、2019年から生産を開始する予定だ。

政策面からも新エネ車の普及を後押し

湖北省政府ならびに武漢市政府は、政策面からも新エネ車産業の拡大を後押しする。湖北省政府は、2017年1月11日に「2020年までに湖北省内における新エネ車の年間生産台数50万台、売上高1,500億元を達成し、全国の新エネ車生産・販売に占める湖北省の割合を10%にする」という産業発展目標を設定した。この目標達成に向けて、今後新エネ車および関連部品の研究開発・生産拠点を武漢市や襄陽市に整備していく計画だ。

武漢市政府も2017年8月以降に「政府部門で購入する自動車の40%以上を新エネ車にする」「2020年までに市内での自動車生産額に占める新エネ車の割合を5%以上にする」「市内で使用される新エネ車の数を1万8,000台にし、充電スタンドを市内に1万5,000カ所設置する」といった目標を設定した。

また、2017年9月に、武漢市政府は新エネ車の需要喚起を目的に購入補助金に関する政策も発表した。新エネ車の購入時に、国からの購入補助金の50%相当額が武漢市から追加で支給される。例えば、全長2.2mのEVを購入した場合は、国から最大で4万4,000元、武漢市から2万2,000元の計6万6,000元が支給される。また、全長が2.2mを下回るEVの場合は、国からの補助金の20%相当額が武漢市から追加で支給される。

中国政府が2018年から自動車メーカーに一定数の新エネ車生産を義務付ける中、湖北省政府ならびに武漢市政府も新エネ車の普及に向けた独自の目標や各種政策を発表し、新エネ車の需要と供給を拡大させることで自動車産業全体のレベルアップを図ろうとしている。

EVビジネスでも日系企業の技術力は強み

2016年の湖北省における新エネ車生産台数である2万4,000台は、同省内の自動車生産台数に占める割合としてはわずか1%である。しかし、新エネ車へのシフトは湖北省で確実に起きており、日系企業は今後こうした変化を踏まえたビジネス展開をすることが求められる。実際に湖北省に進出している日系企業が今どのようなビジネスを展開しているのか、EV向けバッテリー用グラファイトシート(冷却用シート)(写真)を製造・販売している加藤精密電子の松本孝総経理に話を聞いた(2017年11月20日)。


写真:加藤精密電子で製造・販売しているグラファイトシート(加藤精密電子提供)
質問:
新エネ車へのシフトによって貴社のビジネスはどのように変化したか。
回答:
当社は自動車用の粘着テープとフィルムを中心に取り扱っているが、新エネ車の拡大を踏まえ新たにEV用バッテリーのグラファイトシート(冷却シート)の製造・販売を始めた。EVのバッテリーは構造上、熱がこもりやすい。しかし、温度が上がり過ぎてしまうとバッテリーの容量が減り、走行可能距離が短くなってしまう。冷却作用を持つグラファイト素材をシートに用い、それをバッテリーに装着することで、EVの走行距離を伸ばすことが可能となる。
今後は湖北省を中心に、自動車産業の拠点となっている重慶市や湖南省といった周辺地域にも販売を広げていきたい。まず従来のガソリン車関連で関係を作り、その会社(納入先)がEV生産を始める際に営業を行うことでEV関連商品の販売を行っていく計画だ。
質問:
中国におけるEVビジネスをどのようにみるか。
回答:
EV関連のビジネスは、「大変さ」よりも「楽さ」が目立つように思う。これまで自動車産業は長らく産業構造に大きな変化がなく、すでに組みあがったサプライチェーンへの新規参入は難しかった。しかしEVビジネスは、これまで自動車と関係のなかった企業であっても、EVに活用できる技術を持っていれば参入のチャンスがある。また、実際にEVビジネスに参入する中国の地場企業には、自動車を製造した経験のない企業も多い。このため、自動車の一般的な部品に対する需要があり、ガソリン車で使用されていた従来のパーツにも採用されやすいものがある。
質問:
EVビジネスにおける日系企業の強みとは。
回答:
日系企業の優れた技術力に強みがある。一方、中国企業には資金力があり、多くの資金と人材をEVの研究開発に投入している。技術やノウハウを持つ日系企業は中国企業と手を組むチャンスがあるように思う。
また、今のところ中国ではガソリン車の方がEV車よりも需要があるように思う。昨今中国ではテスラのEVが人気があるが、それはガソリン車よりも性能の良い高級車であるために売れていると分析する。中国のEVのニーズは、「安くてコンパクトな乗り物」というよりも「高級車」としての方が高いのではないか。高級車のEV市場が今後拡大していくとすれば、高品質な部品の需要が高まり日系企業のビジネスチャンスも拡大するだろう。

変化の兆しはビジネスチャンス

地場系自動車メーカーの東風汽車をはじめ、多くの外資系自動車メーカーが進出する湖北省は、中国有数の自動車生産拠点として発展を遂げてきた。それ故に、従来型のガソリン車の製造では既にサプライチェーンが構築されており、日ごろ取引のある企業以外への新規ビジネス開拓は困難であった。ジェトロ武漢による自動車関連日系企業へのヒアリングでも、今後の課題として「既存の取引先以外への販路拡大」を挙げる企業は多い。しかし、省・市政府による新エネ車の普及に向けた各種規制や優遇政策をはじめ、既進出自動車メーカーによるEV生産に向けた投資の拡大、そして新たな新エネ車関連メーカーの進出が進むなど、湖北省でも自動車産業の構造転換の兆しが見え始めている。高い品質と技術力を持つ日系企業は、非日系の自動車関連企業からも信頼を得ている。この変化の兆しをチャンスと捉え、競争力の高い新エネ車関連企業と積極的にビジネスでのつながりを創ることが求められるであろう。

執筆者紹介
ジェトロ・武漢事務所
片小田 廣大(かたおだ こうだい)
2014年、ジェトロ入構。進出企業支援・知的財産部進出企業支援課(2014~2015年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2015~2016年)を経て現職。

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