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政権交代後の政治・経済を専門家が展望(マレーシア)
ジェトロがクアラルンプールでセミナー開催

2018年12月4日

ジェトロは11月13日、政権交代後のマレーシアにおける政治・経済の展望を解説するセミナーを、クアラルンプールで開催した。登壇したジェトロ・アジア経済研究所の研究員によると、政治では新政権のガバナンス改善の取り組みに期待できるが、マハティール首相の後継の選出方法などにリスクがある。経済では、数年内に高所得国入りの目標を達成できそうだが、米中貿易摩擦の激化などがリスク要因になりそうだ。


講演に耳を傾けるセミナー参加者(ジェトロ撮影)

与党の分裂と投票行動の変化が政権交代の主因

政権交代の背景と展望について、ジェトロ・アジア経済研究所の中村正志地域研究センター・東南アジアⅠ研究グループ長が解説した。

5月9日に実施された第14回総選挙における野党連合の希望連盟(PH)の勝利について、与党連合・国民戦線(BN)の筆頭政党だった統一マレー人国民組織(UMNO)からマハティール・モハマド元首相、ムヒディン・ヤシン元副首相、サバ伝統党のシャフィ・アプダル党首らが離脱し、新政党を結成するといった「UMNOの分裂」が影響したと分析。こうした離脱の背景には、2014年以降発覚したナジブ前政権下における政府系投資会社ワン・マレーシア・デベロップメント(1MDB)の巨額負債、資金流用疑惑がある、とした。

中村グループ長は、全ての民族において投票行動が変化したことも要因の1つと指摘。過去の傾向では、マレー系住民の比率が高い選挙区ほどBNの得票率が高くなっており、今回も同様の傾向はみられたが、マレー系の比率にかかわらず全体的にBNの得票率が下がっており、「全ての民族がBNを敬遠した」と話した。

2018年11月現在、与党は222議席中125議席となり、選挙直後(113議席)より安定しているが、「閣僚も、政党間と民族間のバランスに配慮した構成になっている」と分析。新政権が政治資金規正法の導入、司法改革といった「ガバナンス改善に積極的に取り組む姿勢には期待できる」と評価した。

他方、マハティール首相の後継者について、選挙公約において次期首相にはアンワール・イブラヒム氏が指名されているが、PHにおける首相の選出方法が明確に決まっていない点は「潜在的な政治リスクになり得る」と指摘した。

経済見通しはおおむね好調、外的要因による影響には懸念も

続いて、政権交代後のマレーシア経済の見通しについて、ジェトロ・アジア経済研究所の熊谷聡開発研究センター・経済地理グループ長が解説した。

政権交代後にPHが発表した100日間で取り組む10の公約の進捗(しんちょく)状況について、「連邦土地開発庁(FELDA)入植者の債務免除を除き、おおむね着手が進んでいる」とした。

第11次マレーシア計画(10月18日発表)については、当初計画から大きな変更点はなく、経済成長率や財政赤字の対GDP比目標をやや下方修正し、「無理のない経済運営を目指している」と評価。2020年に達成を目指していた世界銀行基準での高所得国入り(注)が2024年に延期されたことに関しては、世界銀行基準がドル建てであるため為替レートに左右されることに触れ、「現在のレート(1ドル=約4.2リンギ、2018年11月時点)で試算すれば2023年、遅くとも2025年までに達成できる」との見通しを示した。

2019年予算案(11月2日発表)については、不動産売却益への課税強化やサービスの輸入に課税するなど「歳入増の取り組みがみられる」とした。予算全体をみると、国営石油会社ペトロナスからの特別配当に頼るなど財政安定化が喫緊の課題ではあるものの、歳出は3,140億リンギ(約8兆4,780億円、1リンギ=約27円)と、政権交代前(2017年)の2,610億リンギから20.3%拡大している。これにはGSTや所得税還付など一時的な要因も影響しているが、急激な緊縮財政による経済成⻑の鈍化を懸念したのではないか、と指摘した。「国民の期待と財政再建の二律背反に対し、(歳出は拡大したものの)補助金や給付金制度の改正や大型インフラ案件の見直しなど、随所に節約の工夫の跡が見え、ばらまきという印象は薄い」とした。

今後のマレーシア経済の見通しでは、「数年内に高所得国入りすることは確実であり、財政再建も経済成長の余地や人口動態の観点から十分に可能」とする一方、「米中貿易摩擦の激化により世界経済が低迷した場合の影響などには注意が必要」と述べた。


注:
世界銀行は、1人当たりの国民総所得(GNI)が1万2236米ドルに到達した国を「高所得国」と認定している。
執筆者紹介
ジェトロ・クアラルンプール事務所
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)(2010~2014年)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)(2014~2015年)、海外調査部アジア大洋州課(2015~2017年)を経て、2017年9月より現職。

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