リラ急落はトルコ経済を縮小させる方向に作用
内需型中心に6割の産業が収益減
2018年9月4日
8月にトルコ・リラが急落した。通貨の下落がトルコ経済および産業にどのような影響を与えるかを分析したところ、国内市場(内需型)産業は影響が大きく、輸出志向(外需型)産業は軽微とみられる。全体として、通貨下落はトルコ経済を縮小(成長を鈍化)させる方向に働きそうだ。
継続するリラ安傾向
トルコ・リラが対ドルで大きく下落している。リラは2011年頃から下落傾向にあったが、米国が金融緩和からの出口戦略として政策金利を引き上げ始めた2015年あたりから下落傾向が強まっていた(図参照)。2018年5月、米国の金利が2%に上昇して以降、リラの下落に拍車が掛かり、同月は1日の1ドル=4.05983リラから26日には4.5757リラと、約1カ月足らずで9.6%下落した。この背景には、金融緩和を唱えるエルドアン大統領の政策が、引き締め策を取る中央銀行と対立し、中央銀行の独立性が損なわれていると市場が判断したことが挙げられる。その後、リラは小康状態を保っていたが、7月下旬以降下落傾向を強め、8月10日、米国がトルコからの鉄鋼・アルミニウム製品の輸入関税率を鉄鋼は50%、アルミは20%にそれぞれ2倍に引き上げると発表したことを受け、リラは1日で20.8%の大幅に下落した。13日には一時1ドル=7リラを超えたが、15日にカタールが150億ドルの金融支援を表明したこともあり、同月末時点では6.4リラ近辺で推移している。
米国の金利引き上げが続く見通しであること、レパトリ減税(資金還流)政策が継続していることから、トルコがリラ防衛のために金利を引き上げるなどの対抗措置を講じない限り、トルコリラは今後共弱含みで推移する可能性が高い。

- 注:
- レートは各日午前10時時点の値
- 出所:
- トルコ中央銀行
通貨安がもたらすトルコ産業への影響
通貨安はトルコの産業にどのような影響を与えるのだろうか?ここでは、トルコの生産構造を産業別に捉えることができる最新の産業連関表(2012年)を利用して分析する。
産業連関表は、産業ごとの生産構造、販路構成を表しており、各産業が1つの財を生産すると仮定して作成されている。よって、各産業の平均的な姿を表したものと考えられ、個別企業の活動状況を示すものではない。自動車産業を例にとれば、自動車を国内生産する一方、EUと完成車を相互に供給し合い産業内分業を展開する企業があれば、EUから中間財製品を輸入し、産業間分業を行いながら組み立て加工により自動車を生産・輸出する企業もあり、同一産業でも企業により状況は異なる。
一般的にトルコ経済は輸入依存度が高いといわれる。例えば、エネルギー自給率は石炭が35%程度で、原油は10%以下、天然ガスはほぼ0%(2016年、IEA)と低く、国内に資源がない財は輸入に依存せざる得ない。このため、通貨の下落は輸入製品・原材料の価格上昇を通じて輸入インフレの要因となり、国内消費を抑制するなど概して経済成長を抑制する方向に働く。ちなみに、為替レートが通年で20%切り下がると、国内需要デフレーターを4%程度上昇させる効果がある。
輸入依存度が高い企業にとって、通貨安は生産コストの上昇、利益率の低下、価格上昇による売上高の減少をもたらす要因となり、企業収益は低下すると見込まれる。
一方、輸出企業にとっては、通貨安は製造原価を押し上げる一方で、輸出の価格競争力を高め、輸出を伸ばす要因にもなる。また、輸出の比率が高ければ、輸入コストの上昇を相殺し、収益を上昇させることにもなり得る。
ここでは、トルコの産業を輸出で外貨を稼ぎ、通貨の下落による悪影響を補完できるか否かという視点から、輸出志向(外需型)産業と国内市場(内需型)産業に分けて考える。
表1は、2012年のトルコ産業連関表に基づき、ネット輸出比率の高い産業を比率の高い順にみたものだ。これらの産業は輸出志向(外需型)産業と見なせる。
産業名 | 輸入財中間投入比率 | 中間投入比率(国産財+輸入財) | 付加価値比率 | 営業余剰比率 | 輸出比率 | 投入産出計 | ネット輸出比率 | 産出額シェア | ネット輸出比率×産出額シェア | 付加価値比率×産出額シェア |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
輸送用機械器具製造業(自動車、トレーラーを除く) | 17.6 | 55.5 | 44.5 | 21.1 | 53.4 | 100.0 | 35.8 | 0.2 | 0.1 | 0.1 |
海上輸送サービス業 | 8.4 | 49.8 | 50.2 | 36.6 | 37.9 | 100.0 | 29.5 | 0.6 | 0.2 | 0.3 |
繊維工業 | 12.2 | 65.4 | 34.6 | 20.0 | 35.7 | 100.0 | 23.5 | 5.1 | 1.2 | 1.8 |
機械機器製造業 | 21.0 | 64.9 | 35.1 | 17.4 | 43.5 | 100.0 | 22.5 | 1.2 | 0.3 | 0.4 |
自動車、トレーラー製造業 | 29.5 | 76.8 | 23.2 | 9.4 | 51.4 | 100.0 | 21.9 | 1.9 | 0.4 | 0.4 |
コンピュータ、電子、光学機器製造業 | 26.4 | 60.5 | 39.5 | 23.4 | 47.4 | 100.0 | 21.0 | 0.4 | 0.1 | 0.2 |
電気機械製造業 | 24.3 | 76.3 | 23.7 | 8.3 | 45.0 | 100.0 | 20.6 | 1.3 | 0.3 | 0.3 |
鉄鋼・非鉄金属製造業 | 31.4 | 79.4 | 20.6 | 10.9 | 48.1 | 100.0 | 16.7 | 3.3 | 0.5 | 0.7 |
倉庫・運輸附帯サービス業 | 4.5 | 41.6 | 58.4 | 34.6 | 15.2 | 100.0 | 10.7 | 0.9 | 0.1 | 0.5 |
金属製品製造業 | 14.3 | 59.5 | 40.5 | 24.1 | 24.1 | 100.0 | 9.8 | 1.7 | 0.2 | 0.7 |
鉱業、採石業、砂利採取業 | 7.0 | 38.2 | 61.8 | 41.5 | 16.1 | 100.0 | 9.0 | 1.1 | 0.1 | 0.7 |
漁業 | 3.0 | 23.5 | 76.5 | 68.6 | 8.9 | 100.0 | 5.9 | 0.1 | 0.0 | 0.1 |
家具・装備品製造業 | 13.0 | 61.8 | 38.2 | 25.3 | 18.5 | 100.0 | 5.5 | 1.4 | 0.1 | 0.5 |
窯業・土石製品製造業 | 9.9 | 61.1 | 38.9 | 23.4 | 13.4 | 100.0 | 3.5 | 1.7 | 0.1 | 0.7 |
機械機器整備(自動車を除く)、販売業 | 3.3 | 39.7 | 60.3 | 36.8 | 6.7 | 100.0 | 3.4 | 4.1 | 0.1 | 2.5 |
航空輸送サービス業 | 15.6 | 59.9 | 40.1 | 11.3 | 18.9 | 100.0 | 3.3 | 0.8 | 0.0 | 0.3 |
陸上輸送、パイプライン輸送サービス業 | 7.1 | 45.0 | 55.0 | 43.2 | 9.7 | 100.0 | 2.5 | 6.7 | 0.2 | 3.7 |
金融・保険補助サービス業 | 1.6 | 29.7 | 70.3 | 32.1 | 3.9 | 100.0 | 2.4 | 0.3 | 0.0 | 0.2 |
金融サービス業 | 1.4 | 30.1 | 69.9 | 39.7 | 2.8 | 100.0 | 1.4 | 1.9 | 0.0 | 1.3 |
保険サービス業 | 10.9 | 69.9 | 30.1 | 14.1 | 11.8 | 100.0 | 0.9 | 0.4 | 0.0 | 0.1 |
農業 | 5.1 | 35.4 | 64.6 | 63.5 | 5.3 | 100.0 | 0.2 | 5.8 | 0.0 | 3.7 |
輸出志向型産業計 | 4.8 | 53.0 | 47.0 | 32.6 | 21.4 | 100.0 | 9.6 | 40.7 | 3.9 | 19.1 |
トルコ全産業計 | 10.6 | 50.4 | 49.6 | 31.9 | 10.9 | 100.0 | 0.3 | 100.0 | 0.3 | 49.6 |
- 注:
-
1.トルコ産業連関表(2012年)を非競争輸入型に転換し、産業ごとの投入産出額に対する各比率を求めた。
2.原統計は間接税ー補助金を中間投入に含めているが、ここでは付加価値部門として取り扱った。 このため、付加価値比率は原統計と異なる。
3.輸入財中間投入比率:産出額(生産額)に対して、当該産業が輸入財を何%使用したかを表したもの。
4.中間投入比率:生産するのに対し何%が原材料コストだったかを示す。
5.付加価値比率:当該産業が生産額のうち何%の付加価値(GDP)を創造したかという指標で、(100-中間投入比率)の関係がある。
6.営業余剰比率:生産額の何%が企業収益だったかを表す。
7.輸出比率:生産額の何%を輸出したかを表す。
8.ネット輸出比率:輸出比率-輸入比率、プラスなら輸出超過、マイナスなら輸入超過を意味する。
9.産出額シェアは、各産業のウエートを表す。 - 出所:
- トルコ統計機構 産業連関表(2012年)
通貨下落にもかかわらず収益を確保できる産業としては、表1のネット輸出比率の高い「輸送用機械器具製造業(自動車、トレーラーを除く)」、「海上輸送サービス業」、「繊維工業」、「機械機器製造業」、「自動車、トレーラー製造業」、「コンピュータ、電子、光学機器製造業」、「電気機械製造業」などが挙げられる。
そして、産業の規模を加味すると、「繊維工業」、「鉄鋼・非鉄金属製造業」、「自動車、トレーラー製造業」、「機械機器製造業」、「電気機械製造業」、「海上輸送サービス業」、「陸上輸送、パイプライン輸送サービス業」、「金属製品製造業」などが輸出収入で輸入コスト増を吸収し収益を確保する可能性が高い。
表2は、同じく2012年のトルコ産業連関表に基づき、ネット輸出比率の低い産業をみたものだ。 これらの産業は、国内市場(内需型)産業と見なせ、通貨の下落は交易条件を悪化させ影響を直接受ける。
産業名 | 輸入財中間投入比率 | 中間投入比率(国産財+輸入財) | 付加価値比率 | 営業余剰比率 | 輸出比率 | 投入産出計 | ネット輸出比率 | 産出額シェア | ネット輸出比率×産出額シェア | 付加価値比率×産出額シェア |
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石油製品・石炭製品製造業 | 68.2 | 81.4 | 18.6 | 5.3 | 28.0 | 100.0 | △ 40.2 | 1.5 | △ 0.6 | 0.3 |
電力・ガス・熱供給業 | 22.6 | 78.5 | 21.5 | 14.1 | 0.3 | 100.0 | △ 22.3 | 4.1 | △ 0.9 | 0.9 |
印刷・同関連、記録サービス業 | 17.1 | 60.5 | 39.5 | 22.5 | 0.1 | 100.0 | △ 17.0 | 0.3 | △ 0.1 | 0.1 |
機械機器修理・設置業 | 12.6 | 46.4 | 53.6 | 40.4 | 0.7 | 100.0 | △ 12.0 | 0.5 | △ 0.1 | 0.3 |
パルプ・紙・紙加工品製造業 | 26.9 | 67.2 | 32.8 | 20.4 | 15.1 | 100.0 | △ 11.8 | 0.6 | △ 0.1 | 0.2 |
汚水処理、廃棄物処理業 | 14.0 | 49.1 | 50.9 | 37.1 | 3.1 | 100.0 | △ 10.8 | 0.7 | △ 0.1 | 0.4 |
修理サービス業 | 10.4 | 43.1 | 56.9 | 43.4 | 0.0 | 100.0 | △ 10.4 | 0.3 | △ 0.0 | 0.2 |
娯楽サービス業 | 9.2 | 58.6 | 41.4 | 19.5 | 0.6 | 100.0 | △ 8.6 | 0.3 | △ 0.0 | 0.1 |
その他の対個人サービス業 | 8.2 | 54.2 | 45.8 | 34.5 | 0.0 | 100.0 | △ 8.2 | 0.4 | △ 0.0 | 0.2 |
自動車整備、販売業 | 8.0 | 42.2 | 57.8 | 38.4 | 0.0 | 100.0 | △ 8.0 | 1.1 | △ 0.1 | 0.6 |
その他の対事業所サービス業 | 7.4 | 51.0 | 49.0 | 41.8 | 0.1 | 100.0 | △ 7.2 | 0.2 | △ 0.0 | 0.1 |
化学工業 | 32.4 | 67.4 | 32.6 | 21.6 | 25.9 | 100.0 | △ 6.5 | 1.5 | △ 0.1 | 0.5 |
建設業 | 6.6 | 60.6 | 39.4 | 27.4 | 0.8 | 100.0 | △ 5.8 | 10.1 | △ 0.6 | 4.0 |
保健衛生サービス業 | 5.6 | 41.6 | 58.4 | 13.3 | 0.2 | 100.0 | △ 5.4 | 2.3 | △ 0.1 | 1.3 |
広告・市場調査サービス業 | 5.1 | 69.9 | 30.1 | 14.8 | 0.4 | 100.0 | △ 4.6 | 0.5 | △ 0.0 | 0.2 |
木材・木製品製造業(家具を除く) | 13.8 | 63.7 | 36.3 | 24.0 | 9.8 | 100.0 | △ 4.0 | 0.4 | △ 0.0 | 0.1 |
スポーツ・娯楽サービス業 | 4.0 | 55.8 | 44.2 | 16.5 | 0.1 | 100.0 | △ 3.9 | 0.3 | △ 0.0 | 0.1 |
介護サービス業 | 3.6 | 35.8 | 64.2 | 42.4 | 0.0 | 100.0 | △ 3.6 | 0.1 | △ 0.0 | 0.1 |
公務 | 3.6 | 34.7 | 65.3 | 1.8 | 0.0 | 100.0 | △ 3.6 | 3.1 | △ 0.1 | 2.0 |
ゴム製品製造業 | 28.6 | 70.1 | 29.9 | 14.6 | 25.4 | 100.0 | △ 3.3 | 1.5 | △ 0.0 | 0.4 |
警備サービス業 | 3.6 | 23.7 | 76.3 | 29.6 | 0.3 | 100.0 | △ 3.3 | 1.2 | △ 0.0 | 0.9 |
会員組織が提供するサービス業 | 3.1 | 41.9 | 58.1 | 5.2 | 0.0 | 100.0 | △ 3.1 | 0.3 | △ 0.0 | 0.2 |
不動産業 | 3.0 | 17.9 | 82.1 | 79.1 | 0.0 | 100.0 | △ 3.0 | 5.8 | △ 0.2 | 4.8 |
医薬品製造業 | 21.5 | 60.3 | 39.7 | 15.4 | 18.5 | 100.0 | △ 3.0 | 0.3 | △ 0.0 | 0.1 |
自働車以外の販売業 | 2.8 | 35.2 | 64.8 | 44.8 | 0.0 | 100.0 | △ 2.8 | 4.6 | △ 0.1 | 3.0 |
宿泊・飲食業 | 4.7 | 47.0 | 53.0 | 29.0 | 1.9 | 100.0 | △ 2.7 | 2.9 | △ 0.1 | 1.5 |
設計、エンジニアリング、技術試験サービス業 | 3.1 | 39.7 | 60.3 | 35.6 | 0.5 | 100.0 | △ 2.6 | 0.5 | △ 0.0 | 0.3 |
物品賃貸サービス業 | 3.0 | 22.1 | 77.9 | 68.7 | 0.5 | 100.0 | △ 2.5 | 0.4 | △ 0.0 | 0.3 |
天然水、水供給業 | 2.5 | 33.0 | 67.0 | 49.3 | 0.0 | 100.0 | △ 2.5 | 0.4 | △ 0.0 | 0.3 |
出版サービス業 | 5.0 | 45.6 | 54.4 | 35.0 | 2.5 | 100.0 | △ 2.4 | 0.3 | △ 0.0 | 0.1 |
科学調査・研究サービス業 | 2.2 | 15.1 | 84.9 | 50.6 | 0.0 | 100.0 | △ 2.2 | 0.4 | △ 0.0 | 0.3 |
郵便・宅配サービス業 | 4.0 | 45.6 | 54.4 | 20.9 | 1.9 | 100.0 | △ 2.1 | 0.3 | △ 0.0 | 0.1 |
通信サービス業 | 2.0 | 39.9 | 60.1 | 44.1 | 0.3 | 100.0 | △ 1.7 | 1.1 | △ 0.0 | 0.7 |
法務・会計サービス業 | 1.8 | 23.9 | 76.1 | 53.6 | 0.1 | 100.0 | △ 1.7 | 0.8 | △ 0.0 | 0.6 |
情報サービス業 | 1.6 | 18.7 | 81.3 | 59.3 | 0.2 | 100.0 | △ 1.4 | 0.6 | △ 0.0 | 0.5 |
文化・遊興・娯楽サービス業 | 1.2 | 29.8 | 70.2 | 58.5 | 0.0 | 100.0 | △ 1.2 | 0.5 | △ 0.0 | 0.3 |
林業 | 1.5 | 14.9 | 85.1 | 72.7 | 0.3 | 100.0 | △ 1.1 | 0.1 | △ 0.0 | 0.1 |
教育サービス業 | 1.0 | 15.5 | 84.5 | 19.9 | 0.0 | 100.0 | △ 1.0 | 2.4 | △ 0.0 | 2.1 |
人材派遣サービス業 | 0.9 | 19.4 | 80.6 | 39.9 | 0.3 | 100.0 | △ 0.6 | 0.1 | △ 0.0 | 0.1 |
旅行代理店、手配サービス業 | 8.0 | 67.1 | 32.9 | 26.0 | 7.8 | 100.0 | △ 0.2 | 0.6 | △ 0.0 | 0.2 |
食料品、飲料・たばこ・飼料製造業 | 10.5 | 70.0 | 30.0 | 21.4 | 10.3 | 100.0 | △ 0.2 | 5.9 | △ 0.0 | 1.8 |
自家消費家計サービス | 0.0 | 0.0 | 100.0 | 0.0 | 0.0 | 100.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 | 0.0 |
国内市場型産業計 | 9.8 | 48.7 | 51.3 | 31.3 | 3.7 | 100.0 | △ 6.0 | 59.3 | △ 3.6 | 30.5 |
- 注:
- 表1と同じ。
- 出所:
- 表1と同じ。
通貨切り下げにより収益を圧迫される企業としては、表2のネット輸出比率でマイナスの数値の大きい「石油製品・石炭製品製造業」、「電力・ガス・熱供給業」、「印刷・同関連、記録サービス業」、「機械機器修理・設置業」、「パルプ・紙・紙加工品製造業」など、いずれも輸入原材料に依存する比率が高い産業だ。「石油製品・石炭製品製造業」「パルプ・紙・紙加工品製造業」はそれぞれ生産額の28%、15.1%相当を輸出しているが、輸入原材料コストが輸出額を上回っているため、収益を圧迫する構造にある。産業の規模を加味すると、「電力・ガス・熱供給業」「石油製品・石炭製品製造業」「建設業」などが、通貨下落の影響が大きい産業と言える。 なお、輸入原材料に依存する割合の高い「化学工業(輸入原材料投入比率32.4%)」、「ゴム製品製造業(28.6%)」、「医薬品製造業(21.5%)」は、比較的輸出比率も高いため、影響は見かけ程大きくはなさそうである。
ちなみに、表1の付加価値比率でみると、トルコ経済全体の産出額の49.6%がGDP(付加価値額)となるが、そのうち通貨安にもかかわらず収益を確保できるとみられる産業のGDPは19.1%(産出額の40.7%)、収益を縮小するとみられる産業は30.5%(59.3%)となり、通貨下落はトルコ経済(GDP)を縮小させる方向に作用すると考えらえる。

- 執筆者紹介
- ジェトロ海外調査部 主査
- 小野 充人(おの みつひと)
- 1981年、ジェトロ入構。主として国内では調査部勤務。海外はジェトロ・ドバイ事務所駐在(1991~1994年)。現在、海外調査部主査、主としてトルコ、イスラエル、湾岸諸国を担当。国際貿易投資研究所客員研究員、立命館大学客員教授。