アフリカ医療市場開拓、登録制度と市場ニーズへの理解が必要

2018年12月18日

ジェトロは、成長が期待されるアフリカの医療機器分野に着目。サブサハラ・アフリカにおける医療機器市場の2016~2021年の年平均成長率は推定10.9%(フィッチ・ソリューションズ)との予測もあるほどだ。アフリカ7カ国から医療機器バイヤー14社[南アフリカ共和国(以下、南ア)1社、エチオピア3社、ナイジェリア3社、コートジボワール2社、エジプト1社、モロッコ2社、アルジェリア2社]を日本に招聘(しょうへい)。日本の医療関連企業との「医療機器市場開拓個別商談会」(10月3~5日)、バイヤーなどによる「医療機器市場開拓セミナー」(10月3日)を開催した。各国の市場の特徴、登録制度、バイヤーの商品選定ポイントなどを報告する。


アフリカから招聘したバイヤーたち(ジェトロ撮影)

南ア市場参入には認証マーク登録と流通網の確立がポイント

南アの医療サービスは公共・民間の2部門から構成され、人口の約8割が公共医療を、約2割が民間医療を利用している。近年では医療機器の高度化に伴い、私立病院による質の高い医療サービスのニーズも増えている。南アの医療機器市場は2013年には12億ドル規模と推定され、アフリカでは最大規模。現在は米国企業、ドイツ系企業の存在感が高い。

来日した同国の私立病院グループ、メロメッド・ホスピタルの調達責任者リダワン・ジョハディアン氏は「EUの安全基準を満たすCEマーク、または米国食品医薬品局(FDA)認証が機器登録時に必要で、許可手続きを行う輸入代理店とのネットワークがカギになる。また、品質以上に価格競争力がある製品の需要が大きい」と述べた。(各種規制や手続きは調査レポート「南アフリカの医療機器産業の展望(2015年)」PDFファイル(1.4MB) 参照。)

同グループは国内で6つの私立病院を経営。約30の国内の輸入代理店と取り引きがある。ジョハディアン氏は「日本に来て特にエアマット、車いす、補聴器、耳鼻咽喉専門機器などに高い関心を持った。速やかに輸入代理店を日本企業に紹介し、具体的な納入に向けてやりとりを進めたい」と語った。

コートジボワールでは高性能機器に商機あり

コートジボワールは医療機器を全て輸入に依存している。2017年の医療機器輸入額は約250億CFA(約50億円、1CFA=約0.2円)。市場規模はまだ小さいが、人口増加や所得水準の上昇によって拡大傾向にある。日本製品は健闘しており、輸入額ではモロッコ、フランス、中国、ドイツ、オランダに次ぐ第6位の輸入元になっている。

今回イベントの参加企業の一つ、ポリー・メッドのワール・カリル社長は西アフリカ市場について「衛生用品、ベッド、車いすといった製品は、安価な中国製が多い。高品質の日本製は価格競争で負けてしまう。超音波検査装置や磁気共鳴画像(MRI)機器などの高性能機器にこそ商機があるのではないか」と述べた。

市場参入にあたっては、EUのCEマーク取得が望ましい。旧宗主国フランスの影響が強いコートジボワールでは、保健・エイズ対策省(以下、当局)の認可を得る際にCEマークを提示するのが一般的。法的には日本工業規格(JIS)やFDAでも認可を得られるが、国際規格である ISO13485も併せて取得する必要があるほか、当局が手続きに慣れていないため、余分な時間が掛かる場合もあるという。また、商品説明や使用上の注意、ラベル表記には公用語のフランス語を用いることが義務付けられており、言語面の注意も必要だ。

ナイジェリアとは成約に向けた議論が多数継続中、「日本企業はアフリカへの理解が必要」とも

ナイジェリア市場では、長年にわたって欧州企業が大部分を占めていたが、近年は米国企業がシェアを増やしている。一方、基礎機器は中古製品や安価な中国製が選ばれている。来日したイフェアン・ヘルスのエジケ・アニー最高経営責任者(CEO)は、人口1億8,000万人を擁する同国では「今後の人口増加も見込まれ、アフリカで最も有望」と語った。販売に当たっては、ほぼ全ての品目にナイジェリア標準化機構による認証SONCAPの取得が必要で、製品ごとに取得要件が細かく規定されている。日本ではSGSジャパン、コテクナ・インスペクション・ジャパンなどの検査機関を通して申請できる。

エジケCEOは「ナイジェリアの課題が解決できる製品が見つかった」と、来日の手応えを感じていた。しかし、最大の課題は高額な価格設定で、他国製品との明確な差別化が必要だと話した。さらに、「日本企業にもっとアフリカを知ってほしい。アフリカにも高度医療は存在し、あらゆる医療機器がそろっている。面談した多くの日本企業が、われわれが購入している機器の名前を聞いて驚いていたことが残念だった。」と話した。


イフェアン・ヘルスのエジケCEO(ジェトロ撮影)

エチオピア市場は成長段階、外貨不足の回避策が課題

エチオピアでは、医療消耗品は中国やインド企業との価格競争になることが多い。加えて、慢性的な外貨不足を市場のリスクとして考慮する必要がある。医薬品・医療機器は外貨割り当ての優先分野とされているが、それでも、信用状(L/C)開設に半年以上要する場合も少なくない。同国の代理店は医療機器を輸入する際、所管官庁で事前登録する必要があるが、通常は申請から6カ月~1年ほどかかる。製品の技術説明書類、自由販売証明書、最低5年の製造経験を証明する書類などが求められる。なお、所管官庁は2018年8月に食品・医薬品・保健行政監督庁(FMHACA)から食品医薬品局(FDA)に改組されている。また、米国食品医薬品局(FDA)、EU(CE)、カナダ、オーストラリア、日本(厚生労働省)ならびに世界保健機関(WHO、事前資格審査)から認証済みの製品であれば登録可能だ。

今回参加した企業インフィニティはドバイに自社調達拠点を持ち、小ロットの医療製品をコンテナ1基に収めて輸入できる。ドバイでの取り引き、小口納入が可能なため、同市場における理想的なパートナーともいえる。同社のハブタム・ケハリ営業マネジャーは「人口1億人を抱えるエチオピアにおいて、医療機器市場は成長段階にある」と成長性を強調。同社は医療機関や国際機関等への納入実績を持つとともに、社内では各取り引きフェーズ(販売、納入、アフターサービス)に対応するチームを組成するなど、販売後のフォローアップを充実させている。

モロッコからの招聘企業は日本企業のスピードアップを要求

モロッコには約170の病院があり、約2万5,000人の医師が従事している(2018年11月現在)。医療機器市場の約9割を輸入品が占め、2017年の輸入額は1億8,100万ドル。なお、リファービッシュ製品(整備済み品)の輸入は認められていない。

同国から招聘した医療機器輸入・販売代理店のベスト・ヘルス、トップ・メディカルの2社は日本の医療機器の先進性、技術力の高さをじかに確認することができ、日本企業との取引に高い意欲を示した。また、日本企業に対して2つの提言があった。1つは、日本企業は他国企業と比べ、意思決定までの時間がかかりすぎることに問題があるとした。2つ目は、モロッコでの医療機器の流通にはCEマークが必要なため、モロッコ市場の開拓を考えている日本企業にはあらかじめCEマークを取得することを推奨した。

アルジェリアは厳しい輸入規制があるものの、新たなビジネスの可能性

アルジェリアでは近年、国内産業の保護措置と貿易赤字の解消策として、輸入停止措置や30~200%の高率関税など、完成品を対象とした輸入規制が強化されつつある。さらに、市中に流通・販売可能な完成品を対象に、輸入品メーカーから入手した自由販売証明をL/Cの開設時に提出することが2018年から義務付けられた。

輸入規制をクリアするため、今回の招聘企業である大手のIMSは部品、または組み立て用キットの輸入と簡単な現地組み立て活動を指向。試薬やラボ用機器を中心に日本でビジネスパートナーを探していた。「日本企業からの積極的なソリューションの提案により、血圧計、血糖自己測定機器、医療廃棄物処理などの新たな分野にもぜひ挑戦してみたい。帰国して市場調査を早速開始したい」と同社のヤシン・ギシュー社長は語った。


IMSのヤシン・ギシュー社長(ジェトロ撮影)

拡大するエジプト市場は輸入手続きに課題あり

エジプト中央動員統計局によると、エジプトの2018年11月現在の人口は9,788万人で、増加傾向にある。保健省管轄の公立病院で治療を受けた患者数は2010年に122万人だったが、2017年には246万人に倍増している。保健省の市民向け治療関連支出総額は2010年に約20億エジプトポンド(約126億円、1エジプトポンド=約6.3円)だったが、2017年には約61億エジプトポンド(約384億円)と、約3倍になった。加えて、病院での医療機器の高度化が図られており、市場の拡大が予測される。

一方、CEマークの取得や英語とアラビア語書類が必要という言語の壁があり、煩雑な手続きが避けられない(参考「エジプトにおける医療機器の輸入規制:2015年」)。来日したケメット・メディカルのエッラシディ副社長は、市場は拡大傾向にあり、将来のビジネスに向け積極的に協力してもらえる日本企業と一緒に取り組みたいと述べた。

執筆者紹介
ジェトロ・ヨハネスブルク事務所
築舘 弘和(つきだて ひろかず)
2008年、ジェトロ入構。農林水産食品部(2008年~2010年)、ジェトロ鹿児島(2011年~2014年)、企画部企画課(2014年~2016年)を経て2016年8月より現職(ジェトロ・ヨハネスブルク事務所)。
執筆者紹介
ジェトロ・ラゴス事務所
オモロギエヴァ・オサリエメ
エド州出身。2017年より、ジェトロ・ラゴス事務所勤務。主にナイジェリアの経済・産業調査に従事している。