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イノベーション促進、海外進出での連携に期待(中国)
具体化に向かう広東・香港・マカオグレートベイエリア(粤港澳大湾区)計画(2)

2018年5月22日

広東・香港・マカオグレートベイエリア(粤港澳大湾区、以下ベイエリア)計画は広東省においても最重要政策の一つとして推進され、特に、香港とのイノベーション促進と中国企業の海外進出(走出去)支援に期待がかかる。同時に、在広東省の研究者からは、珠江デルタ内での役割分担、制度の確実な実施、香港との温度差などの課題も指摘されている。

広東省でも重要政策に

これまでにない地域発展計画となったベイエリア計画。広東省政府も近年の最重要政策の1つとしている。

2018年1月の広東省人民代表大会における馬興瑞広東省長の業務報告では、2018年の重点業務としてサプライサイド構造改革、創新駆動発展戦略(イノベーションに基づく発展戦略)に続き「グレートベイエリア建設の推進を契機とし、体制システム問題の解決に力を入れ、開放型経済新体制の構築を加速する」ことが挙げられた。主な内容は以下のとおり。

  1. 広東・香港・マカオグレートベイエリア発展計画綱要を策定する。
  2. 「一国二制度」、三つの関税エリアという条件の下で、体制システムのイノベーションを探る。
  3. 人、モノ、資金、情報の簡便で秩序ある流動を促進する。
  4. 「極点帯動、軸帯支撑(ピークが動かし、軸が支える)」というネットワーク空間枠組みを建設する。
  5. 香港、マカオと協力し、グローバルな影響力のある国際科学技術イノベーションセンター、金融ハブ、輸送センターを打ち立てる。
  6. インフラ施設の相互連結を加速し、広州・深セン・香港高速鉄道、香港・珠海・マカオ大橋を開通する。
  7. 蓮塘・香園囲口岸を開設する。
  8. 主要都市間の1時間以内の移動を実現し、居住、ビジネス、旅行に適した優れた生活圏を建設する。
  9. 「一地両検」(香港、中国のいずれかで出入境検査を併せて行う)「聯合査験、一次放行」(税関と検査・検疫機関の情報共有)などの通関モデル改革を行い、出入境クロスボーダー交通など大湾区建設関連サービス18項目を実施する。
  10. 広東・香港、広東・マカオの共同外資誘致システムを健全化する。
  11. 珠江デルタ各市の大湾区建設における積極的作用を十分に発揮し、相互に補いあい、協調した発展を促進する。
  12. 汎珠江デルタフォーラムおよび経済・貿易商談会、行政首長の列席する会議を開催する。

また、2018年3月5~20日に開催された第13期全国人民代表大会における広東省代表団の審議に習近平・国家主席が参加し、グレートベイエリア計画について、国際的に一流の湾区と世界レベルの都市群を建設するよう強調したと報じられている(中国新聞網2018年3月9日)。

広東省発展改革委員会は既に「広東・香港・マカオグレートベイエリア都市間鉄道建設計画(2020~2030年)」の策定に着手しており、今後ベイエリア内の「1時間都市軌道交通圏」の形成を目指すとされる。

グレートベイエリア計画の具体的な政策内容を示した「広東・香港・マカオグレートベイエリア発展計画要綱」は既に完成しており、公布に向けて国務院の批准を待っている状態にあると在北京の研究者はいう。

2018年4月4~8日に海南省で開催された「2018ボアオ・アジアフォーラム」でも、広東・香港・マカオグレートベイエリア分科会が設けられ、馬興瑞広東省長、林鄭月娥香港行政長官、梁維特マカオ経済財政司長が参加した。

馬広東省長は今後、広東省・香港・マカオの連携の観点から、広東省では以下の6点を重点的に進めるとした。

  1. グレートベイエリア建設の調整機構を設立し、緊密に連携し、協力システムを構築する。
  2. グレートベイエリア内に存在するシステム上の障害を打ち破り、各自の優位性を発揮し、人、モノの流れをスムーズにし、情報の簡便な流動を促進する。
  3. インフラ施設の連結を推進し、世界レベルの港群、空港群、高速鉄道、高速道路ネットワークを構築する。区域イノベーション共同体を設立し、科学技術成果の転用能力を向上する。
  4. グローバルな影響力を備えた国際イノベーション科学技術センターを建設する。
  5. 医療人材の協力を強化し、香港・マカオ住民の中国での就学、就業、生活を利便化する。
  6. グローバルな競争力のあるビジネス環境を整える。

イノベーション、海外進出での連携に注目

広東省側からは、現時点で香港との間での(1)イノベーション促進、(2)中国企業の海外進出(走出去)での相互補完性に期待が高まっている。(1)について、馬広東省長は上記分科会において「グレートベイエリアはニューヨーク、サンフランシスコ、東京湾と比べ科学技術イノベーション、産業イノベーション、人材集積などに劣る。香港の基礎研究力と珠江デルタの科学技術産業化の能力を連携させることが重要」とした。在深センの大学関係者によると、深セン市は中国の特許協力条約(PCT)に基づく国際出願の50%を占め、企業による知財活動が活発で、特に通信関連に強みがあるとしている。また、在広州の大学関係者は「香港に欠けている科学技術の産業への転用に長(た)けている」とした。他にも、深セン市と香港の境界に近い落馬洲で建設が進められている、深セン・香港科学技術イノベーションパークの活用も期待される。

(2)について、中国政府は中国企業の海外進出を推進しているが「現地の法制度や商習慣などへの認識不足が原因で失敗することがある。香港には法律、金融などあらゆる専門分野に高度な人材がそろっており、中国企業からのニーズは高い」と在深センの研究者はいう。さらに「中国は大手銀行でも海外支店が少ない。一方、香港の銀行は強力な海外ネットワークを持っている」とも指摘し、現地での資金調達でも大きな役割を果たせるとした。上記分科会でも、林鄭香港行政長官は香港の重要な役割として、中国企業の海外進出支援を挙げている。

広東省側と香港には温度差

ベイエリア計画の最大の障害は一国二制度の存在とみられるが、在広東省の研究者からはその他にも解決すべき課題が挙げられている。

一つ目は、珠江デルタ各市の役割の分担の割り振りだ。広東省政府の業務報告でうたわれているとおり、珠江デルタ9市のそれぞれの強みを生かした役割分担がグレートベイエリア計画の大きな特徴となっている。しかし、広州市と深セン市はいずれも金融業、物流業を主要産業の一つとしているなど、各市の産業構造には類似点がある。また、各市が中央政府の方針に呼応し似たような産業誘致政策を進めている場合もあり、各市の利害関係の調整は容易ではない。港湾、空港などのインフラ施設にも重複が多い。さらに、香港も含めると3都市(広州市、深セン市、香港)は経済的にほぼ同規模で、利害調整をリードする都市が自明でないため、全体を取りまとめる組織の設立が不可欠とみられている。

二つ目は、ソフト面で制度を作り上げた後の運用が確実に行われるかだ。これまでも「中国と香港、マカオとの経済貿易緊密化協定(CEPA)」など、香港・マカオとのサービス・モノ・人の流動性を高める政策が実施されてきた。しかし、制度上は規制がなくなっても、実務上は実施が難しいという「ガラスの門」が存在してきたと在深センの大学関係者はいう。政府機関などの現場の裁量権が強い中国では、優れた制度を実務上確実に実施できるかが課題となる。

三つ目は、広東省と香港とのグレートベイエリア計画に対する温度差だ。広東省側の関係者が「香港がなぜこれほどベイエリアに対して消極的なのか、原因が分からない」(在広州の大学関係者)と危機感を抱いているように、香港住民のベイエリアに対する期待は高いとは言えない。インフラ連結の主要プロジェクトである香港・珠海・マカオ大橋、広州・深セン・香港高速鉄道も、香港側住民の反発もあり完成が遅れている状況だ。広東省は人の流動性を高めることで、香港の優秀な人材が広東省内で就業・起業することを狙っている。しかし、在香港の中国人研究者は「香港の若者が広東省で就職・起業することは考えにくい。そもそも香港の中心地で働きたいという意識が強い上に、中国のビジネス環境は人間関係に左右されるなど不透明な部分が多く、香港人が適応することは困難だろう。香港は何が可能か法律などで明確にされており、実務もそのとおりに行われる。努力の過程も非常に透明である」という。

ベイエリア計画は広東省にとって、特に香港との連携に期待がかかる計画だが、従来の協力枠組みがうまく機能していないことの裏返しともいえる。香港との連携については、これまでも複数の枠組みが打ち出されており、イノベーションと海外進出についての協力は、既に2010年の「広東・香港協力枠組み協議」にも盛り込まれていた。今回、あらためてベイエリア計画の枠組みでも言及されたのは、協力が進んでいないためとの見方もできる。ベイエリア計画は、枠組みの内容もさることながら、着実に実施できるかがカギとなる。

執筆者紹介
ジェトロ・広州事務所 経済分析部 部長
河野 円洋(かわの みつひろ)
2007年、ジェトロ入構。在外企業支援・知的財産部知的財産課、ジェトロ岐阜、海外調査部中国北アジア課を経て2014年3月よりジェトロ・広州事務所勤務。

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