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アフリカ ‐ 医療ビジネスを切り開く

2017年9月15日

「強靭(きょうじん)な保健システム促進」――ケニア・ナイロビで2016年に開催された第6回アフリカ開発会議(TICAD 6)で挙げられた優先分野の一つである。アフリカの医療分野においては援助や研究面での貢献のみならず、民間レベルでの一層の関係構築が求められよう。近年では日本企業・団体が同分野でさまざまアプローチを展開、新たなビジネスが萌芽(ほうが)している。3社・団体の事例を紹介する。

ケニア医療市場の動向

東南部アフリカ共同市場(COMESA)や東アフリカ共同体(EAC)といったアフリカの主要な地域経済共同体に加盟しているケニアには、医療分野でも多くの外資企業や国際NGOが地域の拠点を構える。米国商務省によれば、COMESA域内で活動する製薬関連企業の約6割がケニアに拠点を置くという。例えば医薬品メーカーの英国グラクソ・スミスクラインやアストラゼネカ、医療機器の米国GEヘルスケアやオランダのフィリップスなどもケニアに進出しており、サブサハラアフリカにおける広域的な活動拠点にしている。

スウェーデンの政府機関ビジネススウェーデンのリポートによれば、2015年のケニアにおける医療市場(病院施設、医薬品、医療機器、診断、保険)の規模は35億ドル程度であり、今後19年にかけて年率10%程度の拡大が予測されている。貿易統計を見ても、医薬品はケニアの主要輸入品の一つ。一方、がんや心血管疾患の患者が増加傾向にあり、国民の医療へのアクセス向上が課題となっている。

ケニアでは13年の大統領選挙後に新たな政策が打ち出され、中央政府から地方の郡政府への分権が医療分野でも進む。郡政府の裁量権拡大に伴い、各地で医療施設を整備する動きなど、地方レベルでの新たなビジネス機会につながるとも考えられる。また17年度予算案では、特定の病院向けの付加価値税(VAT)免除なども検討されている。主な関係官庁は保健省をはじめ、薬剤毒薬局(PPB)、医療供給庁(KEMSA)などがある。17年大統領選挙後の新政権では制度改革もあり得るため、今後の方向性に注目すべきだろう。

日本はこれまでエイズ対策や病院整備などの分野で支援を実施したほか、ケニアに拠点を設ける長崎大学がマラリア媒介蚊や熱帯感染症の研究を行っている。

日本企業・団体の諸活動

日本企業・団体は近年、ケニアや隣国のタンザニアなどで多様な取り組みを展開している。以下では医療機器輸出、置き薬の普及・BOPビジネス、現地拠点設立といった活動事例を紹介する。

まずは、医療機器の輸出を手掛けるタカラベルモント(本社:大阪市)。デンタル(ユニット・チェア・ライト、レントゲン)・医療機器(診察台、手術台、産婦人科機器など)、理美容機器(理美容椅子やシャンプー設備)、化粧品などの製造販売を主要事業とする。同社は欧米やアジアに拠点を設けており、海外事業も積極的に展開している。中心となるのはデンタル機器。加えて検診台などさまざまな商品を欧米・アジアを中心に50カ国以上に輸出している。

アフリカについては、南アフリカ共和国向けに、デンタルユニットなどを30年以上にわたって輸出してきた。特に民間クリニックを中心に販売され、同国内で30~40%の市場シェアを獲得しているという。西アフリカのガーナ向けにもデンタルユニットを輸出、17年にガーナ大学に設置が完了したところだ。同社はデンタルユニットをケニアにも輸出しており、私立病院などで使用されている。今後のアフリカでのさらなる販路拡大に向け、周辺国での展開の可能性を模索し始めたところで、ケニアの現地パートナーと共にまずは隣国エチオピアの市場獲得に取り組もうとしている。


タンザニアの「置き薬ステーション」マネジャーのムトロ氏(写真提供:AfriMedico)

AfriMedico(本部:東京都)は、タンザニアで配置薬(置き薬)システムの普及に取り組むNPOである。高品質な日本の医薬品をアフリカに届けることで、現地住民の健康増進と日本の製薬業界の発展という二つの目標達成を狙う。15年に設立された同団体を率いるのは、代表理事の町井恵理氏。16年にフォーブスジャパンの「世界で闘う日本の女性55人」に選ばれるなど、若手起業家として注目を集めている。タンザニアへの進出を決めたのは、人脈があったことに加え、市場性や社会の安定性、周辺国への展開可能性などを考慮した上でのこと。単なる慈善活動ではなく、地元雇用の拡大などをも目指している。現地ではタンザニア人のマネジャーなど約10人のスタッフが同団体の活動を支えている。現在は、商都ダルエスサラームから陸路で2~3時間離れたブワマ村で、主に国内調達した医薬品を取りそろえて「置き薬ステーション」を運営している。住民にマラリア予防などの重要性を意識させ、セルフメディケーションを促すのも、同ステーション設置の狙いの一つだ。それが医療費の抑制につながり、現地政府の財政改善に貢献できるとの考えだ。

今後、医薬品を日本からも調達するべく可能性調査を実施。当局との交渉を続け、申請準備を進めている。2カ所目の「置き薬ステーション」の開設も準備中だ。16年にはナイロビ開催のTICAD 6ジャパンフェアにも出展した。ケニアをはじめアフリカ諸国から問い合わせがあり、将来的な事業展開に手応えを感じている。

武田薬品工業(本社:大阪市)は、10年から企業の社会的責任(CSR)の一環として「タケダ・イニシアティブ」を開始した。アフリカにおける保健医療人材の育成などを支援しており、16年からはケニア政府のデジタル出生記録プログラムに協力し、子どもの保健医療アクセスの改善に取り組んでいる。TICAD 6ではナイロビ大学などケニアの3機関とMOUを締結。3機関にはがん専門医の育成や糖尿病などの疾病教育を行うとともに、国際的な治療のガイドラインを学んでもらう。また、専門病院につなぐ一般医などの知識の底上げを目指すほか、移動健診車を用いた地方でのスクリーニングも実施しているという。

さらにサブサハラ諸国における医薬品へのアクセス改善を目指し、16年8月にナイロビに駐在員事務所を設立した。現地でのプレゼンスを高めつつ、自社製品の販売登録を目指して準備中だ。今後、MOUの経験も生かしながら、市場調査やパートナー選びを進め、同社製品の販売可能性を見極める。

課題も指摘されるが…

アフリカで医療ビジネスを進めるには、現地の薬事制度の整備、薬事当局関係者のキャパシティービルディングが求められよう。当局で審査を担当する人材が不足気味だとの指摘がある中、人材育成は重要なテーマとなりそうだ。国により認証基準が異なるため、申請者のコスト負担は大きくなる。各国間でルールの調和(ハーモナイゼーション)が進められれば、企業の積極的な進出を後押しできよう。現地政府に対する法制度整備の支援も効果的なのではないか。

物流や通関分野での問題も指摘される。特に地方では道路などのインフラが未整備であり、アクセスが悪いケースも多い。商品の発注後に現地の通関や輸送などで納期が遅れると、品質劣化につながる恐れがある。

どの国においても医療機器や医薬品を流通させるには、現地当局への申請や登録の手続きは欠かせない。これを円滑に進めるため、現地市場に精通したパートナーを選ぶことも重要だ。また、欧米の先行企業からは成功事例やノウハウを学ぶことができる。アフリカにおける連携の可能性もあるだろう。17年1月のダボス会議(世界経済フォーラム年次会合)では、国境を越えた官民連携“Access Accelerated Initiatives”が提唱された。開発途上国の非感染症疾患対策を強化するためだ。日本や欧米の製薬企業などもこのメンバーに名を連ねており、アフリカを舞台にした医療分野での新たな国際連携の動きに注目したい。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部主査(アフリカ担当)
小松﨑 宏之(こまつざき ひろし)
1997年アジア経済研究所(当時)入所、総務部、研究企画部。1999年ジェトロ企画部へ異動。その後、貿易開発部、国際機関太平洋諸島センター出向、展示事業部、ジェトロ高知所長、ジェトロ・ナイロビ事務所長、ジェトロ大阪本部を経て、現在に至る(アフリカ担当)。

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