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長江デルタ地区に組み込まれ発展する安徽(あんき)省

2017年12月1日

長江デルタ地区(上海市・江蘇省・浙江省)の地価と労働賃金の上昇に伴い、比較的ビジネスコストが低廉な安徽(あんき)省が注目を集めている。安徽省に代表される中国内陸部のイメージは「不便」「産業が乏しい」というネガティブなものもあろうが、これは過去のものとなりつつある。例えば2017年5月には、地場自動車メーカーである安徽江准汽車(JAC自動車)が独フォルクスワーゲン(VW)と電気自動車(EV)を省都・合肥市で共同生産すると発表した。本稿では、長江デルタ地区に組み込まれ発展する安徽省について紹介する。

注目される安徽省とは

2016年の安徽省の域内総生産額は2兆4,117億9,000万元(約41兆4億3,000万円、1元=約17円)となり、アラブ首長国連邦やエジプトの経済規模と同程度であった。成長率は前年比8.7%増と中国全体の6.7%を2.1ポイント上回ったほか、長江デルタ地区の上海市(6.8%増)、江蘇省(7.8%増)、浙江省(7.5%増)と比較しても大きく伸びた。また、安徽省における労働者の月額最低賃金は長江デルタ地区と比べ安価である(表1参照)。

表1:長江デルタ地区と安徽省の月額最低賃金
地域 月額最低賃金(人民元) 施行日
上海市 2,300 2017年4月1日
江蘇省 1,890 2017年7月1日
浙江省 1,860 2015年11月1日
安徽省 1,520 2015年11月1日
出所:
人力資源社会保障部

さらに、省都の合肥市については周辺都市との合併により巨大都市へと発展している。特に新しく開発された「五大新区」は、長江デルタの沿岸部の都市と比べても遜色のない水準にまで成長していると実感する(写真1参照)。


写真1:合肥市内の新区の様子(ジェトロ・上海事務所撮影)

また、合肥には上海や杭州と同じようなショッピングモールが立ち並んでいる(写真2参照)。週末には大勢の買い物客で賑(にぎ)わっており、中国内陸部の都市においても消費意欲は満ちていると実感する。


写真2:合肥市内の万達広場にあるショッピングモール
(ジェトロ・上海事務所撮影)

日本人がまずイメージする安徽省は、三国志の古戦場である黄山に代表されるような風光明媚(めいび)な観光地というところであろうか。内陸部の農村地帯というイメージもあるのが正直なところであろうが、安徽省は2010年に国家発展計画の「産業移転モデル地区」としての承認を受けており、工業分野に関して長江デルタの都市からの移転企業を数多く受け入れている(表2参照)。

移転企業の代表例は、2006年に上海と広州の製造拠点を合肥の経済技術開発区に全面移転したユニリーバである。合肥に世界最大規模の生産工場を作った理由には、沿海部のコスト上昇を先読みしたことと、主力製品が中国内販向け生活用品であるために合肥の地理的優位性を捉えたということが挙げられる。

表2:主な安徽省進出企業一覧
会社名 進出年 業種
日本 日立建機 1995 建設機械
日本 ユニキャリア 2006 フォークリフト
日本 花王 2012 紙オムツ、生理用品
日本 三菱電機 2013 冷蔵庫開発
日本 ニプロ 2013 医療機器
日本 ヨドコウ 2013 各種鋼板
英・蘭 ユニリーバ 2006 トイレタリー用品他
中国 ハイアール 2000 家電
中国 格力 2006 家電
中国 ワールプール 2014 家電
出所:
各種プレスリリースを基にジェトロ作成

ところで、安徽省はさまざまな歴史上の人物を生み出した地でもある。日本とゆかりの深い人物には、清代の政治家・李鴻章がいる。「実利」や「合理」を優先した交渉手腕や先見性は、現在の安徽商人(中国語で「徽商」)につながるものがあるように思う。

安徽省の可能性を早期に見いだした家電産業

安徽省の工業分野には4つの産業が集積している。一つ目は家電産業、二つ目は成長期にある自動車産業、三つ目は建材産業、四つ目は石炭関連産業である。

2017年11月現在は、上海市から南京経由で合肥市に向かう高速鉄道が開通している。2016年末からは杭州を経由する新線の工事が始まっており、開通すれば合肥から上海まで片道2時間台という路線が誕生することになるが、安徽省が交通の要衝として着目されてきたのは今だけのことではない。産業界では家電産業、特に白物家電メーカーがいち早く着目した。中国および海外の家電メーカーは1990年代から、合肥を中心に大規模な製造工場を構え、冷蔵庫や洗濯機、エアコンなどの大型白物家電を中国全土に出荷した。

中国のエアコン最大手の珠海格力电器株式有限公司(GREE、本社:広東省珠海市)を紹介する。女性経営者・董明珠の自叙伝『市場烈々』によると、同氏は1990年に営業社員として入社し、最初に担当した地域が安徽省であった。安徽省は当時、一般的に「貧困地域」と見られていたものの、1990年代からは鉱物資源の産出などで豊かになりつつある地域があり、同氏は白物家電(この場合、高級品であったエアコン)の市場となりうる場所を開拓したという。結果、当時の格力の総売上の8分の1を安徽省で稼ぎ出した。

次世代自動車製造の集積地へ

安徽省には中国民族系を代表する二大自動車メーカーが存在する。その一つ、安徽江淮汽車集団株式有限公司(JAC自動車、本社:安徽省合肥市)を紹介する(写真3参照)。


写真3:JAC自動車の合肥本部(ジェトロ・上海事務所撮影)

1964年に合肥で設立された当初は、トラックを製造する小規模メーカーだった。2002年の現代自動車との技術提携により製造・販売したワゴン車「瑞風(英語名:Relfine)」が大ヒットして総合自動車メーカーへと成長し、安徽省で最も存在感のある企業の一つに台頭した。

現在は合肥市内に4つの製造工場を持つほか、四川省、山東省、江蘇省にも製造拠点がある。2017年上半期の販売台数は27万5,000台で、商用車(小型~大型トラック)と安凱バス(ANKAIブランド)が多くを占めた。実際に、合肥市内を走るバスやタクシーのほとんどがJAC自動車だ。また、中国内のみならず海外への輸出および現地生産も拡大している。2016年の中国から海外への輸出は約45万台で、海外ではロシア・独立国家共同体(CIS)、中東・アフリカ、中南米の三つのマーケットを中心に1,000カ所の販売ネットワークと、700カ所の修理拠点を持つ。また、海外の19カ所に工場を持つ(工場立地先:ロシア、カザフスタン、ウクライナ、バングラデシュ、フィリピン、マレーシア、ベトナム、パキスタン、イラン、エジプト、トルコ、スーダン、アルジェリア、ナイジェリア、ブラジル、メキシコ、ベネズエラ、パラグアイ、エクアドル)。マーケットとしては、イラン、ロシア、コロンビアが大きく、ニッチな市場を中心に海外営業戦略を立てていることがうかがえる。技術力の向上にも注力しており、合肥拠点の3万7,000人の従業員のうちエンジニアが約5,000人を占めているほか、合肥と日本、イタリアに研究開発(R&D)センターを所有している。2006年に開設した日本拠点は20人ほどの規模で、主に商用車の開発のため日系商用車メーカーや部品メーカーとの協業を行っている。

2017年8月、筆者はJAC自動車の合肥第二工場の最終組み立てラインを見学した。組み立てられているのはスポーツタイプ多目的車(SUV)の「瑞風」とセダンの「和悦」、EVの「iEV」だった。夏季は生産調整をしており、操業は9時から17時まで、土日休みという体制で、筆者が以前に訪問したことのある日系自動車メーカー工場と比較するとゆっくりとしたスピードで組み立てが行われていた。理由は歩留まり率の向上のためということだ。しかし、生産ラインには「カイゼン」という標語や、チームごとの目標や評価が貼り出されており、エンジ色の作業着を着た男女のワーカーがキビキビと働く、規律のある生産現場との印象を受けた。工場の機械化は、ロボットが部品を所定の場所に運搬するなど進んではいたものの、最終工程のラインということもあり内装材や窓ガラスのセットは人手に頼る様子であった。ただしJAC自動車幹部によると、合肥第三、第四工場はさらに自動化が進んでいるとのことだ。興味深いのはガソリンエンジン車とEVが同一ラインで組み立てられ、EVのユニットパーツとガソリンエンジンが並行して流れていたことである。なお、エンジンは自社製だが、EVの電池などは外部調達とのことである。生産設備は中国メーカーのものが主流で、部分的にドイツなどの外国メーカーの設備が入っていた。

順調に成長を遂げているJAC自動車であるが、2017年上半期は民族系自動車メーカー各社が在庫過剰による国内販売不振に陥っており、JAC自動車もSUVでの落ち込みが激しかった。一方でワゴン車、多目的車(MPV)の販売は堅調で、安定した収入をもたらした。また国内の不振分を海外で稼ぐ傾向が強く、2016年の輸出ビジネスは前年比81.3%増の伸びを示し、特にSUVに関しては中国の自動車メーカーの中で最も多くの台数を輸出した。

南米で販売シェアが大きいのはコロンビアだ(写真4参照)。低価格を売りにし、メインターゲットを既存の中古車ユーザーとしている。中古車と同じ価格で新車に乗れることをPRすることで、実際に新車販売の6台に1台がJAC自動車の車種となっている。コロンビアは中産階級の比率が伸びており、新車販売台数もともに伸びている。今後は、スペアパーツの豊富さと修理対応の良さをアピールする戦略へとシフトし、安価なだけではない点を強調するべくサポート体制を構築するとのことだ。


写真4:コロンビアの首都ボゴタでタクシーとして走るJAC自動車の小型車「悦悦」
(ジェトロ・上海事務所撮影)

EVをはじめとする新エネルギー車の売り上げが伸びる中国市場でも、JAC自動車の存在感は大きくなっている。中国のカーシェア大手の首汽集団(本社:北京市)が、合肥でのカーシェア事業「Gofun」でJAC自動車のEV車「iEV6」を200台採用すると発表した。合肥の提携駐車場を利用すれば、駐車料金が無料などの特色がある。将来は1,000台体制を目指す方針で、JAC自動車としても自動車シェアリング社会を見越した事業戦略を立てている。

また、JAC自動車はEVに関して二大プロジェクトを進行させている。大型新規事業の一つは、VWとの合弁事業だ。合弁会社である江准大衆(JAC-VW)は合肥開発区に年産10万台のEV専用工場を建設中で、2018年上期からの生産開始に向け工程を進めている。2017年5月に国家発展改革委員会の認可が下り、資本金は20億元、総投資額は約50億6,000万元、出資はJAC自動車とVWの折半だ。二つ目の大きな事業は自動車ベンチャー企業NIO(蔚来汽車)との協業である。中国版テスラと呼ばれるNIOは、市場対応車の生産をJAC自動車に委託し、年間20万台規模で量産する。JAC自動車幹部へのヒアリングによると、NIOとの資本関係は無いとのことであるが、実績のある企業が新興イノベーション企業とアライアンスを組み自動車のODM(相手先ブランドによる設計・製造)生産を行うということは斬新である。

本稿にて紹介したJAC自動車のように、国営企業でありながらも地道に資金を稼ぎ、外資との合弁やベンチャー企業との協業など新しい取り組みを積極的に行う企業が中国内陸部にも存在している。安徽省政府は新エネルギー車を中心とした自動車産業育成に力を入れており、現状は自動車生産台数で重慶市や広西チワン族自治区に及ばないものの、近い将来に順位が入れ替わる可能性もあると推察する。日本では知名度の高くない安徽省ではあるが、中国経済を先読みするのであればやはり注目に値する地域だと筆者は考える。

執筆者紹介
ジェトロ上海事務所
伊藤 道大(いとう みちひろ)
大学卒業後、企業勤務を経て2005年、ジェトロ入構。対日投資部対日ビジネス課(2005~2008年)、ジェトロ大阪事業推進課(2008~2010年)、ジェトロ・広州事務所(2010~2013年)、機械環境産業部インフラプラントビジネス支援課(2013~2015年)、ビジネス展開支援部ビジネス展開支援課(2015~2016年)を経て現職。

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