ジェトロ世界貿易投資報告 2025年版

第Ⅲ章 世界の通商ルール形成の動向
第1節 世界の通商政策を巡る最新動向
第2項 主要国・地域の通商政策

米国の通商政策

国際経済秩序を崩す米国の通商政策

米国で2025年1月、4年ぶり2期目となるトランプ政権が発足して以来、同政権の通商政策は世界経済と国際通商秩序に大きな衝撃を与えている。追加関税を軸とする同政権の保護主義的な通商政策の特徴は、関税を単なる貿易不均衡是正のための手段にとどめず、外交や安全保障、技術覇権争い、不法移民対策など広範な政策目的に利用する姿勢を鮮明にしている点にある。バイデン前政権の通商政策からの最大の変化は、同盟国と懸念国を区別しない強硬な追加関税措置の濫発であり、その対象には日本も例外なく含まれる。

2025年2月以降、米国が大統領令を通じて矢継ぎ早に発動する追加関税措置への対応は、世界中の多くの国・地域にとって、経済政策上の最優先課題に浮上している。一方的な追加関税措置の発動後の個別交渉においても、米国は「アメリカ・ファースト」の理念の下、自国主導で交渉相手を選別し、相手国・地域が米国にもたらす利益を追求する姿勢を前面に打ち出している。かつて米国が主導した、ルールに基づく自由で公正な経済秩序は瓦解の危機にあり、グローバル企業の事業戦略やサプライチェーンに深刻な不確実性とリスクをもたらしている。以下に、第2次トランプ政権発足後の約半年間の通商政策の全体像を整理し、企業活動への具体的な影響について解説する。

同盟国と懸念国を区別しない米国第一の通商政策

2021~2024年を担った前バイデン政権は、同盟国との協調路線と、中国を念頭とする懸念国への強硬路線を明確に区分する通商政策を推し進めた。信頼できる同盟・同志国との間ではサプライチェーンを多様化することで、その強靭性を高める「フレンドショアリング」を推進した。他方、中国を「国際秩序を再構築する意図とそれを実現する経済力、外交力、軍事力、技術力を併せ持つ唯一の競争相手」と位置付け注1 、第1次トランプ政権からの対中強硬路線を維持してきた。

具体的には、2018年以来続く1962年通商拡大法232条、1974年通商法301条に基づく関税措置などが該当する。経済安全保障の観点では、輸出管理改革法(ECRA)による対中半導体輸出規制強化、2018年外国投資リスク審査現代化法(FIRRMA)に基づく対米外国投資委員会(CFIUS)の権限強化を通じた投資規制の厳格化などを進めた。これは、トランプ政権1期目の強硬路線をバイデン政権が維持・拡充したものと位置付けられる注2

2024年米国大統領選挙に向け、共和党陣営が発表した政策綱領注3 では、「速やかに達成する20の約束」および10項目の政策方針を記載した。通商に関わる政策は、10項目の政策方針の5項目に当たる「米国の労働者と農民を不公正貿易から守る」という方針に集約された。米国の労働者、農民、産業を不公正な外国との競争から守るためのプランとして、外国製品に対する一律10~20%の「ベースライン関税」の導入や、米国向け輸出を行う国の品目別の関税率と同率を米国輸入時にも課税する相互関税の導入を挙げた。また、中国に対しては、恒久的正常貿易関係(PNTR)の撤回や必要不可欠な商品の輸入の段階的停止、米国の不動産や産業の買収阻止などを掲げた。またバイデン政権で課された自動車関連規制やEV購入義務の撤廃、中国車の輸入阻止による「米国自動車産業の復活」、「重要なサプライチェーンの米国回帰」、「バイアメリカン・ハイヤーアメリカン」などの方針を明記した注4

その後、2025年1月に発足した第2次トランプ政権は、米国の通商政策の見直しと再構築のため、商務長官、財務長官、米国通商代表部(USTR)代表などに対して、米国の抱える通商上の課題について調査を指示した。トランプ大統領に報告された同調査結果、およびこれを受けた提言内容の概要は、2025年4月、「米国第一の通商政策(America First Trade Policy、以下AFTP)」の要約版報告書として公表された注5 。AFTPは、24の分野別の章で構成され、市場アクセス、輸出管理、対外投資制限など、広範な通商政策上の課題に対する評価と提言を含んでいる(図表Ⅲ-9)。

図表Ⅲ-9 AFTPの主要項目および内容
AFTPの主要項目 課題および大統領への提案内容
大規模で持続的な貿易赤字の経済・国家安全保障への影響 AFTP第2条(a) 貿易相手国は米国製品・サービスに対する不当な関税や非関税障壁を賦課。不公正で非相互的な貿易慣行に起因する貿易赤字削減のため、特定の輸入品に対する関税の課税を含む措置を提案。
外国歳入庁
AFTP第2条(b)
商務省、財務省、国土安全保障省の連携による外国歳入庁(ERS:External Revenue Service)の設立。ERSを通じた関税徴収を最適化と税収の拡大。
不公正で非相互的な外国貿易慣行の審査
AFTP第2条(c)
貿易相手国の高関税や非関税障壁など、不公正で非相互的な貿易慣行を500件以上特定。これにより、米国の大規模かつ持続的な貿易赤字を引き起こしているとして、現在の法的権限を活用する複数の方法を提案。
米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の再交渉
AFTP第2条(d)
2026年7月が期限の協定見直しに向け、米国への非市場経済国製品の流入を削減するためのより厳格な原産地規則、カナダへの乳製品輸出の市場アクセス拡大、メキシコの差別的措置(エネルギー部門など)への対応などを検討。
為替操作の審査
AFTP第2条(e)
主要な米国貿易相手国の通貨と米国ドルとの為替レートに関する政策および慣行を審査。財務省は、為替分析を強化し、外国政府による為替市場における透明性の欠如に対処。
既存の貿易協定の見直し
AFTP第2条(f)
20カ国との間で締結する14の包括的貿易協定を現代化し、貿易条件を米国の利益と一致させ、不均衡の根本原因に対処。相手国の関税率の引き下げ、規制制度の透明性・予測可能性の向上、米国農産物の市場アクセス改善、原産地規則の強化、米国の経済安全保障および非市場的政策・慣行へのアプローチとの整合性確保など。
新たな貿易協定の特定
AFTP第2条(g)
農業製品の輸出障壁を撤廃し、サプライチェーン強靭化、製造業の国内回帰など、アメリカ・ファースト協定の交渉に適した国とセクターを特定。新たな協定によりグローバルな貿易システムを再構築する機会を提供。
デミニミス免除の見直し
AFTP第2条(i)
800ドル以下の小口輸入に対する関税免除措置(デミニミス)は、高リスク製品の流入手段となっているほか、年間108億ドルの損失をもたらしており、廃止すべき。
域外課税の調査
AFTP第2条(j)
デジタルサービス税など、米国の最も成功した企業の成功を標的とした差別的な税金や規制制度に対抗するため適切なツールを確保。
第11章 政府調達協定
AFTP第2条(k)
米国が不公正な競争を強いられている政府調達協定(GPA)改定のための再交渉を行い、交渉結果次第で脱退を検討すべき。相互防衛調達(RDP)協定もアメリカ第一を確実にする形で見直しの必要あり。
中国との経済・貿易関係
AFTP第3条(a)(b)(c)(d)(e)
米中貿易協議第1段階合意の見直し:中国の約束不履行を評価し対応策を講じる。
通商法第301条に基づく新たな措置:中国の広範な非市場的政策・慣行を踏まえ追加調査の可能性を検討。
恒久的通常貿易関係(PNTR)の評価:中国による保護主義措置、非市場経済システムへの関連立法案を審査し、大統領へ適切な助言を実施。
知的財産に関する相互主義の評価:中国による米国の知的財産権の濫用などへの適切な対応措置を推奨。
新たな第232条措置の特定
AFTP第4条(a)
通商拡大法第232条による鉄鋼・アルミニウム、自動車・自動車部品関税に加え、国家安全保障上不可欠な医薬品、半導体、特定の重要鉱物などに、新たに232条調査の開始を検討すべき製品と部門を特定。
鉄鋼・アルミニウムに関する第232条措置の見直し
AFTP第4条(b)
鉄鋼・アルミニウムに対する第232条関税の製品除外措置と国別免除の終了を報告。同措置の必要性に関する根拠をさらに説明するとともに、鉄鋼・アルミニウムに関する追加措置の検討を推奨。
輸出管理の見直し
AFTP第4条(c)
先端技術の敵対国への流出防止のため、シンプルで厳格、効果的な輸出管理によるAI分野での優位性を維持。グローバルな技術リーダーシップの追及。
対外投資制限の見直し
AFTP第4条(e)
トランプ政権の「米国第一の投資政策」に基づき、米国の国家安全保障上の利益を損なわないための選択肢を検討・評価。技術開発戦略や懸念国戦略に対応するため、対外投資制限の範囲拡大についても検討。
出所:
ホワイトハウス発表資料(2025年4月)から作成

公表された文書は、その冒頭で「外国の非相互的かつ歪曲的な通商慣行により、米国では年間1.2兆ドルに及ぶ巨額の貿易赤字が生じている」と報告。過去4年間の不安定な地政学的状況から早急に脱却し、米国の経済的、技術的、軍事的優位性を持続的に確保するための協調的で戦略的なアプローチが求められると提言した。

報告書は、通商政策上の主要項目別に、外国政府や企業による米国企業への不公正な慣行や非相互的な扱いに対して、必要な対抗措置を講じる必要性を強調している。主要項目には貿易赤字解消のための追加関税を含む輸入制限的措置の導入・強化に加え、対外直接投資の制限、外国企業への監視強化などが含まれる。通商政策を外交や安全保障戦略と一体化させ、保護主義や二国間主義をより前面に打ち出して運用する意思を示したものと読み取ることができる。

相手国別の貿易障壁を特定

AFTPにおいて、米国の巨大かつ持続的な貿易赤字の要因として指摘する「相手国の不公正で非相互的な貿易慣行」とは具体的にどのようなものが該当するのか。その内容は、USTRによる「外国貿易障壁(National Trade Estimate:NTE)報告書」(以下、NTE)に集約されている注6 。NTEは、米国企業の輸出や投資に対して障壁となる外国の貿易慣行などについて、主要な国・地域別に示した報告書で、1985年以降毎年公表されている。最新版の報告書は2025年3月31日に発表されており、トランプ政権においては同報告書が追加関税をはじめとする対抗措置を講じるための根拠資料の一部として認識・活用されているものと考えられる。

NTEは、各国・地域の貿易障壁について、輸入政策、貿易の技術的障壁(TBT)、衛生植物検疫(SPS)措置、政府調達、知的財産保護、サービス分野の障壁、デジタル貿易障壁、投資障壁、補助金、非競争的慣行、国有企業、労働、環境という主に13の分野に分けて記載している。

対象とする国・地域は59カ国・地域に上り、特に中国やEU、中東の湾岸協力会議、インド、ロシア、インドネシア、および日本の障壁については、多くの分量を割いて重点的に報告されている。

日本に関する記載のうち、USTRがとりわけ強い懸念を示しているのが、米国の農林水産品や加工食品に対する高関税率および数量制限(TRQ)などの市場アクセスの問題である。また、非関税分野の障壁としては、とりわけ自動車に関連する日本国内の基準認証制度の米国制度との非互換性や、国内流通等における制度・商慣行上の障壁などの存在が指摘されている。

そのほか、医薬品・医療機器分野では、日本の薬価制度および医療機器の価格設定メカニズムについても透明性の欠如や外国製品に対する差別的扱いを問題視している(図表Ⅲ-10)。

図表Ⅲ-10 外国貿易障壁報告書‐日本に関する記載
対象品目 障壁 障壁の具体的内容
農林水産品
加工食品
高関税
非関税障壁
(コメ)
コメに関し、輸入・流通システムでの規制および運用の不透明性、関税割当が輸入米の市場アクセスを制限。
農林水産省による通常ミニマムアクセス(OMA)入札、同時売買(SBS)入札を通じた関税割当の管理など、政府主導の流通制限が、米国産のコメの日本国内流通を阻害。
非関税障壁
(小麦)
食用小麦に対する農林水産省生産局を通じた輸入の義務付け、および同局経由での小麦粉製造業者に対する高額な再販価格が貿易歪曲的。
高関税
非関税障壁
(肉類)
米国産の豚肉などに対する高関税の維持。
米国産の牛肉、同製品に対する検疫措置が世界動物保健機関のガイドラインや、米国食品安全検査局の規制よりも過度に厳格であり米国産牛肉の市場アクセスを制限。
米国産の豚肉に対する貿易歪曲的な差額関税制度(ゲートプライス制度)の存在。
高関税
関税割当
(水産物)
水産品の複数の品目に対して輸入割当制度(TRQ)と関税を併用し、米国産水産物の輸出を阻害。割当の取得プロセスにおいて高額な費用と手続きの遅延が発生。
健康食品など 国内規制 日本では栄養補助食品が「健康食品」のサブカテゴリーとして規制され、一般食品よりも厳格な規制を適用。日本市場へのアクセスにおいて表示や使用原材料に関する追加の障害が発生。
革製品・履物 高関税
関税割当
最大130%に相当する高関税(革靴など)や数量制限のある関税割当制度の存在が、米国製品の価格競争力を引き下げ。
医薬品・医療機器・医薬部外品など 基準認証
国内手続き等
医薬品の薬価改定、医療機器の機能分類などのプロセスにおける透明性や予測可能性が欠如(※具体的には2025年度分の薬価改定の発表前に公聴会の機会が設けられなかったことなどを指摘)。
一部の医薬部外品オンライン申請システムの整備遅延により、承認取得に最大6カ月を要する。モノグラフ制度(製品標準)導入遅れにより、既存成分でも迅速な承認が困難。
自動車 基準認証 日本独自の安全基準・試験手順が存在し、米国の連邦自動車安全基準(FMVSS)を同等と認めない。
短距離車間通信(V2X)における周波数帯の割当が日本独自で、米国仕様と非互換。
国内手続き等 規制策定において、利害関係者(特に外国企業)の意見を反映する機会が限定的。
外資系自動車メーカーが日本国内で販売・サービス網を構築する際に、制度的・商慣行上の障壁が存在。
補助金 2035年までに「100%クリーンエネルギー車」への移行を目指す政策において、補助金制度が国内メーカーに有利に設計されている可能性。
出所:
USTR(2025年3月)、NTEから作成

また、同報告書の中で、中国に関する記述(48~95ページ)は最も分量が多く、主要貿易相手国のうち特に中国に対して深刻な懸念を有していることを明確に示している。報告書ではまず、中国の知的財産権の保護と技術移転に関する問題に最も多くの分量を割いている。中でも、(1)「中国製造2025」などの国家主導型の産業政策と連動し、中国市場への参入の際に事実上の技術移転が強いられる状況が続いていること、(2)特許や商標の侵害が深刻であり、特に地方レベルでの法の執行力の弱さに問題があること、(3)海賊版ソフトウエアや偽造品の流通が広範に存在し、オンラインプラットフォーム上の取り締まりも不十分であること、などが指摘されている。また、これらの問題について、米国政府が継続的に制度改革と執行強化を求めてきたものの、実効面での課題が残っていると報告している。

電子商取引(EC)およびデジタル貿易に関する中国の障壁に対しても、重大な懸念を表明している。中国は、サイバーセキュリティ法、データセキュリティ法、個人情報保護法などを通じて、企業が国外にデータを移転する際に国家安全審査を義務付けており、その運用が不透明かつ恣意的であるとしている。また、クラウドサービス市場では、外国企業が独資で事業を展開することが事実上不可能であり、これが投資家の知的財産や機密情報保護を困難にし、不利な競争を強いていると指摘している。

加えて、報告書では、中国における補助金政策、国有企業の優遇、政府調達制度の運用が、外国企業にとって深刻な市場アクセス障壁となっていることが強調されている。中国政府は、国有企業を通じて戦略産業への支配力を維持し、補助金や優遇的な融資、規制上の便宜を与えることで、国内企業の競争力を高めていると指摘。これにより、市場の歪みが生じ、外国企業との間に不公平な競争環境が形成されているとした。政府調達では、外国企業に対して、入札への参加制限があるか、もしくは不利な条件を課されることが多く、特に「中国製造2025」などの国家主導型産業政策の下で、国産品の使用が事実上義務化されている、としている。さらに、政府調達に関して新たな法案で「国内製品が入手可能な場合には外国製品の購入を控える」よう明記するなど、制度的に外国企業を排除する傾向が強まっているとしている。全体を通じ、中国の貿易・投資政策が依然として国家主導型であり、透明性、公平性、予見可能性に欠けることを繰り返し指摘しており、米国としては今後も二国間および多国間の枠組みを通じて、これらの問題の是正を強く求めていく姿勢を明確にしている。

大統領権限による追加関税措置の濫発

第2次トランプ政権の経済政策の中でも、世界経済やグローバル企業活動に最も大きな影響を及ぼすのが、大統領権限に基づく追加関税措置の濫発である。米国では、一部の関税措置の発動について、過去に成立した法律を基に大統領に権限が委譲されている。中でも、国際緊急経済権限法(IEEPA)は、大統領が「国家に異例かつ重要な脅威がある」と判断した場合、国家緊急事態法の下で、国家緊急事態を宣言し、経済的措置を講じることができる。

第1次トランプ政権時より発動されていた1962年通商拡大法232条や1974年通商法301条に基づく追加関税の発動の場合、それぞれ商務省による270日以内、USTRによる最大12カ月の調査を必要とする。それに対し、IEEPAでは措置発動前の調査は求められておらず、トランプ大統領にとっては、自身の判断と権限によって迅速に関税措置を発動する根拠になり得る注7

その解釈の下、トランプ大統領は、2025年2月1日に、IEEPAを根拠法として、不法移民と違法麻薬対策の不備を理由に、カナダ、メキシコ、中国産の全ての輸入品に対する追加関税を発動する大統領令を発令。中国に対しては2月4日より10%の追加関税の適用を開始し、同税率が20%に引き上げられた。その後、3月にはカナダおよびメキシコに関して25%の追加関税の適用を開始した(図表Ⅲ-11)。

図表Ⅲ-11 米国の主な追加関税措置(2025年2~6月末)
根拠法 対象品目 発動日 関税率など
国際緊急経済
権限法(IEEPA)
中国原産品 2月4日 既存の関税率に10%を上乗せ
3月4日 上乗せ関税率を20%に引き上げ
4月12日 125%の相互関税上乗せ
5月2日 デミニミスルール(少額貨物免税)の適用停止
5月14日 相互間税を34%に引き下げ(そのうち24%分の適用を90日間停止)
カナダ、メキシコ原産品 3月4日 全品目に25%(カナダ産エネルギー・資源品目は10%)
3月7日 米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の原産地規則を満たす産品は追加関税の適用除外対象
※ただし、自動車・同部品は232条の追加関税の対象
全ての輸入品
※カナダ、メキシコ
原産品は除く
4月5日 第1段階として、国・地域問わず実質的に全品目に対して既存の関税率に10%を上乗せ
4月9日 第2段階として、57カ国・地域に対し、上乗せ率を個別に設定した相互関税率まで引き上げ➡引き上げ税率の適用を4月10日より90日間停止
※232条などで追加関税発動済み品目など一部除外
ベネズエラ産原油を輸入する国・地域の原産品 4月2日 ベネズエラで採掘・精製された原油や石油製品を輸入する国・地域の原産品に、既存の関税率に25%上乗せ。
発動の判断は国務長官の裁量
1962年
通商拡大法
鉄鋼・アルミ製品 3月12日
  • アルミ製品の追加関税率を10%から25%に引き上げ
  • 適用除外を撤廃、対象品目を追加
※米国で溶解・鋳造・精錬された鉄鋼・アルミ材には賦課せず
4月4日 アルミ缶と缶ビールを関税上乗せ対象に追加
6月4日 追加関税率を50%に引き上げ
6月23日 派生品として白物家電を対象に追加
自動車・同部品 4月3日 自動車に対して、既存の関税率に25%を上乗せ
5月3日 自動車部品に対して、既存の関税率に25%を上乗せ
※いずれもUSMCAの原産地規則を満たす場合、非米国産部品の価格にのみ追加関税が課される
4月29日 一部の追加関税の累積の停止および自動車部品に対する追加関税に相殺制度を設ける
銅、木材 232条による調査を商務長官に指示、調査中
半導体、医薬品 232条による調査を商務長官に指示、調査中
重要鉱物 232条による調査を商務長官に指示、調査中
中・大型トラック 232条による調査を商務長官に指示、調査中
民間航空機・同部品 232条による調査を商務長官に指示、調査中
出所:
大統領令などに基づき作成

そして、4月2日に発出された大統領令に基づき、4月5日には、IEEPAを根拠として実質的に全ての国・地域から輸入されるほぼ全ての品目に一律10%のベースライン関税の賦課を開始した。同4月9日からは57カ国・地域に対し、ベースライン関税を、それぞれ設定した関税率まで引き上げる「相互関税」(日本は24%など)を賦課するとした。しかし、4月10日以降、同相互関税について90日間引き上げを停止と発表。2025年7月時点では、各国に一律10%のベースライン関税の賦課が継続している状況となっている。

また中国との間では、追加関税の報復合戦に伴い、125%の相互関税が上乗せとなり、合計145%の追加関税が賦課されていたが、スイスでの米中経済・貿易協議を受け、5月14日から計30%(3月4日以降の20%+世界共通相互関税10%)まで引き下げられた。

一方、第1次トランプ政権下で2018年より賦課を開始した1962年通商拡大法232条に基づく鉄鋼・アルミ製品輸入への追加関税に関しては、3月より順次、(1)アルミ製品の追加関税の10%から25%への引き上げ、(2)全ての適用除外制度の廃止、(3)特定の鉄鋼・アルミ派生品を新たに232条関税の対象に追加、(4)自動車・同部品に対して既存の関税率に25%を上乗せ、(5)鉄鋼・アルミ製品に対する追加関税を25%から50%へ引き上げ、などを規定する大統領布告を発表。次々に適用を開始している。他方、追加関税率の引き上げと併せて、特定の追加関税の累積徴収の停止など、部分的な緩和措置も随時導入されている。

また、米国税関・国境警備局(CBP)のガイダンスによれば、IEEPAに基づく中国への新たな追加関税は、輸入申告額が800ドル以下の少額貨物の輸入の際に受けられる関税支払い免除制度(デミニミスルール)の適用から除外されている。同免税制度の適用除外により、中国のECプラットフォーム経由での米国向けの個人輸入貨物などの販売に影響が及んでいる(第Ⅰ章第2節第4項参照)。

このように刻々と状況が変化する追加関税措置に対し、多くの企業は、可能な範囲で適用除外などの申し入れを継続しつつ、情勢を見守らざるを得ない状況に置かれている。

相互関税の違憲性など巡る司法判断の行方に注目

2025年下半期以降のトランプ政権の通商政策の方向性を見る上で、重要な鍵となるのが、IEEPAによる追加関税措置の違憲性に関する司法判断の行方である。米国国際貿易裁判所(CIT)は5月28日、IEEPAに基づく追加関税は違法との判断を下した。その後、政権は直ちに連邦巡回区控訴裁判所に上訴した。最終的には連邦最高裁まで争われる可能性があり、先行き不透明な状況が続いている(2025年7月15日時点)。

CITはIEEPAに関し、議会は大統領に輸入を規制する無制限の権限を与えることを意図していないと判断した。また、IEEPAに基づく権限は、「米国の国家安全保障、外交政策、経済に対する、その原因の全部または大部分が米国国外にある異常かつ特別な脅威に対処」する場合にのみ行使できるとし、トランプ政権が主張していた関税によって生じる「圧力」または「影響力」は、緊急事態に対処するための直接的な手段にはならないとの見方を示した注8

また米国憲法上でも「税金、関税、輸入税および消費税を課し、徴収する権限」が議会に属すと規定されており、IEEPAを根拠とする大統領権限での相互関税の発動が、憲法の規定する議会の立法権を侵害する可能性も指摘された。

IEEPAの条文には関税措置の明示的な規定はなく、いわば適用範囲を拡大解釈した相互関税措置についての適法性が問われている。

裁判の進展によって、IEEPAの適用範囲が明確化されれば、その後の大統領権限の行使に影響を与え、それはトランプ政権の通商政策の方向性にも及ぶ可能性がある。判決の行方とともに注視すべきなのが、通商政策における大統領と議会との権限のバランスの行方である。特に議会が今後、通商政策における主導権をどのように取り戻すかが焦点となる。加えて、大統領権限の濫用によって日々変わる米国の通商政策の不確実性は、米国の国際的な信用とビジネスの信頼度を著しく損なっている。今後の司法判断などを通じて、法の支配に基づく政策運営の遂行を国際社会に示し、信頼を回復することができるかが注目される。

米国第一の投資政策

トランプ大統領は2025年2月、「米国第一の投資政策(America First Investment Policy; 以下、AFIP)」と題する国家安全保障大統領覚書を発表した。AFIPは「経済安全保障は国家安全保障である」との原則の下、米国の対内・対外直接投資に関する枠組みを再構築し、同盟国からの投資を歓迎・促進すると同時に、「外国の敵対者」との関係では、対内・対外直接投資を厳しく制限する内容となっている(図表Ⅲ-12)。外国の敵対者には、中国(香港、マカオ含む)のほか、キューバ、イラン、北朝鮮、ロシア、ベネズエラのニコラス・マドゥロ体制が指定された。とりわけ中国については、大統領令の中で20回以上名指しし、先端技術や重要インフラ、戦略分野における対内・対外直接投資のリスクの大きさと、制限を強化することの必要性が繰り返し強調された。

図表Ⅲ-12 AFIPの主な項目および内容
項目 内容
同盟国優遇 特定の同盟・パートナー国からの投資に対し、審査の迅速化(ファストトラック)を導入。投資家が外国の敵対者と提携しないなど、安全保障条項を設ける。
敵対国制限 中国など敵対国からの投資を厳格に制限。特に技術、重要インフラ、医療、農業、エネルギー、原材料、その他戦略分野などが対象。中国関係者による重要な米国企業や資産の買収を阻止。
対米外国投資委員会(CFIUS) CFIUSの審査対象をグリーンフィールド投資にも拡大。米国の機微技術分野の人材や事業への外国の敵対者によるアクセスの制限、CFIUSの審査対象となる「新興・基盤的」技術の拡大を追求。
対外投資規制 米国の対中投資の一層の制限(半導体、AI、量子、バイオテクノロジー、極超音速、航空宇宙、先進製造、指向性エネルギー、国家軍民融合戦略分野)。対象分野は定期的に見直し。年金基金や証券投資も対象に含める。
出所:
ホワイトハウス発表(2025年2月21日)から作成

AFIPの内容は、経済安全保障を理由に投資の自由を制限するものであり、WTO協定第21条(安全保障例外)との整合性については議論の余地がある。特に、「敵対国」概念の曖昧性や恣意性、「安全保障上の重大な利益」に対する解釈などの点において、経済的動機に基づく規制措置の導入がWTO協定の原則に反する可能性がある注9

英国ロンドンに本社を置く大手法律事務所Clyde & Coが2025年3月に発表したレポート注10 は、第2次トランプ政権の対内・対外直接投資規制の重要基本方針であるAFIPに関し、「同盟国やパートナー国からの投資を歓迎する一方、特に中国などの特定国からの投資に対しては制限を強化する選別的な対応を取っている。こうした対応は外国の投資家にとって不確実性の増大につながり、米国市場への参入障壁を高める可能性がある」と分析する。また、他の国・地域からの投資に関しても、「米国市場への自由なアクセスの要件として中国との関係を制限するよう圧力をかけ、暗黙の選択を迫っている」とし、AFIPが投資の自由を損ない、国際関係の緊張を高める可能性に懸念を示す。また同レポートは、日本やシンガポールなどのアジア太平洋地域の米国同盟国の扱いに関して、「事業が中国経済と密接に結びついている」との理由から、対米投資における審査が他の同盟国に比べより強化される可能性を示唆している。

なお、米国財務省は2025年5月、同盟国・パートナー国の対米投資促進に向け、対米投資案件審査の「ファストトラック制度」を試験運用すると発表している注11 。同制度の内容や、対象国・地域、対象企業などの具体的な情報は2025年6月時点で明らかになっていないが、財務省は同制度を試験運用した後、対象を拡大する方針を示している。こうした制度の構築が進むことに伴い、日本からの投資は「同盟国」としてファストトラックの恩恵を受ける可能性が期待される反面、中国と資本関係を有する企業や中国資本が一部含まれるファンドなどによる対米投資については、審査の厳格化や遅延のリスクもあり、今後の制度の運用に留意が必要となる。

米国を強くするための経済政策の成果を強調

スコット・ベッセント財務長官は、第2次トランプ政権発足100日間の経済政策の成果発表の中で、「トランプ大統領の経済政策の3つの要素、すなわち関税、減税、規制緩和は、それぞれ独立した政策ではない。これらは、経済成長と国内製造業を推進するために設計されたエンジンの相互に連携した部品である」ことを強調した注12 。関税は、再産業化と公正な貿易のインセンティブを生み出す役割を有し、減税によるコスト削減は家庭や企業の実質所得を増加させ、規制緩和は、エネルギーや製造業プロジェクトの投資を容易にすることで、関税を補完する役割を果たすとした。

このうち、減税などを柱とするコスト削減に関しては、米国連邦議会が7月、減税、歳出削減、債務上限引き上げなどの政策をまとめた「大きく美しい1つの法案」を可決した。同法案の主要項目には、前バイデン政権下で成立したインフレ削減法(IRA)に基づく税額控除削減などが含まれる。エネルギー転換や気候変動対策を重視した前政権の産業政策からの大きな方向転換となる(本章第3節第2項参照)。

こうした米国の経済政策をめぐる不確実性の高まりは、日本企業の投資意欲や対米ビジネスのスタンスにどのような変化をもたらしているのだろうか。ジェトロが2025年4月実施した米国の追加関税の影響に関するクイックアンケート調査によれば、追加関税への対応策のうち米国での事業見直しに関わる回答として、「米国での現地生産の増加」13.4%、「米国での販売縮小・撤退」10.8%と、相反する回答がいずれも1割強との結果であった(有効回答7,589社)注13 。いずれも全体に占める割合は1割台にとどまるものの、先行きが見通せない状況の中、企業の当面の対応方針にも大きなバラツキがある。また、ジェトロの在米国事務所が2025年4~5月にかけて在米日系企業向けに実施したインタビューの結果によると、同時点で現地生産体制やサプライチェーンの見直しに早急に着手する事例はほとんど見られない注14 。現地で生産活動を行う多くの企業は、既に最大限の現地化を進めている実態があるほか、米国内での人材採用やコスト、効率性の観点で、さらなる生産移管は困難、との声も聞かれる。また、サプライチェーンの移管や調達先の変更には数年の歳月を要することから、現政権の政策に即応した対応を進めること自体への慎重姿勢も見られる。

ワシントンD.C.に拠点を構える米コンサルティング会社の代表によれば、米国でのビジネスの継続・拡大を図る日本企業にとって、現地における情報収集およびロビイングの体制強化がより重要になっていると分析する。「企業活動に大きな影響を及ぼす通商政策や投資関連規制などが次々に導入・変更される中、可能な限り事前に情報を収集し、適切に対応することで自社の利益を守るための体制整備が必要不可欠。そのためのコストは対価を前提とする費用ではなく、中長期的な保険であるという意識変革が求められる」としている注15

EUの通商政策

経済安全保障の重要性を認識

EUの2024年の通商政策は、中国や米国を念頭に置いた域内産業の競争力強化を最優先し、過剰な域外依存の低減を目指す経済安全保障重視の方向性に特徴付けられる。2020年頃から、新型コロナウイルス感染拡大やウクライナ情勢など地政学リスクの高まり、世界情勢を受けたエネルギー価格の上昇、米国や中国と比較した研究開発投資の不足、域外からの製品流入などを理由に産業競争力が低下したことで、経済安全保障の重要性が認識されるようになった。2023年6月には、EUとして初めて「経済安全保障戦略」を策定した。

選挙イヤーとなった2024年は、難民・移民問題、高インフレなどの社会不安を背景に、6月の欧州議会選挙のほか、フランス、オーストリアなどの国政選挙でも反EU政党や極右政党の台頭が進んだ。ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が2024年7月に発表した2024~2029年の5年間の政治指針では、欧州理事会(EU首脳会議)が採択した戦略アジェンダに沿うかたちで競争力や防衛・安全保障の強化が最優先課題に位置付けられた。

域内の産業競争力強化に向け政策文書を発表

2024年後半から、第2次フォン・デア・ライエン体制発足(2024年12月)後の2025年第1四半期にかけて、域内の産業競争力強化に向けた政策が次々と発表された。中でも、大きな動きとして注目されたのが、「ドラギレポート」と「競争力コンパス」だ。

イタリア前首相で欧州中央銀行(ECB)総裁を務めたマリオ・ドラギ氏は2024年9月、「欧州の競争力の未来」と題する報告書を発表した。通称「ドラギレポート」と呼ばれる同報告書では、序章において、EUと米国の間に国内総生産(GDP)の大きな差が生じており、これは主に、デジタル革命とテック分野がもたらした生産性向上で、欧州が米国に大きく後れを取っていることが原因だと指摘。即座に実施可能な3つの政策として(1)特に先端技術において、米国や中国とのイノベーション・ギャップを埋めること、(2)脱炭素化と競争力強化の両立、(3)安全保障の強化と域外依存の低減、を提唱した。(1)については、欧州では既存の産業を破壊して新たな技術を生み出すような企業がほとんど生まれないとし、米国企業と比べて革新的な技術の研究開発(R&I)への投資が不足していると指摘した。(3)については、地政学リスクによる投資の減少を懸念するとともに、欧州は、クリーンテックによって需要が増えている重要な原材料を中国に依存しているとした。

2025年1月に欧州委員会が発表した政策文書「競争力コンパス」は、域内産業のイノベーションの停滞や製造業の空洞化を是正すべく、ドラギレポートの提言を行程表にしたものだ。ドラギレポートで示された3つの領域に関して2025~2026年までに策定される政策・法案の具体的な発表時期とその内容が示された(図表Ⅲ-13)。

図表Ⅲ-13 競争力コンパスで示された主な政策・法案(2025年5月末までに発表されたもの)
(1)米中とのイノベーション格差の是正 発表日 内容
AIファクトリー/AI活用戦略 4月9日 AIファクトリー構想のネットワークを通じたインフラ強化、AIスキルと人材の強化など5つの柱からなる「AI大陸行動計画」を発表。
スタートアップ・スケールアップ戦略 5月28日 スタートアップ・スケールアップの規制障壁の低減を目指す戦略。
(2)脱炭素化と競争力強化の両立 発表日 内容
クリーン産業ディール 2月26日 2050年の気候中立目標は維持。技術中立の原則に基づき、クリーンテック産業支援とエネルギー集約型産業の脱炭素化を推進。
安価なエネルギーに向けた行動計画 2月26日 エネルギー価格を引き下げに向けた、域内のグリッド整備への投資促進策。
炭素国境調整メカニズム(CBAM)の
見直し
2月26日 報告対象事業者を約90%削減し、小規模事業者の報告負担を軽減する簡素化案を発表。
自動車部門に関する産業行動計画 3月5日 2025年1月の「欧州自動車産業の将来に関する戦略的対話」を基に、国際競争力強化や域内生産維持の向けた施策を提示。
鉄鋼・金属行動計画 3月19日 鉄鋼・金属業界が必要とする投資、原材料アクセスや域外国の過剰生産など課題に対する具体案を提示。
(3)過剰な域外依存の軽減と安全保障の強化 発表日 内容
重要医薬品法案 3月11日 重要医薬品とその原料の供給を強化し、域外依存を軽減。
欧州防衛の将来に関する白書 3月19日 ウクライナ支援、欧州の防衛力の再構築、不足する重要技術と域内防衛産業の強化に向け、EUが実行すべき政策を示す。
域内安全保障戦略(ProtectEU) 4月1日 オンライン・オフラインを問わずEUが直面する脅威への共通対応策をEU法制に組み込み、ガバナンス・情報共有・協力を強化。
出所:
ビジネス短信、欧州委員会資料から作成

第1次フォン・デア・ライエン体制(2019~2024年)においては、2050年の気候中立達成を目指すべく、脱炭素化政策を進めてきた。第2次体制では、脱炭素化の実現という大きな方向性は変えずに、EUの産業競争力強化を重視する方向にシフトしている。欧州委員会は2025年2月26日に「クリーン産業ディール」を発表。2050年の気候中立目標はそのままに、技術中立の原則に基づき、急務となるエネルギー多消費産業への支援と、将来の競争力の核心となるクリーンテックへの支援に焦点を置いた。また、規制対応コストが域内の競争力低下の一因になっているとして、同日、企業の規制対応負担軽減のためのオムニバス法案が発表された(本章第3節第2項参照)。

中国を念頭に域内産業保護の政策を実施

2023年以降、EUの経済安全保障戦略において、中国は、互恵的な関係を目指す重要なパートナーかつ競争相手と位置付けられ、デカップリング(分断)ではなくデリスキング(リスク軽減)を推進してきた。2025年2月の演説でもフォン・デア・ライエン委員長は、対中関係を再び均衡化するため、経済関係の「デリスキング」を継続していく方針を示している注23

一方で、近年欧州は過剰生産され、大量流入する中国製品への警戒感を強めてきた。国家補助を受けた安価な中国製のバッテリー式電気自動車(BEV)の域内流入のほか、EUの重要課題である再生可能エネルギーへの転換においても、中国製品への依存が顕著である注24

欧州委員会は2023年10月、中国からEUに輸入されるBEVについて、相殺関税の賦課を視野に入れた反補助金調査を開始した。同調査に基づき、2024年10月には、中国製EVへの相殺関税を発動した注25 。反発を強めた中国は、2024年6月、EUを原産地とする豚肉と副産物に対するAD調査、同8月には乳製品に対する反補助金調査を行うと発表するなど、自国産業の保護に向けた両者の対立が強まっていた。

重要分野における域外依存軽減、域内生産強化のため、EUはさまざまな分野で域内産業保護政策を発表しているが、念頭には中国への過度な依存への危機感があるとみられる(図表Ⅲ-14)。

図表Ⅲ-14 対中国を念頭に置いたEUの域内産業保護政策
政策・規制 時期 概要
中国製BEVに対する相殺関税措置 2024年10月30日 中国製BEVの輸入に対し、2023年10月に反補助金調査を開始。調査結果に基づき、相殺関税措置の発動を決定。メーカーごとに7.8~35.3%の追加関税率を設定。
政策文書「安全で持続可能な電子商取引に関する包括的EUツールボックス」 2025年2月5日 域外のオンライン販売事業者やオンライン・マーケットプレイス(MP)で販売される少額輸入品(150ユーロ未満)に対する輸入管理を強化する方針を発表。
重要医薬品法案 2025年3月11日 不足すると重大な影響を及ぼす重要医薬品について、域内製造能力強化に向けた投資促進策の導入、公共調達での価格以外の調達基準(備蓄義務、供給元の多角化などを想定)の適用義務付けなどの措置を盛り込む。
鉄鋼セーフガード措置の厳格化 2025年3月25日 急増する輸入からEU域内の鉄鋼産業の生産者を保護するため、鉄鋼製品26品目について関税割当枠(クオータ)を設定し、超過分には25%の関税を課す。
重要原材料法に基づき戦略的事業を初認定 2025年3月26日 重要原材料法に基づき、重要原材料を主に域内で採掘、加工、リサイクルする事業を支援する戦略的事業を、2024年5月の施行以来初めて認定(13の加盟国から47事業)。許認可手続きの簡略化や迅速化のほか、財政支援へのアクセスにおいて優遇を受けることができる。
ネットゼロ産業法の強靭性要件 2025年5月23日 再生可能エネルギー(再エネ)整備の競争入札の事前資格審査基準と選定基準に、域外国への依存を一定以下に抑えることを目的とした強靭性要件を含める実施規則案を発表。最終製品、あるいは一定以上の主要部品が特定の域外国製が域内シェア50%を超える場合、入札を認めない。
EU域内の一部の医療機器公共調達から
中国企業を排除
2025年6月20日 実施規則により、域内の500万ユーロ以上の医療機器公共入札から中国企業が排除されるほか、落札企業に対しては、設立国にかかわらず、提供する医療機器のうち中国製を契約額の50%以下にすることを求める。国際調達措置(IPI)規則に基づく初の措置。
出所:
ビジネス短信、欧州委員会資料から作成

欧州委員会は2025年2月、域外のオンライン販売事業者やオンライン・マーケットプレイス(MP)で販売される少額輸入品(150ユーロ未満)に対する輸入管理を強化する方針を発表した。域内消費者向けの販売を急速に伸ばす中国のMPに対し、監督を一段と強化している。2025年5月には、中国発の越境ECプラットフォーム、シーイン(SHEIN)に対し、消費者保護規制に違反しているとして是正命令を出した。

エネルギーについては、ロシアによるウクライナ侵攻開始以降、ロシアへの過度な依存が浮き彫りとなった。安定供給と価格高騰の抑制が継続的な課題となる中、EUはロシア産エネルギー依存からの脱却を進めている。2027年末までにロシア産ガス輸入の完全禁止を目指す方針だ。

第2次トランプ政権の関税措置への対応

過去数年、EUにとっての経済安全保障政策は、基本的には中国とロシアを念頭に置いたものであり、米国はEUの同盟国でパートナーだった。その姿勢は現在も変わらないものの、2025年1月に発足した第2次トランプ政権による関税措置やウクライナ情勢に関する欧州抜きでの和平交渉にEUは危機感を強めるとともに、対外政策の見直しを進めている。米国の関税措置に対しては、建設的な対話や交渉による解決の道を探りつつ、不公平な追加関税の標的にされた場合には、対抗措置をとるスタンスを取る。EUがこれまでに発表した対抗措置は、以下のとおり(図表Ⅲ-15)。

図表Ⅲ-15 米国関税措置に対するEUの対抗措置
発行日 関税率など
3月12日 米国 鉄鋼・アルミ25%追加関税の一律適用を開始
EU 鉄鋼・アルミ25%追加関税への対抗措置として、4月から米国に2段階で追加関税(総額260億ユーロ規模)を課すと発表
(第1弾)鉄鋼・アルミ製品やウイスキーなどに対する2018年と2020年の追加関税の再適用(4月1日適用開始)
(第2弾)農産品や繊維、家電を含む工業製品など、今回新たに提案する180億ユーロ規模の関税パッケージ(4月15日適用開始)
3月20日 EU 4月1日に予定していた第1弾の対抗措置の適用開始を延期し、第2弾と合わせて4月中旬に同時に適用すると発表
4月2日 米国 10%の世界共通ベースライン関税と、個別に設定する相互関税を課す大統領令を発表
4月3日 米国 自動車に対する25%の追加関税を発動
4月9日 EU 加盟国の投票による承認により、4月15日からの鉄鋼・アルミ追加関税への報復措置の発動を正式に決定
米国 相互関税を発動、13時間後に同関税を90日間停止と発表
4月10日 EU 米国の適用停止を受け、対抗措置の適用の90日間延期を発表
5月3日 米国 自動車部品に対する25%の追加関税を発動
5月8日 EU 米国との交渉が決裂した場合に実施を検討する、対抗措置の対象品目案の一覧表(950億ユーロ規模)を発表
7月12日 米国 EUに8月1日から30%の追加関税を通告
出所:
ビジネス短信、欧州委員会資料から作成

トランプ大統領が発動した相互関税は、米国の貿易赤字額や各国の関税率・非関税障壁に対応するものだとされている。EUに設定された関税率は、20%と比較的高い。米国商務省の貿易統計によると、2024年の米国の対EU貿易赤字は2,367億ドルで、1位の対中国(2,952億ドルの赤字)に次ぐ赤字額だった。USTRが2025年3月31日に公表した2025年版NTEの中で、EUに関しては34ページを割き、2023年のEUの最恵国(MFN)税率が平均5.0%で、特に農産品(10.8%)で高く、水産品(26%)のほか、非農産品としてトラック(22%)、自転車(14%)、乗用車(10%)などの関税が高いとした。非関税障壁に関しては、EUのサステナビリティ関連の各種規制、後述するデジタル貿易障壁、政府による補助金などを問題視しているとした。

EUは、前述のとおり対抗措置を用意しつつも、米国との協議や交渉による解決の道を探っている。フォン・デア・ライエン委員長は4月7日、記者発表の場で、米国との交渉で工業製品の関税を相互にゼロにする提案(zero-for-zero tariffs)を行ったと発表した。zero-for- zero tariffs は、米国とEUが10年ほど前に包括的貿易投資協定(TTIP)の協議の中で工業製品関税の撤廃を目指したが、最終的にはトランプ大統領の最初の任期中に頓挫したものだ。

一方、英国は、国・地域ごとに個別に設定される相互関税の対象となっておらず、5月8日、米国との通商交渉で合意。農業分野を中心とする米国製品の輸出市場アクセス拡大で譲歩し、自動車関税について英国産自動車に対する関税割当の導入、鉄鋼・アルミニウム関税について代替措置の交渉で合意。一方、10%のベースライン関税は維持された。

貿易パートナーの多角化を推進

EUは、対米関係の不確実性や米国依存のリスクへの危機感から、貿易パートナーの多角化を進めている。特に英国とは、EU離脱(ブレグジット)後初となる2025年5月19日のEU英国首脳会談で、農産品、防衛・安全保障、エネルギーなど多分野で関係深化に向け合意し、関係の再構築が進む。カナダ、日本といった自由貿易を支持する国々との連携強化を図る動きも見られる(本章2節第2項参照)。

2024年12月にEU・メルコスール間のFTA交渉で最終合意したほか、2025年1月には12年間の中断を経てマレーシアとのFTA交渉再開を発表。インドネシア、タイとの交渉も着実に進展し、インドとも2025年中にFTA締結を目指すことで合意。同年6月にはオーストラリアとも2023年以来凍結されていた交渉再開で合意するなど、幅広い地域との協定交渉を積極的に推進している。

米国の関税措置は、EUの対中関係にも影響を及ぼそうとしている。2025年4月8日、中国の李強首相との電話会談で、フォン・デア・ライエン委員長は米国の関税措置などを踏まえ、「EUと中国が継続的かつ安定的な関係を維持する重要性」を強調した。2025年3月に行われた欧州委員会のマレシュ・シェフチョビチ委員(通商・経済安全保障、EU機構関係・透明性担当)と中国政府との会談では、中国製EVの最低輸入価格を設定する「価格約束」導入に関する交渉開始に合意した。一方で、トランプ政権下での関税引き上げによって、これまで米国に輸出されていた過剰供給製品がEU市場に流入し、特に中国からの安価な商品が氾濫することが懸念されている。「デリスキング」を進めてきた中で、EUの対中関係の変化にも注目が集まる。

なお、欧州委員会は2025年6月、第三国・地域による高税率の関税措置などの影響を受け、行き場を失った製品がEU市場に大量に流入するのを抑止するため、新たな輸入動向監視システムの立ち上げを発表した注26 。EU域内でも生産されている製品で、前年同期比較で輸入量が増加し、かつ平均輸入価格が低下した輸入製品を特定。保護が必要な製品については、通商防衛措置の実施に向けた調査や相手国との協議を実施するとした。

EUのデジタル関連規制と米国大手IT企業

EUで2022年11月に施行したデジタル市場法(DMA)は、オンライン仲介サービスや検索エンジン、SNS、動画共有、オペレーティングシステムなど「中核プラットフォーム」の中でも、アップル、メタ、マイクロソフト、アマゾンなど「ゲートキーパー」に指定された企業が域内の企業・ユーザーに不公平な条件を課すことを防止し、公平な競争条件を確保することを目的とする。違反した場合、前会計年度の全世界年間売上高の最大10%注27 という巨額の制裁金が科されることになる。現在までにアップルや、グーグルの親会社アルファベットなど、複数の米国企業がDMAを順守していないとして欧州委員会から指摘されている。

一方、米国のトランプ大統領は、EUや加盟国による米巨大テック企業に対する規制を問題視する。2025年2月には、1974年通商法301条に基づくデジタルサービス税の調査再開を発表した。フランスやイタリア、スペインが導入する同税を問題視し、対抗措置を検討するとしている(本章第3節第1項参照)。

中国の通商政策

多国間主義の堅持と国家安全保障の強化

2025年における中国の通商政策の方針は、多国間主義の堅持を基本としつつ、同時に国家安全保障の観点から、戦略的自律性、戦略的不可欠性を強化していくというものとなっている。加えて、米中対立を背景に中国の周辺国や中国が主導する一帯一路関係国との経済貿易関係をさらに強化する動きが見られる点が2025年の特徴といえる。

2025年の経済運営の方針を決める重要会議「中央経済工作会議」においては、重点政策として、従前より掲げられてきた「高水準の対外開放の拡大、対外貿易と外資企業の安定化注28 」に加え、「段階的に自主的な開放と、一方的な開放を拡大する」との新たな方針を打ち出した注29 。なお、この方針は、2025年3月の全国人民代表大会(全人代)第3回会議において政府施政方針としても承認されている。

中国共産党新聞ホームページに掲載された解説によると、「自主的開放」とは、「中国が自国の発展ニーズに基づき、自主的かつ計画的に、範囲と段階を明確にしながら対外開放をすること」とされる注30 。他方、「一方的な開放」とは、「ある国や地域が国際貿易において、他国や地域に対して一方的に市場を開放すること」とされる。いずれも、外資や技術を引き付けることを目的とするものとして解説されている。つまり、この目的の達成のために、中国が他国・地域に対して自主的あるいは一方的に市場を開放するという手段が位置付けられている。

この思想の根幹は、2020年10月に公表された習近平国家主席の論文「国家中長期経済社会発展戦略上のいくつかの重大問題」に端的に表れている。具体的には、中国は改革開放政策の実施以降、世界の工場として発展を遂げてきたものの、その発展モデルにおいては、「市場と資源」をともに国外に依存しているとの問題意識である。それを踏まえ、内需拡大による国内の大循環を形成するとともに、サプライチェーンの安全保障を強化し、国際産業チェーンの中国への依存度合を高め、外部からの人為的な供給遮断に対する強力な反撃力と抑止力を形成するとの考えを示していた注31

この考え方が第14次5カ年規画(2021~25年)期間における中国の通商政策の基礎となる「双循環発展」戦略の一部をなしている。中国政府は、この戦略について、戦略的自律性や戦略的不可欠性を高めるものという表現は使用していないが、概念としては非常に似通っていると考えられる。

貨物、データ、技術の管理強化が進む

2018年前後からの米中対立の激化と同時期に中国政府は、貨物、データ、技術等の輸出管理の強化を進めてきた。貨物や技術に関しては基本法である輸出管理法が2020年12月から施行されたことに加え、2024年12月には、軍事用と民生用の両方で利用可能な両用品目の輸出管理を規定する、両用品目輸出管理条例が施行された。データの管理については、データ3法と呼ばれる、サイバーセキュリティ法(2017年6月施行)、データセキュリティ法(2021年9月施行)、個人情報保護法(2021年11月施行)で、システム面の管理、データの中身の取り扱い、越境移転を含む個人情報の保護といった内容について管理を強化した(図表Ⅲ-16)。

図表Ⅲ-16 中国の主な安全保障貿易管理、データ管理関連制度
分野 法制度名 概要
貨物・技術 輸出管理法
(2020年12月施行)
安全保障貿易管理の観点からの輸出を包括的、全体的に管理規制する基本法。両用品目、軍用品、核等の貨物、技術、サービス等の品目の輸出等について適用される。技術の移転には、当該品目に関連する技術資料等のデータも含まれる。いわゆるキャッチオール規制の規定もある。
両用品目輸出管理条例
(2024年12月施行)
両用品目輸出管理条例は輸出管理法などに基づき、両用品目の管理規定をより明確化し、強化するもの。対象となる品目のリストも公表されている。
データ サイバーセキュリティ法
(2017年6月施行)
サイバーセキュリティ法は、ネットワーク空間の安全保障の観点で「システム面の管理」を規定するもの。
データセキュリティ法
(2021年9月施行)
データセキュリティ法は、データおよびデータ取扱いの安全保障の観点で、「中身の取扱い」を規定するもの。
個人情報保護法
(2021年11月施行)
個人情報保護法は個人情報の取り扱いを規定するもの。越境移転規制、データローカライゼーションなどが盛り込まれた。
出所:
中国国務院、商務部、国家インターネット情報弁公室、全国人民代表大会ウェブサイトから作成

両用品目の輸出管理については、黒鉛のほか、タングステン、ガリウム、ゲルマニウム、ジスプロシウム、サマリウム等のレアメタル、レアアースが段階的に管理の対象に追加された。なお、中国は過去に資源保護等を目的にレアアース等の輸出制限を行ったが、日米欧によりWTOに提訴され、敗訴した経緯がある注32 。安全保障貿易情報センター(CISTEC)は、中国がこれらの品目を輸出管理品目とする背景について輸出管理法の立法検討過程での中国商務部傘下のシンクタンクの報告書や起草説明において、「戦略的稀少鉱物資源の保護」を目的としていることなどを指摘した。その上で、中国がこれらレアアース等を「“戦略物資”として輸出規制し、GATTの第21条(安全保障例外条項)を適用してWTO違反に問われないようにする」可能性について言及していた注33

データと技術については、前述の第14次5カ年規画において、中国が中長期的に安定成長を維持するためには、新たな生産要素と定義付けたデータと技術の市場化、取引・管理ルール形成が必要と位置付けられ、越境に関するルール等が急速に整備された。中国政府は米中摩擦などによる生産要素のデカップリング、WTO等での紛争発生のリスクへの備えとして、さらには中国が国際的な制度や秩序の形成においての発言権(話語権)を行使するためにもこれらの輸出管理やデータ管理等の国内法整備を加速させた側面が指摘される注34

これらの制度の施行により、日系企業に対しても特に、中国からの両用品目(技術)の輸出、個人情報を含むデータの越境について必要な当局の許認可取得が増えるなどの実務上の影響が発生した。

今後の注目点として、両用品目輸出管理条例では米国の輸出管理規則(EAR)に類似した再輸出規制が導入された点が挙げられる。この規制では、米国の規制同様に、デミニミス・ルール、直接製品規制、原産品規制が盛り込まれた。また、米国の未検証エンドユーザーリスト(Unverified List)に相当する「注視リスト」や、エンティティー・リストに相当する「輸出管理コントロールリスト」の導入などで、エンドユーザーやエンドユースの管理も強化するという制度的な建付けとなった。

これまで米国の輸出管理法令によって、特に半導体分野の日本企業が、再輸出規制の対応に苦慮してきた状況があった注35 。一方、中国の再輸出管理制度については、2025年5月時点で、組み込み品の比率など重要な点が明らかになっていない。しかし、本格的な運用がなされた場合、原材料の多くを中国から調達する日本企業にとっては、中国からの調達の一部の見直しを迫られる可能性もあるなど、大きな影響を与える可能性が指摘される。

追加関税の影響は限定的、レアアース等の輸出管理強化で日本企業に大きな影響

2025年2月以降、米国政府による中国原産品の輸入に対する追加関税の賦課とそれを受けた中国の追加関税の賦課の応酬が繰り返し行われた(図表Ⅲ-17)。

図表Ⅲ-17 中国が実施した関税以外の主な措置
施行日 項目 内容
2月4日 輸出管理 タングステン、テルル、ビスマス、モリブデン、インジウムの関連品目を輸出管理の対象に追加。
信頼できないエンティティー・リスト カルバン・クラインなどを運営する米アパレル大手PVHをリストに追加。
米バイオ企業イルミナをリストに追加。
独占禁止法 米グーグルに対し、中国の独占禁止法違反の疑いで調査開始。
WTO WTOに提訴。
3月4日 輸出管理 米国企業15社を「輸出管理コントロールリスト」に掲載し、これら企業への両用品目の輸出を禁止すると発表。
検疫措置等 米国産原木から害虫を検出したとして米国産原木の輸入を停止すると発表。
米国産大豆から麦角菌等を検出したとして、米国の農業協同組合CHSなど3社からの大豆の輸入を停止すると発表。
信頼できないエンティティー・リスト 10社の米国企業を同リストに追加。米イルミナについて、中国向けのゲノムシーケンサーの輸出を禁止。
貿易救済措置 米国を原産地とする一部の光ファイバー製品に対する「反規制回避調査」を行うと発表。
4月4日 輸出管理 サマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム等の関連品目を輸出管理の対象品目に追加。
米国企業16社を「輸出管理コントロールリスト」に掲載し、これら企業への両用品目の輸出を禁止すると発表。
検疫措置等 米国産ソルガムから、基準値を超えるカビを検出したとして米国C&D社からの輸入停止を発表。
米国産鶏骨粉からサルモネラ菌を検出したとして、米国3社からの輸入停止を発表。
信頼できないエンティティー・リスト 11社の米国企業を同リストに追加。中国との貿易活動および中国への新規投資を禁止。
独占禁止法 米化学大手デュポンの中国現地法人に対し、独占禁止法違反の疑いで調査開始。
貿易救済措置 米国およびインドを原産地とする医療用CT装置用X線管・管芯に対するアンチダンピング調査を開始したと発表。
4月10日 輸出管理 米国企業12社を「輸出管理コントロールリスト」に掲載し、これらの企業への両用品目の輸出を禁止すると発表。
信頼できないエンティティー・リスト 6社の米国企業を同リストに追加。中国との貿易活動および中国への新規投資を禁止。
出所:
中国商務部、税関総署ウェブサイトから作成

米国が合成麻薬フェンタニルの流入を理由に2月4日、中国原産の輸入品に対する10%の追加関税を適用したことを受け、中国は2月10日より、米国原産の液化天然ガス(LNG)、コークス用石炭、原油など80品目に対し、10%もしくは15%の追加関税を賦課した。さらに、米国が同追加関税を3月4日以降、10%から20%に引き上げたことに対し、中国は3月10日より、米国原産の綿花、トウモロコシ、黄大豆などを含む輸入品740品目に対し、10%もしくは15%の追加関税を賦課する措置を発動した。

また、米国が4月5日に発動した国・地域を問わない一律10%のベースライン関税、および4月9日以降、中国に対しては追加で24%(合計34%)の相互関税の発表を受け、中国は対抗措置として、4月10日から米国原産の全輸入品に34%の追加関税を課すと発表した。米国はそれを受け、相互関税を84%に引き上げ、中国も84%に引き上げた。その後、米国は4月10日以降、中国原産品に対する相互関税率を125%に引き上げ、中国も125%まで関税を引き上げた。

5月12日にスイス・ジュネーブで行われた「米国と中国の経済と貿易に関する会談」の結果、中国政府は125%まで引き上げた追加関税のうち91%分を取り消すと発表した。さらに、4月10日から賦課した追加関税34%のうち、24%は90日間の暫定停止とし、10%を維持すると発表した。また、2025年4月2日以降に発動された、米国に対する非関税対抗措置を停止または取り消すとした。具体的に暫定停止された主な措置としては、中国商務部が4月4日と9日に発表した「信頼できないエンティティー・リスト」への米国企業計17社の掲載について、5月14日から90日間停止するというものがある。このほか、中国商務部が4月4日と9日に発表した「輸出管理コントロールリスト」への米国企業計28社の掲載も5月14日から90日間停止された。一方で、中国が4月4日から実施した「中・重希土類7種のレアアース関連品目の輸出管理」などについて、米中間で停止または取り消すと合意された「米国に対する非関税対抗措置」に該当するか2025年5月時点で不明確となっている。

中国でビジネスを展開する日系企業では、2018年前後からの米中対立をきっかけにサプライチェーン断絶のリスク低減のため中国と米国の間での直接貿易の比率を下げる動きが目立っていた。ジェトロの2024年度海外進出日系企業実態調査によると、中国進出日系企業による輸出先の内訳(平均)のうち、米国は5.4%となっており限定的となっていた注36 。ジェトロによる中国進出日系企業へのヒアリングにおいても、直接対米輸出を行っているケースは少なく、国内景気の悪化や取引先となる現地企業からの受注減など間接的な影響を懸念する企業が多かった注37 。一方で、米国の追加関税措置よりも、それと同時期に断続的に実施された中国によるレアアースやレアメタルの輸出管理強化による影響が大きいとの声が聞かれる注38 。特に2025年4月4日に施行されたレアアース7種に対する輸出管理の強化については、それを含む永久磁石などの中国からの輸出のために中国商務部の許可を得る必要があり、その許可に時間がかかり、一部の品目で生産が停止するなどサプライチェーンに影響が出ているといった事例が出ている。

これらレアアース等の輸出管理の強化については、中国政府は直接的な対米対抗措置と公式には説明していないため、追加関税が取り消されても、残存する可能性がある。今後の日系企業のサプライチェーンの脆弱性として大きなリスクとなることが懸念される。

周辺国等との経済貿易関係の強化

全人代において決定された2025年における経済連携等枠組みの推進の方針としては、質の高い「一帯一路」共同建設の一層の深化・充実化および多国間・二国間および地域的な経済協力の深化が挙げられた。「一帯一路」については、「中欧班列注39 」の安定的で円滑な運行や、中国企業の海外進出総合支援を強化し、産業チェーン・サプライチェーンの国際協力・配置を最適化することなどが示された。経済協力については、WTOを中核とする多国間貿易体制の擁護を強調するとともに、グローバル志向の高水準なFTAネットワークを引き続き拡大するとし、ASEANと中国との自由貿易協定(ACFTA)のアップグレード(ACFTA3.0)の調印の推進、デジタル経済連携協定(DEPA)、CPTPPへの加盟交渉の推進などが示された。

周辺国との経済協力について、中国指導部は2025年4月8~9日に、周辺国との外交の在り方などを決定する中央周辺工作会議を開催。会議では「現在、中国と周辺諸国との関係は近代以来最も良好な時期にあり、同時に、周辺地域の情勢と世界情勢の変革が深く相互に影響し合う重要な段階に入っている」との認識が示された。

また、同会議では「周辺国家との相互信頼を強固にしなければならない」、「サプライチェーンの協力を強化し、地域の安定を共同で守り、各種のリスクや挑戦に対応する必要がある」などの方針が打ち出された。同会議後、4月14~18日にかけて、習近平国家主席がベトナム、マレーシア、カンボジアを訪問し、外交・貿易関係を強化した。ベトナムとの共同声明においては、両国が地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の質の高い運用を推進することに加え、香港のRCEPへの申請・加盟を積極的に歓迎すると示した。また、ベトナム側は中国がCPTPPの基準と加盟プロセスに合致することを前提に、同協定に加盟することを支持するとも表明した。また、中国とマレーシアとの共同声明において、マレーシア側が、CPTPPへの中国の加盟申請を歓迎した注40

ASEANの通商政策

トランプ2.0への対応に奔走するASEAN

ASEAN加盟国は、第1次トランプ政権以降に激化した米中対立の影響を受け、中国からの生産拠点・輸出拠点の移管先として注目され、直接投資の流入が増加傾向にあった。トランプ政権以前の2010年代前半では、2010年の尖閣諸島中国漁船衝突事件や、中国の人件費高騰などを背景として、日本企業が生産拠点の分散先としてASEANへ工場を設ける「チャイナ・プラスワン」戦略が進展した。その後、第1次トランプ政権からは、主要なグローバル企業、中国企業、台湾企業においても、中国からASEANやインドへと生産拠点をシフトさせる動きが加速した。中国の生産工場は中国市場向けとし、中国以外の市場についてはASEANを基幹工場とする「China for China」という考え方に基づいてサプライチェーンのポートフォリオを組みなおす企業が世界的に増えた注41 。そのため、世界的に外国直接投資(FDI)が低調となるなか、グローバルサウス諸国へのFDIは好調であり、特にASEANへの投資は拡大が見られた。つまり米中対立の構図の中では第三者的な立場、いわば「漁夫の利を得る」ポジションを得た。

しかし、米国で第2次トランプ政権が発足し、特に2025年4月に発表された相互関税措置では、中国のみならず、ベトナム、タイをはじめとするASEAN各国からの対米輸出品に対しても高関税を追加で賦課する内容となっており、ASEAN各国に衝撃を与えた。結果的に相互関税の賦課は7月9日まで延期された(同年6月末時点)ものの、ASEAN各国政府は、当事者として米国との通商交渉に臨む必要に迫られている。米国が主張する貿易赤字の是正、迂回輸出の防止、知的財産の保護などの要求に対応するため、ASEAN各国は、米国からの輸入拡大や迂回輸出対策としての原産地証明手続きの厳格化などの対策に早急に取り組まねばならなくなった。

米国側の国・地域別輸入額の変化(2018年から2024年の変化)を見ると、米国の対中輸入は18.5%減となった一方、ASEAN全体では90.6%増となっており、ラオスは5.7倍、カンボジアは3.3倍、ベトナムは2.8倍に拡大している(図表Ⅲ-18)。第1章でも言及したとおり、米国の第2次トランプ政権は、第1次政権時と同様に、拡大する貿易赤字を問題視しており、同大統領は「米国は長年にわたり、友好国か敵対国かを問わず、貿易相手国から不公正な扱いを受けてきた注42 」と述べている。

図表Ⅲ-18 2024年の米国の輸入(2018年比伸び率)
2024年の米国の国・地域別輸入額の変化を2018年時点と比較して、その伸び率を見てみる。米国の対中輸入は18.5%減となったが、ASEAN全体では90.6%という大幅増。中でもラオスは466.1%、カンボジアは232.9%、ベトナムは177.9%といずれも大きく増加している。ほかの地域においても、ブルネイ143.7%増、タイ98.7%増、シンガポール62.9%増、インドネシア34.9%増、マレーシア33.5%増、ミャンマー32.4%増、フィリピン12.6%増と、いずれもかなりの伸びを見せている。
出所:
Global Trade Atlasから作成

米国の貿易赤字について、国・地域別の構成を見ると、対中貿易赤字(2024年)は2018年に比べて減少したが、対ASEANの貿易赤字額は、2018年に比べて2.3倍に拡大している。特に伸び率が高いのが、ラオス、カンボジア、ベトナム、ミャンマー、タイという、いわゆる大メコン圏(GMS)、陸側のASEAN諸国である。メコン諸国へ賦課された相互関税率(2025年4月2日発表)を見ると、カンボジアは49%、ラオスは48%、ベトナムは46%、ミャンマーは44%、タイは36%となっており、他国と比較しても高水準で設定されている。(図表Ⅲ-19)

図表Ⅲ-19 米国の貿易収支と相互関税(国・地域別)
国・地域 2018年
(金額)
2024年
(金額)
相互関税(%)
(4月) (8月)
世界 △ 870.4 △ 1,202.9
中国 △ 418.2 △ 295.4 125⇒34
(ベースライン10%のみ適用)
34
(ベースライン10%のみ適用)
EU27 △ 174.2 △ 235.6 20 15
ASEAN △ 98.9 △ 227.6
階層レベル2の項目ベトナム △ 39.5 △ 123.5 46 20
階層レベル2の項目タイ △ 19.3 △ 45.6 36 19
階層レベル2の項目マレーシア △ 26.4 △ 24.8 24 19
階層レベル2の項目インドネシア △ 12.7 △ 17.9 32 19
階層レベル2の項目カンボジア △ 3.4 △ 12.3 49 19
階層レベル2の項目フィリピン △ 3.9 △ 4.9 17 19
階層レベル2の項目ラオス △ 0.1 △ 0.8 48 40
階層レベル2の項目ミャンマー △ 0.2 △ 0.6 44 40
階層レベル2の項目ブルネイ 0.2 △ 0.1 24 25
階層レベル2の項目シンガポール 6.4 2.8 10 10
メキシコ △ 77.7 △ 171.8 対象外 対象外
日本 △ 67.1 △ 68.5 24 15
インド △ 21.1 △ 45.7 26 25
出所:
Global Trade Atlas、米国政府公開資料(大統領令のAnnex I)トゥルース・ソーシャル(トランプ大統領のSNS)から作成

米国との交渉に臨むASEAN

ASEAN各国では、トランプ政権の相互関税に対して報復措置を取らない方針を表明しつつ、対策本部を組織し、米国の貿易赤字解消(米国からの輸入増)、迂回輸出への対策の強化といった米国への提案を検討し、トランプ政権との交渉に臨もうとする動きが見られる。

ベトナムは、相互関税の導入が停止された2025年4月9日に、米国との二国間貿易協定の交渉開始に合意したと発表した。ベトナム側からは、輸入関税の税率引き下げや、航空機、LNG、防衛品などの輸入強化等を主な交渉材料として提案したほか、米国側の問題視する中国製品の迂回輸出や、知的財産の盗用、付加価値税(VAT)などにも取り組みが求められた。ベトナム政府は7月2日、米国との貿易枠組みに関して合意に達したと発表し、トランプ大統領もSNSを通じてベトナムとの関税交渉が合意に至ったことを明らかにしている注43 。米国がベトナムに対して課す相互関税は、当初発表の46%から引き下げられる見通しである。

タイ政府は5月14日、(1)データセンター、人工知能(AI)分野での協力および関税・非関税障壁の削減策の検討、(2)米国からのエネルギー製品、農産品、航空機などの輸入拡大、(3)果物や飼料用トウモロコシなど農産品の市場開放、(4)原産地偽装請求防止法の施行、(5)タイ企業による米国向け投資の促進という5項目を盛り込んだ交渉枠組みをUSTRに提出注44 した。APEC貿易担当大臣会合においても、ピチャイ・ナリプタパン商務相がUSTRのジェミソン・グリア代表と面談し、米国政府からも前向きな反応があったという。

2025年のASEAN議長国であるマレーシアは、米国から設定された相互関税率は24%と周辺国に比べれば低い水準だったが、「米国の措置を深刻に受け止める」という声明を発表注45 。4月22日から24日にかけてワシントンD.C.で行われた二国間協議では、マレーシア投資貿易産業省(MITI)のザフルル・アジズ投資貿易産業相がハワード・ラトニック商務長官やグリアUSTR代表と会談した。(1)対米貿易黒字の削減、(2)非関税障壁への対応、(3)技術分野のセーフガードと安全保障の強化、(4)二国間貿易協定締結の検討の4つを議論した注46

米国からの関税措置に対応し、ASEAN加盟国間では横の連携を強めようとする動きがある。4月11日にはASEAN特別経済大臣会合がオンラインで開催され、「米国への報復措置をとらない」という共通の意向が表明された。ASEANと米国との枠組みであるASEAN米国貿易投資枠組み協定(TIFA)、拡大経済関与(E3)の下、双方向の貿易投資の促進、戦略的貿易パートナーシップの深化、デジタル技術を活用したサプライチェーン連結性と強靭性の強化を含んだ共通の関心事について、相互に受け入れ可能な解決策を探るため、「米国と協力する用意がある」との声明が発表された注47

迂回輸出対策を強化する動き

貿易赤字に加え、米国が懸念を強めているのが、ASEAN諸国を経由した中国製品の「迂回輸出」の問題である。この現象は、2017年から2021年にかけての第1次トランプ政権期に顕在化したものであり、当時は中国製のタイヤ、太陽電池パネル、バッテリー等が米国市場に大量に流入していた。これに対し、米国政府はアンチダンピング(AD)税や相殺関税(CVD)などの貿易救済措置を発動し、中国からの輸入は一時的に減少した。しかしその後、ASEAN諸国を含む第三国からの同種製品の米国への輸入が急増する事態が継続的に発生している。このような動きに対し、米国側は、中国製品が第三国を経由することで原産地を偽装し、関税回避を図っているのではないかとの疑念を抱いている。

実際、導入された関税障壁を避けるように、中国メーカーは東南アジアへ輸出拠点を移管する動きを活発化させている。輸入製品について、米国側では「最後に実質的な変更」が行われた国を原産国と判断する。原産性を得るための十分な加工が行われていれば問題はないが、実際には十分な加工や付加価値が加えられず、米国に「メード・イン・〇〇(迂回地)」として流入している実態が指摘されている注48

東南アジアを経由した迂回輸出の代表例として、太陽電池パネルが挙げられる。本件は、米国がかねてより問題視しており、米国商務省は2023年8月に、中国系メーカー5社がカンボジア、マレーシア、タイ、ベトナムの4カ国を経由して迂回輸出しているとの判断を示した注49 。さらに、2024年5月に同4カ国の太陽電池について、ADとCVDの発動要否を判断する事実確認調査を開始した。2024年10月にCVD、11月にADの賦課が仮決定された。こうした措置の結果、タイ、マレーシア、カンボジアからの輸入は減少した。しかし、代替としてベトナム、ラオスやインドネシアからの輸入が増加している(図表Ⅲ-20)。2024年の米国の対ラオス輸入額は前年比2.6倍の8億300万ドルとなったが、同増加分の内訳を見ると、70%が太陽電池関連2品目(HS8541.42、8541.43)の増加によるものである。同2品目の輸入額は、2023年はわずか6,700ドルに過ぎなかったが、2024年に3億4,900万ドルにまで拡大しており、輸入増加額全体の約70%を占めた。これはラオス国内での太陽電池製造能力の拡充と密接に関連しており、中国系企業である中潤光能が2023年9月にラオスで太陽電池パネル製造工場を開設し、生産と米国向け輸出の増加に寄与している注50

図表Ⅲ-20 アジアからの米国向け太陽電池輸出
アジアからの米国向け太陽電池輸出の推移を2015年から2024年まで確認してみる。2015年時点では、中国23億6768万ドル、マレーシア15億3902万ドル、ベトナム1億8235万ドル、タイ8774万ドル、インドネシア478万ドル、カンボジア0.7万ドル、という数字だった。しかし、その後中国が大きく減少し、他の国が躍進。2023年には、中国2億506万ドル、ベトナム49億8243万ドル、タイ42億3611万ドル、マレーシア32億5466万ドル、カンボジア23億9206万ドル、インドネシア2億4594万ドル、そして新たにラオスが0.7万ドルとなった。2024年には、タイ、マレーシア、カンボジアがやや減少するが、ベトナム、インドネシア、ラオスが伸びを見せ、ベトナム54億4894万ドル、タイ34億590万ドル、マレーシア28億3147万ドル、カンボジア13億4774万ドル、インドネシア4億6022万ドル、ラオス3億4937万ドルという結果に。中国はそれらを下回る2億2599万ドルとなった。
注:
2021年まではHS8541.40、2022年以降はHS番号の見直しに伴いHS8541.41、8541.42、8541.43、8541.49の合算。
出所:
Global Trade Atlasから作成

迂回輸出の防止に向けて、各国では取り組み強化を発表しており、米国にアピールする狙いがあるとみられる。マレーシアの投資貿易産業省(MITI)は2025年5月5日、米国向けの輸出における非特恵原産地証明書(NPCO)につき、翌5月6日以降は同省を唯一の発給機関とすると発表した。これまで発給機関として指定していたマレーシア製造業者連盟(FMM)など業界団体や商工会議所でのNPCO発行を、米国向けに限り即時停止し、物品の原産地に関する虚偽申告や、これによる関税回避を断固認めない考えを改めて表明した注51

タイ政府も、迂回輸出への対策を強化している。タイではNPCOは、タイ商務省のほか、タイ工業連盟(FTI)、タイ商業会議所(TCC)で発給を受けることができる。この運用について、4月22日にタイ商務省、タイ税関などは関係者で会議を開催し、監視対象品目のNPCOについてはタイ商務省のみが発給する方式に変更することで合意した。また、監視対象品目についても65品目を追加し、合計224品目とした。

適正な貿易管理の徹底が必要となる

業種や輸出先によっても異なるが、相互関税と迂回輸出の問題は、在ASEAN日系企業にも少なからず影響を与えるとみられる。前述のとおり、日本企業は2010年代を通じて「チャイナ・プラスワン」戦略に基づき、生産拠点を中国に一極集中するのではなく、ASEANなどにサプライチェーンを分散化してきた。経済産業省の海外事業活動基本調査(2024年調査)注52 によれば、製造業の現地法人数は東南アジアで3,445社に上り、世界全体の34%を占める。中国(3,207社)と並んで最も生産拠点が集積しており、日本企業の生産・調達ポートフォリオの要衝ともいえる地域だからだ。

ジェトロの海外現地法人向けアンケート調査(2024年)によれば、在ASEAN日系企業の輸出先の構成比では、圧倒的に日本(46%)、ASEAN(30%)が大きく、米国の割合は5%にとどまる。米国に輸出している日系企業の業種としては、プリンター、電子機器、輸送機器などが挙げられる注53 。こうしたASEANの工場から米国に直接輸出している企業では、相互関税など追加関税に対する対策を検討する必要がある。

迂回輸出の問題も無関係ではない。中国に比べればASEANに対する関税率は緩やかであることから、引き続きASEANからの輸出が優位であるという見方もある。その場合でもASEANの生産拠点における「実質的な変更」が十分でない場合、米国向け輸出においては「中国製」と判定され、高い関税率を適用される可能性も高まっている。最終的には米国税関が判断することではあるが、米国側での原産地や関税番号を念頭にいれて、ASEANの生産拠点側でも対策を練る必要に迫られている注54 。また、前述した太陽光パネルのように、AD税などの追加関税措置を発動された場合、日系企業の輸出品にも関税コストが上乗せされるリスクがある。

反対に、米国が規制している品目について、ASEANを経由して中国へ輸出される事案についても留意が必要だろう。例えば、2025年1月には、米国が対中輸出管理の対象とする米半導体大手エヌビディア(NVIDIA)の先端半導体が、シンガポールを経由し、中国のAI開発スタートアップであるディープシークに販売されたことが報じられた。シンガポール貿易産業省(MTI)は米国輸出規制とシンガポール国内法の順守を求める声明を発表した注55

同年3月には、AIチップについて、シンガポールからマレーシアを経由して中国へ迂回輸出されたという疑惑が持ち上がり、マレーシア投資貿易産業省(MITI)は米国およびシンガポールとの連携を強化するという声明を発表した注56 。疑いをかけられていたマレーシア地場EMS企業(電子機器の受託製造)のネーションゲート・ホールディングスは迂回輸出への関与を否定しているが、万一、日系企業がこうした疑いをかけられた場合、米国からの罰則に加えて、レピュテーションの毀損など、大きな問題に発展するリスクが大きい。米国や中国の輸出規制については十分に留意して貿易管理を行う必要があるだろう。

インドの通商政策

中国の代替生産地となるインドと米国追加関税

米国の対インド貿易赤字額は、対ASEANに比べれば小さいものの、拡大傾向にあり、2024年には457億ドルと2018年比で2.2倍に増加した。相互関税率は26%と、日本(24%)や韓国(25%)と同水準で設定された。2024年のインドの貿易統計を見ると、米国は最大の貿易相手国(構成比:18%)となっている。

インドから米国への最大の輸出品目は、電気・電子機器(HS85)だ。特に、電話機(HS8517)の対米輸出は2024年には74億ドルに上り、2022年に比べて4.9倍にも増大している。以前から台湾系EMSメーカーがインドで生産工場を設置する動きが活発であったところ、アップルは米国の対中関税が高額になる可能性があることを理由に、米国市場向けiPhoneの生産について、2026年末までに大部分を中国からインドへシフトさせる見込みだ注57 。相互関税が発表される前週の2025年3月最終週には前年同月比1.8倍のiPhoneがインドから輸出され、その大半は米国向けであったという注58

米国側はインドからの輸入が増える中で、インドの関税・非関税障壁を問題視している。USTRは2025年3月の2025年版NTEにおいて、インドが農産品や加工食品、自動車(二輪車を含む)などに高関税を課しているほか、最大20%に及ぶ基本関税を有するという点に懸念を示している。非関税障壁については、化学品や医療機器、バッテリー、電子機器など広範な品目に、インド標準規格局(BIS)が定めた認証取得を義務付けており、当該規格は国際基準に準じておらず、認証取得の基準が不明瞭だとしている。また、製造業振興策「メーク・イン・インディア」の方針に従い、政府調達ではインドで生産された品目が選ばれる傾向にあると指摘している注59

なお、インドは5月9日、米国による鉄鋼・アルミニウムへの追加関税をWTOに通報した上で、対抗措置として米国原産品に対する輸入関税の引き上げを提示した。他方で、米国と非関税障壁を含む19分野について二国間協議を進めており、ピユシュ・ゴヤル商工相は5月17~20日にワシントンD.C.を訪問している。

ただし、米国の関税政策が在インド日系企業に与える直接的な影響は、限定的であるとの見方が多い。ジェトロの進出日系企業向けアンケート調査注60 によると、在インド日系企業の売上に占める輸出比率の平均値は18.9%と低い。また、輸出先をみても、日本(34.4%)やASEAN(23.4%)が多く、米国は7.2%にとどまっている。そのため、米国向けに輸出している日系企業自体が限られる。ただし、インドでの販売先が対米輸出している企業もおり、インド国内顧客からの受注減といった間接的な影響が出てくる可能性はある。

新たな規格認証制度の導入に警戒感

目下、日系企業の操業に大きく影響しているのは前述のBISによる認証規格制度である。規制対象品目数は2025年2月時点で774品目となっており、前年同月に比べて170品目増えるなど増大の一途をたどっている注61 。BISは強制規格となっており、認証取得にあたってはBIS担当者の工場査察を受ける必要があり(日本からの輸入の場合は、日本の工場に査察)、申請してから受理・査察されるまでに時間を要する。このため、インド国内では入手できない製品や、そうした製品の原材料の輸入が遅れることもあり、企業の事業運営上、大きな問題となっている。

加えて、2024年8月にインド重工業省から発出された「設備・電気機器安全規則(包括的技術規制)2024(オムニバス技術規制:OTR)」も、新たな認証取得制度として日系企業の事業運営の影響を及ぼすと目されている。OTRの施行は2025年8月の予定であったが、1年間、先延ばしされた注62 。施行日以降に新たに設置される設備・電気機器は、BIS当局が定める「スキームX」に従った規格準拠証明書の取得が義務付けられるため、インドでの生産拠点等の立ち上げを計画する企業に影響が大きく、OTR施行によって工場の稼働が遅れるという声も多かったためだ。

グローバルサウスの動向

新興国ブロック「BRICS」の拡大と脱ドル化の動き

近年、グローバルサウスを牽引する存在として、加盟国拡大を通じ、国際社会の中で存在感を高めているのが、新興国・地域を中心に構成された国際的な枠組みBRICS(ブラジル、ロシア、インド、中国が原加盟国、南アフリカ共和国が2010年12月に加盟)である。BRICSには2024年、UAE、イラン、エジプト、エチオピアが新たな加盟国として加わり、さらに2025年にはインドネシアが加盟した注63 。また、2024年10月、第16回BRICS首脳会議のカザン宣言注64 にて、新たに「BRICSパートナー国」制度が導入され、新興国による国際的連携の枠組み拡充が図られている(図表Ⅲ-21)。パートナー国は加盟国に次ぐ立場に当たる準加盟国に相当し、加盟国との経済協力や会議への参加に対する権利を持つ。パートナー国に招待された国のうち、ベラルーシ、ボリビア、キューバ、カザフスタン、マレーシア、ナイジェリア、タイ、ウガンダ、ウズベキスタン、ベトナムがパートナー国として正式に加盟した。さらに、2025年7月の第17回BRICS首脳会議で採択されたリオデジャネイロ宣言注65 では「多国間主義の強化とグローバルガバナンスの改革」を強調するとともに、先進国・地域が主導権を握る国連やIMF、WTOなどの国際機関の改革を訴求した。これらにより、BRICSは台頭する「グローバルサウス」の代表的なブロックとして、多極化する国際秩序の中で発言力強化と新たなルール形成を目指す動きを強めている。

図表Ⅲ-21 BRICS加盟国およびパートナー国
BRICS加盟国、パートナー国 原加盟国はブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカ共和国。2010年12月に南アフリカ共和国が加盟。2024年1月以降にアラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エチオピア、エジプト、インドネシアが加盟。パートナー国は、タイ、ベトナム、マレーシア、ウズベキスタン、カザフスタン、ベラルーシ、ナイジェリア、ウガンダ、ボリビア、キューバ。
出所:
BRICS公式サイトおよび各種報道から作成

BRICS諸国は、米ドル中心の国際金融への依存を減らす脱ドル化の取り組みを検討している。特にウクライナ危機以降、ロシアに対するドル決済網からの締め出しや外貨準備凍結といった制裁措置が実施されたことを契機に、金融の多極化を模索する機運が新興国で高まっている。一方、米国のトランプ大統領は2024年11月および2025年1月に、自身が運営するソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」において「BRICS通貨導入やドル代替通貨の支持をすればBRICS加盟国に100%の関税を賦課する」と発言し、BRICS諸国の脱ドルの動きを牽制している注66

2015年にBRICS原加盟国によって設立された新開発銀行(NDB)は、加盟国のインフラ整備や持続可能な開発プロジェクトへの融資を通じて、既存の世界銀行・国際通貨基金(IMF)体制の補完を目指している注67 。原加盟国に加え、バングラデシュ、UAE、エジプト、アルジェリア、コロンビアが正式に加盟している。一方、NDBは脱ドルを掲げつつも融資資金の大部分を依然ドル建てで調達・貸付している現状が指摘されている注68 。また、2015年にはBRICS諸国間で相互に外貨を融通する仕組みである予備準備制度(CRA)が創設され、ドル資金不足に備えるセーフティネットが構築された。加えて、中国の中央銀行である中国人民銀行を中心に、自国通貨スワップ協定の網の目を広げる動きも見られる注69 。また、ロシアはウクライナ侵攻後に主要銀行が国際銀行間通信協会(SWIFT)から排除され、さらに自国の連邦証券保管振替機関(NSD)が欧州の国際証券集中振替機関(ICSD)であるユーロクリアやクリアストリームとの接続を断たれるなど、金融インフラ面で深刻な制約を受けた注70 。ロシア政府・中央銀行は「国際通貨金融システムの改善」に関する共同研究報告書を取りまとめ、2024年10月にモスクワで開催されたBRICS財務相・中央銀行総裁会合にて複数の新構想を提案した。2024年のカザン宣言には、各国金融市場インフラの相互接続可能性を探る文脈で「独立したクロスボーダーの決済預託インフラ『BRICSクリア』の創設可能性を検討する」ことが明記されている。また同宣言では、「より早く安価で効率的かつ透明性・安全性の高いクロスボーダー決済手段」の重要性を謳い、ローカル通貨建て取引の拡大やBRICS間の銀行ネットワーク強化を促進する方針も示した。

長期的な構想として2023年のBRICS首脳会議(南アフリカ共和国で開催)では共通通貨の創設も提案されたが、具体的な進展はほとんどなく、現段階でBRICSにて共通通貨が早期に導入される見通しは低い。むしろ貿易・金融取引における自国通貨の相互利用を現実的な第一歩として推進する動きが優勢である。例えば、インドは2022年7月、自国通貨ルピーでの貿易決済を可能にする新制度を発表した注71 。既にロシアやマレーシア、ミャンマーなど30カ国がこの枠組みへの参加承認を得ており、ルピー建てでの輸出入決済が一部実現している。ロシアもウクライナ侵攻後、エネルギー貿易代金のルーブル建て受け取りを要求するなど急速に自国通貨利用を拡大させた。特に中国との間では、現在貿易の95%が自国通貨(人民元建て・ルーブル建て)で決済されているとされる注72 。また、中国とブラジルは2023年3月に両国通貨での貿易決済を直接行う枠組みに合意した。

通貨と並行して、BRICSは独自の決済・送金プラットフォームを構築し、ドル決済網への依存を減らす取り組みも進めている。BRICSは既に2018年頃から、共通の決済システム「BRICSペイ」構想に着手していた。これは、加盟国間で企業・個人が自国通貨による直接決済を可能とする分散型決済システムを目指すものだ注73 。この延長線上に位置するのが、「BRICSブリッジ」と呼ばれる加盟各国間で利用可能な決済プラットフォームで、SWIFTの代替決済手段を志向するものとみられる。各国のデジタル通貨などを用いて国境を越えた決済を実行する。既にロシアは自国のSWIFT代替システムである金融メッセージ転送システム(SPFS)を中国の人民元決済網(CIPS)と接続する動きを進めていると報じられる注74 。BRICSブリッジ構想が実現すれば、こうした二国間ネットワークを包含し、より広範囲的な「非SWIFT圏」のデジタル決済ネットワークが誕生する可能性がある。ただし、インドは「人民元が支配的な立場をとる」ことを懸念しているなど、加盟国間での協調面・技術面の課題も多い。また、「BRICSクリア」は各国の証券集中保管機関(CSD)を連結する分散型のICSDとも位置付けられ、実現すればBRICS各国の投資家が相互に債券・株式を直接取引できるようになる注75 。ただし、こちらも宣言されたばかりの構想であり、具体的な設計はこれから進められる段階だ。

日本企業にとって、BRICSの脱ドル化は為替リスク管理や資金繰りに新たな選択肢をもたらす一方、米国の金融制裁や輸出管理の効力が低下することでBRICS圏内企業の競争力が高まり、グローバル市場での競争がさらに激化する可能性がある。また、将来的にBRICSが主導する決済網が一定の地位を築いた場合、貿易取引の決済通貨構成や銀行取引コストに変化が生じるかもしれない。短期的には、これら新システムの構築は道半ばであり、実務面で直ちに既存スキームが大きく置き換わる状況ではないと考えられる。

新興・途上国で膨らむ対中債務、デフォルトリスクも

2025年3月、第2次トランプ政権は米国国際開発庁(USAID)の解体と同庁業務の国務省への移管を議会に通知し、業務の大部分を再配置・廃止すると発表した注76 。これにより、新興・途上国・地域に対する米国からの開発支援が急減し、中国がその空白を埋めて、ますますグローバルサウス諸国における存在感が高まるとみられている。

中国は2017年に打ち出した広域経済圏構想「一帯一路」における事業を通じて、沿線諸国に対しインフラ融資などを積極的に行ってきた。米国のボストン大学グローバル開発政策センターによると、2008年から2021年の間に、中国国家開発銀行と中国輸出入銀行は、世界各国に対して1,099件の融資を行い、総額は約5,000億ドルに上る注77 。これらの融資はエネルギー、交通、通信、金融など多岐にわたる分野で行われており、特にエネルギーと交通インフラへの投資が顕著だ。

一方、借り手のグローバルサウス諸国では、対中国債務比率やデフォルトリスクも高まっており、過剰債務を返済できず債権国から政策や外交などに圧力を受ける「債務の罠」が問題視されている(図表Ⅲ-22)。特に新型コロナ禍以降の景気減速や通貨安、資金流出による借換えコストの急騰により、多数の国で債務返済が逼迫している。ザンビアは2020年、ガーナとスリランカは2022年に債務不履行状態に陥った。こうしたグローバルサウス諸国におけるリスク増大や、債権国としての中国の存在感の高まりに留意が必要であろう。

図表Ⅲ-22 グローバルサウス諸国の対中国債務(2023年)
国名 対中国債務 対世界債務 対外債務危機のリスク
億米ドル GNI比(%) 対世界債務比(%) GNI比(%)
ジブチ 14.7 37.5 51.9 72.3 債務危機
ラオス 60.7 37.5 55.0 68.1 債務危機
アンゴラ 178.6 22.9 39.5 57.9
コンゴ共和国 31.8 21.0 46.3 45.3 債務危機
ザンビア 54.2 20.3 35.3 57.5 債務危機
モルディブ 11.3 19.4 33.0 58.7
モンゴル 27.4 16.2 28.2 57.4
スリナム 4.9 14.8 20.2 73.5
キルギス 17.1 13.6 40.7 33.5
バヌアツ 1.6 12.7 43.1 29.6
サモア 1.1 12.1 37.3 32.5
モンテネグロ 7.9 11.1 19.9 55.5
スリランカ 82.2 10.5 19.9 53.1
カンボジア 40.6 9.7 36.6 26.6
モザンビーク 16.7 9.2 17.5 52.3
注:
  1. 対中国債務のGNI 比でみた上位15カ国で絞り込み。
  2. 対中国債務、 対世界債務はExternal debt stocks, public and publicly guaranteed (PPG) (DOD, current US$) で計算。
出所:
世界銀行“International Debt Statistics”、IMF “Debt Sustainability Analysis”から作成

日本の通商政策

国際経済秩序の再構築、海外活力取り込み、自律性強化が3本柱に

2025年6月に経済産業省が公開した最新の通商戦略注78 は、「世界の課題解決を通じて、日本の付加価値を最大化する」こと、「不確実な国際環境においても、信頼できる経済パートナーで在り続ける」こと、を目指す方針を掲げている。方針を達成する上での重要な業績評価指標(KPI)は、貿易・サービス輸出額、対外直接投資収益、交易条件(輸出物価/輸入物価)などが検討されている。また、特定の国・地域に過度に依存しない対外経済関係の確保(自律性の確保)は、「日本の世界における付加価値を最大化する上での重要な基盤」であり、経済安全保障がますます重要になる、としている。

上記KPI目標を達成するため、通商政策の3本柱として、(1)保護主義の台頭を踏まえた国際経済秩序の揺らぎへの対応、(2)付加価値の最大化に向けた海外活力の取り込み、(3)自律性・不可欠性の確保に向けた内外一体の取り組み、が打ち出されている(図表Ⅲ-23)。

図表Ⅲ-23 日本の通商政策の柱と主要施策

柱1:保護主義の台頭を踏まえた国際経済秩序の揺らぎへの対応

国際経済秩序の再構築を目指して、保護主義の台頭に適応した「公正で自由なルール」を追求し、多層的な経済外交を展開

主要施策
Win-Winの二国間関係の積み上げ
イシューに応じた同志国との連携・共創(AZEC、G7での経済安保連携等)
国際経済秩序の維持・強化・再構築(CPTPP拡大、EPA・投資協定拡大、秩序の再構築に向けた検討、WTOの機能回復・強化、万博の活用等)
グローバルサウス諸国との関係強化(地域別・国別戦略等)
国際情勢に関するインテリジェンス機能の強化
柱2:付加価値の最大化に向けた海外活力の取り込み

輸出市場の確保・多角化やグローバルサウス・同志国との共創など、日本企業の海外展開を支援

主要施策
ルール・環境整備(経済外交の推進、貿易手続のデジタル化、諸外国のルール整備に向けた働きかけ、標準化、模倣品対策等)
グローバルサウス市場の獲得(マスタープラン策定・実証支援、貿易保険事業の財務基盤強化、人材育成・交流等)
サービス輸出・海外展開の政策支援の強化(同志国連携、コンテンツ輸出支援等)
中堅・中小企業の輸出・海外展開支援の強化(新規輸出1万者支援プログラム、民間の支援ビジネス、高度外国人材採用支援、知財活用支援等)
高度外国人材の獲得(研究者の受け入れ促進)
柱3:自律性・不可欠性の確保に向けた内外一体の取り組み

サプライチェーンに関する同志国との協調や経済安保確保に向けた海外展開支援など、内外一体の取り組みを推進

主要施策
同志国間での国際協調・連携の推進と国内施策の検討(非価格基準、規制的アプローチ、人権等)
有事の対応も含めた国際協力枠組みの拡大(多国間、二国間等)
インド太平洋を中心とした同志国とのRun Fasterパートナーシップの推進
サプライチェーン強靱化や我が国不可欠性によるグローバルな社会課題の解決に資する日本企業の海外展開支援(実証支援)
エネルギー・鉱物資源の権益確保・調達先多角化の推進(資源外交、JOGMEC、NEXI等)
出所:
経済産業省

柱1では、特に二国間関係について、米国の一連の関税措置にかかる同国政府への働きかけが目下の重要課題となっている。第2次トランプ政権は2025年1月の発足以降、複数の関税措置を発表している。そのうち日本からの対米輸出に直接的に影響するのは、鉄鋼・アルミ製品および自動車・同部品への追加関税、相互関税である。武藤容治経済産業大臣は、同年3月にラトニック商務長官、グリアUSTR代表、ケビン・ハセット国家経済会議(NEC)委員長と会談を行った。日本側の主張として、鉄鋼・アルミ関税、相互関税、自動車関税について、日本が対象になるべきでない旨を申し入れた。日本政府としては、米国の関税措置が両国の投資・雇用拡大に与える影響を説明し、米国側から理解を得るべく、協議を進める方針だ。

米国が4月9日に適用開始した相互関税では、日本からの物品には24%の追加関税が賦課されることとなった(同日に90日間停止)。赤澤亮正経済再生担当大臣は4月16日、初回となる日米両政府による米国関税措置に関する協議を行った注79 。赤澤経済再生相は、ベッセント財務長官、ラトニック商務長官、グリアUSTR代表との閣僚間協議を行い、米国の関税措置について「極めて遺憾」と述べ、日本の産業や日米両国の投資・雇用に与える影響などについて説明し、関税措置の見直しを申し入れた。

日米両政府の協議は、6月30日までの間に7回注80 実施された。トランプ政権は、日本の関税だけでなく、非関税障壁も米国の貿易赤字の要因になっていると問題視している。これらを踏まえて、関税措置の見直しのほか、(1)貿易の拡大、(2)非関税措置、(3)経済安全保障面での協力といった事項について協議されている注81 。両国は日米双方にとって利益となる合意を実現できるよう、引き続き精力的に調整を続けていくことで合意した。

重要物資の確保に向けた産業政策が進展

通商政策の3つ目の柱注82 である「自律性」の観点では、日本の経済安全保障の確保が一層重視されるようになっている。地政学的変化、技術革新が起こるなか、各国は国力を増大するため、「経済安全保障」の切り口で施策を強化している。経済産業省は「技術力を梃子に、資源制約を乗り越え、経常収支バランスを確保してきた日本において、今こそ取り組み強化が必要」としている注83 。同省には、2024年7月に貿易経済安全保障局が設置注84 され、経済安全保障に関連する施策を総合的に推進する司令塔としての役割を担う。

日本の経済安全保障関連の法制としては、2022年8月に「経済施策を一体的に講ずることによる安全保障の確保の推進に関する法律(経済安全保障推進法)注85 」が施行されている。自律性の向上、優位性・不可欠性の確保に資する取り組みとして、(1)特定重要物資の供給確保計画の認定制度(12の特定重要物資注86 )、(2)重要技術育成プログラム(50の重要技術)、(3)基幹インフラ事前届出制度(15分野注87 、2024年5月に施行)、(4)特許出願非公開制度注88 (同月に施行)が実施されている。

サプライチェーン強靭化については、2024年12月に開催された経済安全保障法制に関する有識者会議(経済安保法制有識者会議)において、特定重要物資に関する取り組みの方向性が示された。(1)永久磁石について、ネオジム磁石の重希土類の使用量を節減し、永久磁石の安定供給確保を図るため、磁石とEV駆動用モーターの一体開発が取り組み対象に追加すること、(2)半導体について、半導体に不可欠なエッチング工程等で使用される蛍石のリサイクル対象範囲を拡大すること。加えて、半導体製造の「後工程」についても国内回帰の必要性が高まっているため、後工程と例外要件に該当する半導体について、設備投資額が要件未満であっても政府が支援すること。また、(3)半導体の原材料となるタングステン、フッ素、シリコン、リン、先端電子部品の原材料となるジルコニウム、バリウム、計6鉱種を施策対象に追加注89 すること、が提案されている。

これらの産業支援策と産業防衛策を有機的に組み合わせながら、官民連携で具体的な取り組みを実行するための行動計画として、2023年10月に「経済安全保障に関する産業・技術基盤強化アクションプラン」が公表された。同計画は2024年5月に改訂され、2025年5月末に再改訂版注90 が発出された。わずか1年で再改訂された理由として、日本を取り巻く経済安全保障環境が大きく変化し、一層厳しさを増していることが背景にある。日本政府として取り組みを強化、対象となる産業・技術領域を拡大する必要に迫られている。

アクションプランでは、今後の経済安全保障上の重要領域であるコンピューティング、クリーンテック、バイオ テック、宇宙・防衛、基盤技術等について、「破壊的技術革新が進む領域」、「日本が技術優位性を持つ領域」、「対外依存の領域」という3つに分類されている(図表Ⅲ-24)。日本として経済安全保障上重要な物資・技術等が特定されている。今回の再改訂版で追加された経済安全保障上重要な物資・技術には、海底ケーブル、フュージョンエネルギー(部素材等)、原子力機器・部素材等製造技術(重要機器・部品)、人工衛星・ロケット、産業用データがある。

図表Ⅲ-24 経済安全保障上重要な物資・技術
分野 破壊的技術革新が進む領域
(技術優位性の創出)
日本が技術優位性を持つ領域
(機微技術の流出・拡散防止)
対外依存の領域
(過剰依存構造の防止・是正)
コンピューティング 量子コンピューター、AI、先端・次世代半導体、先端後工程、光電融合、PFAS代替 組み込みソフトウエア・システム、高性能パワー半導体、高性能な電子部品、マイコン、半導体製造装置・部素材、光ファイバー、海底ケーブル、複合機 クラウド、一般的な電子部品、一般的なレガシー半導体、パソコン・スマホ・タブレット
クリーンテック 全固体電池、固体電解質、次世代型太陽電池(ペロブスカイト)、フュージョンエネルギー(部素材等)、水素還元製鉄技術 液体リチウム電池(三元系)、正負極バインダー、ヨウ素、封止技術、原子力機器・部素材等製造技術(重要機器・部品) 液体リチウム電池(LFP)、重要鉱物(銅、リチウム、ニッケル、コバルト、黒鉛等)
バイオテック 大量培養・発酵生産技術、微生物・細胞設計プラットフォーム、SaMD等のデジタル領域、血管内治療、遺伝子編集・合成 分析装置、分離・精製技術(分離膜等)、CT/MR/内視鏡、検査機器、細胞治療薬の製造(iPS細胞等) 人工呼吸器、基礎的医療機器(ガーゼ、シリンジ等)、生体計測機器、ペースメーカー等の治療機器、後発医薬品製造・原料(抗菌性物質製剤等)
3分野以外 防衛・宇宙分野の先端技術、重要機器・部品等 航空機部素材等(炭素繊維・エンジン用素材)、人工衛星・ロケット、工作機械・産業用ロボット、産業用データ、品質安定化ノウハウ・すり合わせ技術 航空機部素材等(大型鍛造・鋳造)、人工衛星・ロケット、永久磁石
注:
太字は2025年5月の再改訂で追加された物資・技術
出所:
経済産業省

補完的輸出規制の見直しを実施

外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく輸出管理では、米国の政策動向やロシア・ウクライナ紛争等による情勢の変化から、国際輸出管理レジームに基づく輸出管理の限界等を踏まえた新たな輸出管理政策が検討されている注91 。2024年4月の産業構造審議会・安全保障貿易管理小委員会中間報告注92 では、補完的輸出規制の見直し、技術管理強化のための官民対話スキームの構築などが盛り込まれた。

経済産業省は2023年3月に半導体製造装置等の23品目(国際輸出管理レジーム外の品目)をリスト規制の対象とするよう省令を改正し(同年7月に施行)、2024年7月に相補型金属酸化膜半導体集積回路、走査型電子顕微鏡、量子計算機なども新たに対象品目に加えた(同年9月8日に施行)。また、2024年10月の省令改正では、電子部品や半導体などの10分野で、海外への技術移転に際して事前報告を義務付けた(同年12月30日施行)。2025年3月25日には、閣議で「外国為替令及び輸出貿易管理令の一部を改正する政令」が決定され、重要・新興技術に関連する品目(五フッ化ヨウ素、金属積層造形装置ほか)の追加等が盛り込まれた(同年5月28日施行)。

安全保障貿易管理小委員会で提案された補完的輸出規制の見直しは、2025年4月9日に公布された注93 。(1)補完的輸出規制見直し、(2)制度・運用合理化、(3)官民対話による技術管理スキームに係る技術の追加が盛り込まれている。これまでリスト規制の対象ではなかった汎用品(工作機械、集積回路、無人航空機部品等)についても、通常兵器の開発等に用いられる懸念が高いと自ら判断する場合は、経済産業大臣の許可申請が義務付けられた。また、申請すべき要件(用途要件、需要者要件)を明確化し、懸念の高い取引の適切な管理を可能にした。また、グループA注94 国向けであっても、懸念国等の迂回調達の懸念がある場合、インフォームする制度を導入した(迂回対策)。

技術管理に関する官民対話スキームは、2025年6月に施行された。15技術注95 が指定されており、これらの技術移転について、契約前の経済産業省への報告を義務付ける。その上で、官民で現状・課題を認識共有し、支援策の検討、懸念情報提供、具体的対策の助言等を通じて、官民で技術管理の方策を検討する。技術移転を止めることが目的ではなく、適切な技術管理を徹底することが目的とされる。

セキュリティ・クリアランス制度がスタート

2025年5月16日には、経済安全保障分野におけるセキュリティ・クリアランス(SC)制度を創設する「重要経済安保情報の保護及び活用に関する法律」(重要経済安保情報保護活用法)が施行された。同法では、行政機関が、保有する重要インフラや重要物資のサプライチェーンに関する一定の機微な情報を重要経済安保情報として指定する。そのうえで、一定の基準を満たす民間事業者(適合事業者)は、必要に応じ、当該行政機関との契約に基づき、当該重要情報へのアクセスが認められる。当該民間事業者においてその重要情報を取り扱う従業者は、適性評価によって重要情報を漏洩する恐れがないと認められた者に限られる。万一、情報を漏洩した場合は、個人・事業者の双方について、5年以下の拘禁刑もしくは500万円以下の罰金、または併科となる可能性もある。

これまでも特定秘密の保護に関する法律(特定秘密保護法)は存在したが、当該情報は安全保障に著しい支障を与える恐れがある機微な情報に限られていた。SC制度で取り扱う情報は、それよりは機微度合いが低いが、これまで保全対象となっていなかった情報が対象となる。重要インフラ(電気、ガス、金融、情報通信など)、重要物資のサプライチェーン(半導体、蓄電池、先端電子部品など)、革新的な技術(量子コンピューター・先端半導体、宇宙分野の先端技術など)、重要インフラのサイバーセキュリティに関連する適合事業者は、SC制度に基づき、日本政府から重要経済安全保障情報を受け取れる可能性がある注96 。適合事業者は当該情報を活用することができるほか、適合資格が必須要件となっている会議、取引や入札に参加できる、自社の情報保全が強化されるなど、さまざまなメリットを享受できる。

注記

注1
ホワイトハウス「国家安全保障戦略(National Security Strategy : NSS)」(2022年10月12日)
注2
ジェトロ「第2次トランプ政権誕生、政策の転換と継続は」『地域・分析レポート』(2025年1月15日付)
注3
米国共和党“2024 GOP Platform: Make America Great Again”(2024年7月8日)
注4
ジェトロ「米共和党が政策綱領発表、中国との恒常的正常貿易関係の撤回など表明」『ビジネス短信』(2024年7月9日付)
注5
ホワイトハウス“Report to the President on the America First Trade Policy Executive Summary”(2025年4月3日)
注6
USTR“2025 National Trade Estimate Report on Foreign Trade Barriers of the President of the United States on the Trade Agreements Program”(2025年3月31日)
注7
ジェトロ「トランプ次期政権下で取られ得る関税政策‐実現可能性と法的根拠」『地域・分析レポート』(2024年12月10日付)参照。なおIEEPAの発動には、議会への事前報告義務や6カ月ごとの報告義務、議会による無効化決議の可能性などの制約もある。
注8
ジェトロ「米国際貿易裁判所がIEEPA関税を無効と判断も、連邦控訴裁は判断の一時停止命じる、追加関税は当面継続へ」『ビジネス短信』(2025年5月30日付)
注9
Caroline Henckels (2024) “Whither security? The concept of ‘essential security interests’ in investment treaties’ security exceptions”など参照。近年、外国投資規制などが安全保障例外の新たな適用領域となる動きに関して「国際関係上の緊急事態」との関連が不明確な場合、WTO違反とされる可能性があるとし、経済安全保障概念の拡張には慎重であるべきと主張。
注10
Clyde & Co “The “America First Investment Policy”– Implications for International Investors””(2025年3月7日)
注11
米財務省プレスリリースに基づく(2025年5月8日付)
注12
米財務省プレスリリースに基づく(2025年4月29日付)
注13
2025年4月18日のジェトロ主催ウェビナー申込者向けにオンラインで実施(2025年4月11~16日、有効回答は7,589件)
注14
ジェトロ在米国事務所による現地日系企業向けインタビュー(2025年4~5月実施)結果に基づく。
注15
ジェトロによるワシントンD.C.でのインタビューに基づく(2025年5月14日実施)
注16
ホワイトハウス“Reciprocal Trade and Tariffs”(2025年2月)
注17
USTR, Presidential Tariff Actions, “Reciprocal Tariff Calculations”
注18
USTRによればCavallo et.al, 2021に基づく。
注19
USTRによればSimonovska and Waugh 2014等に基づく。
注20
AEI「President Trump’s Tariff Formula Makes No Economic Sense. It’s Also Based on an Error」(2025年4月4日)
注21
ブルッキングス研究所による同主催イベント報告(2025年4月8日)内容に基づく。
注22
渡部雄太「トランプ政権「相互関税」、その計算式の“根拠”」『アジア経済研究所IDEスクエア』(2025年4月)
注23
欧州委員会“Speech by President von der Leyen at the EU Ambassadors Conference 2025”(2025年2月4日付)
注24
欧州委員会によると、2023年の域外国からの輸入における域内シェアでは、太陽光発電(PV)システムの79%、PVモジュール・セルの94%、風力タービンの永久磁石の93%を中国に依存している。
注25
ジェトロ「EU、中国製BEVに対する相殺関税措置を発動、協議継続の方針も表明」『ビジネス短信』(2024年11月6日付)、ジェトロ「EU、失速するEV需要の中、相殺関税措置発動」『地域・分析レポート』(2024年12月19日付)
注26
ジェトロ「欧州委、EUへの輸入急増リスク対応に向けた監視システム立ち上げ」『ビジネス短信』(2025年6月16日付)
注27
8年以内に類似の違反をした場合は最大20%。
注28
外資企業の安定的進出(誘致)や、進出外資企業の安定的活動の保障のためのビジネス環境整備などを指す。
注29
新華社「中央经济工作会议在北京举行习近平发表重要讲话」(2024年12月12日付)
注30
中国共産党新聞網「有序扩大自主开放和单边开放」(2025年1月19日付)
注31
求是「国家中长期经济社会发展战略若干重大问题」(2020年11月)
注32
経済産業省「2014年版不公正貿易報告書」(2014年5月14日)
注33
久嶋省一「中国の輸出管理-出口管制法(輸出管理法)案の分析-」安全保障貿易情報センター『CISTEC Journal No171』(2017年9月)
注34
慶應義塾「特集:東アジアから考える国際秩序」『三田評論』(2025年3月号)
注35
ジェトロ「従来の輸出管理から脱却へ、企業はどう対応すべきか」『地域・分析レポート』(2023年9月8日付)
注36
ジェトロ「2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(2024年11月29日)
注37
中国北京市における日系企業ヒアリング(2025年5月実施)に基づく。
注38
中国北京市における日系企業ヒアリング(2025年5月実施)に基づく。
注39
中国と欧州や中央アジアなどを結ぶ国際貨物列車。
注40
マレーシア側は、CPTPPが3つのオークランド原則〔(1)協定のハイスタンダードを満たす用意があること、(2)貿易に関するコミットメントを遵守する行動を示してきていること、(3)CPTPP参加国のコンセンサスに基づいて決定がなされると認識されていること〕を満たすことができるエコノミーからの関心を歓迎し、引き続き加入に対して開かれていることを再確認した。
注41
北見創(2024)「第10章ASEAN」若松勇・箱崎大・藪恭兵編著『グローバルサプライチェーン再考』文眞堂、203~233ページ
注42
ジェトロ「トランプ米大統領、相互関税導入に向け、全貿易相手国との貿易関係調査を指示」『ビジネス短信』(2025年2月14日付)
注43
ジェトロ「ベトナムと米国が貿易協定に合意、ベトナム政府とトランプ大統領がそれぞれ発表」『ビジネス短信』(2025年7月3日付)
注44
ジェトロ「タイ政府、米国関税政策に対し、交渉枠組みとして5項目を提案」『ビジネス短信』(2025年5月16日付)
注45
ジェトロ「対米輸出の8割が相互関税対象のマレーシア、公正貿易の原則堅持を確認」『ビジネス短信』(2025年4月7日付)
注46
ジェトロ「マレーシア代表団、相互関税巡ってUSTRなどと初会談、対話継続を確認」『ビジネス短信』(2025年4月30日付)
注47
ジェトロ「ASEAN特別経済大臣会合を開催、米国への報復措置は課さず」『ビジネス短信』(2025年4月11日付)
注48
Hinrich foundation “China’s circumvention of trade remedies – and how the US can respond”(2021年11月23日付)、Rhodium Group “China’s Manufacturing FDI in ASEAN Grew Rapidly, But Faces Tariff Headwinds”(2025年4月24日付)
注49
ジェトロ「米商務省、中国の太陽光発電製品の迂回輸出認定を最終決定」『ビジネス短信』(2023年8月24日付)
注50
ジェトロ「米関税措置の影響受けるラオス」『ビジネス短信』(2025年4月9日付)
注51
ジェトロ「対米交渉で非関税障壁削減を提案、迂回輸出防止策も即日実施」『ビジネス短信』(2025年5月7日付)
注52
経済産業省「第54回海外事業活動基本調査」(2025年5月30日)
注53
ジェトロ「2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(2024年11月)
注54
企業ヒアリング(2025年5月13日実施)に基づく。
注55
ジェトロ「シンガポール政府、中国発ディープシークの半導体入手経路で声明」『ビジネス短信』(2025年2月3日付)
注56
ジェトロ「マレーシア政府、米半導体の迂回輸出疑惑受け声明発表、監視強化へ」『ビジネス短信』(2025年3月7日付)
注57
ロイター“Apple moving to make most iPhones for US in India rather than China, source says”(2025年4月26日付)
注58
ジェトロ「インドからiPhoneの米国向け輸出、3月に急増」『ビジネス短信』(2025年4月16日付)
注59
ジェトロ「米USTR、「メーク・イン・インディア」政策を問題視、2025年外国貿易障壁報告書(インド編)」『ビジネス短信』(2025年4月7日付)
注60
ジェトロ「2024年度海外進出日系企業実態調査(アジア・オセアニア編)」(2024年11月)
注61
ジェトロ「インドでの競争環境(1)日系企業の8割が黒字も、当面は国内に注力」『地域・分析レポート』(2025年3月19日付)
注62
ジェトロ「重工業省、設備・電気機器安全規則(OTR2024)の1年間の施行延期を発表」『ビジネス短信』(2025年6月16日付)
注63
2025年6月時点で正式加盟の手続きをしていないサウジアラビアを除く。
注64
XVI BRICS Summit “Kazan Declaration”(2024年10月23日付)
注65
XVII BRICS Summit“Rio de Janeiro Declaration”(2025年7月6日付)
注66
ロイター“Trump repeats tariffs threat to dissuade BRICS nations from replacing US dollar“(2025年1月31日付)
注67
NDBウェブサイト“About NDB”
注68
ロイター“'BRICS bank' looks to local currencies as Russia sanctions bite”(2023年8月10日付)
注69
新華社“China's central bank signs 40 currency swap agreements with foreign counterparts”(2024年2月16日付)
注70
ロイター“Russia bans payments to foreigners holding rouble bonds, shares”(2022年3月3日付)
注71
ロイター“Exclusive: India central bank seeks lifting cap on 'vostro' accounts investments to push rupee-denominated trade, sources say”(2025年5月2日付)
注72
ガーディアン“Putin calls for alternative international payment system at Brics summit”(2024年10月23日付)
注73
BRICS Pay公式ウェブサイト“BRICS Pay for Retail Payments”
注74
ロイター“Exclusive: First Russia-China barter trade may come this autumn, sources say”(2024年8月8日付)
注75
ブルームバーグ“Russia Pushes for BRICS Clearing, Depository System to Sidestep the West”(2024年10月24日付)
注76
UP I “State Department formally notifies Congress of dissolving USAID; court allows cuts”(2025年3月28日付)
注77
Boston University Global Development Policy Center, “China’s Overseas Development Finance Database”(2025年6月18日時点)
注78
経済産業省通商政策局「通商戦略2025」(2025年6月)
注79
ジェトロ「初の日米関税協議を実施、閣僚級での協議継続で一致」『ビジネス短信』(2025年4月18日付)
注80
ジェトロ「日米両政府、7回目の関税協議実施、相互関税一時停止後は交渉の進み具合に応じて異なる対応か」『ビジネス短信』(2025年6月30日付)
注81
ジェトロ「日米両政府、4回目の関税協議を実施、G7サミット前に再度協議へ」『ビジネス短信』(2025年6月2日付)
注82
なお、柱2では、ルール・環境整備やグローバルサウス市場の獲得が盛り込まれている。デジタルや環境といったルール整備については本章第2節、第3節を参照。グローバルサウス市場における動向は第2章コラムを参照。
注83
経済産業省貿易経済安全保障局「第12回産業構造審議会通商・貿易分科会資料3」(2025年4月17日付)
注84
旧「貿易経済協力局」を改称・改組し、経済安全保障施策の総合調整を担う経済安全保障政策課を新設し、体制を強化した。
注85
内閣府「経済安全保障推進法」(2022年)
注86
抗菌性物質製剤、肥料、永久磁石、工作機械・産業用ロボット、航空機の部品、半導体素子および集積回路、蓄電池、クラウドプログラム、天然ガス、重要鉱物、船舶の部品、先端電子部品(コンデンサーおよび濾波器)
注87
電気、ガス、石油、水道、鉄道、貨物自動車運送、外航貨物、港湾輸送、航空、空港、電気通信、放送、郵便、金融、クレジットカード
注88
内閣府「特許出願の非公開に関する制度」参照。
注89
既存の取り組み対象となるのは、蓄電池の原材料(マンガン、ニッケル、コバルト、リチウム、グラファイト)、永久磁石の原材料(希土類金属)、半導体の原材料(ガリウム、ゲルマニウム)、原子力燃料(ウラン)の9鉱種。
注90
経済産業省貿易経済安全保障局「経済安全保障に関する産業・技術基盤強化アクションプラン再改訂版」(2025年5月30日付)
注91
梅津英明・滝口浩平・森琢真(2024)「変容する輸出管理制度」、『ジュリスト』、2024年9月号、pp49-53
注92
経済産業省「産業構造審議会通商・貿易分科会安全保障貿易管理小委員会中間報告」(2024年4月24日)
注93
経済産業省貿易経済安全保障局「補完的輸出規制の見直しについて」(2025年5月)
注94
国際輸出管理レジームに参加し、輸出管理を厳格に実施している、輸出令別表第三に記載の欧米諸国等27カ国。
注95
積層セラミックコンデンサ、表面弾性波(SAW)およびバルク弾性波(BAW)フィルタ、電解銅箔、誘電体フィルム、チタン酸バリウム、炭素繊維、炭化ケイ素繊維、フォトレジスト、非鉄金属ターゲット材、走査型/透過型電子顕微鏡(SEM/TEM)、磁気センサー、スポンジチタン、正負極バインダ、固体電解質、セパレータ製造装置
注96
アンダーソン・毛利・友常法律事務所「2025年5月施行!セキュリティ・クリアランス制度の概要を重要経済安保情報保護活用法に基づき解説」、『Business Layers』(2025年6月5日)