ジェトロ世界貿易投資報告 2025年版
第Ⅰ章 世界と日本の経済・貿易
第3節 日本の経済・貿易の現状 第3項 日本のサービス貿易
赤字縮小に旅行サービスが大きく貢献
2024年の日本のサービス貿易収支は184億ドルの赤字となった。2年連続で縮小し、新型コロナ禍前の赤字規模に近づきつつある(図表Ⅰ-46)。赤字縮小に貢献したのは、前年に続き旅行サービスである。旺盛なインバウンド需要を背景に、旅行サービスの黒字幅は、過去最高額を記録した前年(257億ドル)から403億ドルへと一気に拡大し、サービス貿易全体を押し上げた。日本政府観光局(JNTO)によれば、2024年の訪日外客数は約3,687万人と、新型コロナ禍前のピーク時(2019年、約3,188万人)を超え、過去最高を更新した。2025年も訪日外客数の増勢は続いており、1~5月累計で約1,814万人と前年同期を上回る水準となっている。訪日外客数の増加に伴い、インバウンド消費の規模も拡大が続く。「訪日外国人消費動向調査」(観光庁)によれば、2024年の外国人旅行消費額は8兆1,257億円と前年(5兆3,065億円)から大幅に増加、過去最高額を更新した。
- 注:
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- 円建て公表値をジェトロがドル換算。
- Pは速報値。
- 「その他3」は委託加工、維持修理、建設、保険・年金、金融、通信・コンピューター・情報、個人・文化・娯楽、公的サービス。
- 出所:
- 「国際収支統計」(財務省、日本銀行)から作成
経済成長の牽引役としてインバウンド需要への期待は高い。2023年3月に政府が策定した「観光立国推進計画」ではインバウンド関連分野でも目標を設定した。このうち、インバウンド消費額を早期に5兆円規模に、2025年までに1人当たりのインバウンド消費額を20万円に、という目標は2023年中に既に達成している。2025年までに訪日外客数2019年水準超え、という目標については、2024年に達成した。
これまでサービス貿易を下支えしてきた知的財産権等使用料は、217億ドルの黒字となり、前年に続いて200億ドル超の水準を維持した。自動車メーカーなど日本企業が所有する特許権や商標権などの使用料、技術情報の使用料などを計上する産業財産権等使用料が黒字、ソフトウエア、音楽、映像などを複製するための使用権料などを計上する著作権等使用料は赤字という構図は変わらず、いずれも前年から小幅な変化にとどまった。
このほか、恒常的に赤字が続く輸送サービスは、赤字幅が48億ドルと前年の赤字幅(46億ドル)から拡大した。その他の項目でも、その他業務サービス(赤字幅:344億ドル)、保険・年金サービス(同215億ドル)、通信・コンピューター・情報サービス(同178億ドル)などで前年から赤字がやや拡大した。
「デジタル赤字」は引き続き拡大
国内外のデジタルサービスがさまざまな場面で活用される中、サービス貿易においても「デジタル」の存在感は増している。一般的に、サービス貿易におけるデジタル関連サービスに該当する項目は、
- 著作権等使用料:音楽や映像などの複製や配信に伴うライセンス料など。ソフトウエアを端末にインストールして販売するための使用許諾料も該当。
- 通信・コンピューター・情報サービス:インターネットや電話、衛星など通信手段の利用代金、ソフトウエアのダウンロード、クラウドサービスやオンライン会議システムの利用料など。
- 専門・経営コンサルティングサービス:広告や市場調査にかかわるサービス取引などを計上。インターネット広告の売買取引なども該当。
の3項目とされている。
日本のデジタル関連サービスは、受取、支払ともに拡大トレンドにある。ただ受取については足元では動きが鈍い。一方で、支払はおおむね増加が続いており、デジタル関連サービスの赤字幅(デジタル赤字)は引き続き拡大している。2024年の赤字幅は451億ドル、前年の赤字幅(424億ドル)から増加した(図表Ⅰ-47)。この赤字幅の規模は、前述の旅行サービスの黒字幅を上回り、サービス収支の押し下げ要因となっている。
- 注:
- 円建て公表値をジェトロがドル換算。
- 出所:
- 「国際収支統計」(財務省、日本銀行)から作成
横ばいが続くデジタル関連サービスの受取であるが、今後、サービスの受取増加に向け、大きな足がかりになると期待されるのが、ゲームやアニメ、マンガなど世界各地で人気が高い日本のコンテンツ産業である。2023年の日本のコンテンツ産業の海外売上高は5兆7,769億円(推計)、前年から23.2%増加した注1 。海外売上高の約6割が家庭用ゲーム(オンライン、ソフト販売)、約3割がアニメによる売上とされる。コンテンツ産業の海外売上高の規模は、同年の旅行サービスの受取を上回る水準にあり、海外での稼ぎ手としての存在感が増しつつある。
コンテンツ関連産業の稼ぐ力への期待は高く、政府も「新たなクールジャパン戦略注2 」において、クールジャパン関連産業の中核と据えている。同戦略では、コンテンツ産業を支える人材の強化、海賊版対策の強化などの施策を打ち出しており、コンテンツ産業の海外売上高を2033年までに20兆円にすることを目標値としている。
注記
- 注1
- ヒューマンメディア「日本と世界のメディア×コンテンツ市場データベース2024 Vol.17【確定版】」、2024年
- 注2
- 内閣府「新たなクールジャパン戦略」(2024年6月4日)
特記しない限り、本報告の記述は2025年6月末時点のものである。
(2025年7月24日)



