ジェトロ世界貿易投資報告 2025年版

コラム 日本の農林水産物・食品輸出

農林水産物・食品の輸出金額、初めて1.5兆円超え

2024年の農林水産物・食品の輸出金額は前年比3.5%増の1兆5,071億円となり、過去最高を更新した(図表Ⅰ)。上半期の輸出金額は、2月から前年同月比減が続き、前年同期比2.1%減と低調であったが、7月からはプラスに転じた。12月は単月で前年同月比22.1%増となり、下半期は9.5%増と好調だった。輸出の内訳を見ると、全体の65.1%を占める農産物は8.4%増の9,816億円、林産物は7.5%増の667億円と前年から増加した。対して、全体の約2割を占める水産物は7.5%減の3,609億円と2020年以来4年ぶりに減少した。2023年8月の東京電力福島第一原子力発電所のALPS処理水の海洋放出以降、主要な輸出先である中国や香港などが水産物を対象に導入した輸入規制が響いた。

図表Ⅰ 農林水産物輸出金額の推移
2019年から2024年までの日本の農林水産・食品の輸出総額と項目別の輸出額は以下のとおり。 2019年は全体で9,121億円。内訳は農産物が5,878億円、水産物が2,873億円、林産物が370億円。 2020年は全体で9,861億円。内訳は農産物が6,552億円、水産物が2,276億円、林産物が429億円、少額貨物が604億ドル。 2021年は全体で1兆2,382億円。内訳は農産物が8,041億円、水産物が3,015億円、林産物が570億円、少額貨物が756億ドル。 2022年は全体で1兆4,140億円。内訳は農産物が8,862億円、水産物が3,873億円、林産物が638億円、少額貨物が767億ドル。 2023年は全体で1兆4,542億円。内訳は農産物が9,059億円、水産物が3,901億円、林産物が621億円、少額貨物が667億ドル。 2024年は全体で1兆5,071億円。内訳は農産物が9,816億円、水産物が3,609億円、林産物が667億円、少額貨物が979億ドル。
注:
  1. 2020年から少額貨物を輸出実績に含む。
  2. 2020年以降は定義見直し。
出所:
「農林水産物輸出入概況」および「農林水産物・食品の輸出に関する統計情報」(いずれも農林水産省)から作成

21年ぶりに米国が輸出先トップ

輸出金額上位5カ国・地域は、米国、香港、台湾、中国、韓国の順であった(図表2)。2021年以降、最大の輸出先だった中国は4位となり、21年ぶりに米国が首位となった。上位10カ国・地域では、ベトナム、タイの増加が目立った。ベトナム向けは、ホタテ貝(生鮮など、以下ホタテ貝)、牛肉(くず肉含む)、植木等、タイ向けは、ホタテ貝、イワシ(生鮮など)、真珠が好調であった。

図表2 農林水産物輸出金額(上位10カ国・地域、EU) (単位:100万円、%)
順位 国・地域名 2023年 2024年
金額 金額 伸び率
1 米国 206,237 242,925 17.8
2 香港 236,515 220,964 △6.6
3 台湾 153,242 170,279 11.1
4 中国 236,986 168,091 △29.1
5 韓国 76,079 91,130 19.8
6 ベトナム 69,702 86,198 23.7
7 タイ 51,088 62,804 22.9
8 シンガポール 54,753 55,698 1.7
9 オーストラリア 31,027 32,766 5.6
10 フィリピン 30,587 28,738 △6.0
EU 72,364 85,777 18.5
出所:
「農林水産物輸出入概況」(農林水産省)から作成

首位の米国向け輸出は、17.8%増の2,429億円だった。上位3品目は、アルコール飲料(11.6%増)、ぶり(6.0%減)、ホタテ貝(60.1%増)だった。アルコール飲料は長期化した在庫調整の落ち着きや外食需要の高まりにより、前年の不調から増加に転じた。また、牛肉(くず肉含む、45.2%増)やソース混合調味料(14.2%増)の輸出も好調だった。

2位の香港向け輸出は、6.6%減の2,210億円となった。輸出上位2品目である真珠(12.6%減)、ホタテ貝(調整、17.5%減)が減少した。特にホタテ貝はALPS処理水に対する規制の影響を受けた。他方、緑茶飲料などの清涼飲料水(20.1%増)、菓子(10.4%増)は好調だった。特に菓子では日本のグミやキャンディーの認知度向上が主因に挙げられる。

3位の台湾向け輸出は、11.1%増の1,703億円となった。りんご(41.0%増)、ぶどう(生鮮、24.8%増)、ホタテ貝(20.8%増)といった品目を中心に増加した。台湾では日本産の新鮮な果物(桃、りんご、ぶどうなど)が人気であり、特にりんごは味の良さから引き合いが堅調だった注1

4位の中国向け輸出は、29.1%減の1,681億円だった。ALPS処理水放出の影響で、原産地が日本である水産物の輸入を全面的に停止しており、2年連続で減少した。水産物に限ると、89.9%減の61億円で、輸出実績は規制の対象外である錦鯉などの観賞魚、真珠、さんごなどだった。景気低迷の影響が続き、水産物以外では、アルコール飲料(23.9%減)、菓子(米菓を除く、16.6%減)やインスタントコーヒー(24.5%減)も前年に続き大幅に減少した。

5位の韓国向け輸出は、19.8%増の911億円だった。ぶり(89.7%増)、清涼飲料水等(46.2%増)、菓子(米菓を除く、39.4%増)、アルコール飲料(18.7%増)を中心に好調だった。

ホタテ貝の輸出先の転換進む

輸出金額上位5品目は、アルコール飲料、ホタテ貝、牛肉、ソース混合調味料、清涼飲料水だった(図表3)。

図表3 農林水産物輸出金額(上位10品目) (単位:100万円、%)
順位 品目名 2023年 2024年
金額 金額 伸び率
1 アルコール飲料 134,358 133,710 △ 0.5
2 ホタテ貝
(生鮮・冷蔵・冷凍・塩蔵・乾燥・くん製)
68,871 69,489 0.9
3 牛肉 56,982 63,588 11.6
4 ソース混合調味料 54,355 62,988 15.9
5 清涼飲料水 53,668 57,431 7.0
6 ぶり(活・生鮮・冷蔵・冷凍) 41,750 41,427 △ 0.8
7 真珠(天然・養殖) 45,596 41,189 △ 9.7
8 緑茶 29,186 36,380 24.6
9 菓子(米菓を除く) 30,728 34,372 11.9
10 丸太 23,108 28,227 22.2
出所:
「農林水産物輸出入概況」(農林水産省)から作成

アルコール飲料では、日本酒が5.8%増の435億円と好調だった。半面、ウイスキーは12.8%減の463億円となった。ウイスキー輸出の15.2%を占める中国向けが景気低迷などを要因に49.7%減と大幅に減少したことが響いた。ホタテ貝は、中国や香港が輸入規制を導入したことから、輸出先はベトナムやタイなどが上位を占めるようになった。特にベトナムは前年から12.9倍と大幅に増加し、タイ(3.4倍)やカナダ(2.3倍)向けも好調で、輸出先の転換が顕著となった。牛肉は11.6%増と好調で、最大の輸出先である米国向けをはじめ、台湾や東南アジア、欧州にも輸出が伸びている。ソース混合調味料は、インバウンドの増加に伴う日本食への関心の高まりを背景に、日本食レストランなどの外食需要が増加したことが影響した。清涼飲料水は、米国において日本独特のラムネ飲料に対する人気が高まっているほか、香港などで健康志向から緑茶飲料の需要が増加したことが輸出拡大の背景とみられる。

相談窓口実績から見る日本企業の輸出傾向

ジェトロでは2012年度より農林水産物・食品輸出相談窓口を設置し、日本企業からの相談を受け付けている。2024年度はのべ1万件以上の相談が寄せられた。相談対象国・地域を見ると、米国に関する相談が全体の2割を占め、最も多かった(図表4)。次いで、タイ、台湾、シンガポール、マレーシアが続いた。

図表Ⅰ-51 2024年度農林水産・食品相談窓口実績
2024年度にジェトロ農林水産食品相談窓口に寄せられた相談件数のべ1万件のうち、米国に関する相談が20.0%を占め最大だった。次いで、タイが7.8%、台湾が7.1%、シンガポールが6.4%、マレーシアが4.6%、中国が4.4%、韓国が4.1%、全地域に関する相談が3.9%、香港が3.7%、ベトナムが3.7%、EUが3.5%、アラブ首長国連邦が2.6%、フランスが2.5%、ブラジルが2.2%、インドネシアが2.1%。これ以外のその他の国・地域に関する相談が合わせて21.7%だった。
注:
  1. 国・地域別。
  2. 全地域は国・地域を特定していない相談。
出所:
ジェトロ

相談件数が最も多い米国は、米国食品安全強化法(FSMA)やバイオテロ法に関する米国食品医薬品局(FDA)食品施設登録などの相談が多く寄せられた。

2位のタイは輸出実績(金額ベース)では7位である。相談件数が多い背景には、日本食レストランが増加して、日本産食品に対する需要が高まっていることに加えて、輸入規制に関する法令などの制度改正が頻繁に行われ、規制や手続きの把握が難しくなってきていることが考えられる。対して、中国、香港に関する相談は減少傾向にある。ALPS処理水の放出に伴う規制に関する相談は、前年度と比較して落ち着きがみられる。

「海外から稼ぐ力」の強化を目指す

日本政府は、2025年4月11日に「食料・農業・農村基本計画」を閣議決定した。「輸出の促進」に関しては、輸出拡大等による「海外から稼ぐ力」の強化が掲げられた。「今後成長する海外の食市場を取り込み、農林水産物・食品の輸出の促進を図ること」が重要とし、モノの輸出のみならず、食品産業の海外展開やインバウンドによる食関連消費の拡大と合わせた相乗効果を図る方針を定めた。

2030年度までに達成すべき目標として、(1)農林水産物・食品の輸出額5兆円注2 、(2)食品産業の海外展開による収益額3兆円、(3)インバウンド(訪日外国人旅行者)による食関連消費額4兆5,000億円が設定された。5月30日には政府目標達成のための「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」が改定された注3 。日本の強みを生かせる輸出重点品目には果樹(なし)、ホタテ貝加工品、カキ・カキ加工品が追加され、全31品目となった。

2025年6月29日には、中国が日本産水産物の輸入の一部再開を発表注4 。加工施設の登録や安全証明書の提出は必要となるが、中国向け輸出の回復が期待される。予期できない輸入規制や関税などによる不透明な国際情勢から、輸出先が偏ることをリスクと捉え、新規市場への販路拡大、日本食品の輸出先の多角化は急務である。そのため、「非日系や未開拓の有望エリアなどの新市場の拡大に向け、日本食ブランディング・商流構築」や「日系食品企業の現地ネットワーク構築・強化」、「需要の掘り起こしのために、食文化の発信」などが必要としている。

注記

注1
農林水産物・食品輸出支援プラットフォーム(台湾)「日台高雄フルーツ夏祭りアンケート結果に関するレポート」(2024年8月)
注2
2020年3月31日に閣議決定された「食料・農業・農村基本計画」において、農林水産物・食品輸出の新たな目標として2025年までに2兆円、2030年までに5兆円を達成することが定められた。
注3
ジェトロ「農林水産省、「農林水産物・食品の輸出拡大実行戦略」を改訂」『ビジネス短信』(2025年6月5日付)
注4
ジェトロ「中国、日本産水産物の輸入を一部再開」『ビジネス短信』(2025年6月30日付)

特記しない限り、本報告の記述は2025年6月末時点のものである。

(2025年7月24日)