ガーナの貿易と投資(世界貿易投資動向シリーズ)

要旨・ポイント

  • 2022年のGDP成長率は3.1%と前年を下回る。
  • 貿易は資源価格の上昇などを受け輸出額が増加
  • 対内直接投資は件数が減少するも金額は4.2%増
  • 対日貿易は自動車などの不振により輸出額が減少。一方、輸入は拡大。

公開日:2023年11月9日

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マクロ経済 
GDPはプラス成長を維持。外的ショックへの耐性に課題

ガーナ中央銀行の年次報告書によれば、2022年の実質GDP成長率は3.1%と前年の5.1%を下回った。サービス業と農業が成長をけん引し、それぞれ5.5%と4.2%を記録した一方、工業が0.9%の微増にとどまった。石油部門を除く実質GDP成長率は3.8%としている。GDPの構成比では、サービス業が最大の44.9%(前年48.5%)、次いで工業が34.2%(30.4%)、農業が20.9%(21.1%)だった。成長の足かせの要因として、ロシアのウクライナ侵攻に伴うサプライチェーン寸断による物価高騰や米国の利上げなどに伴う資金調達条件の悪化により、公的債務が急拡大したことが挙げられる。

ガーナの2022年12月時点の公的債務の対GDP比率は77.5%(前年同月は76.6%)だった。ガーナの財政基盤は、新型コロナウイルス感染症対策費の財政出動や物価高騰、通貨下落などで脆弱性が顕在化し、国際市場からの資金調達が困難となっていた。物価上昇率は12月時点で前年比54.1%に達し、2021年同月の12.6%から急上昇を記録した。さらに、米国の利上げの実施などの影響を受け、ガーナセディ安が急速に進行したことで、11月には通貨価値は米ドルに対し年初来54.2%下落し、物価上昇の要因となった。

ガーナ政府は9月よりIMFとの債務再編に向けた議論を進め、12月に総額30億ドルの融資を事務レベルで妥結した(1957年の独立以来、17回目の支援)。一方、同月に包括的な債務再編の一環として、ユーロ債と商業ローン、2国間借り入れの大半を含む対外債務の支払いを一時停止し、事実上のデフォルト宣言となった(2022年12月21日付ビジネス短信参照)。公的債務の対GDP比率のうち、対外債務は2022年末時点で39.5%を占める。政府は国内外の債権者との債務再編の議論を進めると同時に、外貨準備高の回復を目的に、アラブ首長国連邦(UAE)との間で「金と石油製品を交換する政策」の運用を妥結した(2023年1月12日付ビジネス短信参照)。ガーナ中央銀行によると、2022年末時点の外貨準備高は62億3,820万ドル(前年96億9,520万ドル)と前年比3割減少し、輸入2.7カ月分相当とされる。ガーナでは歳入増加策の導入、財政管理の強化、エネルギー、カカオ部門の構造的課題への対処といった財政健全化のための構造改革が進む。今後、IMFの支援に基づいた金融安定性の維持、民間投資拡大、経済成長の実現を目指し、2028年までに公的債務を対GDP比55%以下へ抑えること、2023年から2026年にかけて総額105億ドルの対外債務の救済措置の実施などが掲げられている。

貿易 
輸出は前年比18.8%増

ガーナ中央銀行の年次報告書によると2022年の貿易(通関ベース)は、輸出が前年比18.8%増の174億9,440万ドル、輸入は7.3%増の146億2,120万ドルだった。貿易収支は28億7,310万ドルの黒字を記録し、前年の10億9,880万ドルを大幅に上回った。輸出の伸びの要因として、金の輸出量の増加や原油の取引価格の高騰、非伝統的輸出品(注)の輸出額増加が挙げられる。

輸出を商品別にみると、金は前年比30%増の66億843万ドルに達した。金は2022年の輸出総額の37.8%を占め、同国最大の輸出産品だ。ガーナ統計局(GSS)によれば、主な輸出先はスイス(構成比48.1%)、南アフリカ共和国(24.8%)、インド(21.4%)で、これら3カ国が金の輸出先の9割を占める。金の平均取引額は前年比3%減の1オンス当たり1,749ドルだったが、ガーナからの輸出量は34.0%増の380万オンスを記録し、全体の輸出額を押し上げた。原油については、54億2,861万ドルで前年比37.5%増だった。輸出量は2.2%減の5,420万バレルだったが、原油の平均取引額は40.6%増に当たる、1バレル当たり100.19ドルに上昇したことを受け、輸出額は増加した。

その一方で、カカオ豆およびその調製品は前年比2割減少の22億9,969万ドルだった。貿易産業省の統計によると、主な輸出先はオランダ(約6億1,039万ドル)、米国(約2億6,692万ドル)、ベルギー(約1億8,506万ドル)となっており、日本への輸出額は約9,127万8,000ドルだった。カカオ豆の平均価格は前年比1.5%下落したほか、ガーナからの輸出量も28.7%減の50万2,345トンとなった(輸出額は29.7%減の12億4,000万ドル)。その他、木材およびその製品については輸出量が15.0%増加したものの、価格の低下により輸出額は1億6,141万ドルと前年比0.3%の微減に転じた。

貿易産業省の統計によると、輸出全体の国別構成比はスイスが前年に続きトップで16.8%、続いてインドが9.8%、南アフリカ共和国が9.1%となった。

加工製品の輸出額は前年比6%増

ガーナ政府は輸出産品の多角化を積極的に進めている。ガーナ輸出促進局(GEPA)の統計によれば、2022年の非伝統的輸出品の輸出額は前年比6%増の35億3,100万ドルを記録した(2023年6月26日付ビジネス短信参照)。品目別の内訳では、加工食品を含む工業製品が前年比4.6%増の29億3,900万ドル(構成比83.2%)、カカオ豆を除く農産物が7.4%増の5億1,100万ドル(14.5%)、工業美術・工芸品が79.7%増の8,100万ドル(2.3%)だった。

上位の輸出品目では、ココアペーストが前年比4.9%増の5億2,000万ドル、カシューナッツが2.3%増の2億9,400万ドルのほか、鉄・鋼製品が79.6%増の2億5,100万ドル、プラスチック製品が2.3%減の1億7,800万ドル、アルミニウム製品が74.5%増の1億5,900万ドルなどとなった。

非伝統的輸出品の輸出先を国別にみると、ブルキナファソが4億2,100万ドル(前年比14.8%増)、オランダが3億9,900万ドル(5.8%減)、インドが2億6,800万ドル(23.1%増)と上位を占めた。非伝統的輸出品の仕向け国上位10カ国のうち4カ国が、西アフリカ諸国経済共同体(ECOWAS)の加盟国で、ブルキナファソの他は、トーゴが1億5,600万ドル(21.4%減)、コートジボワールが1億4,900万ドル(64.9%増)、マリが1億2,400万ドル(40%増)だった。

表1-1 日本の対ガーナ主要品目別輸出(FOB) [通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
輸送用機器 105,725 49,308 45.2 △ 53.4
階層レベル2の項目自動車 93,102 42,477 39.0 △ 54.4
階層レベル3の項目乗用車 48,201 27,664 25.4 △ 42.6
階層レベル3の項目バス・トラック 44,892 14,813 13.6 △ 67.0
階層レベル2の項目自動車の部分品 713 1,559 1.4 118.7
階層レベル2の項目二輪自動車 2,018 1,119 1.0 △ 44.5
原料別製品 19,190 20,560 18.9 7.1
階層レベル2の項目鉄鋼 2,325 1,615 1.5 △ 30.5
階層レベル2の項目金属製品 573 630 0.6 9.9
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 543 174 0.2 △ 68.0
階層レベル2の項目非金属鉱物製品 19 16 0.0 △ 15.8
階層レベル2の項目ゴム製品 15,710 18,125 16.6 15.4
一般機器 21,654 16,541 15.2 △ 23.6
階層レベル2の項目原動機 5,172 5,637 5.2 9.0
階層レベル2の項目電算機類(含周辺機器) 143 391 0.4 173.4
階層レベル2の項目ポンプ・遠心分離機 838 1,307 1.2 56.0
階層レベル2の項目建設用・鉱山用機械 13,205 7,968 7.3 △ 39.7
階層レベル2の項目荷役機械 642 467 0.4 △ 27.3
原料品 9,051 8,516 7.8 △ 5.9
化学製品 4,519 6,426 5.9 42.2
階層レベル2の項目有機化合物 664 645 0.6 △ 2.9
階層レベル2の項目医薬品 1,275 1.2 全増
食料品 16,584 3,226 3.0 △ 80.5
電気機器 1,647 2,581 2.4 56.7
階層レベル2の項目音響・映像機器 15 26 0.0 73.3
階層レベル2の項目重電機器 210 276 0.3 31.4
階層レベル2の項目通信機 49 66 0.1 34.7
階層レベル2の項目電気計測機器 1,079 373 0.3 △ 65.4
階層レベル2の項目電気回路等の機器 67 13 0.0 △ 80.6
合計(その他含む) 181,762 109,036 100.0 △ 40.0

〔出所〕 財務省貿易統計

表1-2 日本の対ガーナ主要品目別輸入(CIF) [通関ベース](単位:1,000ドル、%)(△はマイナス値)
品目 2021年 2022年
金額 金額 構成比 伸び率
食料品 107,580 112,295 74.9 4.4
階層レベル2の項目魚介類 1,317 1,878 1.3 42.6
階層レベル2の項目肉類 0 0 0.0
階層レベル2の項目穀物類 12 0.0 全減
階層レベル2の項目野菜 15 13 0.0 △ 13.3
階層レベル2の項目果実 19 49 0.0 157.9
原料品 4,647 10,763 7.2 131.6
階層レベル2の項目木材 311 517 0.3 66.2
原料別製品 19,706 24,126 16.1 22.4
階層レベル2の項目非鉄金属 19,602 24,080 16.1 22.8
階層レベル2の項目織物用糸・繊維製品 86 42 0.0 △ 51.2
階層レベル2の項目非金属鉱物製品 19 0.0 全減
電気機器 5 1,076 0.7 21,420.0
階層レベル2の項目絶縁電線・絶縁ケーブル 3 0.0 全減
階層レベル2の項目重電機器 83 0.1 全増
その他 606 1,614 1.1 166.3
階層レベル2の項目バッグ類 111 77 0.1 △ 30.6
合計(その他含む) 132,550 149,876 100.0 13.1

〔出所〕 財務省貿易統計

対内直接投資 
投資件数は減少するも投資額は前年比4.2%増加

ガーナ投資促進センター(GIPC)によれば、2022年の対内投資件数は211件、投下資本は15億8,896万ドルだった。このうち、外国直接投資額は13億5,341万ドルを占める。金額は前年比4.2%増、件数は22.1%減となった。景気後退や政府の対外債務の支払いの一時停止、IMFによる構造改革の行方などの不透明さが投資家心理に影響を与え、投資件数の減少につながったとみられる。

件数別での主な投資国は、中国(32件)、インド(21件)、米国(12件)、モーリシャス(8件)、英国(8件)だった。金額別では、オーストラリアの3億5,560万ドルを筆頭に、シンガポール(1億4,100万ドル)、ブルキナファソ(1億4,000万ドル)、中国(1億1,986万ドル)、インド・アラブ首長国連邦(6,634万ドル)が上位を占めた。投資分野ではサービス業が最も多く、投資件数の約4割に当たる84件を記録した。次いで、製造業(60件)が続き、輸入貿易業および輸出貿易業がそれぞれ24件と同数だった。 中国企業の事例をみると、中国のセントゥオ・グループ(森拓集团)が19億8,000万ドルを投資し建設を進める石油製油所の操業が予定されている。年間製油量は200万トンとされ、2024年1月には年間計500万トンに増強される予定だ。同製油所の計画では、2025年までに「ユーロ5」対応のジェット燃料、ディーゼルなど計426万トンの石油製品を生産するとされる(2023年7月27日付記事参照)。

対日関係 
日本の対ガーナ輸出は前年比40%減、自動車の輸入減少が顕著に

財務省貿易統計によると、日本のガーナからの輸入は前年比13.1%増の1億4,987万6,000ドルだった。構成比の約75%を占める食料品は4.4%増の1億1,229万5,000ドルだった。食品類の中で増加率が顕著だった項目としては、果実(4万9,000ドル)と魚介類(187万8,000ドル)で、それぞれ2.6倍、42.6%だった。この他、非鉄金属が22.8%増の2,408万ドルへと増加した。

日本の対ガーナ輸出は前年比40%減の1億903万6,000ドルだった。輸送用機器や一般機械、食料品が大きく減少し、輸出額全体を引き下げる要因となった。

構成比の45.2%を占める輸送用機器が前年比53.4%の減少に転じ、4,930万8,000ドルだった。バス・トラックが 67%減の1,481万3,000ドルだったほか、乗用車が2,766万4,000ドル(前年比42.6%減)、二輪自動車が111万9,000ドル(44.5%減)だった。一方、自動車の部分品については、2.2倍の155万9,000ドルを記録した。ガーナの自動車販売協会(GADA)の調べによれば、2022年の新車販売台数は前年比21%減の7,546台だった(2023年8月8日付ビジネス短信参照)。メーカー別の新車販売をみると、トヨタ自動車(1,772台)、スズキ(1,089台)、日産自動車(879台)、三菱自動車(783台)と日本車が上位4位を独占した。

日系企業の投資や操業状況は、自動車組立製造において本田技研工業がホンダ・マニュファクチャリング・ガーナを2022年9月に設立し、四輪車の組立製造を予定している。投資額や生産予定の車種は未公表だ。さらに、豊田通商は同子会社のトヨタツウショウ・マニュファクチャリング・ガーナを通じて同年9月にスズキの「スイフト」のセミノックダウン(SKD)生産を開始した。さらに、豊田通商の完全子会社である仏系総合商社CFAOはナイジェリア発のスタートアップであるムーブと連携し、ウーバーやボルトなどの配車サービスのドライバーに対する自動車ローンの提供を開始した(2022年10月4日付ビジネス短信参照)。

(注)非伝統的輸出品は、伝統的輸出産品とされる未加工の金や原油などの鉱物性生産品、カカオ豆および木材以外の産品と定義される。

基礎的経済指標

人口
3,347万5,870人 (2022年、推定、年央値)
面積
23万8,537平方キロメートル
1人当たりGDP
2,270 米ドル (2022年)
(△はマイナス値)
項目 単位 2020年 2021年 2022年
実質GDP成長率 (%) 0.5 5.1 3.1
消費者物価上昇率 (%、期末値) 10.5 12.6 54.1
失業率 (%) 3.8 3.9 3.9
貿易収支 (100万米ドル) 2,043 1,099 2,873
経常収支 (100万米ドル) △ 2,134 △ 2,541 △ 1,517
外貨準備高(グロス) (100万米ドル) 8,624 9,695 6,238
対外債務残高(グロス) (100万米ドル) 36,025 36,367 n.a.
為替レート ( 1 米ドルにつき、ガーナセディ、期中平均) 5.60 5.81 8.27

注:
貿易収支:国際収支ベース(財のみ)
外貨準備高:金を除く
出所:
人口、失業率:世界銀行
面積:外務省
1人当たりGDP、消費者物価上昇率、対外債務残高(グロス)、為替レート:IMF
実質GDP成長率、貿易収支、経常収支、外貨準備高(グロス):ガーナ中央銀行 2022年報