サクセスストーリー

Agilis GTRI Japan(アジリス ジーティーアールアイ ジャパン)株式会社

遺伝子治療の開発を進める米国バイオ企業Agilis Biotherapeutics, LLCは、日本のバイオ・ベンチャー株式会社遺伝子治療研究所と共同で合弁会社Agilis GTRI Japan株式会社を設立。2017年2月、遺伝子治療薬の研究開発拠点を川崎市に設置した。AADC欠損症やパーキンソン病などの中枢神経分野の難病に対する遺伝子治療薬の日本初の承認を目指す。

設立年月
2016
進出先
神奈川県

  • バイオテクノロジー/ライフサイエンス
  • 米国米国

掲載年月 : 2017/09

遺伝子治療薬を開発するAgilis GTRI Japan株式会社(以下、AGJ社)は2017年2月、川崎市殿町のキングスカイフロントに研究所を開設した。新設の研究所は、神奈川県が公民共同事業で整備した再生・細胞医療の実用化・産業化拠点「ライフイノベーションセンター」内に位置する。

AGJ社は、最先端のライフサイエンス産業・研究機関が集積する同センターで、AADC欠損症やパーキンソン病など、中枢神経分野を中心とした難病に対する遺伝子治療に用いるAAV(アデノ随伴ウイルス)ベクター(*1) の開発・製造を行う。患者に投与すると、目的の細胞に感染し、ベクターに組み込まれていた遺伝子が細胞内で働き、薬となるたんぱく質を作る。

  1. (※1)

    治療用遺伝子を標的細胞内部に導入するため利用される非病原性ウイルス

AGJ社がオフィスを構えるライフイノベーションセンター

中枢神経分野の難病に対する遺伝子治療

AADC欠損症は、神経伝達物質を合成するために必須の酵素である芳香族Lアミノ酸脱炭酸酵素(Aromatic L-amino acid decarboxylase: AADC)が、生まれつきの遺伝子変異により働かなくなってしまう常染色体劣勢遺伝性疾患だ。自律神経機能がうまく働かない、体をうまく動かすことができないなどの症状がみられる。世界中で報告例は100例前後の難病で、AGJ社代表取締役の浅井克仁氏(以下、浅井氏)によると、「日本には今わかっている段階で、6人の患者しかいない」と言う。日本では2016年4月から指定難病のリストに加わった。一方、パーキンソン病は日本に15万人の患者がいる。同社の遺伝子治療薬が承認されれば、ADDC欠損症やパーキンソン病のような根本治療法がない難病疾患の治療に道筋が開ける。

先端技術を持つ日本のバイオ・ベンチャーとの連携

親会社であるAgilis Biotherapeutics, LLC(以下、Agilis社)は、2013年に米国マサチューセッツ州ケンブリッジに設立されたバイオ・ベンチャー企業だ。AADC欠損症に対する遺伝子治療の臨床開発における世界的リーダーであり、治療を施した患者数は世界最多となる。Agilis社が、これまでに蓄積したAADC遺伝子治療の治療経験と技術は、最も先進的なものであると評価されている。2015年12月、同分野で研究を行う日本のバイオ・ベンチャー株式会社遺伝子治療研究所(以下、遺伝子研)が同社に提携を持ち掛けた。

中枢神経領域の遺伝子治療の開発を行う企業は世界でも少数で、遺伝子研は、その中でもAAVベクターを用いた遺伝子治療においてトップクラスの技術を有する日本企業である。Agilis社にとって、遺伝子研と提携する決め手になったのは、「遺伝子研が日本で持つパイプライン(*2) とその製造についての研究開発の進み具合だった」と浅井氏は言う。日本企業の高度な製造技術と、Agilis社の持つ遺伝子治療の実績で、アジア地域での遺伝子治療薬開発の基盤を強化する狙いだ。ジェトロのコンサルテーションの下、約半年後の2016年7月には業務提携に関する覚書を締結し、同年8月には合弁会社AGJ社が設立された。

  1. (※2)

    研究開発から承認、販売にいたるまでの開発品。新薬候補化合物。

日本進出のきっかけ-インセンティブ-

遺伝子研からの声掛けで業務提携を行う方針は決まっていたものの、こんなに早く合弁会社を設立できるとは思わなかった」と浅井氏は言う。両社の合弁会社設立の話がたった半年で進んだのは、ジェトロが実施した「グローバルイノベーション拠点設立等支援事業(*3) 」において、研究開発拠点の設立にかかる経費が補助されることになったことが大きいという。浅井氏は、「業務提携の話を進めている折、遺伝子研から、再生医療分野を支援する補助金があると聞きました。この補助金がなかったら、今はまだ合弁会社はなかったかもしれない」と語った。また、同社は国家戦略特区を活用し、神奈川県の企業誘致施策「セレクト神奈川100」にも選ばれるなど、自治体のインセンティブも積極的に利用した。「設立時のコスト削減は大きな魅力だった」という。

  1. (※3)

    2015年度補正予算にて2016年1月~2017年3月に実施。日本において外国企業が日本企業等と連携して取り組むIoTまたは再生医療分野におけるプロジェクトを支援する。

補助金を活用し設置した研究開発施設の空調コントロール室
この装置により、再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準を満たす条件を保っている。

日本初の遺伝子治療薬の製造に向けて

現在は浅井氏と研究員8名を含む10名が、ライフイノベーションセンターで、遺伝子治療薬の製造へ向け、準備を進めている。第一に目指しているのが、再生医療等製品の製造管理及び品質管理の基準であるGCTP適合性の承認取得だ。浅井氏は、「まずはGCTP適合性承認取得に向けて、全力で準備をしています。これが取れなければ、治験すら始められない。取得までに時間がかかるので、同時に、現在のラボの製造規模を市場展開可能なレベルまでスケールアップするべく、研究を続けています」と語った。GCTP適合性承認取得後は、すぐに同施設で国際共同治験の準備にとりかかる構えだ。「国際共同治験の枠組みを使えば、日本での治験結果を米国・ヨーロッパでの承認申請段階でも共有して利用可能です。その他の国も、この基準より厳しいことはほとんどない。いずれはこの拠点をアジア及びヨーロッパの地域統括拠点、製造販売拠点にしていきたいと考えています」と遺伝子治療薬の製造に向けて意気込みを語った。「日本で治験をやるんだったら治してください」という海外の患者からの問い合わせも来ているという。

同社が研究の最先端を行くこの治療法は、AADC欠損症やパーキンソン病に対する唯一の安全性の高い治療法になるだけでなく、技術を応用することでその他の遺伝疾病に対しても治療法の確立が期待できる。

細やかなジェトロのサポート

ジェトロは、補助金に関する情報提供をはじめとして、合弁会社設立にかかるコンサルテーションの提供、行政書士の紹介や、地方ネットワークを生かし、自治体との面談アレンジをするなど様々なサービス提供を行った。浅井氏はジェトロのサービス対して「本部のスタッフも横浜事務所の方も、丁寧にサポートしてくれました。事務手続き全般について、大変細かくて親切なアドバイスをいただきました」と語った。

Agilis GTRI Japan株式会社 代表取締役 浅井克仁氏

(2017年6月取材)

同社沿革

2013年

米国Agilis Biotherapeutics, LLC設立

2014年

株式会社遺伝子治療研究所設立

2016年

Agilis Biotherapeutics, LLCと株式会社遺伝子治療研究所の間で業務提携に関する覚書締結
両社による合弁会社Agilis GTRI Japan株式会社設立

2017年

神奈川県川崎市殿町に研究開発拠点を設置

Agilis GTRI Japan株式会社

設立

2016年

事業概要

AADC欠損症及びパーキンソン病に対する遺伝子治療製剤の研究開発

親会社(グループ)

Agilis Biotherapeutics, LLC

住所

(本社)〒210-0821 神奈川県川崎市川崎区殿町三丁目25番22号

ジェトロの支援

  • 合弁会社設立に係るコンサルテーション
  • 行政書士の紹介
  • 補助金にかかる情報提供
  • 神奈川県との面談アレンジ

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