製造業
政府の取り組み

政府主導のDX・GX推進で、サプライチェーンの強靭化や市場拡大、外国・外資系企業との連携強化が見込まれる


(1)外国・外資系企業を含めたデータ連携およびDX投資促進によるサプライチェーンの強靭化


近年、新型コロナウイルス感染症の拡大や国際情勢の不安定化など、予測困難な事象が多く発生したことから、日本においてサプライチェーンの強靭化が急務となっています。そうした状況を受け、現在日本政府ではデジタル技術を活用した事業者全体の取り組みの可視化や連携等、さまざまな施策が検討されています17

経済産業省は、従来の固定的な取引関係を超えたデータ共有を通じてサプライチェーン全体での最適化を図っていくことが必要であるとの考えから、サプライチェーンの強靭化に向けて、企業間のデータ連携を推進するため海外とのユースケース作りなどの施策を検討しています。加えて、同省はDX税制やものづくり補助金等を通してDX投資の促進を進めています18。「DX投資促進税制」では、クラウド技術を活用したデジタル関連投資に対する税額控除や特別償却を措置しています19。また、「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金」は革新的なサービスの開発や生産プロセスの改善を行うための設備投資を支援しています20。これらのインセンティブにより国内外企業間におけるDXが推進され、データ連携のシームレス化やデータ利活用の高度化、製造プロセスの効率化等が期待されます。


(2) カーボンニュートラル実現を目指す企業を後押しするグリーン成長戦略およびGX促進に関する施策


2050年カーボンニュートラル達成に向けて、日本政府は「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定し、産業構造や社会経済の変革に向けた取り組みを進めています。この戦略の下、成長が期待される14分野として自動車・蓄電池や半導体、船舶、食料、航空機、カーボンリサイクル・マテリアル等、製造業に関連する重点分野が複数指定されています。その中でも特に自動車分野では、日本政府は自動車の電動化や脱炭素化、蓄電池の製造能力・導入量の強化、充電インフラの整備等を目標として掲げています(図表6)。

これらの目標達成に向けて、日本政府はクリーンエネルギー自動車導入促進補助金の導入や21、CEV・充電設備・水素ステーション整備の導入支援を行っています22。こうした支援は外資系企業が販売する車両にも適用されており、例えばTesla(米国)が販売する新車は一部を除き、CEV補助金の対象となっています23。これらの政府の後押しにより、電動車をはじめとした非燃料車両の保有台数は着実に増加しています(図表7)。このような傾向から、今後さらに市場が拡大することが期待されます。

図表6「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(自動車・蓄電池)」

主な今後の取り組み 概要
電動化目標の設定
  • 乗用車:2035年までに新車販売の100%を電動車にする。
  • 商用車(小型):2030年までに新車販売の20~30%を電動車、2040年までに100%を電動車・脱炭素燃料車にする。
  • 商用車(大型):2020年代に5,000台の電動車を先行導入し、2030年までに2040年の電動車普及目標を設定する。
蓄電池目標の設定
  • 2030年までの早期に国内の車載用蓄電池の製造能力を100GWhに高める。
  • 家庭用、業務・産業用蓄電池の合計で、2030年までの累積導入量を約24GWhにする。
充電・充てんインフラ目標を設定
  • 2030年までに公共用の急速充電器3万基を含む充電インフラ15万基を設置。
  • 2030年までに1,000基程度の水素ステーションを最適配置で整備。
電動化推進に向けた施策パッケージを展開 燃費規制の活用、導入支援や買換え促進、蓄電池等の大規模投資促進、充電・充てんインフラの導入拡大等。

図表7「次世代自動車保有台数推移」

FCV(燃料電池自動車)の保有台数。 2018年度3,009台、2019年度3,695台、2020年度5,170台、2021年度6,981台、2022年度7,310台。 PHV(プラグインハイブリッド自動車)の保有台数。 2018年度122,008台、2019年度136,208台、2020年度151,241台、2021年度174,231台、2022年度207,578台。 EV(電気自動車)の保有台数。 2018年度126,289台、2019年度138,120台、2020年度145,763台、2021年度161,363台、2022年度228,977台。 電動車をはじめとした非燃料車両の保有台数は着実に増加しています。

※EVは電気自動車、PHVはプラグインハイブリッド自動車、FCVは燃料電池自動車を指す。
〔出所〕次世代自動車振興センターのデータを基にジェトロ作成25

また、日本政府は製造業の中でも特にCO2排出量の大きい素材産業(鉄鋼、化学、製紙・パルプ、窯業・セメント)に対して、GX促進に向けた投資促進策を進めています26。具体的には、政府は製造プロセス転換に向けた設備投資支援(革新的な電炉への転換、ケミカルリサイクルへのプロセス転換、バイオリファイナリー産業への転換等)や、自家発電設備等の燃料転換事業を支援する「排出削減が困難な産業におけるエネルギー・製造プロセス転換支援事業」を創設し、2024年度予算額として2.2億米ドル*(327億円)を計上しています27。さらに、サプライチェーンにおけるCO2排出量削減策として、各企業が最終消費者に自社製品が環境に配慮していることを可視化する「GX価値」を評価基準とした脱炭素製品の購入費用補填や、シェアリングサービスにおける製品のライフサイクル全体を考慮した脱炭素製品の提供促進策、GX価値の高い製品の選好を促進するための制度的措置等を含む施策パッケージが今後の施策の方向性として挙げられています28, 29。また、分野別投資戦略として、公共調達でのGX価値評価促進や、自動車や建材等における導入インセンティブ付与等の検討が行われることが計画されています30。このようにGX促進に向けて、外資系企業も対象にした補助金の導入や投資促進計画が進められています。


(3)地方活性化に向けた取り組み


多くの外資系企業が関東地方に製造・加工拠点を有している中(図表8)、政府や地方自治体は製造業をはじめとする幅広い産業において、国内外の企業を誘致し、地方活性化を促進する取り組みを進めています。

図表8「外資系企業の製造・加工拠点数の都道府県ランキング(2020年)」

順位 都道府県 地域
1 東京 関東
2 神奈川 関東
3 愛知 中部
4 大阪 関西
5 埼玉 関東
6 兵庫 関西
7 千葉 関東
8 静岡 東海
9 茨城 関東
10 福岡 九州

政府主導の取り組みとして、東京圏以外の地方都市に本社機能(事務所、研究所、研修所など)を開設・拡充・移転する場合(一部対象外)には、一定の要件を満たせば地方拠点強化税制による優遇措置が適用されます(図表9)。

図表9「『地方拠点強化税制』による税優遇措置」

税制項目 地方において本社機能を開設・拡充 東京23区から本社機能を地方に移転
雇用促進税制 増加雇用者1人当たり、
最大3,963米ドル*(60万円)を税額控除。
増加雇用者1人当たり、
最大5,945米ドル*(90万円)を税額控除。
設備投資減税
(オフィス減税)
【対象】本社機能の建物・建物附属設備・構築物
【取得価額】13.2万米ドル*(2,000万円)以上、 中小企業6.6万米ドル*(1,000万円)以上
【税制措置】上記対象の取得価額に対し、特別償却15%または税額控除4% 【税制措置】上記対象の取得価額に対し、特別償却25%または税額控除7%
地方税の課税免除または不均一課税 認定事業者は、事業税(東京23区から「移転」した場合のみ)、不動産取得税、固定資産税について、地方公共団体から地方税の免除または減税措置を受けることができる場合がある。

また、各地方自治体や経済圏からも外資系企業に向けたインセンティブが設けられています。地方自治体の事例としては、中部地域の「グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ」が挙げられます。同イニシアティブでは、名古屋を中心とする半径約100kmにまたがる地域(愛知県・岐阜県・三重県)を1つの経済圏として位置づけ、世界から優れた企業・技術やヒト・情報を呼び込むことで国際経済交流を促進しています。具体的には、外国企業の招聘やビジネスマッチング、法務・財務に関する進出サポートの提供等を行っており、アジア・欧州圏の製造事業者の進出に貢献しています33

「グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ」における外資系企業と日本企業の連携事例として、自動車向けの小物精密ばねメーカー東郷製作所(日本)とSCHERDEL(ドイツ)による連携が挙げられます。SCHERDELと東郷製作所は互いに不足する技術を補い合うとともに、東郷製作所の人手不足解消や、SCHERDELの日系自動車メーカーへの製造部品導入に向けたきっかけづくりとして連携が進められました。また、プラスチック小型精密部品メーカーの樹研工業(日本)と透過型電子顕微鏡(TEM)に使用する試料ホルダーのメーカーのHummingbird Scientific(米国)による試料ホルダーの営業・販売・製造に向けた連携も行われています34

上記以外にも、キオクシア(日本)とWestern Digital(米国)が協業して三重県四日市市で半導体製造施設を設立した事例35やGestamp Automoción(スペイン)が三重県松阪市に工場を設立し、それに伴い同社日本法人本社を移転した事例 等があります。このように複数の外資系製造企業が地方自治体等からのインセンティブを活用し、地方地域での投資や進出を行っています。


  1. *

    日銀換算レート 1米ドル 151.38円で計算(2024年4月1日時点)


脚注
  1. 経済産業省「製造業のDXについて」(p.1)
  2. 前掲注17(pp.12,14)
  3. 経済産業省「DX投資促進税制」
  4. 経済産業省「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金について」 (p.6)
  5. 経済産業省「令和5年度補正予算『クリーンエネルギー自動車導入促進補助金』」
  6. 経済産業省「令和5年度補正予算・令和6年度当初予算『クリーンエネルギー自動車の普及促進に向けた充電・充てんインフラ等導入促進補助金』」
  7. Tesla 公式ウェブサイト
  8. 経済産業省「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略(自動車・蓄電池産業)」
  9. 次代自動車振興センター「統計EV等保有台数統計」
  10. 内閣官房「我が国のグリーントランスフォーメーション実現に向けて」(p.13)
  11. 経済産業省「令和6年度予算の事業概要(PR資料:GX推進対策費)」(p.2)
  12. 経済産業省「GX市場創出に向けた考え⽅」(p.4)
  13. 経済産業省「製造業を巡る現状と課題 今後の政策の方向性 2024年5月」(pp.71,72)
  14. 内閣官房「分野別投資戦略」(pp.24,26)
  15. 経済産業省「第 54 回外資系企業動向調査(2020年調査)の概況」(p.6)
  16. ジェトロ 「政府のインセンティブ」
  17. グレーター・ナゴヤ・イニシアティブ 公式ウェブサイト
  18. 中部経済産業局等「グレーター・ナゴヤ地域における外資系企業等の活動・協業事例」(pp.8,9)
  19. Western Digital プレスリリース
  20. 前掲注34(p.5)

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