各産業・分野において、デジタル・トランスフォーメーションを推進していくにあたり、5Gがそれを支えるインフラとしての役割を果たすことが期待されています。
ICT 魅力的な注目市場分野
本レポートにおいては、ICT産業における魅力的な市場として以下の4分野を取り上げます。
(1)5G市場
5Gサービスが2020年春に本格的な商用化を迎えたことから、日本では5G関連市場の拡大への期待がますます高まっています。国内5Gサービス向けネットワークインフラへの投資は、2020年以降に急速に拡大されると見られており、2020年の市場規模は約2000億円(予測)で、2019年~2024年の年間平均成長率は54.6%で拡大すると予想されています。また、5Gモバイル回線は、スマートフォンやタブレット等の利用が増加する中で、IoT用の回線数が急速に増加して市場の回線数の一定比率を占めると見込まれています。これからの時代に必要不可欠なシステムとして、5G市場は拡大していくと展望されています。
① スマートシティ×5G
大量のIoTデバイスのデータもリアルタイムに処理することで、スマートシティの可能性を広げる新しい社会インフラとして、5Gに期待が寄せられています。5Gの普及により、収集可能な情報の量と質の両面が拡大し、スマートシティプラットフォームの市場は、2025年度には1兆2,300億円、うち5G関連は約25%の3,000億円程度となると予測されます(図表7)。

5Gの普及に合わせて政府や企業もスマートシティの拡大に取り込んでいます。2017年からは、都市が抱える多様な課題を解決することを目的とし、大企業やベンチャー企業など多様な主体が参画できるよう、オープンなデータ連携基盤の構築を図る「データ利活用型スマートシティ」を推進しています。同事業によって、企業と自治体が連携して実証試験を実施しており、2019年まで14の自治体・団体での事業を支援しています。その中には、2017年に、アクセンチュア(アイルランド)が会津若松市で市民向けAIチャットボットや母子健康情報等の共通ポータルへのアクセス簡易化等を実施したり、2019年には、アフラック生命保険(米国)が調布市で日常の生活データや環境データ等を活用し、健康増進に取り組むとともに、地元大学と協力し教育環境を充実させる等の取り組みを行っており、外資系企業と自治体との連携も目立ちます。
さらに、政府は官民のスマートシティに係る各事業や分野間のデータ連携の取組を加速化するため、2019年に「スマートシティ官民連携プラットフォーム」を設立しています。同プラットフォームでは、2021年1月基準で企業、大学・研究機関等412団体、地方公共団体135団体と政府関係府省11団体が参加しており、会員サポートとしては、ハンズオンでの事業支援、分科会、マッチング支援、及び普及促進活動等を行っています。
② SporTech×5G
SporTech は5Gの活用分野の中でも、早期の立ち上がりが予想される市場です。5Gプレ商用サービスにおいても、ソフトバンクがプロバスケットボール、NTTドコモがラグビーワールドカップ2019日本大会などスポーツを対象としていますが、本格商用化の直後に開催される予定の東京オリンピック・パラリンピックに焦点が当てられています。この分野には、VR(仮想現実)による観戦やマルチカメラによる多視点からの観戦、遠隔地からのバーチャル観戦等、5Gの特徴をわかりやすく訴求できる活用分野が多いため、期待はさらに高まっています。
SporTechの日本国内市場は、2025年度に1,550億円規模となり、そのうち約11%に当たる164億円が、5G関連になると予測されます。なお、SporTech×5Gの活用事例は、コンサートなどライブイベント全般への応用も可能です(図表8)。

③ HealthTech×5G
日本が抱える大きな社会課題の1つが、少子高齢化に伴い増大する社会保障費です。膨れ上がる社会保障費を削減するには、健康寿命を延ばすこと、即ち、病気予防への取り組みが極めて有効です。生活者の日常の活動に関する情報やバイタルサイン(体温、脈拍などの生命徴候)を収集・分析し、QOL(Quality of Life)の改善につなげていくHealthTech分野において、5Gの応用は大きく期待されています。
こうした健康寿命延伸への施策に加え、政府による働き方改革や健康経営の推進により、HealthTechの国内市場は、2025年度には2,253億円の市場規模となり、そのうち約26%の580億円が5G関連になると予測されます(図表9)。

(2)クラウド市場
既存アプリケーションをクラウドに載せ替えて、クラウドネイティブに改修又は再構築する「リフトアンドシフト」が企業によって進められる中、新型コロナが促す働き方改革がクラウド市場成長の原動力となっています。2019年度の国内クラウドサービスの市場規模は2兆3,572億円で、2024年には5兆3,970億円にまで成長すると予測されています(図表10)。

オンプレミスからクラウドへの移行が進むにつれて、クラウド利用を前提としたシステム開発を進める環境が整い、クラウドシフトが拡大しています。それに伴い、2020年の国内クラウド市場では、米大手クラウド3社(Amazon Web Services、Microsoft Azure、Google Cloud Platform)の利用が拡大しており、Azureが首位のAWSを猛追している状況です。一般的に、クラウドネイティブな新規システム開発時のインフラとして選択されるPaaS市場では、3社すべての利用企業が増加しています。また、オンプレミス環境からの移行先として利用されるIaaS市場では、首位のAWSの利用率が51.9%に達し、日本企業でIaaSを導入している企業のうち、半数以上がAWSを導入している状況です。その他、Oracle(米国), IBM(米国)などが徐々に利用企業を増やしており、Tencent(中国)も市場の拡大を見込んで日本事業強化を発表しています。
新型コロナの影響の拡大に伴い、企業が新たに導入、もしくは増強したSaaSで最も多かったものは「Web会議」で、「グループウェア・ビジネスチャット」、「仮想デスクトップ」、「緊急連絡・安否確認」がその後に続いています。外出自粛が要請される中、コミュニケーションチャネルの確保のためにSaaSの導入・活用が進んでいます。
(3)量子コンピュータ
近年、AIやIoTの進展により世界中で発生・流通するデータ量が増大している一方、従来型の古典コンピュータの性能限界がささやかれています。これら膨大なデータを利活用するために、量子力学を計算過程に用いることで圧倒的な処理能力を持つとされる「量子コンピュータ」が注目を集めています。量子コンピュータの活用において、すでに医療分野では、新型コロナの感染シミュレーション等の実証実験が登場している他、革新的な治療法の開発等、社会的に大きなインパクトのある取組みが進んでいます。それに続き、2025年度には金融や化学等の先行分野において、組合せ最適化問題の解を得るのに特化した計算機である「イジングマシン」を中心に、実証実験フェーズから本番環境での活用フェーズへと移行する動きが始まる見込みです。その他、エネルギー分野や電気自動車(EV)における車両用バッテリーの開発等、あらゆる分野で量子コンピュータの活用が期待されています。
量子コンピュータにおける国内動向を見ると、2020年1月に内閣府が「量子技術イノベーション戦略」を策定し、量子に関する研究開発を積極的に推進しています。早慶・東北大学等は、産学研究による活用研究を牽引しており、世界初の実用化が近づいています。また、NECや富士通等の複数の国内企業も量子コンピュータの実用化に向けて動き出しています。金融や化学、EC(電子商取引)、製造(特にシミュレーション)、物流、学術用途を中心に、実証実験が活発化しており、材料計算やシミュレーション等の量子コンピュータ向けのアプリケーションが出てきました。
さらに、近年では外資系企業の国内進出も相次いで発表されました。日本で量子コンピュータの実用化に向けた研究や各種プロジェクトが具体化していることを受けて、2019年12月に、英ケンブリッジ大学発のベンチャー企業であるケンブリッジ・クオンタム・コンピューティング・ジャパン(英国)が、日本市場への本格参入を開始すると発表しました。時期を同じくして、東京大学とIBM(米国)も、他大学や公的研究機関、産業界が幅広く参加できる幅広いパートナーシップの枠組み「Japan-IBM Quantum Partnership」を設立するとともに、IBMが所有・運用する量子コンピュータである「IBM Q System One」を国内のIBM拠点に設置することを予定しています。また、2011年に量子アニーリング技術を用いた世界初の量子コンピュータを商品化したD-Wave Systems Inc.(カナダ)は、量子アニーリングの応用研究を進めて社会実装をさらに推し進めるため、2019年6月に日本法人を設立しました。同社は、NECと共に、同分野の開発・マーケティング・営業活動を行うことを発表しています。
このように、国内外の産官学による後押しにより、国内量子コンピュータ市場規模は、2020年度に62億円が見込まれ、2025年度には430億円、2030年度には2300億円にまで達すると予測されています(図表11)。

(4)エッジコンピューティング
クラウドシステムやIoTが普及していく中で、最近ではネットワークの効率的な運用や低レイテンシの実現、不正アクセスによる情報漏えい対策のために、端末で処理する、いわゆるエッジコンピューティングに注目が集まっています。今後、エッジコンピューティングの中心となる自動車や産業ロボットは、日本が非常に高い競争力を持つ領域であり、政府もエッジコンピューティングがもたらす影響に注目しています。
エッジコンピューティングの国内市場は、国内外の企業の参入により徐々に盛り上がりを見せています。2017年4月、富士通ネットワークソリューションズは、今後活性化するエッジコンピューティング市場におけるビジネス拡大のため、Relay2(米国)の次世代クラウドWi-Fiプラットフォームを採用することを発表しました。また、個人情報保護や通信面での課題を解決するため、クラウドからエッジに回帰する流れが生まれていることから、レノボ・ジャパン(香港)はエッジコンピューティング向けデバイスに参入し、2019年7月にエッジ向け超小型パソコンの新製品2種の販売を開始しました。加えて、Gorilla Technology Group(台湾)は、AI搭載IoTエッジウェア「Gravio」を販売する国内ソフトウェア企業のアステリアと2019年1月に提携し、AIおよびIoT活用に必要となるエッジコンピューティングの世界的な普及を共同で牽引していく方針です。
こうした中、エッジコンピューティング向けのIoTインフラ整備が着々と進んでおり、2019年の国内IoTエッジインフラ市場は前年比25.1%増の331億円で、2023年には742億円規模になると予想されています(図表12)。

ICTレポート

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