裾野産業育成をめぐり積極的な意見相次ぐ−日越経済サミット(5)−

(ベトナム)

ハノイ事務所

2013年10月09日

9月5日に開催された「日越経済サミット」の第2分科会「ベトナム工業化戦略および裾野産業の育成について」の報告2回目。今回は第2部「裾野産業の育成」についての議論を紹介する。

<地場企業からの調達を増やしたい進出日系企業>
初めにモデレーターを務めたジェトロ・ハノイ事務所の川田敦相所長は、ベトナム進出日系企業の現地調達の現状について、ジェトロが実施した「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012年版)」の結果を基に、進出日系企業の現地調達における特徴として次の3点を指摘した。

1つ目は、原材料・部品の現地調達が他国と比べて相対的に難しく、現地化が遅れていること。生産面での問題点として「部材原材料の調達」と回答した企業の割合は全体で45.6%だったのに対し、ベトナムは74.8%と高く、4社のうち3社が問題を抱えていることになる。一方、インドネシアは46.1%、タイは40.7%、中国は39.8%と低い。

2つ目は、現地での調達先として進出日系企業からの割合が高く、地場企業からの調達割合が低いこと。進出日系企業の調達先は日系企業からが37.9%と高く、地場企業は27.9%と低かった。地場企業からの調達率はタイでは52.9%、インドネシアでは43.0%と、いずれもベトナムより高くなっている。

3つ目は、コストの削減の観点から、進出日系企業は地場企業を中心とした現地調達を増加させようと考えていること。今後の調達戦略として、地場企業を中心としたローカル市場からの現地調達を増加させようと考えている企業が7割もあり、またASEANからも調達を考えている企業も多い。川田所長は、日本からの調達率を引き下げたいと考えているからだと説明した。

<大型設備を購入できる資金支援を要望>
モデレーターの発言の後、各パネリストから裾野産業に関する意見が出された。まず、キヤノンベトナムの相馬克良社長は、当地における現地調達の現状を説明した。同社は当地でプリンターを生産し、プラスチック成形、板金実装、金型プレスを行っている。現地調達拡大の目的は、リードタイムの短縮、輸入コストの削減、改善スピードの向上と説明した。しかし、2013年までの現地調達率(金額ベース)は、2013年が67%と2009年比で15ポイント上昇しているものの、地場資本の取引先は3%にとどまり、地場企業からの調達は進んでいないという。

相馬社長はまた、プラスチック製品製造用の金型の現地調達が進んでいないことも指摘。年々調達要望が増えているものの、現地調達率(点数ベース)は30%程度という。現地化が進まない背景として、a.金型を設計できる人材が少ない、b.大型の金型製造には機械が必要となるが購入資金が不足していること、を挙げた。金型製造を目指す地場企業に対してビジネスモデルの構築や、継続的に生産していくためにはどうすればいいかを考えてほしいと訴え、政府に対して大型設備の投資への資金支援を手厚くしてほしいと要望した。

さらに、相馬社長は人材育成の重要性にも触れ、ベトナムには若い労働力が多くいるが、指導できる人材がいないと指摘した。また、高校を卒業して同社に就職した後に会社を辞め、大学や専門学校に行く従業員が少なくないという。当地の高校は普通科しかなく、工業高校の設置が必要との見解を示した。

<裾野産業の発展には民間企業が育つことが重要>
次に、IBCベトナムの市川匡四郎社長は裾野産業育成に関する日越の取り組みについて言及した。もともとベトナムには裾野産業の定義がなく、国営企業が一貫製造していたという。本格的に裾野産業育成に取り組むようになったのは2003年から始まった日越共同イニシアチブ(フェーズ1)からで、現在のフェーズ5では金型を重点的に取り上げている。こうした取り組みもあり、2011年には裾野産業に関する首相決定などが出され、具体的な対象業種や優遇策が規定されている。また、ベトナムの工業化戦略でも裾野産業が取り上げられた。

市川社長は、部品製造だけでなく、鋳物、金型、めっきなどのプロセスも含めて各産業の山(生産量)を高くして裾野も広げていく必要があると主張した。今後、裾野産業育成には、a.日系企業と地場企業が連携すること、b.供給側が自社製品の品質に責任を持つこと、c.自社製品の品質均一化を保証すること、が重要と強調し、同時に、裾野産業発展のために民間企業が育つことも重要だと述べた。

<日本から技術移転を受けるとともに共同で製造>
続いて、地場企業を代表してベトナム精密機械加工・サービストレードのグエン・スアン・フイ社長は、同社がなぜ部品サプライヤーとして成功したのかを経験を交えながら説明した。同社はプラスチック金型、アルミ金型、順送金型、治具を製造している。2011年7月に友人と共同出資して会社を設立した。機械を購入する際には高い金利で金融機関から資金調達をしなければならなかったため、日本企業が使わなくなった機械を安く購入するなど工夫したとの体験談を述べた。

フイ社長は、地場部品サプライヤーとしての成功の理由を2つ挙げた。1つは日本企業との協力体制。現在、日本企業3社から技術移転を受けているが、同時に日本企業と共同で製造するなど協力体制も取っている。また技術習得のために、従業員を日本のパートナー企業に研修に行かせているという。

2つ目は取引先との信頼関係だ。同社取引先の95%が日系企業で、最近は生産した金型を海外にも輸出している。既存の取引先との信頼関係を重視した結果、新たな取引先の紹介を受けることができ、取引先を増やしていったという。

最後に、国営のベトナム外商銀行(ベトコムバンク)のグエン・スアン・トゥアン副頭取が中小の裾野産業企業への融資について話をした。トゥアン副頭取は、同銀行の顧客で中小企業は約5,000社、そのうち約1,500社が裾野産業関連と説明し、特に裾野産業関連企業を全面的に支援することを約束した。

(佐藤進)

(ベトナム)

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