PPPプロジェクトへの政府関与めぐり議論−日越経済サミット(3)−

(ベトナム)

ハノイ事務所

2013年10月07日

9月5日に開催された「日越経済サミット」の第1分科会では、「ベトナムのインフラ開発における民間投資の促進」について、両国の政府機関や企業により議論が交わされた。

<PPPの実現には財政支援が必要>
インフラ開発における民間投資の促進をテーマにした分科会では、初めにモデレーターの山本賢一国際協力機構(JICA)ベトナム事務所次長が官民連携(PPP)スキームの意義を紹介し、ベトナムにおいてPPPスキームを構築するためのポイントについて説明した。

山本次長は、PPPの実現には実施する国の特性に適したスキームを構築していくことがポイントで、公的観点と収益性を勘案し、PPP案件を形成していくことが重要であることや、セクターごとに条件が異なるため、与えられた条件の中で最適のスキームを選択することになる点を取り上げ、特に民間企業が施設建設資金を負担するかどうかでスキームが大きく異なると説明した。また、ベトナムにおけるインフラプロジェクトは、工期の遅延維持費や人件費の高騰などコストが当初の見積もりを上回るコストオーバーランになるケースが多いが、PPPであれば工事から運営まで一貫したコスト管理を民間の責任で行うため、公的サイドは建設段階、回収段階それぞれでコストオーバーランに陥るリスクを回避あるいは軽減することができる、としている。民間にとってはリスクテークとなるが、収益余地を広げるために建設時点からプロジェクトに携わりたいというニーズがあると、民間企業からのPPPに対する要望を説明した。

山本次長は最後に、公的セクターで民間が適切な料金でサービスを提供するためには政府の財政支援が必要であり、政府の関与がなければコストはユーザーが負担することになるとして、PPPの実現には政府の関与が不可欠だと訴えた。

<インフラ整備に関する法律は未整備>
続いて、レ・バン・タン計画投資省入札管理局長がベトナムのインフラ整備の現状と課題について説明した。

タン局長によると、インフラ整備に必要な資金は約400億ドルだが、民間投資は80億ドル程度にすぎず、資金が不足しているという。

タン局長は、民間資金を活用するため、2010年11月9日にPPPに関する法律である首相決定71条を制定、道路、鉄道、都市交通、港湾・空港、水処理施設、発電所、病院、環境分野(廃棄物処理施設など)の8つの分野でPPPの導入が期待されると述べた。

しかし、現状は民間セクターの関与の度合いが低いとし、その理由の1つにPPPに関する首相決定71条のほかにBOT(建設・運営・譲渡)に関する政令108条があり、インフラプロジェクトへの参入に関心のある民間企業に混乱を与えていると、インフラ整備に関する法的問題点を明らかにした。また、インフラプロジェクトへの民間企業の投資を呼び込むためには、金融機関が果たす役割は大きいと述べ、特に海外の金融機関が安心して融資できるようなPPPプロジェクトが構成できるように、外部の意見も取り入れつつPPPに関する法整備をしていきたいとの考えを示した。

<外資のインフラプロジェクト参入に政府保証を>
ベトナム側からは、ベトナム航空のタイン副社長が航空インフラを利用する立場から発言。ODAで建設されたタンソンニャット空港の利用料金は高く、利用料のコストは乗客に直接転嫁されていると指摘し、今後のプロジェクトに当たっては、利用者にもメリットある資金回収スキームを考えてもらう必要があると要望した。

日本側からは、インフラ関連企業エスイーの杉山浩之取締役執行役がクアンニン省でのプロジェクトを紹介し、実現には現地政府による用地取得や移転費用の支援が必要と訴えた。資金調達スキームは特別目的会社(SPC)を設立するとともに、クアンニン省には用地取得・移転費用を負担してもらうことを検討していると説明した。

また、三菱東京UFJ銀行の牧野裕昭アジア・オセアニア本部アジアCIB部部長は金融機関の視点から、ベトナムにおけるPPPプロジェクトの問題点を説明。PPPプロジェクトの収支が悪化した場合、政府と民間のどちらが損失を負担するかについて曖昧であり、明らかにしておく必要があると述べた。首相決定71条では、国家の支出額が投資総額の30%までとされ、BOTに関する政令108条では投資総額の49%が上限とされ、PPPへの政府の関与比率が低いと指摘した。また、政府側の支出を拡大しない場合、案件によっては民間の利益水準に合致せず、事業自体の実現可能性が低くなるため、政府の関与拡大が不可欠だと訴えた。

牧野部長はさらに、外資の金融機関はプロジェクト実施に必要な資金をドルで調達するが、収入は現地通貨で、為替リスクが発生する。そのため、政府として兌換(だかん)保証が必要だと要望した。

ベトナムでは、高速道路や都市鉄道、港湾、エネルギーなど各分野で大規模プロジェクトが計画されている。ベトナム経済は不安定な状況ではあるものの、中長期的には高い経済成長が見込まれるため、インフラビジネスに対する日本企業の関心は非常に高い。一方で、政府保証や為替リスクへの保証が曖昧で、ベトナム政府側の法整備が待たれる。

(古賀健司)

(ベトナム)

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