日本側は投資環境の一層の改善を要望−日越経済サミット(2)−

(ベトナム)

ハノイ事務所

2013年10月04日

シリーズの2回目はパネルディスカッションで議論された内容について。ベトナム側は国営企業改革や金融再編の進展状況や課題などを説明し、日本側はベトナムの投資環境の改善に向けた要望を出した。

<ベトナム:国営企業改革や金融再編について説明>
基調講演に引き続き行われたパネルディスカッションでは、まずブイ・クアン・ビン計画投資相が、国内の資源開発は限界になっており、労働集約型産業も経済発展の原動力にはならなくなってきていると説明した。このため、今後生産性や経営の強化、ハイテク技術の導入などで企業競争力を引き上げなければならない。さもなければ、近隣諸国に負けてしまう、との見解を示した。また、経済再生に向けて解決すべき課題として、(1)制度改革、(2)法的枠組みの整備、(3)ハイレベルの人材育成、(4)インフラ(交通、都市開発など)整備、を挙げた。特に制度改革が最優先課題で、貧しい人々への支援など社会主義の政策に配慮しつつ、資本主義を導入することが重要だと述べた。

財務省のチュオン・チ・チュン副大臣は国営企業改革について触れ、国営企業の再編は2011年から2015年までの5ヵ年計画に沿って約1,300社を対象に実施していると説明。国家資本100%による企業は国防分野のみで、インフラ事業は60〜75%を国が所有するかたちで株式化し、民間企業や外資企業からの投資を呼び込みたいと述べた。また、国営企業の経営効率化のため、内部組織、マーケットシェアの調整を行いつつ、国が保有する資本の削減や不良債権処理を図ると述べた。さらに、ベトナムの不良債権処理は第三者機関を仲介して処理され、同時に組織機構の再編も行うと説明した。

<金融政策は2段階で実施>
ベトナム国家銀行のダン・タイン・ビン副総裁は、経済再生のための金融改革について、2015年までと、2020年までの2つの段階に分けて行うと説明。2015年までは、地場8行の体力の弱い金融機関を処理・合併するとともに、金融機関が外資系銀行をパートナーにすることや証券市場に上場できるようにすると述べた。また、不良債権処理の実施状況について、2013年の不良債権比率が4.7%となり2012年よりも低下したと説明した。2020年までには、新しいスキームをつくり、金融機関が効率的で安定的な運営ができるようにしたいとの見解を示した。

<日本:ベトナムの構造改革が必要>
次に日本側はベトナムの投資環境改善について要望した。

谷崎泰明駐ベトナム大使は、日本企業にとってベトナムでは、(1)電力不足、(2)人材の確保、(3)諸制度の改善、が課題といわれてきたが、(1)および(2)は改善されつつある。引き続き日本はベトナムのインフラ整備、人材育成についてODAを通して支援していきたいと述べた。また、日本からの直接投資(FDI)を引き続き増やすには持続的な発展が必要で、そのためにはベトナムの構造改革に取り組む必要があると指摘。特に、制度改革が不可欠で、国営企業改革や不良債権処理は時間がかかるが、着実かつスピード感を持って対応してほしい、とベトナム政府に注文をつけた。

ベトナム日本商工会の佐藤元信会長(ベトナム三井物産社長)は、日本企業からみたベトナムの投資環境について、労働集約型、輸出加工型企業にとってはおおむね良好だが、小売り・サービス業や内需向け製造業などの内需型企業はさまざまな課題を抱えていると述べた。

また、ベトナムの投資環境における良い点として、親日感情、治安の良さとともに、箸を使う文化、仏教、高齢者や先祖を大切にする感覚など文化的に日本と共通するところを挙げ、他国と比べて安価かつ優秀なワーカーの存在、8,700万人の人口、国民の平均年齢が28歳と若いことなどが、将来の市場発展への期待となって日本企業の投資を引き付けていると説明した。

<スピード感を持った対応を>
一方、悪い点としては、不足する経営人材、不安定な電力供給、未整備なインフラ、未整備な社会制度(税制含む)、不十分な原材料調達先(低い現地調達率)、未成熟な裾野産業、不透明な社会システムなどを挙げ、日本企業は頻繁に変更される法制度、各省庁間の調整不足に不満を持っていると指摘した。

加えて、ベトナム経済は不安定な状況で、不良債権の存在感が増しており、中小企業の倒産件数も増加、一刻も早い経済再編が必要と指摘。現在の経済政策は道半ばで、国営企業改革など本格的な体質改善を求めた。

さらに、佐藤会長は「ベトナムで求められているのはスピード感と実行力。いかに早く、いつまでに実行するかが重要だ。環太平洋パートナーシップ(TPP)や、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)の実現による域内市場開放の期限が迫ってきており、現在の課題に迅速に対応していく必要がある」と力説した。

経団連の日本ベトナム経済委員会共同委員長代理として、舩越豊明氏(ベトナム住友商事社長)は、ベトナムの持続的な経済発展には、国内に産業クラスターを形成するための直接投資を拡大していくことが重要。そのためには、(1)投資環境の整備、(2)工業化戦略を通じた投資促進、(3)産業人材の育成、が重要と説明した。

最後の質疑応答では、フック国会経済委員会副委員長が「パネルディスカッションではベトナムの経済再生の方策について議論したが、日本も過去20年もの間の低成長でまだまだ困難な時期だと思うが、どうか」と質問した。日本側から谷崎大使が「構造改革が進んでおり持続的な経済成長路線に戻ると認識している」、舩越共同委員長代理が「日本は安倍政権の下で構造改革を進めつつある」、佐藤会長も「日本は1人では生きていけない。アジアと協力しなければ成長できない」と回答した。

また、ベトナム商工会議所のロック会頭は「ベトナムはグローバルなサプライチェーンに入れない。日本からの直接投資は組み立てメーカーの進出が顕著だったが、今後われわれが必要としているのは川中である部材産業であり、そのためには技術移転が必要だ。韓国系企業は当地において組み立てだけではなく研究開発(R&D)にも力を入れている。日本も当地の裾野産業育成のためにもっと支援してほしい」と要望した。これに対して谷崎大使は「裾野産業の育成は、基本的にはベトナム企業自身で対応してほしい」「工業化戦略で6業種を決めたが、山の頂が見える必要がある。つまり何をどこまで目指すのかを明確にしてほしい」、舩越共同委員長代理は「R&Dを日本だけでやる時代は終わっており、海外でどんどん行っている。ベトナムでやるメリットがあればベトナムでやる。どういうメリットがあるかを打ち出してほしい」、佐藤会長は「R&Dをやるには人材も重要。人材はどういう国を造るのかという政策によって決まってくる」と回答した。

(古賀健司、佐藤進)

(ベトナム)

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