工業化戦略に関して活発な議論を展開−日越経済サミット(4)−

(ベトナム)

ハノイ事務所

2013年10月08日

9月5日に開催された「日越経済サミット」の第2分科会では「ベトナム工業化戦略および裾野産業の育成」に関して、両国政府機関や企業の代表者から活発な議論が交わされた。第2分科会は第1部「ベトナムの工業化戦略」、第2部「裾野産業の育成」の2部から構成されており、2回に分けて報告する。今回は「ベトナム工業化戦略」について。

<工業化戦略の行動計画は12月に承認予定>
初めに、モデレーターのベトナム商工会議所(VCCI)中小企業センターのディン・マイン・フン副センター長が、ベトナム工業化戦略は日越共同で策定されたもので、近代的な手法で政策立案されていると評価した。続いて、パネリストがそれぞれの立場から同工業化戦略に関する意見や提言を出した。

まず、同工業化戦略の策定に関わったベトナム中央経済管理研究所(CIEM)事業環境競争局のグエン・ティー・トゥ・アイン局長が、戦略の概要を説明した。

同工業化戦略は、2011年9月に日越政府関係機関と企業による作業部会が設置され、約2年にわたって議論された後、2013年7月1日付の首相決定1043/QD−TTgにより承認された。策定過程では、日越双方で企業や関係機関にヒアリングし、ベトナムで成長可能性がある業種をピックアップ。その結果、電子、農林水産加工、農業機械、環境・省エネ、自動車、造船の6業種が選ばれた。6業種は主力産業ではなく、優先産業として将来の主力産業に育てていくことになる。

アイン局長は工業化戦略の行動計画について触れ、「現在、同計画を策定中。12月に政府による実施承認を得る予定」で、企業へのヒアリングも行い、実現可能な計画にしたい、と意気込みを語った。さらに、6業種の中でサブセクターも選定すると言及した。例えば、農産物加工産業に関しては、いくつかの特定製品を選定する予定だ。一方で、工業化戦略は関連省庁間、中央と地方の連携が非常に弱く、地場企業や地方の関心も低いと指摘し、協力と連携を訴えた。

<日系製造業の進出に不可欠な裾野産業と人材育成>
次に、南部ビンズオン省で工業団地の開発・販売を行っているアセンダス・ベトナムの田山恵理子氏が、進出を検討している日系製造業の事例を挙げ、工業化の問題点を指摘した。当地に進出が決定したA社の場合、進出が決定するまで4年かかったという。その理由は、製造に必要な鋳造企業を探していたが、適当な相手が見つからなかったためだ。またB社の場合、当地に進出を検討し、関連する資料を入手しサプライヤー調査も行ったが、結局ベトナム進出を断念し、フィリピンに進出した。理由は経営陣の印象が良くなかったためだ。

田山氏は、前述の事例から当地における裾野産業と人材育成の必要性を指摘し、省が主導的にスピード感を持って対応すべきだと提言した。

<農産物は生産効率化と付加価値化が課題>
続いて、ロイヤルメルボルン工科(RMIT)大学のグエン・クオック・ボン博士が農林水産業の現状を説明し、課題を2つ挙げた。1つは、農産物の生産は非合理的、かつ非効率的だということ。農産物の輸出は2006年で約830億ドル、そのうち野菜の輸出額は約30億ドルと少ない。作付面積もコメが7,500万ヘクタール、トウモロコシ1,100万ヘクタール、果物、野菜、コーヒーなどが1,500万ヘクタールと、コメの生産面積が圧倒的に大きい。稲作だけでなく、他の作物も増産すべきだと主張した。

2つ目は、農産品は加工などの付加価値化がされていないため、経済的に非効率だということ。ベトナムはコメやコーヒーを多く輸出しているが、加工せずに原料だけを輸出しているので、輸出価格が安い。このため、加工することで付加価値を高めるべきだと主張し、農業関連の研究所は数多くあるが、収穫後にどのように加工すべきか研究されていないと苦言を呈した。

<自動車産業発展には継続的で安定的な政策を>
最後に、当地の自動車メーカーの立場から、トヨタ・ベトナムの丸田善久社長が自動車産業発展に関する提言を行った。ベトナムの自動車市場について、タイとインドネシアで比較すると、2012年生産ベースでタイは年間140万台、インドネシアは100万台、ベトナムは8万台であり、ベトナムの市場規模は小さいと説明。しかし、ベトナムの市場規模は長期的な経済成長とともに10年後には10年前のインドネシア並みになる可能性がある、との見解を示した。

また、ベトナムの自動車産業の問題点として、自動車の購入にかかる税金を挙げた。ベトナムでの販売台数は年々増加し2009年で11万9,000台となったが、2010年以降は台数が乱高下していると説明し、その背景として特別消費税、付加価値税、登録料の引き上げが影響していると指摘する。実際に、トヨタの7人乗りの車種「イノーバ」は、税優遇によって2008年には1万5,000台まで販売を拡大したが、2009年の税改定により半減、2012年には4,000台に落ち込んだ。また販売台数が少ないこともあり、部品はタイやインドネシアから輸入しており、梱包(こんぽう)・輸送費用もかかるという。

丸田社長は、ベトナムが2025年前後にモータリゼーションを迎えるとの見方を示す一方で、2018年以降関税が撤廃され国内生産を諦めれば、タイやインドネシアからの輸入車が増える可能性があり、国内産業が衰退する恐れがあると危惧する。

丸田社長はこうした状況を踏まえて、ベトナム政府に対し、自動車産業政策を継続的・安定的に実施するために2点要望した。1つ目が自動車産業の存続と裾野産業の育成のための政策実施だ。自動車産業は経済面でのインパクトが大きく、育成に時間がかかる。そのため、長期的な視野での政策実施を求めた。2つ目が既存サプライヤーの効果的な育成だ。進出済みの輸出加工企業(EPE)による国内販売規制の緩和を要望した。さらに、新規投資だけではなく、既に進出している企業の追加投資への優遇政策、そして新規サプライヤーが進出する際の優遇政策に関しても対象業種を拡張することを求めた。

(佐藤進)

(ベトナム)

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