欧州理事会、銀行の単一破綻処理メカニズムの導入で合意−共通安全保障・防衛政策に関する1年後の協議を予告−

(EU)

ブリュッセル事務所

2012年12月17日

12月13〜14日に開催された欧州理事会は、最優先課題となる単一監督メカニズム(SSM)の本格稼働時期に加え、SSM稼働後に欧州安定メカニズム(ESM)から銀行への直接資本注入が可能になることを確認した。さらに、SSM立ち上げの際に、参加する加盟国の銀行を救済する手段として、単一破綻処理メカニズムを導入することで合意した。

<「真のEMU」実現の長期的行程表は先送り>
12月13日夕方から14日にかけて開催された2012年最後となる欧州理事会(EU首脳会議)は、主に「真のEMU」の実現に向けた工程表(ロードマップ)や、2013年の年次成長概観、共通安全保障・防衛政策の3点について協議した。

1番目のテーマについては、ファンロンパウ欧州理事会常任議長が10月の欧州理事会前に、「真のEMU」に向けた中間報告書(PDF)を発表し、12月の欧州理事会で具体的な工程表での合意を目指すことになっていた(2012年10月22日記事参照)。そのため、欧州委員会が11月28日に発表した「深い真のEMU」実現に向けた詳細計画(ブループリント)(2012年12月4日記事参照)を踏まえて、ファンロンパウ常任議長が12月5日、「真のEMU」に向けた最終報告書(PDF)を発表し、今回の欧州理事会で同工程表の合意を目指した。

しかし、議長総括(PDF)およびファンロンパウ常任議長の初日会議後の記者会見での説明(PDF)によると、合意は銀行同盟の実現に向けた直近の取り組みに関するものにとどまり、長期的な工程表の合意は先送りされたもようだ。ファンロンパウ常任議長は12月14日午前2時に及んだ初日の会議後の記者会見で、ユーロ圏の財政統合に向けて、次の2点で合意したことを強調した。

<銀行監督業務の一元化は規則発効から1年後>
(1)銀行の単一監督メカニズム(SSM)
欧州理事会は、SSMがより統合された財政枠組みに向けた主要なステップになるとし、EU経済・財務相(ECOFIN)理事会の12月13日の合意を歓迎。EU閣僚理事会(理事会)と欧州議会に対し、SSMを速やかに実施できるよう法制度面での合意形成を要請した。経済・財務相理事会が13日に合意した(PDF)のは、SSMの設立に関する2つの規則案についてで、欧州中央銀行(ECB)に銀行監督業務を付与する規則案と、欧州銀行監督庁(EBA)設立に関する規則を修正する規則案についての内容。

ファンロンパウ常任議長はECBに関して、金融政策と監督業務の明確な分離を保証するとともに、健全な単一金融サービス市場を保持すると説明した。実際に、SSMの枠内でECBに銀行監督業務が一元化されるのは規則発効から12ヵ月後となる予定だが、発効が2014年2月以前になる場合は、早くても2014年3月から本格稼働することを見込んでいる。

また、SSMはECBと各国銀行当局により構成されることになるが、EBAはEU域内の金融サービスに関する単一ルールブックの構築や、主な信用機関の増資などについて一貫した方法で実施していくための重要な役割を引き続き担っていくことになると述べた(2012年9月13日記事参照)

欧州理事会はまた、不良資産の定義を含む運用枠組みを2013年上半期中に確立すること、およびSSMが立ち上がれば、欧州安定メカニズム(ESM)から銀行への直接的な資本注入が可能になることを確認した。

<単一破綻処理メカニズムは2013年中に提案>
(2)銀行の単一破綻処理メカニズム
欧州理事会はさらに、SSM立ち上げの際に、参加する加盟国の銀行を適切な手段で救済することを確保するための権限を持った単一破綻処理メカニズムを導入することで合意した。欧州委員会は優先課題として、現在の欧州議会の任期となる2014年夏までに採択できるよう、2013年中に提案を行う予定。

欧州理事会はそのほか、再建・破綻処理指令案や預金保護スキーム指令案を2013年6月までに合意するよう理事会と欧州議会に要請した。

会議後の記者会見に臨むキプロスのフリストフィアス大統領とファンロンパウ常任議長、バローゾ委員長

<経済政策協調の緊密化に向けた4課題の具体化を半年後に協議>
他方、ファンロンパウ常任議長は銀行同盟の進捗後に、焦点を置くべき2番目の分野は経済政策の緊密化だと指摘した。共通通貨を持つ国々にとって、経済政策は共通関心事項となるからだと説明した。ファンロンパウ常任議長は、欧州委員会委員長と緊密に協力しながら、加盟国との協議プロセスを踏まえて、次の4項目に関し、可能な措置と時間を区切った工程表を2013年6月に提示する。

(1)加盟国の全ての主要な経済政策の改革は事前協議を行うなど、加盟国での主要な経済改革の調整
(2)EMUの社会的側面
(3)加盟国政府とEU機関との間の競争力と成長のための相互合意契約の可能性と様式
(4)上記契約を結んだ加盟国の努力を強化する連帯メカニズム

欧州委員会は(1)に関して、ヨーロピアンセメスターの枠組みの中で、主要経済政策の改革に関する事前調整のための枠組みを提案する意向だ。

欧州理事会はさらに、ユーロ圏のガバナンスについては、2013年の早い段階での発効が見込まれる財政協定〔EMUの安定・協調・ガバナンスに関する条約(PDF)〕に基づき、一層改善されるべきことを確認した。ユーロ圏首脳に対し、財政協定の第12条3項(財政協定を批准した非ユーロ圏諸国は、締結国の競争力に関するユーロ圏首脳会議に参加できる)を十分に尊重して、2013年3月の会議で、会議の手続きのための規則を採択するよう要請した。

各国予算などの議論について、民主的正当性と説明責任確保のため、財政協定13条に基づく加盟各国の議会と欧州議会の関与を強化するメカニズム導入も求めている。

ファンロンパウ常任議長はまた、「真のEMU」実現に向けた作業は今回で終わりではなく、2013年も継続していくことを今回、決めたことも明らかにした。

<2013年の年次成長概観の5つの優先課題を確認>
欧州理事会は2点目の年次成長概観について、3年目のヨーロピアンセメスターのスタートとなる欧州委員会による2013年の年次成長概観の提出(2012年11月29日記事参照)を歓迎。13年のEUおよび加盟各国レベルでの努力を11年3月に合意した5つの優先課題に焦点を当てて、継続すべきだとした。

5つの優先課題は次のとおり。

(1)加盟各国の事情に応じた成長志向型の財政再建を追求する。
(2)経済への資金貸し出しを正常な状態に回復させる。
(3)現在と将来のための成長と競争力を促進・強化する。
(4)危機による失業と社会的影響に取り組む。
(5)公共行政を近代化する。

また、欧州委員会に対して、2014年の年次成長概観には、雇用と成長を促進する観点から、労働・製品市場のパフォーマンス評価を含むよう要請した。さらに、単一市場の完成が成長と雇用に貢献するとして、財政・経済・社会危機に対応する主要な要素になると指摘した。具体的には、欧州理事会は単一市場法案II(2012年10月4日記事参照)に関し、欧州委員会に対し、13年春までに全ての主要な提案を提示するよう要請した。

加えて、欧州理事会は規制による負担を軽減し、不要な規則を廃止する「スマートレギュレーション」に関する欧州委員会の指針を早急に検討するよう要請した。規制緩和については、英国のキャメロン首相が会議後の国別記者会見で、特に強調した今回の会議ポイントの1つだった。

欧州理事会はさらに、若年層の雇用対策に関するEUの包括的なアプローチに向けての進捗を歓迎し、理事会に対し、若者雇用パッケージの提案を遅滞なく行うよう要請した。特に、各国の状況とニーズを考慮して、若年層の雇用を保証する勧告を2013年の早期に採択するよう要請した。

<共通安全保障・防衛政策は2013年9月に提案・報告を>
3点目の共通安全保障・防衛政策について、欧州理事会は2008年12月の安全保障・防衛政策に関する総括(PDF)を確認するとともに、EUは今日の変化する世界において、市民の安全を保証し、利益を促進するために、国際平和と安全の維持について、一層の責任を担っていくと表明した。欧州理事会はこの点に関し、国際危機管理に対するEUの具体的な貢献として共通安全保障・防衛政策の効率性の強化を約束している点を強調した。

また、最近のリビアを含む危機オペレーションで、満たすべき責任との間でギャップがあることが明らかになったとし、現在の経済情勢を考慮し、最も費用対効果が高い方法で求められる能力を発展させていくとした。ファンロンパウ常任議長は、2013年12月の欧州理事会はこれらの問題への対応に充てることを夏前に既に共有しているとし、今回の議論はその準備を目的としたものだったことを明らかにした。

また、12ヵ月後の着地点はまだ明確になっていないが、作業の方向性を整えるとし、防衛能力に関するEU加盟国間のより組織的な協力や、民間能力を含めて、共通安全保障・防衛政策全体をより効率性のあるものにする意向を示した。さらに、欧州の防衛産業の強化がイノベーションや競争力の向上に貢献し、EU全体で成長と雇用を促進するとした。

欧州理事会はこのため、EU外務・安全保障政策上級代表と欧州委員会に対し、共通安全保障・防衛政策に関する提案と報告を、遅くとも2013年9月までに行うよう要請した。ファンロンパウ常任議長はこうした作業をベースに、13年12月の欧州理事会前に、共通安全保障・防衛政策に関する勧告を提示するとした。

欧州理事会はまた、シリアでの悪化する状況に驚いているとし、国際パートナーと緊密かつ包括的にシリアの問題解決に向けての作業を継続していくための12月10日の理事会決議(PDF)を支持した。EUはシリアの野党連合を最も効果的な方法で支援する必要があるとし、アサド大統領が官邸を去り、真の政治プロセスを進める必要があることを強調した。

(田中晋)

(EU)

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