欧州委、「銀行同盟」実現に向けた最初の規則案を発表

(ユーロ圏、EU)

ブリュッセル事務所

2012年09月13日

欧州委員会のバローゾ委員長は9月12日、欧州議会本会議で、「銀行同盟」から「財政同盟」、「政治同盟」、さらには「国家連邦」に至るまでの野心的な取り組みへの意欲を明らかにした。また、欧州委は同日、「銀行同盟」の実現に向けた第一歩として、欧州中央銀行(ECB)にユーロ圏の全銀行の監督権限を付与する規則案や、「銀行同盟」の全体像に関する指針を公表した。

<バローゾ委員長、「連邦化」構想に言及>
バローゾ委員長は9月12日、フランス・ストラスブールで開催された欧州議会本会議で2012年の施政方針演説を行い、「銀行同盟」の概要を示すとともに、「財政同盟」、「政治同盟」につながるビジョン、その先の「国家連邦(Federation of nation states)」を実現するために、現行のEU基本条約である「リスボン条約」の改正が必要となることを明らかにした。

バローゾ委員長が示した主なポイントは以下の3点。

(1)欧州委はユーロ圏を安定させ、EU全体の成長を促進するために、現行のEU基本条約「リスボン条約」の枠内で、必要な提案を行う。本日(9月12日)提案した「銀行同盟」創設のための単一監督メカニズム(SSM)が、その第一歩となる。
(2)政治的な措置を含む「真の経済通貨同盟(EMU)」に関する青写真を今後提案する予定で、この作業は今秋、さらに継続される。「真のEMU」に関しても現行条約の枠内で、全ての提案を行う。
(3)現行のEU基本条約の下では進められない構想の実現に向け、民主主義の強化や説明責任といった要素を含めて、必要となるリスボン条約改正のための明確な提案を2014年の次回欧州議会選挙前に行う。

バローゾ委員長は、上記のプロジェクトを将来の欧州の連邦化という大きな野心の下、一歩一歩進めると強調した。

同委員長は施策方針演説の中で「連邦化」構想について、「真のEMU」や「政治同盟」の実現には「連邦化」を進める必要があると呼び掛ける一方、これは「超国家(superstate)」ではないと捕足している。加盟各国が自国の運命を管理するため、互いの国や互いの市民をうまく装備するかたちで主権を分担しながら、共通の課題に取り組むことができるのが民主的な国家連邦だとしている。非常時に保護主義に走ることなく、自国のことを考えるのと同様に、欧州全体や欧州の価値を考えるよう求めている。

欧州理事会(EU首脳会議)のファンロンパウ常任議長は6月28〜29日の欧州理事会で、欧州委委員長やユーログループ議長、ECB総裁との緊密な協力の下、「真のEMU」を実現するためのロードマップ作成の責任を自らに課した。また、現行のEU基本条約の枠内でできることと、条約改正が必要措置について検討するとしていた(2012年7月2日記事参照)。今回のバローゾ委員長の演説は同作業の最初の一歩ともいえる。ファンロンパウ常任議長は、10月に中間報告を、年末までに最終報告書を発表するとしている。

<ECBの権限強化で、微妙なEBAとの関係>
また、バローゾ委員長が施政演説で触れたように欧州委は同日、経済通貨同盟を強化するため、ECBによるSSMの導入を提案した。13年1月からの稼働を目指している。この提案は「銀行同盟」の実現に向けた最初の一歩であり、さらに単一規則書や共通預金保証、単一銀行解決メカニズムなどの措置が必要となる。

9月12日に提案されたのは、a. ECBおよび各国監督当局にユーロ圏の全銀行を監督する強力な権限を付与し、単一監督メカニズムを創設する規則(PDF)、およびb.ユーロ圏と非ユーロ圏の意思決定構造のバランスを保証するために欧州銀行監督庁(EBA)設立規則を限定的に修正する規則(PDF)、c.単一規則書や共通預金保証、単一銀行解決メカニズムを含めた「銀行同盟」に関する全体像を概略する欧州委員会の指針(PDF)、の3点。

a.の規則案では、SSMがユーロ圏の約6,000の銀行を全てカバーするとしており、銀行の規模に応じて、各国監督機関の協力を得ながらも、ECBが全ての銀行のパフォーマンスについて適切なモニタリングを保証できるよう責任を持つとしている。

規則案では、SSMは13年1月からの設置が予定されているが、ECBおよび各国監督機関が十分な準備をできるよう、ECBが13年1月からの全監督責任を負い、14年1月にSSMに全銀行の監督責任を引き継ぐことが想定されている。

ECBがユーロ圏の全銀行の監督責任を負う理由については、EU運営条約第127条6項で監督業務はECBに付与されると規定されていることや、ECBであれば各国の利益保護に陥ることなく、銀行と各国のソブリン問題との関係を弱めることができること、ECBの財政安定に関する強い関心と専門性を活用できること、などが挙げられている。

ECBに付与される具体的な権限としては、ユーロ圏の全信用機関の承認許可・取り消し、銀行が所持する株式の取得・処分の評価、ストレステストの実施などがある。

なお、現行のEU基本条約の下では、ECBはユーロ圏外に拘束力ある権限を行使することができないため、非ユーロ圏諸国はSSMに参加することはできない。しかし、SSMへの参加を希望する非ユーロ圏の国が、当該国の当局とECBの間で緊密な協力関係を築くことでSSMへの参加意思をECBに通知することは差し支えないとしている。

<設立から2年で役割修正を求められるEBA>
また、2011年にEBAと欧州金融監督制度(EFSF)が設置されたことで、EU域内の銀行監督当局間の協力が著しく改善された(ジェトロレポート参照)。EBAはEU域内の金融サービスに関する単一規則書の創設に重要な貢献をしているほか、主な信用機関の増資について、2011年10月の非公式欧州理事会の合意に従い、一貫した方法で実施するために重要な役割を担っている。他方、ユーロ圏の各国監督当局による監督業務を運営するのはEBAではなく、ECBとなるため、EBAはEFSFの枠内でECBと協力していくことになる。

なお、EBAの中でも、非ユーロ圏諸国のうち、実質的にSSMに参加する国と参加しない国が出てくることから、バランスの取れた意思決定メカニズムを保証するため、b.で示したようにEBA設立規則のうち、反対投票に関する条項を修正する規則案を併せて提案している。

他方、EU27ヵ国に適用する単一規則書の改善業務やEU内の監督手続きの収斂(しゅうれん)強化といったEBAの役割は保持される。また、欧州委は9月12日、EBAに対し、単一規則書を補完する単一監督ハンドブックを作成し、EU域内の銀行監督の一貫性を保証するよう要請した。

(田中晋)

(EU・ユーロ圏)

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