欧州委、2013年の年次成長概観を発表−2012年の5つの優先課題を踏襲−
ブリュッセル事務所
2012年11月29日
欧州委員会は11月28日、2013年の成長戦略ともいえる年次成長概観を発表した。持続的な成長と雇用のためには継続的な改革が必要なことから、2012年の成長概観で示した5つの優先課題を、そのまま引き継ぐ内容となった。また、年次成長概観を補完するものとして、マクロ経済不均衡に関する第2回の警告メカニズム報告書と、単一市場の統合に関する初めての報告書を併せて発表した。
<成長と雇用の実現に焦点>
欧州委員会は11月28日、EU加盟国に対し、危機からの成長回復に向けた5つの優先課題を示す2013年の年次成長概観(Annual Growth Survey)を発表した。年次成長概観は加盟国間の経済政策を協調するメカニズムであるヨーロピアンセメスターの始まりとして毎年発表されるもので、2013年の成長戦略に相当するもの。
欧州委によると、EUの政策効果で財政赤字が減り始め、金融市場の緊張が緩和されて、数ヵ国では競争力改善の兆候がみられるなどの成果が出始めているという。しかし、持続的な成長と雇用のためには、継続的な改革が必要であることが2013年の成長概観の主要なメッセージだ、と欧州委は強調している。
そのため、2012年の年次成長概観で示した5つの優先課題(2011年11月28日記事参照)が引き続き有効だとしている。
5つの優先課題は次のとおり。
(1)加盟各国の事情に応じた成長志向型の財政再建を追求する
(2)経済への資金貸し出しを正常な状態に回復させる
(3)現在と将来のための成長と競争力を促進・強化する
(4)危機による失業と社会的影響に取り組む
(5)公共行政を近代化する
5つの優先課題はそれぞれ、公平性に特段の配慮をしながら、成長と雇用の実現に焦点を向けているとしている。成長と雇用を促進するための全ての課題を満たす1つだけの解決策はないが、共通目標や検討すべき改革の範囲はある、と説明する。官民での研究支援や、技能レベル全体が上がるような教育・訓練のより良い実行、起業のための法制度の簡素化などの措置は全て、競争力や成長を促す手助けとなるとしている。また、単一市場や、運輸、エネルギー、インターネット・インフラなどの産業ネットワークのさらなる開発は、ビジネスを発展させ、消費者により良いサービスと製品を提供する機会にもなるとしている。
さらに、2012年6月の欧州理事会(EU首脳会議)での「成長・雇用協定」の合意(2012年7月2日記事参照)が、EUや加盟各国の成長に向けた努力を促すものになるべきだとしている。具体的には、単一市場法案(2012年10月4日記事参照)の実施から、EU構造基金のより目的を絞った利用などを挙げている。欧州委はまた、エネルギー市場の機能改善に関する戦略や産業政策を強化する措置を最近、提案している。さらに、現在議論中のEUの2014年から2020年にかけての次期中期予算枠組みに合意することが、欧州全体の成長と競争力を回復させ、欧州2020戦略目標を達成するために必要不可欠なものとなっている(2012年11月26日記事参照)。
<雇用では、特に若年層対策を重視>
加えて、年次成長概観は、労働市場の改善に早急に対処することを重視している。過去12ヵ月の間に、失業者が200万人増加し、今や2,500万人以上に達していることを憂慮している。長期失業者が警告すべきレベルに達し、若年層の雇用状況が多くの国で劇的に悪化している。そのため、年次成長概観は、雇用レベルを改善し、社会的包摂を促進するために、雇用に配慮した回復に向けて準備することを優先課題にしている。特に、若年層の失業率が高い8ヵ国(スペイン、ギリシャ、ポルトガル、リトアニア、スロバキア、イタリア、ラトビア、アイルランド)に、支援行動チームを設置し、雇用のための研修・支援プログラムにEU基金を再配分している。欧州委はさらに、若者向けの雇用パッケージの中で、25歳以下の若者への雇用や研修を保証する十分な提案を12月5日に行う予定。
欧州委はまた、2013年の年次成長概観に付属して、経済状況全体を見通すマクロ経済報告書(PDF)と、欧州の雇用と社会状況を分析する共同雇用報告書案(PDF)を併せて発表している。
<単一市場の統合に関する報告書を初めて発表>
欧州委はさらに、年次成長概観を補強するものとして、2回目となるマクロ経済不均衡に関する警告メカニズム報告書(PDF)を発表している。この中で、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、スペイン、フランス、イタリア、キプロス、ハンガリー、マルタ、オランダ、スロベニア、フィンランド、スウェーデン、英国の14ヵ国に対して、累積したマクロ経済不均衡の徹底的な見直しを求めている。加えて、単一市場の統合に関する年次報告書(PDF)も併せて発表した。欧州委が年次成長概観に併せて単一市場統合に関する報告書を発表するのは初めて。同報告書は、ヨーロピアンセメスターのプロセスの中で、単一市場に関する機能を監視するものだ。
次のステップとして、今後数週間から数ヵ月のうちに、EUのそれぞれの閣僚理事会で、年次成長概観について議論し、加盟国向けの適切な政策ガイダンスを採択できるよう2013年3月の欧州理事会(EU首脳会議)に向けて報告する予定。この政策ガイダンスは、加盟国が4月に欧州委に提出する各国の予算・経済プログラムに組み込まれるべきものとなる。欧州委は、年次成長概観の優先課題を念頭に、加盟各国の予算・経済プログラムを分析し、5月に国別勧告案を発表、6月の欧州理事会で承認する流れとなる。この政策ガイダンスは、加盟国が2013年度の予算や各分野の立法に組み込むべきものとなる。
欧州委のバローゾ委員長は「われわれの成長志向型財政再建や経済改革、目標を定めた投資を積み上げていくことが非常に重要だ。これが信頼を回復させ、持続的な成長を生み出す唯一の方法だ。これらの改革は困難で痛みを伴い、社会的影響が大きいことは理解している。そのため、欧州委は景気回復ができるだけ雇用創出につながるよう最善を尽している。年次成長概観は、加盟国に政策ガイダンスを提供し、改革の負担を公平に分担し、最も脆弱(ぜいじゃく)な部分を保護することを保証するものだ」と説明している。
(田中晋)
(EU)
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