欧州委、真のEMU実現に向けた詳細計画を発表−短期、中期、長期の各施策を提示−

(ユーロ圏、EU)

ブリュッセル事務所

2012年12月04日

欧州委員会は11月28日、「深い真の経済通貨同盟(EMU)」実現に向けた詳細計画を発表した。これは、欧州理事会のファンロンパウ常任議長が取りまとめる「真のEMUに向けた最終報告書」に貢献するもので、欧州委の意向を示すものだ。欧州委のバローゾ委員長は、EU全体よりもユーロ圏の統合深化を迅速に進めるべきだとする従来以上に踏み込んだ意向を明確にしている。

<真のEMUに向けた最終報告書作成前に欧州委の意向を提示>
欧州委は11月28日、「深い真のEMU」の実現に向けた詳細計画(青写真)を発表した。これは、欧州理事会(EU首脳会議)のファンロンパウ常任議長が12月13〜14日の欧州理事会までにまとめる予定の「真のEMUに向けた最終報告書」に、欧州委の意向を反映させようとするもの。ファンロンパウ常任議長は欧州委員会委員長、欧州中央銀行(ECB)総裁およびユーログループ議長とともに、4プレジデント報告書とも呼ばれる最終報告書をまとめる予定で、同作業に貢献するものでもある。

ファンロンパウ常任議長は10月に開催された欧州理事会に先駆け、既に「真のEMUに向けた中間報告書」を発表していた(2012年10月22日記事参照)

欧州委が今回発表した真のEMUに向けた詳細計画は、金融、財政、経済、政治の各分野において、強くて安定した構造となるよう包括的なビジョンを提供するもの。

欧州委のバローゾ委員長は詳細計画の発表に際し、「EUの経済と市民の生活を傷つけている信頼の危機を克服するために、われわれは深い真のEMUを必要としている。われわれは欧州の人々の意欲を結束させる具体的な証拠を明示するとともに、ユーロの安定とEU全体を支える構造の強化を、金融、財政、経済、政治の各分野において断固として前進させなければならない」と述べた。

「深い真のEMU」においては、加盟国が選択する全ての主要な経済・財政策が、欧州レベルでの徹底した調整、承認、監視の対象となる。詳細計画は、「深い真のEMU」への道を整えるものであり、短期、中期、長期にわたる施策が含まれている。この計画の一部は現行の条約に基づいて実施することができるが、条約の改正を求められる部分もあるとした(表参照)。

<ユーロ圏のより深い統合の必要性を強調>
バローゾ委員長によると、詳細計画はEMUの機能において弱点となる部分を特定した後に、将来に向けてそれらを強化する措置を示している。そして、詳細計画の主要なメッセージとして、より強い規律と団結が必要だと強調する。また、今回の詳細計画は確かに野心的なものであることを認めながらも、「欧州委が野心的なビジョンを設定しなければ、誰がビジョンを提示するのか」と、真のEMUの実現に向けた強い意志を示している。

バローゾ委員長は9月の欧州議会での施政方針演説でも、「銀行同盟」の概要を示すとともに、「財政同盟」「政治同盟」につながるビジョン、その先の「国家連邦(Federation of nation states)」を実現するために、現行のEU基本条約であるリスボン条約の改正が必要になるとの踏み込んだ発言をしている(2012年9月13日記事参照)

今回も短期的な措置の中で、EU27ヵ国で合意した政策、特に単一市場との整合性を保持しながらも、ユーロ圏でEU全体以上に迅速で、深い統合を進められるようにすべきだと述べ、EUの中での統合深化に関し、ユーロ圏とEU全体との2つのスピードを認めている。

<条約改正が不要な措置を短期措置に分類>
今回の詳細計画で示された短期、中期、長期の施策は次のとおり。

(1)短期(6〜18ヵ月)
緊密な調整を深めるために、現在取り得る複数の措置がある。これらは、EU条約を改正する必要がないもの。既に合意している6つの法制「シックス・パック」(2011年10月6日記事参照)や、間もなく合意するであろう2つの法案(2011年12月12日記事参照)などの経済ガバナンスの改革を即時の優先課題として、実施すべきとしている。

加盟国はまた、2012年末までに銀行の単一監視メカニズムに関する合意のために努力すべき。効果的な銀行同盟のために、ユーロ圏の全銀行を監視するための単一監視メカニズムの設立を求めるだけでなく、さらに、経営難の銀行に対する単一破綻処理メカニズムの採択も求めている。

2014〜2020年の次期中期予算枠組みに関する合意が成立すれば、中期予算枠組みとは別に、EU予算の中で「収れんと競争力のための手段」を創設することで、経済ガバナンスの枠組みを一層、強化すべきとしている。この手段は、加盟国やEMUの円滑な機能にとって重要となる構造改革をタイミング良く実施することを支援するものとなる。この支援は国別勧告というかたちで、加盟国と欧州委の間で合意した「契約的合意」の中で設定された約束に基づいている。

「深い真のEMU」に向けた詳細計画(青写真)

<ユーロ共同債の先にはユーロ圏共通予算も視野に>
(2)中期(18ヵ月〜5年)
税制や雇用政策を含む財政・経済政策の共同管理のさらなる強化は、予算の強化と併せて進めていくものとなる。ユーロ圏向けの予算は独自の財源によるべきであり、財政圧力下にある大国での重要な構造改革を十分に支援するものでなければならない。これは、収れんと競争力をベースに発展させていくことができるが、EU条約の改正を伴うことになる。

厳格な条件を伴う債務償還基金とユーロ共同債は債務削減の手助けとなり、金融市場を安定化させると考えられる。予算の監視・運営と、その他の関連する手段は、欧州委の中ではEMU条約によって提供されるべきとしている。

(3)長期(5年以降)
欧州レベルでの主権と責任、結束の適切な共同管理を基礎に、経済危機下にある加盟国を支援するために、EMUに財政能力を提供するユーロ圏共通予算を創設することを可能にすべきだ。

また、深く統合された経済・財政ガバナンスの枠組みは、共同債の発行を可能にし、市場機能と金融政策の運用を強化する。これが、EMUにおける最終段階となるとしている。

欧州委が今回発表した詳細計画も踏まえて、欧州理事会は2012年12月13〜14日の会合で、真のEUMの実現に向けた最終報告書の内容について議論する予定。

(田中晋)

(EU・ユーロ圏)

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