銀行監督の一元化を2013年中に実施へ−ユーロ圏共通予算の可能性は引き続き検証−

(ユーロ圏、EU)

ブリュッセル事務所

2012年10月22日

欧州理事会が10月18〜19日に開催され、銀行同盟の実現のための具体的な日程や、「成長・雇用協定」の見直し、対外関係の3点を主に議論した。銀行同盟については、最も優先される単一監督メカニズム(SSM)の立ち上げ時期をめぐって長時間議論が交わされた。SSMは欧州安定メカニズム(ESM)から銀行への直接資本注入を可能にする前提となるもので、2013年中に運用・実施することで合意した。欧州理事会での議論を2回に分けて報告する。

<中間報告をもとにSSMの立ち上げ時期を討議>
10月18日の夕方から始まった欧州理事会(EU首脳会議)の1日目は19日の深夜3時過ぎまで議論が続いた。初日の最優先課題は銀行同盟の実現に向けた具体的な日程を決めることで(2012年9月13日記事参照)、2012年12月に予定される欧州理事会で結論を出すために、さまざまなアイデアが模索された。

6月のユーロ圏首脳会議では銀行と国債などのソブリン債との悪循環を断ち切ることで合意した(2012年7月3日記事参照)。今回の緊急課題は、銀行のリスクを管理し国境を越えた波及を防ぐため、ユーロ圏内の銀行を一元的に監督するSSMを立ち上げることだ。欧州理事会は総括(PDF)で、2013年1月1日までに法的な枠組みに関する合意を得られるよう呼び掛けた。その結果、法的枠組みが合意されれば、SSMは13年中に実施することで合意した。13年1月1日の枠組みの立ち上げから、14年1月1日を目標とするSSMの完全実施までタイムラグがあるのは、9月12日の欧州委員会の提案どおり。ESMから銀行への直接資本注入のための環境整備を重視するドイツと、直接資本注入を急ぐ南欧諸国との間で意見の相違があり、ドイツは13年に予定される連邦議会選挙が終わるまでは直接資本注入を避けたかったので、13年中の稼働という玉虫色の決着になったとする憶測も聞かれた。

ファンロンパウ常任議長は今回の欧州理事会に先駆け、10月12日に「真の経済通貨同盟(EMU)」に向けた中間報告書(PDF)を発表した。その中で、まず統合された財政枠組みとして、SSMや銀行の破綻処理、預金保護メカニズムを取り上げ、それぞれがどうあるべきかをとりまとめ、提示していた。さらに、統合された予算枠組みとして、経済ガバナンスの一層の強化とEMUの財政能力の発展を提示しており、ユーロ圏のための共通予算構想も示唆していた。

欧州理事会のファンロンパウ常任議長は初日の会議後の記者会見で、SSMの立ち上げに当たって、次の点を考慮する必要があると述べた。

○中心的な役割を担う欧州中央銀行(ECB)のために、金融政策の責任と監視機能を明確に分けなければならない。
○ECBも異なる方法で、つまり、定期的な監督を行う各国の監督当局をできる範囲で活用して、銀行を直接監督できるようにすべき。
○金融サービスの単一市場との整合性を念頭に置いてSSMを立ち上げ、実施する。
○最終的に、包括的で透明性のあるものにすべき。全ての加盟国が参加可能なものにする。この開放性は全ての参加国に適切な権利と義務を伴わせるよう、ガバナンス構造に反映させるべき。

常任議長は、金融分野の統合的な枠組み作りに向けて、SSMは不可欠で、このほか各国の銀行破綻処理や預金保護スキームの調和に着手するなど、他のステップも速やかに進める必要があるとした。

6月の欧州理事会で合意したように(2012年7月2日記事参照)、有効なSSMができれば、ESMから銀行への直接資本注入が可能になるとし、欧州理事会はユーログループに対し、具体的な運用基準の作成を要請している。

<経済ガバナンス強化へ6法案の活用など提案>
また、安定したEMUのために、財政問題と経済政策の強力に統合された枠組みも必要だと常任議長は強調した。そのために既に多くのことを行ってきたとし、EUの経済ガバナンス強化に関する6つの法案「シックス・パック」(2011年10月6日記事参照)、ヨーロピアン・セメスター(2011年1月17日記事参照)、新しい監視メカニズム「過剰不均衡手続き(EIP)」(2011年10月6日記事参照)などを十分に活用すれば、財政・経済同盟に向けて既に主要なステップを進めていると指摘。ユーロ圏の長期的な安定を確実にするために、経済的な衝撃にうまく対処し、緊密な経済収れんを急ぐ必要があるとも常任議長は強調した。

欧州理事会はまた、欧州委員会が2011年11月23日に提案したユーロ圏各国の予算策定の監視強化に関する規則案と債務危機国の監視強化に関する規則案の「2つの法案」(2011年12月12日記事参照)を、遅くとも2012年末までに採択するよう要請した。これは強化された安定成長協定や財政協定、前途の6つの法案とともに、EUの経済ガバナンス強化にとって重要な点だとしている。

さらに、ユーロ圏の共通予算構想については引き続き可能性を検証することにし、その検証は2014〜2020年の次期中期予算枠組みとは切り離して行うことにした。

新たなEMUについては 個別の総括(PDF)で、十分に合法的な説明をできることが重要になると指摘するとともに、EUの制度的、法的枠組みにおいて、真のEMUを実現させ、ユーロ圏以外のEU加盟国にもオープンで透明性のあるものにすることも重要だとした。安定した通貨同盟がなければ、安定したEUには成りえない。ファンロンパウ常任議長はそれゆえ、EUの目標は、ユーロを十分に安定的で、財源があり、経済的で、政治的なものにすることだとした。12月の欧州理事会までに、真のEMU実現に向けた取り組みの最終報告書をとりまとめ、具体的な行程表での合意を目指す予定だ。

他方、ギリシャについて、ファンロンパウ常任議長はギリシャ政府の決断と同国民の非凡な努力に感謝した。欧州理事会と並行して10月18日に開催されたユーロ圏首脳会議では、「ギリシャの財政・構造改革の継続に期待し、プログラムの速やかな実施に向けて努力してほしい。これは、民間部門をより競争力あるものとし、民間投資を呼び込み、公共部門を効率的なものにするために必要なことだ。これらの条件により、ギリシャは新たな成長を達成し、ユーロ圏におけるギリシャの将来を確実なものにすることができる」と声明(PDF)に盛り込んだ。

欧州理事会後の記者会見に臨む欧州委員会のバローゾ委員長(左)と欧州理事会のファンロンパウ常任議長

(田中晋)

(EU・ユーロ圏)

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