米環境保護庁、自動車のTier4排出基準の2年適用延期を提案

(米国)

ニューヨーク発

2026年05月22日

米国環境保護庁(EPA)のリー・ゼルディン長官は5月14日、バイデン政権下で2024年3月に策定された、「2027年モデル以降のライトビークル(LDV)と中型車(MDV)に対する複数の汚染物質排出基準外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」のうち、基準汚染物質(Criteria Pollutant、注1)の排出基準(Tier4)について、適用開始時期を2027年モデルから、2029年モデルに2年延期する規則案を公表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした(官報掲載PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は5月18日、2024年3月26日記事参照)。EPAによると、今回の措置により2027年、2028年モデルで合計17億ドル超のコスト削減効果が見込まれ、車両1台当たり数百ドル規模の消費者負担の軽減につながるという。

自動車の排出ガス規制は、大気汚染物質(基準汚染物質)と温室効果ガス(GHG、注2)の2本立てで、それぞれに基準値が定められてきた。そのうちGHGについては、EPAが2026年2月12日に危険性認定の撤回を公表するとともに、自動車からの排出規制も撤廃されている(2026年2月25日記事参照)。一方で、基準汚染物質についてはTier4基準の導入方針が維持されている。

Tier4では、LDVを対象に、非メタン有機ガス(NMOG)と窒素酸化物(NOx)の合計排出量のフリート平均値(車両群全体の平均値)を段階的に引き下げ、2032年モデル以降では1マイル(約1.6キロ)走行当たり15ミリグラム(15mg/mile)に到達させることが最終決定された。これは、2014年制定のTier3基準の最終年である2025年モデルに定められた基準値(30mg/mile)から50%削減する内容だ。EPAは、このTier4基準が、2027年以降には電気自動車(EV)が大幅に普及しているとの誤った前提に基づいて設定されたものであり、その結果、内燃機関(ICE)車に対して非現実的な排出基準が設定されてしまった、と説明している。ゼルディン長官は声明の中で、「米国民はEVを強制されることを望んでいない。この提案はEPAの規制を現実に立ち返らせ、消費者の選択肢を回復させるものだ」と述べた。

トランプ政権は第2次政権発足(2025年1月)以降、企業間平均燃費(CAFE)基準値の緩和を含む改定案(2025年12月8日記事参照)や、基準値未達企業に対する罰金の事実上の廃止を発表した(2026年1月19日付地域・分析レポート参照)。さらに、カリフォルニア州が2026年モデルから適用を予定していたアドバンスド・クリーンカー・II(ACCII)規制を無効化(2025年6月17日記事参照)するなど、自動車環境規制の緩和を進めている。今回の見直し案に関して、ゼネラルモーターズ(GM)やトヨタなど主要自動車メーカーから構成される自動車イノベーション協会は「現在の市場環境を踏まえれば、極めて理にかなっている」と評価した(ロイター、5月14日) 。また一連の規制緩和についても、関連企業からは、基準値達成コストの低下を前向きに評価する声が上がっている。もっとも、「今後も規制緩和が維持されるかは不透明であり、大幅な戦略転換を決断しにくい。企業として大きな変更ではなく微調整にとどめる」 (注3) など、実際の対応には慎重な声も聞かれる。

EPAは、2026年7月6日午後11時59分(東部時間) まで、政府ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますなどでパブリックコメントを募集する(ドケット番号:EPA–HQ–OAR–2025–3297)。

(注1)非メタン有機ガス(NMOG)、窒素酸化物(NOX)、粒子状物質(PM)、一酸化炭素(CO)、ホルムアルデヒド(HCHO)の総称。Tier4ではこれらすべてを対象に、排出基準値が定められている。

(注2)二酸化炭素(CO2)やメタンなどから構成される、気候変動を引き起こすガスの総称。

(注3)2026年2月と5月にオンライン、対面で行った筆者インタビューに基づく。

(大原典子)

(米国)

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