米調査会社、2026年のブラジルのリスク発表
(ブラジル、米国)
調査部米州課
2026年01月07日
米国の調査会社ユーラシア・グループは1月5日、2026年の「世界の10大リスク」
を発表し、ブラジルに対して及ぼすリスクについても報告した(2026年1月6日記事参照)。
同社は、ブラジルにおける4つのリスク
を挙げた。1つは「中国のデフレ」による製造品の競争激化と中国経済の減速によるブラジル輸出産品の需要低迷。2つ目は10月に予定されている大統領選挙において、人工知能(AI)による偽情報拡散が選挙結果に与える影響。3つ目は中国の景気減速がブラジルの再エネ部門への投資抑制となる可能性。4つ目に「ドンロー主義」によるブラジルへの政治経済的圧力を挙げた。
同社は、中国が2025年よりもさらに大規模に安価な製品を輸出すると予測し、安価な製造品の流入がブラジルにおいても促進され、国内製造品との競争激化を予測する。事実、近年ブラジルの新エネルギー車(NEV)市場(注1)では、BYDと長城汽車だけで約5割のシェアを占めるまでに拡大している(注2)。ただ、同時に短期的にインフレ抑制をもたらしプラスの影響を生むとも述べられている。12月29日付の中銀週次レポートによれば、2025年の拡大消費者物価指数(IPCA)は中銀のインフレ目標範囲内に収まっているものの、高金利を維持し金融引き締め策を講じざるをえない状況が続いている(注3)。
10月に予定される大統領選挙については、現職のルイス・イナシオ・ルーラ・ダ・シルバ大統領が再立候補する意向を示している(2025年10月27日記事参照)。ただ、米国のドナルド・トランプ大統領は、ブラジル前大統領で右派のジャイール・ボルソナーロ氏との関係が深く、この度のリスク予測でも、「米国は、右派の選挙勝利を望んでいる」とされている(注4)。トランプ政権が西半球において米国の優位性を主張する、いわゆる「ドンロー主義」を掲げてベネズエラに軍事侵攻した事例を挙げ、「ブラジルはレアアースを含む豊富な重要鉱物を有しており、米国はブラジルとの関係正常化を望んでいる」と述べて、武力による圧力の可能性は低いと分析する。ただ、台頭するAIによる情報操作が選挙結果に与える影響を強く懸念する。
中国による景気減速が、ブラジルに与える影響は大きい。2024年のブラジル輸出総額のうち28%が中国向けだった(ブラジルの貿易投資年報参照)。対内直接投資額でも、中国企業による電力・再エネ部門による投資額は大きい。ユーラシア・グループは「中国経済動向がブラジルに大きな影響を持つ可能性がある」と指摘している。
(注1)ここではNEVは、PHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(バッテリー車)、HEV(ハイブリッド車)、MHEV(マイルドハイブリッド車)、FLEX(フレキシブル・モジュラー・ロンジチューダル・アーキテクチャー車)を含む概念。
(注2)ブラジル電気自動車協会(ABVE)によれば、2024年のNEVの新車販売台数は17万7,358台でそのうちBYD(7万6,863台)と長城汽車(2万9,219台)のみで全体の53.8%を占めた。2025年はNEVの新車販売台数が24万5,509台と前年比28%増加し、BYD(9万7,258台)、長城汽車(3万4,941台)ともに販売台数を伸ばしている。デザイン性の高さと価格競争力に定評があり、若者を中心に人気を博している。なお、両社はこれまで輸入販売を行っていたが、ともに2025年11月にブラジルで初となる工場を設立し、今後は現地生産にも注力する。
(注3)2025年12月末時点でのブラジルの政策金利は15%。ブラジル中央銀行の金融政策委員会(Copom)で、4会合連続で15%が据え置かれた。中銀は、インフレ抑制のためには現在の金利水準を「かなり長期にわたり」維持する戦略が適切と報告している(2025年12月19日記事参照)。
(注4)トランプ大統領は2025年7月、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づき、ブラジルからの輸入に対して40%の追加関税を課す大統領令を発令した。ブラジルによる米企業の利益や米国民の人権の侵害などが米国の国家安全保障、外交政策、経済を脅かす緊急事態に当たるとして、追加関税の根拠を説明したことに加えて、ボルソナーロ前大統領に対する「政治的迫害」がブラジルの法治や人権を脅かしていると主張した(2025年8月1日記事参照)。
(辻本希世)
(ブラジル、米国)
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