EUのCSRD・CSDDD簡素化を受け、在欧日系企業は対応に苦慮

(EU、オランダ、日本)

アムステルダム発

2025年12月03日

EUの企業持続可能性デューディリジェンス指令(CSDDD、2025年3月7日記事参照、注1)と、企業持続可能性報告指令(CSRD、2025年3月7日記事参照、注2)の対象企業を大幅に削減する簡素化法案が議論される中、ジェトロは11月27~28日、在オランダ日系企業2社および現地法律事務所にヒアリングし、CSRDへの対応状況などを聞いた。概要は次のとおり。

〇A社は、現行指令ではCSRDの対象となっていたため、2024年初頭からCSRDの準備を開始。日本本社とも連携して進めていた。手間がかかるダブル・マテリアリティの評価(注3)を終えたところで、オムニバス法案が発表された。欧州議会の修正案(2025年11月18日記事参照)では、対象外となる見込み。日本のサステナビリティ基準委員会(SSBJ)が2025年3月に公表した「サステナビリティ開示基準」(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)にも対応するため、すべてが無駄になるわけではないが、CSRDの方が対象となるデータポイントが多い。サステナビリティへの取り組み自体は、欧州市場では必須と捉えているものの、今後の規制対応は「暗中模索」の状況で、現時点では据え置きの方針。

〇B社は、現行指令ではCSRDの対象となっていたため、ダブル・マテリアリティの評価などCSRDで求められるデータが収集できる体制を整えていた。適用開始時期の延期(2025年4月7日記事参照)により、日本本社側での対応に必要な時間を確保することができたと考えていたが、欧州議会の修正案では、対象外となる見込み。随時変化する規制内容に関する情報収集に苦労している。

〇現地法律事務所によると、CSRDについては、欧州議会の修正案では、現行指令から9割の企業が対象外となり、欧州持続可能性報告基準(ESRS)のデータポイントは約半数に削減される見込み。CSDDDについては、気候変動に関するパリ協定に沿った移行計画の策定義務が廃止されるかどうかを注視している。欧州域内外の企業から、対象範囲などについて問い合わせを受けており、不確実性が高まっていると感じている。多くの企業は、「様子見」の状況。一方で、多くの企業は規制対応だけではなく、投資家の要請や訴訟リスクなどさまざまな要因でサステナビリティ対応を進めてきており、その流れは変わらないと見ている。中小企業にとっては、簡素化によって対応負担の軽減が期待できる。

簡素化法案は、欧州議会、EU理事会(閣僚理事会)、欧州委員会による非公式交渉「トリローグ(3者対話)」を経て、2025年内に正式採択される見込み。

(注1)CSDDDの詳細は、ジェトロの調査レポート「EU人権・環境デューディリジェンス法制化の最新概要」(2025年5月)を参照。

(注2)CSRDの詳細は、ジェトロの調査レポート「CSRD適用対象日系企業のためのESRS適用実務ガイダンス」(2024年5月)を参照。

(注3)ESRSでは、「重要な(Material)」項目のみをサステナビリティ報告書で開示することを求めており、その重要性の判断はインパクト・マテリアリティまたは財務マテリアリティという2つの観点から行う必要がある。重要性判断プロセスは、ダブル・マテリアリティ評価と呼ばれている。

(梅田健太郎、川嶋康子)

(EU、オランダ、日本)

ビジネス短信 412785125c0e8f9b