米税関、セルビア拠点の中国系タイヤメーカー製品の輸入差し止め命令、人権侵害を理由に

(米国、セルビア)

ニューヨーク発

2025年12月22日

米国税関・国境警備局(CBP)は12月18日、セルビアに所在する大手中国系タイヤメーカーのリンロンに対し、製造工程での人権侵害の疑いに基づき、違反商品保留命令(WRO)を発令外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同日以降、同社で製造した製品の輸入を差し止める。また、CBPは同WROに関する事業者向けガイダンス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますも同日発表した。

米国の1930年関税法307条は、強制労働、児童労働、囚人労働などの労働搾取を通じて生産された物品の輸入を原則禁止しており、CBPは、強制労働などの関与を推定した場合、WROを発令し、対象物品の輸入を差し止める。また、強制労働などの関与を正式に認定(Finding)した場合には、対象物品の輸入を差し止め、押収・没収する。

CBPの発表によると、CBPによるヒアリングや非政府組織(NGO)の報告書などを分析したところ(注1)、リンロンの労働者は、ILOが示す強制労働指標のうち、雇用者による身分証明書の保持、脅迫や威嚇、隔離、過剰な残業、賃金の未払い、債務による束縛、劣悪な居住および労働環境、欺瞞(ぎまん)、脆弱(ぜいじゃく)性の悪用の9つの指標に当てはまっていた。CBPは、これらの情報に基づき、リンロンの労働者が強制労働に従事していると結論付けた。

CBPのロドニー・スコット局長は発表の中で、今回の発令に関し、「米国はサプライチェーンにおける強制労働を容認しないという明白なメッセージだ」と主張した。また、CBP貿易局のエグゼクティブ・アシスタント・コミッショナー代行のスーザン・トーマス氏も、「CBPは強制労働による製品が米国市場に出回ることを防ぎ、米国の労働者と企業にとって公平な競争環境を確保する」と述べた。

今回のWROは2025年1月に第2次トランプ政権が発足して以後5件目で(注2)、これまでに発令された有効なWROは12月18日時点で55件、認定は9件となる。 

(注1)ビジネスと人権リソースセンター外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、セルビアのNGOなどによる過去4年に及ぶ調査により、リンロンでの強制労働が明らかになっている。

(注2)韓国産塩製品に対するWRO(2025年4月7日記事参照)、中国籍漁船が漁獲した水産品に対するWRO(2025年5月30日記事参照)、台湾産自転車に対するWRO(2025年9月25日記事参照)、モーリシャス産アパレル製品に対するWRO (2025年11月21日記事参照)が発令されている。一方で、2025年3月には、2022年11月に発令されたドミニカ共和国産砂糖製品のWROが撤回されている(2025年3月24日記事参照)。

(久峨喜美子)

(米国、セルビア)

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