欧州産業連盟の秋季経済見通し、競争力強化に向け、研究開発への投資拡大など提言
(EU)
ブリュッセル発
2025年11月17日
ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は11月10日、「秋季経済見通し
」を発表した(プレスリリース
)。2025年のEUの実質GDP成長率の予測値は、前回予測(2025年6月24日記事参照)同様、1.0%としたが、2026年は1.3%と0.1ポイント下方修正した。貿易摩擦に伴う不確実性の増大やEUの競争力低下にもかかわらず、7月の米国との関税措置を巡る合意(2025年8月22日記事参照)やEU経済の底堅さから、より深刻な景気低迷に陥るリスクは回避したとした。
2026年の前向きな要素として、内需の堅調さや投資の回復、インフレの緩和を挙げた。投資については、2026年のEUの総資本形成は前年比2.2%増と予測している。景況感や民間投資に係る資金調達環境の改善のほか、2026年末がEU加盟国への支払い期限となるEUの復興レジリエンス・ファシリティー(RRF、2025年6月17日記事参照)の活用の増加や、防衛分野への投資拡大が見込まれるとした。
今回の経済見通しでは、事業の完遂に必要な投資額と実際の投資額の差(投資ギャップ)について分析した。近年、EUが重点を置いてきたグリーン化やデジタル化関連投資は拡大が続くと見込まれるが、EUの政策目標の実現には不十分で、さらに大規模な投資が必要だ。EU企業の投資額は米国企業と大差ないが、ハイテク産業の成長に資する研究開発やソフトウエア開発などへの投資が少なく、投資の質を高めることが重要と指摘した。また、EUと加盟国に対し、EU域内の越境投資の障壁の撤廃や金融統合の推進、ベンチャーキャピタル(VC)などへの支援や、年金基金などへの長期的な民間投資を奨励し、市場の効率性やイノベーションの創出を強化する施策の展開を要請した。
さらに、EUの2028~2034年の中期予算計画(MFF)案(2025年7月22日記事参照)についても1章を割いた。次期MMFは競争力強化と生産・技術革新の基盤強化に向けた「決定的な好機」であり、脱炭素化・デジタル化の推進と同時に、EU経済の強靭(きょうじん)化と技術主権の確立に資する戦略的優先分野に的を絞り、限られた財源を効率よく配分すべきと訴えた。欧州委員会の次期MFF案のうち、欧州競争力基金の創設や、産業界など幅広い関係者が政策立案・実施に参画可能な仕組みの導入、研究開発支援枠組み「ホライズン・ヨーロッパ」の予算拡充などを歓迎した。一方で、年間純売上高が1億ユーロ超の企業に課すとした負担金(「欧州のための企業リソース(CORE)」)は、導入されれば約3万3,000社(金融事業者を除く)に影響があるとし、企業の負担増加は避けるべきとした。共通農業政策(CAP)と地域間格差是正策である結束政策を成果型予算執行モデルに転換する方針については、政策の一貫性や説明責任は増すが、地域活性化や民間の参画は限定的になる可能性を指摘した。また、職業訓練などのための独立した基金を存続させ、財源の50%以上を労働者の技能取得、15%を企業での研修に充てることを提言した。
(滝澤祥子)
(EU)
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