欧州委、復興基金の執行加速へのガイダンス発表、2026年末の期限延長には触れず

(EU、イタリア、スペイン、ポーランド)

ブリュッセル発

2025年06月17日

欧州委員会は6月4日、EU加盟国による復興レジリエンス・ファシリティー(RRF)に基づく国家復興計画の速やかな実施に向けたガイダンスを発表した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。加盟国へのRRF予算の支払い期限は2026年末で、期限を過ぎた場合、加盟国は支払いを受けることができない。そこで、ガイダンスは加盟国に国家復興計画の実施を大幅に加速させるよう求めている。

RRFは、新型コロナウイルス危機への経済対策の復興基金の中核政策で、予算総額は6,500億ユーロ(2024年基準)に上る。RRF予算の支払いは、加盟国が国家復興計画に基づいて改革や投資を実施し、成果目標を達成した上で、欧州委に支払いを申請し、欧州委は審査の上、達成していると判断した場合に行う成果型予算執行モデルを採用する。

ガイダンスによると、5月末時点の加盟国へのRRF予算支払いは予算全体の49%にとどまり、特に2025年上半期は停滞している。成果目標の達成期限が2026年8月末、支払い期限が同年12月末に設定されていることから、ガイダンスは加盟国に対し完了可能な事業への予算の追加振り分けなど、国家復興計画の見直しを勧告している。

実施の遅れは2024年9月の欧州会計検査院(ECA)報告書で既に指摘されている。ECAは、投資関連の成果目標の3割弱が期限までの達成が困難との加盟国への聞き取り調査の結果を明示した。その上で、達成予定時期が2026年に集中する投資関連の成果目標の多くは事業完了が達成条件となることから、期限までの成果目標の未達成によって予算の支払いが完了しないままRRFが終了するリスクがあると結論づけた。

政治専門紙「ポリティコ」(5月28日)は、実施の遅れを受け、RRFの主な受益国のイタリア、スペイン、ポーランドなどが期限の延長を求めているものの、欧州委は延長に否定的と報道している。延長には加盟国の全会一致の法改正が必要で、一部加盟国の反対が予想されると、その背景を指摘した。ガイダンスでも、延長の可能性には触れておらず、RRFは当初から2026年末に終了する臨時予算であることを強調している。

欧州委は、7月に大枠を発表する次期中期予算計画(多年度財政枠組み:MFF)案で、RRFのような成果型予算執行モデルの導入を検討している(2025年2月14日記事参照)。一部加盟国の執行力の弱さは前期MFFの段階から指摘されており、次期MFFでより高い執行力が求められる成果型予算執行モデルを導入できるのか、今後のRRFの執行状況が注目される。

(吉沼啓介)

(EU、イタリア、スペイン、ポーランド)

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