米EU、関税合意の共同声明を発表、関税引き下げの条件や時期を明示
(米国、EU)
ニューヨーク発
2025年08月22日
米国政府と欧州委員会は8月21日、米EUの通商協議を通じた合意に関する共同声明を発表した(米国側発表、EU側発表
)。2025年7月の合意内容(米国側:2025年7月29日記事参照、EU側:2025年7月29日記事参照)の適用条件や開始時期を明示した。双方は今後、合意の実行に向けた手続きを進める。
共同声明では、合意内容、適用条件、開始時期など19項目を列挙した。双方の関税の撤廃や引き下げに関する主な内容は次のとおり。
〇EUは、全ての米国製工業製品に対する関税を撤廃し、米国産農水産品に対する特恵市場アクセスを提供する方針(第1項)。
〇米国は、EU原産品に対して、(1)一般関税率(MFN税率)、(2)MFN税率と相互関税率の合計15%、のいずれか高い関税率を適用する。また、米国は特定のEU原産品(コルクなど米国で調達が困難な資源、全ての航空機・同部品、ジェネリック医薬品・同原料)に対して、2025年9月1日からMFN税率のみを適用する(相互関税を課さない)。さらに、米国とEUは双方の経済とサプライチェーンに重要な品目に対し、MFN税率のみを適用対象に追加することを検討する(第2項)。
〇米国は、1962年通商拡大法232条に基づく追加関税対象のEU原産の医薬品、半導体、木材(注)に対して、MFN税率と232条関税率の合計15%を超えて適用しない。また、同条に基づく25%の追加関税の対象となるEU原産の自動車・同部品に対して、EUが第1項で定める米国産品に対する関税撤廃や削減を成立させる法案を正式に提出した場合、法案を提出した月の1日から(1)MFN税率または(2)MFN税率と232条関税率の合計15%のいずれか高い関税率を適用する。さらに、232条に基づく50%の追加関税対象のEU原産の鉄鋼・アルミニウム製品に対して、関税割当(TRQ)の設定を検討する(第3項)。
〇米国とEUは、合意の恩恵が主に米国とEUに及ぶよう、原産地規則について協議する(第4項、いわゆるフリーライドの防止)。
関税のほか、EUによる米国産エネルギー製品、人工知能(AI)半導体、防衛装備品の購入拡大(第5および7項)、EUによる対米投資の拡大(第6項)が明記された。また、中国を念頭にしたとみられる、第三国による重要鉱物などの輸出制限への対処のための双方の協力(第14項)や、第三国の非市場的政策への対処のための対内・対外投資の審査、輸出管理、関税回避に関する協力(第19項)といった、経済安全保証面での連携に関連した項目も盛り込まれた。
一方で、米国が重視するEUのデジタル貿易障壁の撤廃に関する項目(第17項)では「対処することを約束する」など、大枠の方向性の合意にとどまる部分も多い。双方は共同声明を「対象分野を拡大し、市場アクセスを継続的に改善し、貿易投資関係を強化していくことができる」プロセスの最初の段階と位置づけ、協議を継続する意図を示した。
(注)共同声明に記載された医薬品、半導体、木材に対する米国の232条関税は現時点で発動されていないが、追加関税の発動に向けた調査が進められている。このほか、トランプ政権は、重要鉱物、トラック、民間航空機、ポリシリコン、無人航空機システムの分野で232条調査を進めている(2025年7月16日記事参照)。また、風力タービン・同部品についても、同様の調査が8月13日に開始されている(2025年8月22日記事参照)。
(葛西泰介)
(米国、EU)
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