欧州産業連盟、EUの2025年の実質GDP成長率を下方修正、米国の追加関税措置受け
(EU、米国)
ブリュッセル発
2025年06月24日
ビジネスヨーロッパ(欧州産業連盟)は6月20日、「春季経済見通し」を発表した(プレスリリース
)。EUの実質GDP成長率の予測値を、2025年は1.0%、2026年は1.4%とした。
企業の投資は、欧州中央銀行(ECB)による主要政策金利の引き下げ(2025年6月6日記事参照)などにより回復し、EUの総資本形成は、2025年は前年比1.4%増、2026年は同2.4%増と予測した。インフレ率は、2025年は2.2%、2026年は2.1%の予測で、ECBが目標とする2.0%付近を維持し、実質賃金も上昇しているため、経済成長を牽引する個人消費は堅調と見込まれる。
前向きな要素があるものの、2025年の実質GDP成長率は、米国の追加関税措置の影響を考慮し、前回予測(2024年11月11日記事参照)から0.3ポイント下方修正された。米国はEUにとって最大の貿易相手国であり、追加関税措置により、特にドイツやアイルランド、オランダ、フランスからの機械・輸送機器、化学品、医薬品や高級消費財の輸出が大きな打撃を受ける。EU企業が代替市場として東南アジアや中南米、アフリカへの輸出を強化する可能性もあるが、利益率の低い市場であり、異なる規制への対応コストが発生し、米国市場における損失の部分的な相殺にとどまると指摘した。
また、米国の追加関税措置に関する唐突な発表のほか、措置の一部は合法性を巡り米国で審理中(2025年6月12日記事参照)であり、今後の見通しが立てにくい。対応コストの増加や設備投資の遅滞を招き、EU企業の競争力により大きなダメージを与える可能性がある。さらに、中期的な影響としてインフレの再燃も予測され、最悪の場合、EUが対米報復措置に踏み切り、また関税賦課がデジタルサービス、農産品へと拡大した場合、物価や経済成長への影響はより深刻かつ長期化する恐れもあると分析した。EUは貿易の多角化を進めているが、ハイテク製品や医薬品分野では短期的に米国以外の輸出先を見つけることは非常に困難で、交渉による解決を要請した。
このほか、EUに対し、競争力強化に向けた規制簡素化や単一市場の統合深化、人材育成への取り組み強化などを提言した。さらに、EU共通の防衛・危機対応戦略や関連産業の振興に向け、次期中期予算計画(MMF)における十分な財源確保や貯蓄・投資同盟の実現(2025年3月28日記事参照)、防衛についてESG(環境・社会・ガバナンス)関連法令をより実用的に運用するといった規制緩和などを提言した。こうした政策の展開は民間投資を喚起し、安全保障・防衛部門に限らず、EU経済全体の生産拡大やイノベーション創出に資すると述べた。
(滝澤祥子)
(EU、米国)
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