複雑化する米関税措置、4分野の232条措置が重複する品目も、関税累積の優先順序の確認が重要に
(米国、日本)
ニューヨーク発
2025年11月05日
米国トランプ政権は、1962年通商拡大法232条に基づいて、これまでに鉄鋼・アルミニウム・銅50%、乗用車・トラック・同部品に25%、木材に10~25%の追加関税を課している。いくつかの品目は複数の232条関税の対象に同時に指定されており、例えば自動車のバンパー(HTSコード:8708.10.30)は、鉄鋼・アルミ・乗用車部品・トラック部品の4種類で適用対象となっている。国別や分野別にさまざまな追加関税が複雑に交錯する状況で、関税率を正確に把握する方法について、ジェトロには日本企業から質問が数多く寄せられている。
ある品目が複数の関税措置の適用対象に指定されている場合、米国では原則として、それぞれの関税率を単純に足し合わせた関税率が適用されてきた。しかし、トランプ政権は2025年4月に、必要以上に関税が累積されないよう、特定の関税措置を対象にいずれかの関税措置のみを適用するための「優先順序」を規定した(2025年4月30日記事参照)。米国税関・国境警備局(CBP)は2025年6月以降、優先順序のガイドライン(2025年6月4日記事参照)を更新していないが、ジェトロが首都ワシントンの通商弁護士に確認したところ、現在の優先順序は次のとおりと考えられる。
(1)232条乗用車・同部品(25%)、232条中・大型トラック・同部品(25%)
(2)232条アルミ・アルミ派生品(50%)、232条鉄鋼・鉄鋼派生品(50%)、232条銅(50%)、232条木材(10~25%)
(3)フェンタニル関税カナダ(35%)、フェンタニル関税メキシコ(25%)
なお、232条関税の対象となっている場合、国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく相互関税、ブラジル(2025年8月1日記事参照)およびインド(2025年8月7日記事参照)への追加関税は対象外となる。
例えば、前述のバンパーの例では、日本製の乗用車のバンパーであれば、米国の関税措置に関する日米合意に基づき、一般関税率(2.5%)と232条自動車部品関税率(12.5%、注1)の合計15%が適用されると考えられる。日本製の中・大型トラックのバンパーであれば、一般関税率(2.5%)と232条中・大型トラック部品関税率(25%)の合計27.5%と推定される(注2)。
なお、トランプ政権は、半導体、医薬品、重要鉱物など9分野で232条措置の発動の準備を進めており、複数の関税措置が重複する品目は今後も増加が予想される。関税の影響を受ける企業は、影響の適切な把握に向けて、今後も232条措置の発表の度に、扱う製品が対象に指定されているか否か、累積の優先順序に変更がないかなどの確認が求められる。同時に、輸入貨物の課税価格の過剰申告や過少申告が判明した場合の事後精算に備えて、通関関係書類を保管しておくことも重要になる(2025年10月14日記事参照)。
(注1)乗用車・同部品は一般関税率が15%未満の場合は一般関税率と232条関税を合計して15%、一般関税率が15%以上の場合は、232条関税は課されない。
(注2)優先順序が上位の関税措置が適用されない場合は原則、優先順序が下位の関税措置が適用される。
(葛西泰介)
(米国、日本)
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米国の第2次トランプ政権が発表した関税措置により、賦課対象となった地域に展開する日本企業の事業運営にも影響が予想されます。