米連邦上院、WTO大使に弁護士のバールーン氏を承認、トランプ政権1期目ではUSTR次席代表代行
(米国)
ニューヨーク発
2025年10月09日
米国連邦政府上院は10月7日、ジョセフ・バールーン氏を米国通商代表部(USTR)の次席代表として承認した。これにより、同氏は米国のWTO大使を務める。投票は同氏を含む100人以上の指名者に対して行われ、賛成51票、反対47票だった。賛成したのは全て共和党議員だった。
バールーン氏は弁護士で、トランプ政権1期目の2019~2021年にUSTRの法律顧問および次席代表代行を務め、中国、インド、フランスなどに対する米国の通商上の執行措置を主導した。また、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を含む複数の通商協定の採択・履行において、米国の首席法律顧問を務めた。2020年の米国と中国との経済・貿易協定も担当した(2020年1月17日記事参照)。
なお、トランプ政権は発足以降、WTOに対して否定的な姿勢を示している。USTRは2025年3月に発表した「2025年の通商政策課題と2024年の年次報告」の中で、「WTOは、中国の非市場経済がもたらす課題に対処できていない」などと批判した。また、ジェミソン・グリアUSTR代表は8月に発表した論説で、相互関税発表後に行われた米国と各国・地域との交渉を「トランプ・ラウンド」と称し、米国は「長年にわたるWTO交渉では達成できなかった多くの市場アクセスを確保した」と評価し、この新しいシステムを「ターンベリー・システム」と名付けて、WTOを基軸としたこれまでの国際通商システムの変革を訴えている(注)。そのほか、米国はWTOへの拠出金の支払いを一時停止しているとされている(2025年9月3日記事参照)。
ただし、米国の政治専門紙「ポリティコ」(10月7日)によれば、欧州委員会で通商を担当していたセシリア・マルムストロム氏は、バールーン氏の承認は、「米国がWTOに積極的に関与するわけではないにしても、少なくとも妨害はしないだろう」という「期待」を生み出す前向きな兆候だ、と指摘している。
同紙はまた、WTOの元首席報道官キース・ロックウェル氏が、バールーン氏が着任することで、WTO加盟国による電子商取引協定を巡る議論が再活性化する可能性があると指摘している、と伝えた。同協定は、「電子的送信に対する関税賦課の恒久的な禁止」などを定めている。これに対してバイデン前政権は、安全保障例外などを巡る課題が未解決で、米国が支持するにはさらなる作業が必要などとして、不支持を表明していた(2024年8月1日記事参照)。一方でトランプ政権は、「米国第一の通商政策(AFTP)」に関する報告書において、電子的取引に関税が課されない「モラトリアム」が恒久化されるよう提言している(2025年4月7日記事参照)。
(注)WTOの基本的原則の1つである最恵国待遇(MFN)を支持しないという方針は、超党派で合意されつつある。詳しくは、2025年9月10日付地域・分析レポート参照。
(赤平大寿)
(米国)
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