トランプ米政権、対外援助や国際機関への拠出50億ドル分を停止へ
(米国、世界)
ニューヨーク発
2025年09月03日
米国のトランプ政権は8月29日、「米国第一」の方針に反する対外援助や国際機関への拠出を約50億ドル分停止すると発表した。その多くは米国国際開発庁(USAID)による開発援助となっている。大統領は、議会で成立した連邦資金の拠出について、先延ばし、または恒久的に停止するための手続きを定める議会予算統制法に基づいて行う。
ドナルド・トランプ大統領は対外援助を特に問題視しており、大統領就任日の1月20日に対外援助の一時停止と検証を関係省庁に指示し、国務省はこれを受けて同月26日、同省とUSAIDが資金拠出している全ての対外援助プログラムを一時停止・検証すると発表していた(2025年1月28日記事参照)。トランプ氏はさらに2月、「米国第一」の外交政策の下、米国が加盟して資金拠出などの支援をしている全ての国際政府間組織や、米国が当事国となっている全ての条約、協定について、米国の利益に反していないか見直し、米国がこれら組織などから脱退すべきか否かを検討するよう、国務長官に指示していた(2025年2月6日記事参照)。
今回発表した拠出停止の対象となる50億ドルの内訳は、USAIDによる開発援助32億ドル、USAIDと国務省による民主主義基金3億2,200万ドル、連邦政府による国際機関への拠出5億2,100万ドル、国連平和維持活動(PKO)の分担金3億9,300万ドル、 平和維持活動4億4,500万ドルなどとなっている。国際機関への拠出停止については、反ユダヤ主義を助長したなどとして、国連教育科学文化機関(UNESCO)への年間7,500万ドルの拠出、中国共産党による不公正な貿易を助長してきたとして、WTOへの2,900万ドルの拠出(注1)、外国人労働者の組合化を推進し、外国で米国企業の利益を阻害する活動を行っているとして、ILOへの1億700万ドルの拠出などが含まれている。
WTOについては、米国通商代表部(USTR)が3月に公開した年次報告で、「WTOの実行可能性と持続可能性はますます疑問視されるようになっている」「中国の非市場経済がもたらす課題に対処できていない」と指摘したほか、ジェミソン・グリアUSTR代表が8月にWTO体制からの脱却を訴える論説を発表していた(2025年8月12日記事参照)。WTOの分担金を滞納した場合、行政措置が段階的に適用される。1年以上滞納した場合、当該国の代表者はWTOの各機関の議長に指名される資格などを喪失する。米国は現在、このカテゴリー1にあるとされる。その後、行政措置は段階的に厳しくなり、3年滞納すると非活動加盟国とみなされ、WTOが行う研修や技術支援に参加できなくなる(注2)。米国の発表に対して、WTOのンゴジ・オコンジョ=イウェアラ事務局長は「発表は懸念しているが、言えるのは、USTRと協議中ということだけだ」と述べ、現時点で確定的な発表は受けていないとした(ロイター9月2日)。米国内でWTOを基軸とする自由貿易体制を変革しなければならないとする認識は党派を超えて形成されつつあり、今後の米国とWTOとの関係性が注目される。
(注1)2025年のWTO分担金のうち、米国が占める割合は11.4%で最大。2位は中国の11.3%。なお、9月2日時点でWTOに関する記載はホワイトハウスの発表から削除されている。
(注2)WTOから脱退するには別途、書面による通知が必要となる。今回の発表は特段、米国がWTOからの脱退を通知するものではない。
(赤平大寿)
(米国、世界)
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