中国EU商会提言書、「内巻」の是正や公平な貿易関係の構築を提言
(中国、EU)
武漢発
2025年09月22日
在中国の欧州企業の団体、中国EU商会は9月17日、中国政府に対するビジネス環境改善などの要望をまとめた提言書を発表した。提言書では、会員企業が中国でビジネスを展開するに当たり、さらなる改善が必要とされる重要課題を5つの領域に分けたうえで、提言を行っている(注1)。各領域の主な課題と提言は次のとおり。
(1)構造的問題に対する改革措置の実施
「内巻」(注2)と呼ばれる競争状態、在庫過剰、利益率の低下、資産効率の低下、輸出圧力の増大は、中国国内市場において、生産の伸び率が消費需要を上回っていることにより生じた必然的な結果であると指摘した。そのほか、所得の向上による消費需要の喚起、地方政府が抱える債務問題の解消を提言した。
(2)資源配分における市場の決定的役割の発揮
2025年5月に施行された民営経済促進法(注3)の効果的な実施を通して、民間企業の公平な競争を支援する必要があると指摘した。また、過度な補助金の抑制や、市場競争に対する監督・管理の強化による健全なビジネス環境の確保を提言した。
(3)公平な貿易関係の構築
米中間における貿易関係の緊迫は、EUと中国間の貿易関係を促進する契機になり得るとした一方、EUと中国との協力強化、貿易による利益の公平な分配の確保などを通じて、貿易不均衡問題を解決していくべきであると提言した。また、各国の産業の強靭性(レジリエンス)や経済安全保障に関する合理的な懸念にも配慮するよう求めた(注4)。
(4)グリーン経済の推進と持続可能な発展
脱炭素分野、特に規格(中国では標準)の調和におけるEUおよび欧州企業との協力関係強化や、再生材料の認証関連政策など循環経済を支える規制枠組みの構築を提言した。
(5)包摂的な方法によるデジタル化転換の促進
情報通信分野の調達入札における厳格な国産化要求が原因となり、ソフトウエア開発やデジタルソリューションといった情報通信技術(ICT)分野において、外資系企業の事業機会が縮小していると指摘した。そのうえで、情報通信分野における欧州企業の市場参入障壁を撤廃するほか、外資系企業に対して、中国市場での平等な待遇を確保するべきであると提言した。
また、2026年以降の5年間の長期計画となる「第15次5カ年規画(15・5規画)」について、中国が2030年までの実現を目指すカーボンピークアウトや、2035年の実現を目指す「社会主義現代化」に触れたうえで、15・5規画はこれらの目標の達成に向けた非常に重要な移行計画であると指摘した。そのうえで、上記提言の実行が、中国のさらなる発展、および海外からの直接投資の誘致につながることを期待するとした。
(注1)今回の提言書では1,600社超の会員企業の意見を集約し、1,141項目の提言を掲載している。
(注2)「内巻」とは過度な競争を指す。近年、特に価格競争の激しい中国国内の自動車市場などにおいて問題視されており(2025年7月25日付地域・分析レポート前編・後編参照)、産業界からは解決に向けた提案も行われている(2025年6月9日記事参照)。
(注3)民間経済発展に関する中国初の基本的な法律で、民間経済の健全な発展と民営企業家の健全な成長を目的としている(2025年6月30日付地域・分析レポート)。
(注4)2025年4月から実施されている中・重希土類のレアアース関連品目に対する輸出管理(2025年4月7日記事参照)については、依然として多くの企業(特に中小企業)がサプライチェーンの寸断など重大な問題に直面しているとした。
(西島和希)
(中国、EU)
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