USMCA見直し目標で外国投資における安全保障リスク審査枠組みの設置を指示する法案提出、米上院議員
(米国、メキシコ、カナダ、中国)
ニューヨーク発
2025年09月25日
米国連邦議会上院のデビッド・マコーミック議員(共和党、ペンシルベニア州)とキャサリン・コルテス・マスト議員(民主党、ネバダ州)は9月19日、「有害な中国投資からUSMCA を保護する法」案を9月18日に提出したと発表
した。メキシコとカナダに対米外国投資委員会(CFIUS)と同様の組織を設けることを、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の共同見直し(注1)における目標とするよう、米国通商代表部(USTR)(注2)に指示する内容となっている。
具体的には、USMCA参加国が(1)外国からの投資における国家安全保障リスクを審査するCFIUSに類似した規制枠組みを設けること、(2)非市場経済国による投資がもたらす共通の脅威に対処するための調整メカニズムを確立すること、を見直しにおける交渉目標として定めるよう指示するもの。さらにUSTRが、財務省、国務省と連携して、メキシコとカナダが同枠組みを確立するために必要な技術支援を提供することも定めた。
CFIUSは、外国から米国への投資が安全保障に脅威をもたらすかどうかを審査する省庁横断の委員会で、投資内容によっては、CFIUSへの事前申請が義務付けられている(注3)。マコーミック議員らが発表した法案概要によると、カナダは「カナダ投資法(ICA)」によって外国投資を審査しているが、重要分野への投資に対する事前通知を義務化してまだ日が浅い(注4)。メキシコには国家安全保障上の観点から、外国投資を審査する包括的な枠組みはないが、メキシコ政府は外国投資を審査する枠組みの構築に前向きな姿勢を示しているという。ジェトロが行ったインタビューで、メキシコ政府の元高官は「以前から、対内投資の審査委員会の必要性は議論されている。麻薬の流入や犯罪などにつながる投資もありこれらを防ぐこと、また、対内投資を管理することで税収入をより厳格に管理する必要がある。従って、いずれメキシコにもCFIUSのような組織ができるだろう」と述べた(注5)。
マコーミック議員は法案の発表に際して、「カナダとメキシコは、ペンシルベニア州および米国にとって最大の貿易相手国だ。有害な外国投資から経済を守るために、隣国と共通のアプローチを取る必要がある。これは、USMCA見直しにおける最優先事項でなければならない」との声明を発表した。
USMCAの見直しにあたっては、中国企業が生産工程に関与した場合にUSMCA上の特恵関税を享受できなくなるよう、原産地規則の強化が提案されるのではないかとの指摘もある(2024年12月12日付地域・分析レポート参照)。今回の法案の成立見通しは不明だが、USTRはUSMCA実施法によって、見直しの180日前にあたる2026年1月までに、見直しで提案する具体的な措置などについて議会へ報告することが義務付けられている。
(注1)USMCAは、協定発効16年目(2036年7月)に失効する。ただし、協定発効6年目(2026年7月)に協定の見直しを実施し、3カ国が延長に合意した場合、16年後(2042年7月)まで延長される。3カ国のいずれかが延長に同意しない場合には、失効まで見直しを毎年実施することが規定され、延長を検討することになっている。
(注2)USTRは9月17日、見直しに向けて協定の運用状況に関するパブリックコメントの募集を発表(2025年9月18日記事参照)。なお、メキシコ経済省もUSMCA見直しに向けたパブコメを募集中(2025年9月18日記事参照)。
(注3)CFIUSの2024年の活動報告書は、2025年8月12日記事参照。
(注4)ICAについては、ジェトロのウェブサイトも参照。
(注5)2025年2月に行ったインタビュー。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ、中国)
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